大人になるためには
大人になるためには
01


 お祭り。それは、常に隣り合い、しかし触れる事のない異界に住まう神や精霊達との境界を薄め、それらを現世に呼び出す儀式。呼び出した後に、感謝を述べるのか、頼みごとをするのか、それは祭りのせい塩津によってさまざまであるし、単なる祝い事やおまじないとしての意味合いもある。
 そういった祭りは、特定のポケモンの進化を促す力を持つことで知られている。それはゲンガーやフーディン、ハッサムやパンプジンと言った、異界の空気に触れることで進化出来るポケモンである。その他、進化に祭りを必要としないポケモンでも、石などを使って任意に進化するポケモンや、この日まで変わらずの石を使って進化を遅らせるなどして、成人の儀式を兼ねる事もあり、この村では祭というのはすなわち若者たちの進化の場であると言っても過言ではない。

 そんな祭りを目前にして、憂鬱な気分になっている者がいた。
 名前はレント、種族はボクレー。このポケモンもまた、異界の空気に触れることで進化を可能とするポケモンである。この子が何故、憂鬱になっているかと言えばそれは住居の問題である。ポケモンは大きなものから小さなものまで、サイズは様々。それゆえ、巨大なポケモンは小さなポケモンと共同生活することがあり、このボクレーの進化後であるオーロットもまた、共生を当たり前とするポケモンである。
 家族はオーロットの両親と兄弟の他に、父親に寄生しているフラエッテ。そしてバチュルが住み着いている。このバチュルというのが曲者で、昔はもう一匹緊張感の特性を持つバチュルがいて、そいつのせいでまともに食事をすることもかなわなかったものだ。それを追い出すまで両親を説得するのに、随分と時間がかかったものである。
 そういった問題を知っているからこそ、幼馴染にして恋仲であるヨマワルとは、同居人問題で苦労したくない。だというのに……

「僕を住ませてください!!」
「いいや、私を!」
「ここは僕が! 損はさせません!」
 こんな調子で、デデンネやらマッスグマやら、バオップやら、いろんな奴らが住まわせてくださいと要求してくるのである。なんせ、レントの特性は収穫である。晴れの日ならばじっとしていてもオボンの実が一日一つは実るため、小粒なポケモン達にとっては、一生美味しい食料に困らない住処となりうる。だからこいつらは、何度断ってもあさましくこうして頼み込んでくるのだ。
「い、いや……僕はね、その、恋人がいるから、ね。お断り……」
 こんな風に断ったところで、ここまで残った卑しい三人には無駄なことである。そんな時、頼りになるのがレントの婚約者の父親、バースだ。
「ならまずは私の口の中に住んではどうだ? なに、喰ったりせんよ」
 彼女の父親はヨノワール。地面の中から手だけ現われ、グワシと集るこいつらを鷲掴みにして低い声で威圧する。
「うわぁぁぁぁぁ!!」
 それだけで悲鳴を上げつつ一目散に逃げる奴らだが、それでも一日と経たずに再度アタックしてくるのだから、性質が悪い。
「すみません、いつもいつも迷惑をかけて……」
「何、娘との大事な婚約者につく悪い虫を潰すのは当然のことだろう?」
 ふよふよと浮かびつつ頭を下げるレントに、バースは指で彼の顎を押し上げ、顔を上げさせる。レントの家は家族そろって押しに弱いため、プレッシャーで外敵を追い払ってくれるバースには、頭が上がらないくらいにお世話になっている。
「こんなんじゃ、ユークとの新婚生活がお先真っ暗だよ」
 ため息つきつつ、レントは顔を俯かせる。
「なあに、進化したからと言ってすぐにお嫁に行かせるわけでもないからな。進化してからでも、舐められないように強くなればよいだけの話さ」
「そうは言っても……こうも自分が情けないと悩みますよ」
「ふむ、体が小さいうちに、あんないい年した大人に詰め寄られては、そうなるのも仕方がない事さ。そうだ……舐められないようにするなら、いい手段がある」
「良い手段、ですか?」
 進化を許可されているレントは、すでに大人になるのも目前である。それなのに、許嫁がこんな弱気では困ると、バースは前々から考えていた案を、まるで今思いついたかのように話し始める。
「近々行われる祭りのために、街に行って儀式に使う工芸品やら、神にささげる酒などの供物を買ってこなければならん。料理に使う塩も欲しいし、舶来ものの高級な果物も買ってこなければならん。そのための買い出しに、人手が必要なのだが……」
「ちょっと待ってくださいよ。僕のこんなに小さな体じゃ、たくさんの荷物を持つ仕事は無理ですって」
「うむ、それは分かっている。ただ、最近近くのダンジョンに性質の悪い水タイプの野盗が出るのは知っているだろ? そいつの対策に、お前さんがついて行ってやってはどうかってことさ。森の呪いがあれば、水タイプに優位に立てるだろう?」
「えーでも、役に立てる保証なんてどこにも」
 レントだって小さな喧嘩位均したことはあるが、殴り合いの喧嘩なんてものは縁がない。そんな自分に、大人の手助けなんて出来るものだろうか? 不安でたまらない。
「はは、気にするな。一緒にお使いに行くということが大事なんだ。苦労は人を成長させるぞ?」
「そ、そういうことなら……親が許せば、ついて行ってもいいですけれど……」

