3:試験当日、ダイノーズ戦。
試験当日の午前9時20分。
朝食を終え、蒼とエンジェルは学校の校庭に手紙に書かれていた通りに来たのだが……。
「……人多いな……。」
『そうだね〜♪』
そう、とにかく多い。3年生の全生徒数500人前後の半分は校庭に集合している。ポケモンもいるからなお多い。
「……しっかし、こんなに多くてどうやって試験するつもりだ?これだと夕方になっても終わんないかもな。」
『でも、先生も何人かいるんでしょ?』
「……けど、こんなに多くのポケモンを持っているとも思えない。なにしろ全員と戦うんだからな。」
『む……。それもそうか。』
と、そこに声をかけてきたのがいた。
「んや〜、それだったら問題ナッシング。」
こんな口調を使うのは、全校生徒の中でも1人しかいない。
「……時雨、お前いい加減その口調直せ。」
「いいやん。それに、お前の疑問をさっくり解消する答えはあるぜよ?」
もういろんな地方の話し方が混ざって突っ込みどころ満載だが、答えを聞くのが第一だった。
「……で、何なんだ、その答えってのは。」
「それはな〜、皆々様でコロシアム大会〜。これを開催するわけやん。」
「……そのいい加減な名前は何だ?」
「知らん。それでも、これは事実やぞ?皆でコロシアムをするんや。それで勝ち残った数十名が試験官様とバトル、っちゅうわけぜよ。」
ということらしい。
そこで、ふと思い出したように時雨に聞く。
「……お前、試験を受けないんじゃなかったのか?」
「んにゃ、それは俺の父さんがこの学校の先生様やから、手伝いにきただけや。こんな感じでルールの知らん人に教えてるのであります軍曹殿。」
「……誰が軍曹だ。」
『ほら、やっぱり軍曹じゃん♪』
「……うるせえ。」
「なんでい、お前軍曹だったんか――」
「……。」
「……に、睨まんでもええどすえ……。」
そして、午前9時30分を時計が指したその時。
《これより、旅人試験のテストを始めます。思う存分暴れて下さい。》
この放送もいかがなものかと思うが、とりあえず試験なのでやるしかない。
「……じゃ、行くかエンジェル。」
『うん♪』
そして、そんな会話のすぐ後。
「エナジーボール!」
『ほいやっと。』
と、知らない少年からまさかの奇襲。しかも、ドダイトスのエナジーボール。
「……アイアンテール。」
『は〜い♪』
と、尻尾を光らせ、それでエナジーボールを打ち返す。アイアンテールは成功だった。
そして、エナジーボールはそのままドダイトスに直撃。
『ぐっ……。ウッドハン……。』
『遅いよ?』
と、電光石火からの体当たり。
相手のレベルがまだ低かったのも助かって、少しはダメージを食らってくれたようだ。
「あきらめるな、ドダイトス!葉っぱカッター!」
『おう!』
と言った瞬間、
「油断は禁物。グレン。火炎放射。」
『合点承知!』
火炎放射が葉っぱカッターもろともドダイトスを焼き、ドダイトス、戦闘不能。
「蒼。周りを見て攻撃するのが一番。」
この人、いや少女は蒼も知っている。
影野春香(かげのはるか)。長い黒い髪を持つ、可愛い顔立ちをした少女だ。炎タイプのポケモン、バクフーンのグレンをパートナーとする。なぜかよく蒼に話しかけてくる。席が近かった関係もあるが。
「……ああ。分かってる。エンジェル、あのトゲピーに電光石火。」
『ええ〜、あんな可愛いのに……。』
と、渋々エンジェルは近くで指を振る発動寸前だったトゲピーに電光石火で攻撃。トゲピーは戦闘不能となった。
「私達も負けられない。グレン。あの集団にオーバーヒート。」
『了解!』
と、春香もグレンにオーバーヒートを出させ、20体近くの集団を一斉に焼き払った。そして、全員が一気に戦闘不能になる。
そんなこんなで30分。
戦闘終了の合図が鳴り、残ったのは春香は実力的にもちろんのこと、蒼も含めてあとは15、6組程度しか残っていなかった。
《え〜、ではこれより、本番の試験を始めたいと思います。残った受験者は試験官の前にひとりずつ順に来てください。》
放送で言われた通りにする生き残り組達。
