BCローテーションバトル奮闘記 - 第二章:成長編
第六十二話:バンジロウの手持ち
12月22日

 土曜日、ホワイトジムにてポケモンの鍛錬を行う午前の部と、人間の鍛錬を行う午後の部が終わる。土日の鍛錬には、毎回サバイバルゲームを行い、今までに習ったことの総復習を行うのだが、その戦いにおいて今日はようやく師匠を一対一の状況で殺す事が出来てご満悦であった。と、言ってもナイフが触れれば死亡というルールのため殺せるだけであり、実際に戦ってもきっとあの分厚い筋肉に阻まれて殺せはしないだろう
 そもそもあの人は隙がなさ過ぎて、俺に限らずたくさんの人が挑んで、返り討ちにされている。まず近づく時点で気配で気づかれるし、よしんば近づけてもナイフで切られるし、こっちからナイフを振り下ろせば、気づいた時に地面に横たわっているのは自分である。ゲームじゃなかったら何回死んでいたことか。

 ともかく、俺は初めて師匠に勝利できたことに満足しつつ、ホワイトジムを後にする。その際、ふと人の気配を感じて上を見てみると――
「キーズーナー!!」
 と、大声とともにバンジロウさんが降ってくる。大木の多いこのホワイトフォレストだから、別段人が降ってくると表現できるような落ち方が出来る樹は少なくないが、実際に落ちてくるのは初めて見た気がする。
「ぬおぅ!!」
 俺はすぐさま飛びのいたが、そもそもバンジロウさんは俺に攻撃をするようなつもりは一切なかったらしい。だからと言って心臓に悪い事には変わりないが。しかし、丈夫な脚だ……結構高い所から降りてきた割りには、全く問題なさそうだし、足をくじくなんてことは万が一にもなさそうだ。
「なな、なんだよ……バンジロウさん」
心臓をバクバクと高鳴らせながら、俺は降ってきた相手の方を見る。
「いやぁ、キズナ、キズナ!」
「いや、何度も名前を呼ばなくっていいから。一体何の用だよ?」
「あぁ、用だな? 用なんだけれどさー、アレだよ。オイラも例のローテーションバトルに出るわけなんだがよー。あの大会のルールには、格闘タイプのポケモンを最低でも一体以上入れるっていうルールがあるだろー?
 で、オイラも新しいポケモンを育てているわけなんだけれど、その子の育ち具合をちょっと見てほしくってなー」
「えぇ? バンジロウさんなら、ワタリさんとかワラキアさんとか、チャンピオンに勝るとも劣らないような超強豪トレーナーと知り合いなんじゃ……それに、元チャンピオンマスターのアデクさんだって親戚だろ? そういう人達に頼ったほうがいいんじゃないかなぁ……俺、自分の事は決して弱いとは思わないけれど、そういう人達と比べたらさすがに見劣りするぜ?」
「いやまぁ聞いてくれよ、キズナ。キズナ、キズナ」
「3回言わなくっていいから」
「お前の言う事はごもっともなんだけれどさ、あの人達は格闘タイプの専門じゃないし、むしろエスパータイプとかの方が得意だからなぁ。だから、オイラとしても格闘タイプの専門家の多いこのジムの誰かに頼みたいんだけれど……ほら、ジムリーダーは色々あるだろ? 門下生の面倒を見なきゃいけないのに、オイラの事まで見ていられないと思うんだ。
 そこで、キズナ! キズナの、キズナの意見を聞こうと思っていてだな! オイラのポケモンをちょっと見てほしいってことだ」
「だ、だから繰り返さなくったっていいから。あー、まぁそういう事なら……俺としても、ガバイトの恩もありますし、喜んで受けますが、その……今日はカズキとバトルをする予定があるので、そのついででよろしければ」
「おー? いいなー、お前らならバトルを見ていても面白そうだし、見物してもいいか?」
「カズキに確かめるまでもないね。、見ていってよ」
「へへ、そうこなくっちゃなぁ。それじゃあ、いっちょ空飛んで」
 バンジロウさんってば、なんというか急ぎ過ぎだなぁ。もっとゆっくりしてほしいものだ。
「待って待って、待ってくれって。俺は走って一度家に戻ってから自転車でカズキと落ち合うんだ。時間もそれに合わせているし……だから、うーん……走るのに付き合ってくれないか?」
 バンジロウさんなら俺より足が遅いってことはないだろうし、走れるだろう。
「おうよ! 走るのは得意だぜ! なんてったって、いっつも野山を駆け回っているからなぁ」
「まぁ、それはその恰好を見ていればわかります……。さ、走る準備はいいですね?」
「おう、当り前よ!」
「それじゃ俺は、ポケモンと一緒に走ります。出てこい、セイイチ、アサヒ、タイショウ」