 ◇

「と、言う訳なんだけれど……父さん、母さん。僕はどうしたらいいかな」
 それまでのいきさつをレントは家族に話す。
「ふむぅ……盗賊ったって、そんな確実に出会うわけでもないだろう? それに、バースさんや、他の人の護衛があるわけだし、ぜひ行ってみるべきじゃないのかな? いい経験だろう」
 父親は賛成。
「うんうん、若い頃に一度行ったことがあるけれど、街はいいところよ。にぎやかだし、ちょっといけ好かない態度の人もいるけれど、食事屋さんなんかは私達田舎者にこそ親切にしてくれるからね」
 母親も賛成。
「若いうちの苦労は飼ってでもしろというしな」
 父に寄生中のバチュルも賛成。
「逞しくなって帰ってくるのよ」
 母に寄生中のフラエッテも賛成。
「引っ込みがつかなくなっちゃった」
 本当は止めて欲しかったというのに、まさかの全員が賛成である。両親は進化してから旅に出たのだが、レントは進化もまだで、ダンジョンすら行くのは初めてなもやしっ子である。
「大丈夫よ、生まれた時からダンジョンを行き来している子供だっているのよ。頼れる大人がいれば何とかなるわ」
 母親はそういって安心させようと笑顔を見せるのだが、弱気なレントにその言葉は届くはずもなく。なし崩しで参加をさせられることになって、不安は募るばかりであった。


 最近噂になっている性質の悪い盗賊と言っても、荷物を捨てていけば深追いすることもないし、命までは取られたことはないという。ただ、賊の人数が多い事や、そいつらの気が短い事もあって、負傷者が絶えないのは性質の悪さの所以と言ったところ。盗賊は水タイプの仲間が多いこともあり、草タイプや電気タイプの護衛がいると手を出さないことも多いのだ。そのため、今回は村では負け知らずの喧嘩自慢が集い、レントを引き連れていくことで一網打尽にして、懸賞金を貰ってしまおうと、そういう計画である。
 もちろん、何もなければそれでよし。少しの旅でもいい経験になるだろうと、小さい頃から親しい付き合いだったレントに対する、バースにとって一種の親心である。
 そんな彼の思惑も知らずに、レントは冷たい水でも浴びて風邪でもひいてしまおうかなんて逃げる事を考えてしまっていたが、周囲の期待を裏切ることも出来ず、買い出しの日を迎えてしまう。

 大人たちは明らかに自分の体重よりも数倍は重いであろう荷物を軽々背負い、レントは小さなバックパックを背負わされ、村人たちに見送られる。両親や許嫁のユークの事を何度も振り返りながら、今更引き返せないなと覚悟を決めた。
 待ち受けていたのはまず、険しい山道。足場が悪いので、バースやレントのように浮かんでいない者は、それに苦労しながら進むことになる。行きはたくさんの果物や穀物を売りに行くため、特にきついのだが、反面帰りは重量の割に値段が高いものを持ち帰るため、比較的楽な道のりとなる。それでも大変には違いないが。
 盗賊が狙ってくるとはいったものの、オボンやオレン、ラムの実を大量に抱えた一行を襲ったところで、盗品を売るのは度胸がいるし、かといって腐らせる前の消費は無理だ。そのため、本当に気を付けるべきは、木の実を金目の物に変えて帰ってくる帰り道ということになる。その見立て通りなのか、行きの道のりは荷物の重さに苦しむものの、穏やかなものである。