そして、蒼とあたったのは……。
「お、蒼君。君とバトルか。」
「……おいおい、嘘だろ?」
『担任の先生じゃん……。』
そう、蒼の担任の先生、
武藤健吾だった。
外見は、白髪交じりの黒の短髪に、白衣を着て、赤い帽子を頭に被って、長い髭を生やした年老いた先生だ。
「君の実力、早速見せてもらうよ?」
と、武藤はボールを白衣のポケットから出す。
「出て来い、マグネット。」
ボールを上空に投げ、ボールは空中でパカッと開き、そこから一筋の光が出てきた。
そして、出てきたポケモンは、電球見たいな蒼い身体に大きな鼻、その下に生えている髭、頭には赤い帽子のようなもの、そして体の周りに何かが3つほどついている。
「……ダイノーズ……。」
『うわ〜、めちゃくちゃ不利じゃん……。格闘タイプじゃなくて良かったけど。』
そう、そのポケモンはマグネットと呼ばれるダイノーズだった。因みに、身体についている3つのものはチビノーズと言うらしく、ダイノーズが磁力で操るらしい。
しかし、それ以前にダイノーズという種族のポケモンは防御力が高いので、そこが問題なのだ。
「さて、そのイーブイでこの鉄壁の防御力を持つマグネットにどう立ち向かう?君のバトルセンスを見せてもらうよ?」
『見せてもらうぞ〜。』
「……望むところです。」
『やられる覚悟は出来てるよね?』
双方とも、意気込みは十分。
《それでは、戦闘開始。》
その放送が鳴った途端、
「マグネット、チビノーズをイーブイに向かって発射!」
『了解だぞ〜。』
と、身体についていたチビノーズ3体が、一斉に襲い掛かってきた。
「……エンジェル、電光石火で避けろ。」
『オーケー!』
エンジェルはその襲撃を難なく避けていく。そして、そのままマグネットへの攻撃へと移ろうとした。
しかし、
「マグネット、チビノーズをエンジェルに叩きつけろ!」
『分かったぞ〜。』
と、言われたとおりマグネットがチビノーズでエンジェルを追尾する。
「……エンジェル、アイアンテールで打ち返せ。」
『分かった!』
と、飛んでくるチビノーズを打ち返すべく、尻尾を光らせたが、
「マグネット、マグネットボムをイーブイに!」
『オーケーだぞ〜。』
マグネットが鉄の塊を撃ち、挟み撃ちにされた。
前方には鉄の塊。後方にはチビノーズ。
エンジェルにとっては絶体絶命であったが、蒼は指示を出す。
「……エンジェル、アイアンテールでマグネットボムにチビノーズを当てていけ。」
『お〜、面白そ〜♪』
と、迫り来るマグネットボムを器用に尻尾で扱い、チビノーズを上手に当てていく。当たった瞬間、爆発を起こし、次々に打ち落としていく。
『はい、終了〜!』
と、エンジェルは尻尾をパタパタと地面に叩きつける。
白い尻尾には、当然砂がついた。
そして、撃ち落とした後に間髪入れず、蒼は指示を出す。
「……エンジェル、ダイノーズに電光石火。」
『うん!』
エンジェルとマグネットの距離が縮まっていく。
「マグネット、電磁浮遊で空中へ!」
『了解だぞ〜。』
マグネットは、空に向かって上昇し始めた。
が、
「……よし、エンジェル、そこで尻尾をダイノーズの方へ翳せ。」
『分かった!』
と、尻尾を光らせる。
すると、不思議なことにその尻尾にマグネットが引き寄せられていく。
「なっ!」
「……そのままダイノーズにアイアンテール。」
『よし!』
と、物凄い勢いで近づいていくマグネットに、エンジェルがアイアンテールを打ち込む。相当な威力があったのか、マグネットは後方に30メートルほど飛んでいった。
「なっ、何が……?」
「……簡単な論理です。ダイノーズの使った技に影響された磁力を持ってすれば、そこら中で出来ている磁場によって磁石同然の砂とかを尻尾に纏わりつかせればに引き寄せられますよね?さらにその電磁浮遊、それは電気の力で磁場を生み出して浮く技みたいなモンです……。当然のことながら、鉄の尻尾同然のエンジェルに引き寄せられたって訳ですよ。」
ま、出来るかどうかも分からない無茶苦茶な方法ですがね、と蒼は付け加えた。