 ルカリオのセイイチ、コジョンドのアサヒ、ダゲキのタイショウ。いつも通りの走り込みメンバーである。ガバイトのゴンゲンは飛ぶ方が得意なので、走り込みには参加させない。
「キズナ、キズナ! キズナ! 遅れるんじゃねーぞ! オイラもポケモンと一緒に走るから、だらしない所見せないでくれよー!」
 と言って、バンジロウさんが出したポケモンは、リーフィアのフレイヤとゴウカザル。へぇ、ゴウカザルとはいいポケモンを持っているじゃん……っていうかもう進化させているのか、すごいな。
「忍者に走りでそのセリフをはかれると、ついつい後悔させたくなっちゃいますね!」
 なぜだか、自然とかけっこが始まる流れになってしまう。そして、遅れるんじゃねーぞと言われても、そもそもバンジロウさんは俺の家も目的地(育て屋と言えば伝わるが)も知らないはずだけれど……細かいことを気にしたら負けか。
 ともかく走ってみると、やはりバンジロウさんは速い。俺も毎日ポケモンと並走しているから早いつもりだったが、バンジロウサンもポケモンと並走して毎日鍛えているのだろう。さすがに、俺がそうであるようにポケモンが本気で走っているという事は無いと思うが。まぁ、そもそも俺も裸足で走ってるし、遅いのは仕方ないよね……バンジロウさんもサンダルだけれど。

 結局、家までいつも以上の速度で走ったつもりでも、バンジロウさんは余裕で付いてくる。汗をかきはしているし、呼吸は激しくなっているものの、肩で息をしている俺とは大違いで、俺のポケモン達に向かって『お前のご主人足が速いなー』なんて話しかけている。
 その通りだとばかりにうなずくアサヒが嬉しそうで、タイショウとセイイチは『いや、お前の方が速いだろう』とでも言いたげだ。俺は今すぐにでも休みたい気分だというのに、バンジロウさんは元気なことだ。
 ともかく、俺はまず3時のおやつを口にする。バンジロウさんやポケモンも一緒に、お茶なんかも出したりして、だ。新しいお友達が増えたのねーと、母さんが嬉しそうにしていたが、目の前にいる人物がポケモンバトルに置いてどれほどの強さなのか、やはり知らないのだろうか?
「こんな大物が来るなんて、うちの子も出世したものねー」
 そんなことを思っていたらこのセリフである。母さんもなんだかんだでポケモンバトルの世界は覗いているのだろう。

 そうして、バンジロウさんと一緒にカズキとの待ち合わせ場所へ向かうのだが、俺は自転車だというのにバンジロウさんはそれでもきちんとついてくる。さすがに苦しそうな表情をしてはいるが、本当に化け物というか野生児なのだと実感する。
 バンジロウさんを連れていくために少々早めに出発したが、いつものペースで走りぬいてしまったため、今日は随分と早めについてしまった。目的地の育て屋はカズキの家なので、カズキを待つ必要がないのは幸いか。走っていれば寒さは気にならないが、バトルを行うのであれば、基本立ち止まる必要があるために、今度は裸足ではなくきちんと靴やズボンをはいていく。あぁ、暖かい。
「先に目的地伝えておいたほうが良かったかなぁ?」
「なぁに、楽勝だぜ、こんなの……オイラなら……」
 俺の言葉に、バンジロウさんは虚勢を張る。子供らしいところもあるじゃん。寒空の下で待つのも何なので、事務所で待たせてもらうと、遅れてカズキがやってくる。

「あれぇ? バンジロウさんもいるの? えーっと……こんにちは、お久しぶりです」
 俺達を見てまず最初にカズキが発した言葉がこれ。俺よりもはるかに頭が目立つから仕方がない。
「あとキズナも、こんにちは」
「おう、こんにちは!」
「よう、カズキ! カズキ! カズキ!」
「何回も言わなくっていいですよ、バンジロウさん。今日は、何かありましたか?」
「あぁ、今日ここに来た用なんだけれどな――」
 と、俺にしたのと同じ説明をバンジロウさんが始める。
「なーるほど。バンジロウさんの手持ちっていうのも興味あるし、ちょっと覗かせてもらおっかな。キズナ、バトルは後でいい?」
「いいぜー。バンジロウさんのポケモンを軽く見るくらいならそこまで時間もかからないだろうし」
「というわけでバンジロウさん、すぐにでもポケモンを見ようと思うけれど、ゴウカザルの方は大丈夫?」
「おう、そりゃもちろんよ」
 カズキの質問にバンジロウサンは自信満々に答える。
「とりあえず、俺が見られるのは、ポケモンに共通する型や動きだけだ。あんまり期待しないでくださいよ、バンジロウさん?」
