プロローグ
淡い金色の太陽が、銀色に輝く空をゆっくりと滑り落ちていく。
二つ重ねの山の向こうにその一部を隠すと、そこからはいつもあっという間に、このあたりに光が届かなくなってしまう。頭上の木の、そのまた上からは、家路へ急いでいるのだろうか、カラスの鳴き声が聞こえる。
ワカバタウンの裏手にある森、ここにも多くの「彼ら」が住んでいるが、町はずれの草むらなどとは違い皆が大人しい。だから決まって僕は、時間があるとここでゆっくりと横になっていることが多い。本を読んだり、ゲームでもしたり、何もせずぼーっとしたり…。たまに近寄ってくる「彼ら」とも遊んであげていたりするので、このあたりに住んでいる多くは僕のことをきっと知っているだろう。
僕はリクヒト。自己紹介するほどのものでもないし、この町に住む普通の少年だった。
まぁ、本当ならここで「…そう、彼に会うまでは」なんてアナウンスが入って、冒険の匂いぷんぷんさせた摩訶不思議奇想天外アドベンチャーなんて始まるかもしれない。
確かにこの日、僕の人生の最高のパートナーとなる彼に会うことになるのは間違いないのだけれども、別に彼にあったからって僕のこれからがすっかり変わってしまったなんてことはない。でもこれは、あくまで僕の主観なんだ。きみたちがこれからの話が、僕にとって壮大な話としてとらえられるかどうかは、きみたちの想像力と解釈に委ねたいと思う。
この場所にやってくるのはもちろん初めてじゃない。去年地元の学校を卒業してからは、研究所で手伝いをしたり、隣町のお店で働いたり、そして何もないときのほとんどはここでのんびりと過ごしていた。まぁ、学校に通っている間でも、たまに抜け出してここへきていたのは事実だけれど。
この日もここで、何もせずにぼーっと夕焼けを見ていた。「彼ら」の中でも比較的おとなしい種類は、だんだんと住処へと戻って行っているらしい。緑色のもにゅもにゅしたのとか、茶色のまるっとしたのとか、黄色のパチパチしたのとか。でも、めったに襲われることのないここでも、夜になると少し凶暴なのも出てくる。だからいつも通り、そろそろ家へと帰ろうとしていたのだけれども…。
「…助けて」
僕が立ち上がった瞬間、少し離れた木のあたりから声が聞こえてきた。
いや、さっきまで人間の気配はしなかったはずだ。細長い夕日が真横に照らすそこへと歩いてゆく。どんどんと声がはっきりしてくる。太い幹の陰をのぞいてみると、そこには青と黒の体の「彼ら」の仲間がいた。
呼吸が浅く、ぐったりしている。危ない、今にも力尽きそうだ。このまま彼をほったらかしておくわけにはいかない。このあたりでは見ない種類だけど、博士なら何とかしてくれるに違いない。ぼくは彼を抱えたまま、ウツギ博士の研究所へと走った。
彼の手から何かが零れ落ちたことにも気が付かずに。