 数時間ほど山道を歩いてダンジョンにたどり着いたら、大人たちは一人だけ交代で荷物をほとんど持たずにいる時間を作り、ダンジョンにて襲ってくる相手は荷物が少ない者が真っ先に叩き潰すというローテーションを組んでいくようだ。
 当然、レントはその数に入っていないし、入れるつもりもない。『僕は?』とでも言いたげな顔で三人を見ていたため、バースは笑って告げる。
「おいおい、お前は戦闘要員の数に入れるわけないだろ? 大丈夫、取りこぼしでもなければお前に戦わせたりしないさ。私達の後ろに立ってじっとしていればいい」
「取りこぼしって言うと?」
「まぁ、何かの拍子でお前の方に敵が向かっていってしまうこともあるからな。その時はまぁ、非力なんだし逃げろ……だが」
「だが?」
 バースが思わせぶりに言葉を切るので。レントはいちいち聞き返さないとならず、煩わしい。
「何でもいい、お前なりの頑張りを見せてくれると、おじさん嬉しいぞ?」
「何でも……?」
 レントが首をかしげると、バースは大きな手で彼の頭を撫でる。
「何でもいい、考えるといい。そこから何をすべきか考えることが出来て、その考えのもとに行動できるようになれば、大人に近づけるってことだ」
「大人に近づける……か。こんなお使い程度の旅で?」
「そうだ。大人になるってことは、自分に出来ること考えて、それを精いっぱいやる事。お前がやれることをやることさ。お使い程度の旅とはいえ、いつもとは違う環境に身を置くのだから、以前誰かに教えられたとおりいつも通りの行動では対処できないことがある。
 そんな時に、どうすればいいか考えてみろ。例えば、さっき言ったように敵が向って行ったときに、非力なお前にでもやれることはあるだろう?」
「うーん……怪しい光、とか?」
 顎に手を当て、レントが一つの答えを出して問い返す。
「あぁ、それも正解だな。小さなことでいい、何か役に立つことをしようって気持ちが大事だ。ダンジョンの敵は手加減しないし、何をされるか分からないから、打ったらそれ以上深追いはせずに逃げればいい。ヤドリギの種でもいい。祭りに備えて日本晴れも出来るようになっているわけだし、それを使ってもいい。私達のサポートをしてくれ」
「う、うん」
 そんなことをしている自分の姿がイメージできないのか。レントは曖昧に頷く。
「喧嘩の勝ち方は、そりゃ腕っぷしの強さとか、体の丈夫さも必要だ。けれど、『こう来たらこう返す』って言うのを、百種類ぐらい持っていて、それが自然に出せるようになったら、喧嘩に負けなくなる。喧嘩以外でも、そういうのは大事だ。とっさに行動できるか否かは、普段どれほど考えているかによるものさ」
 ピンと来ていないレントの頭を強く握っては力を緩めてを繰り返しつつ、バースは続ける。
「やれることをやるって言うのはそういうことだ。自分に何が出来るか考えてみて、それを実行する。手始めに、お前の体に住みたがっている奴をどう断るかとか、考えてみろ。それが出来ないと娘を安心して嫁にやれんぞ?」
 レントは背中を軽く叩かれて空中を回転させられる。
「は、はい……」
 体勢を立て直し、揺れる視界の中で彼はそう応えた。
「坊主、そういうわけだから頑張れよ」
「危険な役目は引き受けてやっから、それでも危険になったら頑張れよな」
 ホルードとエンブオーの二人が頼もしげに胸を張る。これなら大丈夫だよねと、レントは必至で不安を押しのけようと振る舞った。