「なあに、色んな人の目で見てもらう事そのものが大事なのさ! なぁ、カズキ!? カズキ!?」
「いや、俺に振られても困ります」
 バンジロウさんは俺の事を格闘タイプのポケモンの専門みたいな感じでとらえているようだけれど、俺はポケモンレンジャーになるためにいろんなポケモンを扱わなきゃいけないわけだし。でも、頼られて悪い気はしないし、出来る限りやってみよう。
 
 寒空の外に出る。しかし、俺でさえじっとしていると寒くって仕方がないというのに、バンジロウさんは半そで半ズボンにサンダルでよくまぁ寒くないものだ。体温が高いのだとしたら、風邪もひかないのだろうな……俺も滅多にひかないけれど。
 カズキは防具を取りに行ってくると言って、少し別の場所へと走って行ったが、ほどなくして俺達と合流し、ようやくバンジロウさんのポケモンのトレーニング開始である。
「よーし、それじゃあインフェルノ、出てこい!」
 バンジロウさんが繰り出したのはゴウカザル。まだ進化したてといった感じで少し幼さの残る男の子。ただ、引き締まった筋肉などはこれまでの段階でよく育てられていることを感じさせる。
「へー、良さげな子だねぇ」
「おうよ、四天王のオーバさんから貰ったヒコザルを育ててここまでにしたってわけさ。まぁ、そんな事はどうでもいいだろ? オイラのポケモンの強さを見てくれよな!」
「いいぜ。まずは、パンチやキックの型を見せてよ。俺が受けるからさ、炎とか闘気とかは込めずに頼むよ」
「だとよ、インフェルノ。まずはパンチから」
 バンジロウさんの指示に、インフェルノは小さく唸り声を上げて頷き、ファイティングポーズをとる。ゴウカザルは大股開きで半身になり、腕もひじを開いて広げている。相手の防御を下からくぐるようにして叩くタイプで、受けるこちらとしては脇を固めないと無防備なところに一発いれられる感じかな。急所を的確につく素早さと精密さが要求される構えだ。
 インフェルノは一瞬だけ体を落としてから、目にも止まらぬ拳を放つが、そんな予備動作の多いパンチに、俺が当たる道理はない。
「ダメだな。呼吸を見切りやすい。一瞬体がヒクついているから、拳を放つのがバレバレだ。体が硬くなっちゃっているんじゃないのか? 柔軟運動はきちんとさせないと」
「おいおい、キズナ、キズナ! こいつにもわかりやすいように説明してくれるとありがたいんだが……」
 そういえば、バンジロウさんって自分のポケモンに対しては基本的に一回しか呼びかけないな。なぜなのか?
「要はね。殴ろうとしたときに殴る体勢に入っていないってこと。腰が引けてるっていうのかな……もう少しこう、体重を前にかけてね……」
 言いながらゴウカザルの体に触れる。さすがに炎タイプだけあったその体は暖かく、手袋越しでもそのありがたみが伝わってくる。ずっと掴んでいたいが、それは流石に触られる方が嫌がるだろう。
「そう、いつでも殴れる状態に構えておくんだ。攻撃は確かに避ける方も重要だけれど、クリーンヒットしないことを考えてね……例えば、パンチが来たら後ろに下がったり体を逸らすだけじゃなく、相手の拳をいなしたり、前に避けて間合いを詰めたり外を取ったりすることが大事さ。例えば……打ってみて。インフェルノ」
 今度は俺も避けるだけではなく、相手の拳をいなして攻撃のチャンスを作るつもりで立ち会う。ゴウカザルのマッハパンチに対して、俺は下段に構えた右手の平で相手の左拳を押し出すようにしていなす。そして相手の左肩まで一歩で踏み込み、左手は相手の顔を覆うような場所で寸止めする。俺が本気なら、そのまま顎を砕かんばかりの掌底を加えていたところだろう。
「まぁ、こんな感じで。言って真似しろといても難しいだろうから、やって覚えるしかないんだけれど……これくらいは相手がいれば教えなくとも自然に身につくからなぁ。
 受けの動作にも色々あるから、とりあえず型だけ教えるとして……型を教えたら実際にゆっくりやってみて、それが出来るようになったら……うーん」
「あーあ……キズナ悩み始めちゃった。他人のポケモンに教えるのは苦手なのかねぇ」
 カズキの言葉通り、俺は何から教えるべきかわからなくなってきたなぁ。俺の子達は結構仲間内で鍛えあっていたから基本的な動作もすぐに覚えてしまったが。バンジロウさんのポケモンは
「だって、他人のポケモンに教えるとなると、責任が伴うじゃねーか」
 そう考えると、スバルさんやカズキ、そして師匠の偉大なこと。俺は育て屋には向いていないのかもしれない。それとも、続ければ自信もつくのかね?