アイアンテールは、無論、鉄になるわけではない。しかし、エンジェルはマグネットの形成する磁場で影響を受けている砂を尻尾に纏わせ、引き寄せたというのだ。
「確かに、このマグネットの勝手に作ってしまう磁場は強いから、そこら辺の砂でも纏わせば引き寄せられるかもしれないね。とても面白いよ……。でも、まだまだだよ、蒼君。」
武藤がそう言った瞬間、エンジェルに何かが襲った。
エンジェルはそのまま飛ばされ、地面に叩きつけられる。
『ガッ……。』
と、苦しそうに声をあげるエンジェル。
「……チビノーズ……。」
「そう。チビノーズは磁力で動いているだけだ。爆発で落ちても、再び使うことはできる。まだまだ詰めが甘かったね。」
武藤がそう言った瞬間。
蒼は、笑みを浮かべてこう言った。
「……忘れてた、って言うと思いました?エンジェル、チビノーズにアイアンテール。」
『了解!』
なんと、エンジェルが地中から出てきた。
全く予期せぬ展開に、武藤は面食らう。
そして、そのままマグネットの操るチビノーズに向かって尻尾で攻撃した。
いや、攻撃ではない。磁力で操っているチビノーズを磁力のある砂付きの尻尾にぺたっとくっつける。
「……いくら鉄壁でも、同じ鉄壁の身体で出来ているチビノーズを身体に喰らったら……。想像はつきますよね、先生。」
「な……!マグネット、チビノーズを……!」
『遅いよ!アイアンテール!!』
チビノーズをつけたまま、マグネットに攻撃。当然、同じ硬さ同士の物を思い切りぶつけるので、威力は計り知れない。
マグネットはそのまま後方へとさらに飛んでいき、地面に叩きつけられた。
そして、マグネットは完全に目を回して気絶していた。
「な、何……?どういう、ことだ?」
「……簡単ですよ。先生、後ろでやられて地に伏しているエンジェルを見てください。」
言われるがままに武藤が振り返る。
そこには、光の粒子となって消えかけている『影分身で作った偽者のエンジェル』がいた。
武藤は感嘆した。
そして、教師として、生徒である蒼にこう言ってやった。
「……完敗だよ。本当に君は強い……。」
「……ありがとうございました。」
『楽しかった〜♪』
そして、蒼達は見事試験に受かったのだ。
そして、とある場所では、ある少女と、その相手らしき少年がバトルをしていた。どちらも歳は17、8くらいであろう。
少女はピカチュウを、対する相手はイワークで対戦していた。
とてもピカチュウに勝ち目のなさそうなバトル、なのだが。
「ボルト、あれやっちゃっていいぞ!」
『オーケー!』
ボルトとある少女に呼ばれたピカチュウが、なんとイワークには全く無意味な『電撃』の塊を自分の目の前に作り始めた。
そして、
『倒れちまえ!ハイボルト・ショット!』
瞬間、ボルトの目の前で溜まっていたエネルギーを、どう操ったのかは分からないが、言うなればまさにオレンジ色のレーザー光線のようにして電撃が相手に飛んでいった。
さらに、電撃で作ったはずなのに、イワークにダメージが伝わり悲鳴を上げながら倒れてしまった。
「ああっ、イワーク!」
と、対戦相手の少年がイワークに近寄るも、イワークは既に目を回して気絶していた。
「……僕の、負けです……。」
「よっしゃ、勝ったーー!」
『やったぜ!』
その少女とボルトは喜んでいた。
「いいバトルだったよ!ありがとさん♪」
「あ、いえ……。」
少女と少年は握手をした。
そして、
「あの、負けたのでお金を……。」
そう、バトルに負けると、金を支払わなければならない。
因みに、この世界では負けたら自分の所有している有り金の5%を支払わなければならないといったルールがある。
いや、ルールではなく、慣習に近いか。いわゆる、暗黙の了解というやつだ。
しかし、
「あん?いらないよ!」
「へ?」
「私は楽しいバトルさえ出来ればいいんだから。君のイワーク、中々しぶとかったし、良かったよ!」
「え〜と……。」
「そんじゃ、また!」
と、困惑する少年を差し置いて、ボルトを引き連れてさっさとその場を立ち去ってしまう少女だった。