 実際、大人たちは強かった。ダンジョンに出てくる敵たちは何の問題にもならないくらいに強く、取り漏らしなんて来るはずもなさそうな雰囲気だ。
「おい、そっちいったぞ坊主!」
 と、思っていたらこんな調子である。大人たちは、気を抜いているとレントに敵を回してきた。レントは不意を突かれて頭突きを喰らうも、ノーマルタイプの攻撃のため被害は軽微。反撃の怪しい光をまともに喰らってしまったタツベイは、足を踏み外して転んでしまう。レントはそれを尻目に、バースの背中に隠れた。そうしている間に、ホルードのおじさんがタツベイを踏みつぶしていた。
「おいコラ坊主。ぼっとしてると怪我するぞ? もうしてるか、はっはっは」
 上空に浮かんでいるレントを見て、ホルードはわざとらしく笑っている。恐らく、気を抜いていたレントに対して戒めのためにわざとやったのだろうというのは何となくわかった。その後も、何回か取り漏らしの援護を頼まれた。申し合わせたかのように三人は一回ずつ取り漏らしをレントによこしたので、実際に申し合わせたのであろうことはレントにもなんとなく分かった。
 だが、そうやっていつ不意打ちが来るかもわからない状況を想定し気をやって、バースの言う通りに『こう来たらこうする』を頭の中に持っていると、意外にも体は動いていた。もちろん、その程度の動きで喧嘩なんてした日には、コテンパンにされて終わりだろうけれど、ともかく体は動いた。
「ようようよう、今の動きは良く出来ていたじゃないか。んー?」
「いや、まぁ……三回目ですし」
 エンブオーのニヤついた褒め言葉に、レントは苦笑交じりに謙遜する。
「そういう経験が、後々頼れるお前を作り出すんだ。いいか、ダンジョン以外でも、お前の体に住ませてほしいと頼まれた時とか、そういう時にお前自身が何をやれるか、何をやるべきか、よく考えるんだ。いいな?」
「うー……それ、どう断ればいいんだろう」
「私と同じように断るもよし、そいつらに断わるのではなく、私の娘に同居を許してもらうでもよしだ。ま、そんな軟弱な奴だったら、娘は愛想をつかすと思うがね」
「それは……避けたいなぁ」
「だろうな、坊主。大丈夫、そんな卑しい奴らは、それに見合っただけの条件を付けてやればいいのよ。例えば、住ませる代わりに、家の掃除を毎日して、飯炊きもお願いしますとかってさぁ。そしたらとんでもないって逃げ出すさ。相手がその条件を飲んで女房が楽になるなら、それはそれで毎日暑い夜を楽しめるぜ?」
「僕はまだそういうのは……」
 ホルードの歯に衣着せない大人の世界の発言に、レントは顔を赤らめる。
「だな、うちの娘もまだ知識だけのはずだから。それが知識じゃなくなるのは、いったい誰と同時かねぇ?」
「も、もう……僕が同時になりますってば。そういう意地悪言わないでください」
「はは、それぐらいはっきり、あの住居乞食どもに言ってやれ。そうじゃないと、ユークにその顔握り潰されちまうぞ?」
 気恥ずかしいことを言わされ、表情が崩れて顔を俯かせたレントに、バースは容赦なく激励の言葉を浴びせる。嬉しくて恥ずかしくて、複雑だけれど幸せな気分になれた気がした。