「まー、確かに。でもあれだよ、やっぱこういうのって実戦で覚えるしかないし……ちょうど防具もあるからさ、今度は俺が受けるよ。反撃するけれど、痛くないように手加減するから、遠慮なくやってよ。格闘タイプのポケモンに教えるのは慣れてる」
 カズキもこんな感じだし、やっぱり経験が自信をつけるものなのかもしれないな。
「おー、頼むぜー、カズキ。オイラ、格闘タイプのポケモンを育てたことがないから、その基本だけでも知っておかなきゃいけないもんでよー」
「了解です、バンジロウさん。さ、インフェルノ。まずは自由に打ってきて。蹴りも交えてね」
 と、カズキの挑発は非常に自信満々だ。だが、その自信も2か月以上ポケモンを育てることに(学校行ってない)心血を育てていたのだから、ある程度裏付けはあると思ってもいいだろう。ゴウカザルのパンチをカズキはいなす。あまり踏み込まれずに打った左ジャブは、右腕で軽くさばいたが、次に放たれる右ストレートは大きく踏み込んで放たれた。インフェルノの右ストレートを、カズキは相手の左手を捌いた自身の右腕を回すようにして元の場所に戻し、その動作でいなす。
 ふむ、やっぱりゴウカザルの構えに体重が乗りきっていないな。基礎体力ばっかり鍛えてあまり実戦はしていなかったのかな? あのゴウカザル。逆に、カズキの手の動きは綺麗な円の動きじゃないか。防御を成功したかと思えば、カズキの手の平はインフェルノの耳近くに添えられている。あれは、鼓膜の奥にある三半規管をビンタで揺らして平衡感覚を奪う技だな。

「そう、うかつに動くとこういう風に防がれて反撃をもらうんだ。だから、インフェルノ。攻撃するときは踏み込むばかりのワンパターンじゃいけない」
 カズキの防御に、ゴウカザルは躍起なって攻撃する。しかし、外側に回り込まれて膝蹴りを叩きこまれそうになったり、首を絞められそうになったり関節を極められそうになったり、顎を砕かれそうになったり、カズキにはインフェルノの攻撃が何一つとしてまともに当らない。あれくらいは俺でも出来るっていうか、本当に好き勝手攻めさせるだけだなおい。
 蹴りが来たら足を上げて防ぐのはもちろんのこと、脇腹狙いの蹴りには肘を合わせたり、間合いを詰めて相手の太ももに当てさせて自身は顎を膝蹴りにしてやったり。そのたびに、どこに隙があったのかを懇切丁寧に教えている。手馴れているなぁ。
「それじゃ、今度は俺からも攻めるよ。痛くしないから、きちんと攻撃を見て、目なんてつぶったらダメなんだからね」
 と、カズキはゴウカザルの足を払ったり、手を取って投げや関節に持ち込もうとしたり、執拗に相手を攻撃する。防御するだけじゃダメ、攻撃するだけじゃダメ、ちゃんと考えないと、ほらよく見て、などと、次々とアドバイスを叩きこんではゴウカザルに打ち勝っている。闘気や炎を纏っていないとはいえ、カズキもやるようになったなぁ。
 ただ、回数を重ねていくうちにゴウカザルの動きが良くなっているような気もする。カズキに攻撃が少しずつ当たるようになっているのだ。
「なぁ、カズキ。疲れてる? 結構攻撃が当たるようになってるが……」
「うん、ちょっとだけ。でも、それ以上に……インフェルノの動きが良くなってる。基本を教えただけでもこんな感じだし、もう少し仕込んであげれば順調に強くなると思うよ。でも、ま……」
 と言って、カズキはゴウカザルに向けて構えを取る。
「例えばこう!」
 ボクシングのような、左足を前に、右足を後ろに、脇を占めて腕を上げるというファイティングポーズから、一瞬左肘を上げてそこに注視させ、左ジャブと見せかけ相手の防御を誘い、踏み込むと同時に相手の足を踏む。ちょっとしたフェイントだが、駆け出しが相手じゃあれでも効果抜群だろう。インフェルノは見事にその一撃を喰らっている。
 本気でやられたら、脚の動きが鈍る事だろう。
「ゴウカザルはフェイントをかけるのが得意な種族だ。こんな安っぽいものだけじゃなく、色んな技術があるけれど……こうやって、フェイントを交えればもっと当たるようになるよ」
 インフェルノは、カズキにされた攻撃に驚き、荒く息をついている。だが、これが戦闘に役立つ技術と悟ったのだろうか、カズキの言葉に必死で頷いている。
「おー、足を踏むとは……痛そう」
「成功すればね、キズナ。失敗すると手痛い反撃を喰らうんだよね……」
 と言って、カズキは微笑んだ。インフェルノは、カズキにされた攻撃に驚き、荒く息をついている。
「というか、これぐらいキズナなら出来るっしょ?」
「出来るけれどさー……ふむ、失敗を恐れず育ててみるかぁ……っていうか」
 俺はバンジロウさんを見る。
「ん、どしたーキズナ? オイラの顔に何かついてるか?」
「バンジロウさんも、俺達の道場に入ればよくないかな? 忍者道場なら、いくらでも格闘技学べるし、ポケモンにも仕込めるし……」
 俺達でも基本的なことは教えられるけれど、いつもこうして指導するわけにはいくまい。むしろ俺達の方がバンジロウさんに指導されたいくらいの実力もあるわけだし、バンジロウさんなら格闘技もすぐに覚えられるだろう。
「うーん……なるほどぉ。でも、オイラも白の樹洞と黒の摩天楼の番人って仕事があるからなぁ……どこまで暇が出来るか」
「いやいや、大丈夫だって。平日の昼間は師匠もけっこう暇だから、その時間を狙えば個人指導だってしてくれるよ。バンジロウさんだって、平日の昼間は暇でしょ?」
 平日の昼も鍛錬に費やすとなると、そんなに勉強しないで将来大丈夫なのかという心配はあるけれど、まぁ大丈夫なんだろう。バンジロウさんほどの腕前なら就職先はいくらでもあるし。
「まぁ、なぁ……よし、やってみるか! オイラももっと強くなるために!! そうなったらキズナはオイラの兄弟子だな! よろしくだぜ、キズナ! キズナ!」
 バンジロウさん、俺の事男だって思ってくれてるんだなー。嬉しいなー。
「そうこなくっちゃ! 俺達としてはこれ以上強くなられても困るけれど……」 
「ポケモンバトルではイッシュの五本指に入るような人が弟子になるとか……オリザさんも大変そうだね」
「いいじゃねーかカズキ! カズキ! オイラ格闘技は全然知らない素人なんだからよー」
「はは、まぁそうなんだけれど……体力あるからそれだけで喧嘩勝てそうなんだよなぁ」
 苦笑しながら、カズキはインフェルノの方を見た。
「今度はご主人が強くしてくれるってさ、インフェルノ」
「そうだぜ! オイラも頑張るからな!」
 バンジロウさんもやる気十分のようで。嬉しいやら怖いやら、分からんね。

「よし、それじゃあ、それが決まったところで……せっかくだから、俺達もバンジロウさんとバトルしてみる? カズキとバトルする予定だったけれど、たまには別の人ともバトルしたいし」
「ん、マジで? オイラは構わないけれど、カズキは?」
「うーん……いいけれど、どこまでできるものやら」
 まぁ、まず負けるだろうけれど、それも経験だよな。カズキも自信なさげだけれど、負けたっていいじゃない、まだ本番じゃないのだから。追いかける方が快感だってね。

 ――数分後――

「おーっし、オイラの勝ちぃ!!」
 意気込んで挑んでみたはいいものの、やはりバンジロウさんという壁は分厚すぎるくらいに分厚すぎた。俺もカズキも、感謝祭で行われたバトルでは結構強かった印象があるのだが、初心者狩りでもされたかのようなレベルで大敗を喫している。
 お互い、バンジロウさんの手持ちを一匹たりと削ることも出来ず、手も足も出ずにポケモンが戦意喪失していった。怪我をさせるまでもなく負けを認めさせるのは俺達もよくやるが、それを一方的にやられるのは初めての経験で、改めて自分の目の前にいる野生児が規格外の天才であることを感じさせる。
「2人とも、9月にオイラの前で戦った時よりも随分と強くなっているんじゃねーか? ポケモンの動きが格段に良くなっていたぜ。でも、オイラの相手をするにはまだまだ足りねえな。次の大会までには、もっと強くなってきてくれよ」
「はは、言われなくても」
 虚勢を張るように俺は笑う。どちらかというと、笑ってごまかすしかないような惨敗だが。
「今の調子で強くなって見せるさ。待っててくださいよ」
 カズキも、今回の負けをばねに出来そうな発言をしている。ま、くよくよしていたって仕方がないさ。そうとも、今の調子で強くなっていけばいいのさ。
「いや、でも……嫌味でも何でもなく、お前らやっぱりすげえよ。オイラはお前らが強くなってくれて嬉しいぜ。オイラ、バトル出来る相手が少ないからさ……友達で、ライバル。そんな関係になってほしいからさ!」
 なんとまぁ、バンジロウさんの中で俺達はもう友達と決定しているらしい。訂正する気もないし、そういう認識で正しいと思うけれど。だからと言って臆面もなく、疑いもなくそんなことを口にする人は初めてだ。
「じゃ、4ヶ月待ってください。足元くらいにまではかじりつきますので」
「カズキに同じく。大会では、度胆抜かせてやりますから!」
「楽しみにしてるぜ、2人とも!」
 バンジロウさんは輝かしいばかりの笑顔でご満悦の表情を見せる。
「おうよ!」
「うん!」
 俺とカズキはその気迫に負けないよう、力強く応えた。こりゃ、バンジロウさんの期待に応えないわけにはいかないね。燃えてきた!