 一行はダンジョンを超え、その後の山道も問題なく渡り終え、一日かけて街へたどり着く。村から出るのも殆ど初めてと言っても過言ではないレントにとっては、人が河となって流れる光景が新鮮だった。
「すごい、お祭りみたい……」
「そんなこと言ってきょろきょろしていると、田舎者だってまるわかりだぞ?」
「あ、見て……あのギルガルド、剣が反ってない。まっすぐだ」
「そりゃ、うちの村はみんな草刈りに剣を使うからなぁ……そのせいで体が曲がっちまうんだ。でも、街の奴らはあんまり草刈りしないからな、それだとまっすぐのままなんだよ。他にも、特殊攻撃に特化した奴なんかは、刀身部分が小さくなるらしいぞ。軍に入ると違いがはっきり分かるんだとよ」
「へーしらなかったな……あ、あれすごい」
「はは、可愛らしい反応だなこれは」
 説明する傍から目移りしていくレントを見て、すっかり保護者の目線になってバースは見守っている。危なっかしいので目は離せないが、しばらくはそっとしておこうと、彼の後ろをついていくことにした。
 レントは、興奮しながらもはぐれていないかと、後方をチラチラと確認しながら歩いている。祭りに必要な工芸品の職人の元にはエンブオーが向かったし、村で収穫した果物の売却にはホルードが向かった。こちらの役割は、村では栽培が難しく、街でしか手に入らないような舶来ものの木の実などを買い付けること。
 役目を忘れていないか気になったが、レントはどうやらその心配もないらしい。とある店に眼をつけると、彼はバースの方を見ながら必死で手招きをしている。
「どうした、レント?」
「いや、見てくださいよバースさん。ここのお店の、値段はちょっと高いですけれど、何気に状態の良い商品がそろってますよ」
「おや、嬉しいこと言ってくれるね」
 レントの言葉に、屋台の店主のバイバニラは気を良くする。
「私ね、温度管理には結構こだわっていてね。ただ低温にするだけじゃなく、凍らせもしないような絶妙な温度を保っていて、神経使ってるのよこれが。だからさ、ちょっと氷のせいで重量重くなっちゃうし、値段も高いけれど、こだわりの品質の木の実の数々はぜひ味わってほしいね。おまけで氷も無料でつけちゃうよ?」
「どうです、バースさん? 僕、木の実とは会話できるってぐらいに鮮度を見分けるの得意ですからね。一目見て、惚れちゃったくらいですよ。このカイスのみ。水はけが悪いうちの村じゃちょっと育てにくいけれど、とびっきり甘くて美味しいから、みんな喜ぶと思いますよ。お祭りにはこれを買って行きましょうよ」
「おう、もしかして、そこのお坊ちゃん、後頭部にオボンの実がなっているけれど収穫の特性かい? 珍しいねー」
「いやぁ、珍しいのはいいのですけれど、僕が進化したら住まわせてくれって頼み込む礼儀知らずが多くって……困ってますよ、実際は」
「あぁ、あるある。どこにでもいるよなぁ、そういう迷惑な奴。まぁ、そんなことはともかく、そんな君にいい物があるよ」
「なんですか?」
「はい、これ!」
 バイバニラは短い手で小さな箱を開け、黒い塊を取り出す。
「これ……種、ですね」
「おうよ、さっき売れちゃった幻の木の実のゴミなんだが、収穫の特性のお前さんなら、飲み込んでやればいい木の実が出るんじゃないかって思ってさ。お祭りのためにたくさん木の実が必要なんだろ? 俺のお店の商品をご贔屓にしてくれるなら、さらにおまけでつけちゃうよー」
「えぇ……ゴミって言いきったよこの人。でも、幻の樹の実っていう響きは気になるな……あの、バースさん、どうしましょう?」
「祭りなんだ、たまには量より質を取るのもいいだろう」
 レントが振り返ると、バースは笑顔で言う。彼は巨大なバックパックの中に、カイスのみを溢れんばかりに詰め込んだ。図体がでかいとは思っていたが、図体以上の怪力を発揮するバースに、店主も少々苦笑気味。レントとしては、行きと同じくらいの荷物の量であるため、改めて驚くようなこともなかった。

 そうして、その他の買い物も済ませ、一晩宿で休んだ後の帰り道。
「まずいな……囲まれてる」
 ホルードのおじさんが、大きな耳をぴくぴくと動かし、感知する。
「隙を窺っているのか? なら、あれだ。日本晴れの用意をしておこう。水タイプの奴ら、困ってどうしようもなくなるはずだ。森の呪いの用意もしておけ、特にこいつにな」
 バースはエンブオーを指さし、レントに告げる。
「なぜ?」
「ソーラービームを使えるからさ」
 にやりと笑い、バースは顔を正面に戻す。
「警戒を続けながら、気付かない振りを続けるぞ。仕掛けてくるとしたら、他の街に続いている道に枝分かれするまでが妥当だろう。俺達の村に用なんてないはずだからな」
 と、言ったのもつかの間。山道の下り坂も終盤に差し掛かったころ、小川が傍を流れる場所で休憩している最中に、彼らは襲撃を受けてしまう。しかし、街の喧嘩自慢が集まった三人は強く、そしてタイプ相性で油断していたところに、森の呪いでタイプ一致となったエンブオーのソーラービームを喰らってしまうと、敵はひとたまりもなかった。全員が草タイプになってしまったことを受け、今度は冷凍ビームで攻撃しようとするも、怪力自慢の三人は倒れている敵を盾にして攻撃を躊躇わせ、そのまま敵は叩き伏せられた。
「待ちやがれ! これ以上好き勝手するならこいつを殺すぞ!」
 敵も正攻法では無理だと悟ったのか、敵の一人のシザリガーがなんとかレントを羽交い絞めにする。相性の悪い悪タイプに掴まれて話すすべもないかと思われたが、彼はゴーストダイブを行って逃げた。抱きしめるように掴んでいたレントの感覚が消えて、よろめいた隙にバースの気合パンチがクリーンヒットして、シザリガーは沈むに至った。
 残った盗賊は逃げようとするが、それをバースの黒いまなざしが断固阻止する。
「おらおら、大量だぜ!」
 そうやって逃げる事も出来ずに尻もちをつく敵に、ホルードの地震が炸裂する。レントはゴーストダイブ中。エンブオーとバースはきっちりと避けて、盗賊たちは全滅する。
「捕まっちまうなんて間抜けな奴だと思ったが、なかなかどうしてやるじゃねえか!」
「痛いですよ……ははは」
 バースがレントを褒める際は、バシバシと背中を叩かれる。痛いやら嬉しいやらで、レントはにやけながら嫌がることになった。彼の体には4つのオボンの実が実っている。戦闘中の興奮と日差しの力で得られたそれを4人で分け合い、一行は敵を縛って帰路についた。