「はぁ……ポケモンバトルも終わったことだし、そろそろ帰るかなぁ……あ、その前にトイレ借りていいか、カズキ?」
 満点の星空に浮かぶガラガラ座を見上げながら、俺はカズキに言う。
「あ、そういえば俺も……寒いからトイレが近くなっちゃうね」
 どうやら、カズキも同じような事情のようで、二人そろって苦笑した。
「おー、奇遇だなお前ら! オイラもションベンしたくなっちまってさー」
「あ、あぁ……うん、そう」
 何か嫌な予感がして、俺は顔を引きつらせる。
「せっかく男同士なんだし、ここは連れションと行こうぜ?」
「ぬぉ……」
 嫌な予感が的中した。
「どうせこんな外なんだし……広いし、どうせポケモン達はそこらへんでしてるわけだしさー……で、キズナ。キズナ、キズナ……どうした?」
「い、いや……俺は連れションはその、遠慮しとく。トイレ行ってくるよ」
 俺が目を逸らし気味に言うと、カズキは横で乾いた笑い声を漏らしていた。顔が赤くなっている気がする……耳が熱い。こんなの、俺のキャラじゃないのに……
「おー、釣れないこと言うなよキズナ―。女みたいな匂いだからって、まさか体まで女ってわけじゃないだろー? もしかして小さいのかー?」
 っていうか、バンジロウさんに性別ばれてるし。というか、やっぱりバンジロウさんは匂いで分かるものなのか……。
「これはオイラのじいちゃんから教わった男の友情を深める伝統の儀式でなー、誰が一番遠くまで飛ばせるかを競うんだってよ」
 アデクさん、孫に何を教えているんだ。恨むぞ……。
「そ、その、ね……バンジロウさん。ねぇ、キズナ……俺から、話しておこうか?」
「いいよ、俺から話す」
 バンジロウさんも悪気はないし、むしろ友達と認めてくれているのだろう。親しい間柄でもないとそんなことできないだろうからな……その点は嬉しいし、喜ばしい所なんだけれど。さすがにここまでの事を言われたら変に隠すのもよくないだろう。
「俺、女なんだ?」
「へ?」
「証拠……なんだけれど、ほら、これ」
 俺はズボンに手をかけ、中にある女の子の証をバンジロウさんに差し出す。
「ほら、このトレーナーズカード。性別の欄、女になっているだろ?
「え、え、え……マジで?」
 バンジロウさんは、恐る恐るカードを手に取り、性別の欄を読み取った。
「本当だ……ちょ、え、え、えぇぇぇぇぇ? 嘘だろおい、キズナが女だったなんて聞いてねーぞオイラ」
「言ってなかったからねー……キズナの意思を尊重してたから」
 バンジロウさんが驚きのあまり紡ぐ言葉に、俺は苦笑しながら応える。
「あー……キズナ。キズナ……キズナ。なんていうかすまねーな。今まで性別を間違えてて」
「あぁ、バンジロウさん。謝る必要なんてねーから。俺としちゃ、男として扱ってもらえると嬉しいからさ。だからまぁ、ほら……いつだって女らしい恰好の一つもしないし、一人称も『俺』だから……間違えるのは仕方ないし、むしろ男扱いしてくれて嬉しかったぜ、バンジロウさん」
「そ、そうか……色々な人がいるんだなー……オイラはむしろ可愛いとか女の子扱いされるのが嫌だったけれどな」
 バンジロウさんはよほどショックを受けたらしく、どうすればいいのかを悩んでいる。
「あの、バンジロウさん。キズナは男の子になりたがっているんだ。だから、今まで通り扱ってあげればいいのですよ。でも、流石にほら、立ちションは出来ないから? だからこんな話をすることになっちゃったけれど、キズナは気にしていないと思いますよ」
「実際、気にしていないぜ、バンジロウさん。でもまぁ、流石に無理なものは無理と断っておいたほうがいいかなって……ほら、どうあっても俺達はお前と友達だよ、バンジロウさん」
「お、おう……オイラ、乙女心とかそういうの分かんねーけれど、とりあえず今まで通りの付き合いで大丈夫なんだな?」
「そりゃもう、俺とキズナの関係を見ればわかるでしょ? 性別とか、気にする必要はないんだよ」
 珍しく戸惑うバンジロウさんが新鮮だ。それを見て、笑みが浮かぶのを堪えながらカズキが口にした。
「はー……そうかー、安心したぜ。その、キズナを、キズナを傷つけちまったかと思って、オイラものすごく焦っちまったぜー。よーし、それじゃあカズキ、カズキ、カズキ! 二人でやろうじゃねーか」
「え、遠慮しとく」
 そして、あまりに切り替えの早いバンジロウさんにカズキは若干引いているが、それを眺める立場で見守っている俺は、おかしくなって笑いが漏れた。ポケモンバトルが強い云々じゃなく、この爽やかな性格だけでも、こいつが友達でよかった。改めてそう思える人物である。



「はぁ……」
 バンジロウさんがラティアスに乗って帰るのを見送った後、カズキはため息をつく。
「どうした、カズキ?」
 ただ疲れただけだろうか? それにしてはため息が重かったような気がした。
「いや、バンジロウさんは、本当に楽しそうにポケモンバトルをするなぁって。少し羨ましかったんだ」
「なんだ、お前は楽しくないのか?
「楽しいよ」
 カズキは儚げに微笑む。
「でも、少しだけ寂しくって……あのね、俺さ。ポケモンを輝かせるためにローテーションバトルを始めたんだ」
「その話は聞いたことあるよ。ゼロが、ローテーションバトルでなら活躍できるだろうからって。それが、どうかしたのか?」
「……最近。ってほどでもないかな。セッカシティでの大会の後あたりに……俺さ、それ以外の目的も気付いてしまったんだ。俺さ、母さんに認められたくって、ポケモンバトルをやっているんじゃないかって。俺さ、あの大会でスバルさんの手持ちを2匹以上削れたら、ご褒美をやるって言われてたんだ……。それを達成したら、母さんが俺のことを息子だって認めてくれてうれしかった」
「あぁ……そういう」
 俺の言葉に、何を納得したのかカズキは頷いた。
「それで、今は母さんに認められているからいいけれど。じゃあ逆に、もし俺がこのまま落ちぶれてしまったらどうしようって。そんなことを考えるようになってしまったんだ。そんなことが脳裏に浮かんでからっていうもの……俺さ。ポケモンバトルが少しだけ、素直に楽しめなくなってしまって……」
「大丈夫だって。スバルさんは、なんだかんだ言ってお前の事を良く評価しているし。今から実力が伸び悩んでも、きっといろいろ世話を焼いてくれるから。心配するな。楽しむためだけにやっていても、ある程度しか成長は出来ないだろうし、強くなるならそう言う気持ちも必要だろうから。むしろいい傾向なんじゃねーの?
 強くならないと出来ないことがある。そんな気持ちだって、お前に成長をもたらしてくれるだろうさ。な? 俺だって、ポケモンバトルは楽しいけれど、それ以上にポケモンレンジャーになるためにこうして鍛えているんだ。強迫観念ってほどでもないけれど、緊張感を持ってやっている面はあるぜ?」
「母さんは、俺がポケモンバトルで強いから俺を気にかけてくれるんじゃないかなって思ってから。じゃあ、もしも……俺がポケモンバトルを辞めたら、母さんは俺を愛してくれるのかなって、そんなことを考えてしまったんだ」
「カズキ!」
 ドスを聞かせた声で、俺はカズキを一喝する。カズキはびくりと体を震わし、肩をすくめた。
「お前、また俺達の愛情を試す気か? 俺達がお前にかけている想いを無駄にする気かよ?」
「無駄にするって言葉が出てるってことは……そういう事なんじゃないの? 打算があって、愛情をかけてるってことじゃないの」
「ねーよ、打算だなんて、そんなもの。誰かの笑顔を見たくって、無料で作った食事を、自分の愛情を試すためとかいう理由で味見もせずにゴミ箱に捨てられたら、聖人君主だって烈火のごとく怒るわ。あるいは、懐いていないポケモンならば俺達が善意で出した食事を警戒して食わずに腐らせるかもしれないがな。お前が言っているのは、主人の愛情を試したくって、手持ちのポケモンがポケフーズをゴミ箱に捨てるようなもんだぞ?」
 そこまで言って、俺はカズキの答えを待った。しかしカズキは否定をしなかった。自分がどれだけ馬鹿なことを口にしていたか、理解したらしい。ならば、俺の言葉をきちんと理解してもらうために、俺はカズキの肩を、後が出来そうなくらいに強く掴む。
「お前、そんなことされて黙ってられるのかよ? そうなったらポケモンを怒るだろ? 『愛情を試すためにやったから許してくれる』とでも思っているのか、お前はよ? ポケモンバトル以外に、お前が命を懸けてやりたい夢や目標が出来たなら、ポケモンバトルを辞めるのも悪くはないさ。でもな、自分が何をしても母親が愛してくれるか試すためにポケモンバトルを辞めるだって?
 そうなったら俺はお前を軽蔑する。殴って、二度と話しかけてこれないくらいに完膚なきまでに叩きのめすからな。いいな、分かったか?」
 掴んだ指が痛くなるほどに握りしめて説得し、言い終えたところで俺はようやく力を抜く。
「正直、打算が全くないって言ったら嘘になる。思い入れのある誰かが笑顔になることって、すっごく嬉しい事だから……でも、そんな奴に愛情を試すようなことをされたら、気持ちは離れていく。こんなこと、前も言ったはずだろ?