 家に帰り付くと、村の皆は温かく迎え入れてくれた。後ろに連れている盗賊たちを見て何が起こったのかを察すると、ほとんど何もしていない(と本人は思い込んでいる)レントも含めて男たちは称えられ、後日町の警察に届けることを説明すると、その時はまた美味しいものを買ってきてくれよーなどと囃し立てる声が湧いた。
 そして、大人三人は、レントが戦いの中で大いに役立ったことを、少々誇張して話してしまう。そのおかげでいろんな人から褒められるのが何だかむずがゆかった。そんな帰還報告も終わり、村は祭りの準備に取り掛かる。レントはお店で貰った種を飲み込み、どんな木の実が生えてくるのだろうと期待して祭りの開催を待つ。準備期間が矢のように過ぎると、村祭りが始まった。
 すでにサマヨールへと進化し、街で購入した綺麗な布を首に巻いたユークを隣に据え、レントはこの祭りのメインイベントである神を下す瞬間を待った。
「そういえばさ、レント君が買い物に行くって聞いたときは、ダンジョンで怯えるんじゃないかって心配だったわ」
「一人きりならともかく、あの人達が一緒でそれは無用の心配だよ。さすがに盗賊は怖かったけれどね」
 ユークの言葉に、レントは笑って応える。
「役に立つか不安だったけれど、買い物での目の付け所が良かったとか、森の呪いがナイスなアシストだったとか、ゴーストダイブの使いどころが最高だったとか、色々言われてね……それは、ちょっと嬉しいかったよ」
「良かったじゃん」
「うん、良かった」
 ユークの言葉にレントは満面の笑みを浮かべた。儀式の方に目を向けると、空にはまばゆい光が輝き、その中から霊獣の姿をしたランドロスが躍り出る。その威風堂々たる姿とともに異界の空気が周囲に満ちると、それに包まれたレントとユークは同時に進化を遂げる。進化前とは見違えるような、オーロットとヨノワールであった。
 大きな体になった二人は肩を寄せ合いながら、ランドロスが村に活力を運んでいく様を眺めている。
「おいおいおい、レント! すげえなお前、見たことのない木の実が実ってやがるぜ?」
 そんな二人に横やりを指すように、やかましいデデンネの声。
「本当だ……」
 恐らくはランドロスの力を受け取ったおかげで実ったのであろうそれを自分でもぎ取ってみると。それはカラフルなヘタがついた水滴型の木の実であった。
「こいつはいいぜ! お前の体にもっと住みたくなったぜ!」
 そんなことを口走るデデンネに対するレントの言葉はこうだ。村に帰ってきてから、『こう言われたらこう言い返す』と、温めていた言葉である。
「いいよ」
「え、まじ!? やったぜ!!」
「え、ちょっとレント君……何言ってるの!?」
 快諾の言葉に、デデンネが喜びユークが抗議するが、もちろんレントの言葉には続きがある。
「代わりに君からヤドリギで延々と栄養を吸い取らせてくれるなら」
 そう口にしたレントは勝ち誇った顔をしていた。少し成長して、少し大人になったレントであった。

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■筆者メッセージ
某所の短編小説対価に出したもの。あんまり人気は出なかったものの供養に
Ring ( 2014/10/03(金) 00:59 )