 お前は……不安なんだろうけれどさ。俺は、お前の親をお前の話でしか聞いたことがないからわからないけれどさ。でも、俺は親を疑ったことなんてないんだ。すべての親が俺の親みたいに人格が出来ているわけじゃない。でも逆に、お前の生みの親のような奴が全部でもないんだ。信用してやれよ、スバルさんを。
 あの人が慕われている理由。ギーマさんやオリザさんが高く評価している理由は、あの人がポケモンバトルに強いからだけじゃないだろ? 一番身近にいるお前がそれを理解しないでどうするんだ?」
 俺の言葉を聞いている間、カズキは涙ぐんでいる目を逸らしていた。
「俺は……」
 何かいいわけをしようとして、カズキは口ごもる。構わず俺は続けた。
「大人が信用できないか? なら、俺のためにお前は……今のお前でいてくれ。もし、スバルさんの元に居場所がなくなっても、俺が居場所になってやる。でも、愛情は試すな。愛情を試すために、今のお前であることを辞めるな。楽しむため以外に目的を持つことはいいことなんだ。だからそれを嫌がるな。自分に芽生えた気持から逃げるなよ……受け入れて、糧にしろよ。
 誰かの愛情のために強くなるって、いい事じゃないか。俺も、強い方が素敵だと思うし……楽しむだけじゃない、頑張っているお前も好きだ」
 避難してばかりでは、カズキは自分が否定されたと思うかもしれない。だから、最後は肯定する。俺の素直な気持ちだから、きっと届いてくれるはずだ。
「ごめん……変なこと口にして」
 俺の言葉をどう受け止めたかはわからないが、カズキが謝罪の言葉を口にする。何というか、これからも発作のようにこうやって駄々をこねそうな気がする。その度に何回だって言い聞かせて、理解させるしかないのだろうな……厄介な奴だ。
「言って分かるうちは、まだ許すよ……俺はお前のことが理解できないから。お前が俺の言葉を理解してくれるのは、嬉しい」
「そんな……俺、まだキズナの言葉を全然理解できてない。嬉しく思うなんて、早計だよ」
「カズキ。頭で理解できないなら、心で理解しろよ」
 俺はカズキの顔をぐっとよせる。
「う、うん……」
「じゃあ、まずは笑え。無理やりでもいい、演技でもいい。恥ずかしがるな、俺とお前以外は誰もいないのだから……笑え。ほら、あっはっはっは!!」
「え、え、……えと……あっはっはっは!」
 そうやって笑わせる事に、大した意味などなかった。訳も分からないままに笑う演技をするカズキの唇に、俺は前触れなく口づけた。半開きだった口に舌をねじ込んでやれば、カズキは数秒声を失い硬直するも、結局それを黙って受け入れてくれた。俺の強引でへたくそなキスを吐き出しもせず、拒みもせず。しかしカズキは自分から積極的に絡ませることはしない。どうすればいいのか、分からないのだろう。頭ではなく、心が。
 俺の唾液を少しずつ送り込んでやると、溜め池になったカズキの口は、その息苦しさから解放されようと喉を鳴らして飲み込んだ。そろそろ潮時だろうか、俺は口を話し、舌を引っこ抜いた。一方的だったけれど、キスの味は楽しんでもらえただろうか?
「なぁ、カズキ。お前の力で俺を幸せにしてみろ」
「え、と……」
「俺はお前を幸せにするから。お前を幸せにしたいから……だから頑張る。お前はどうだ?」
「したいよ……」
「その心に、偽りはあるか? 打算はあるか?」
「無い……よ……」
「俺を幸せにして、何か得することでもあるのか?」
「無いよ……キズナを幸せにしても、お金がもらえるわけでもないし、賞や勲章だってもらえない……」
「じゃあ、なのに幸せにしたい理由は何だ?」
「わからない……なんとなく、なのかな。言葉じゃ説明できないというか、理屈じゃ……無いのかな」
 誘導はしたが、答えは知っているじゃねーか、カズキ。
「なら、お前自身の心を信じろ。お前が俺を想うように、俺はお前を想ってるし……スバルさんだって。年齢が全然違うから、形は違うだろうけれど、お前を想っているはずだ。俺だってお前を幸せにしたいけれど、その理由は上手く説明できないさ……けれど、その心に偽りも打算もない事は、きっと一緒だ。それがきっと、答えだよ。これを心で理解しろよ、カズキ」
 カズキはしばらく恥ずかしそうに顔を伏せていたが、後に控えめに頷いて見せる。
「じゃあ、これからもポケモンバトルを続けられるな? 俺達の愛情を試したりしないな?」
「うん、続けられる……続ける」
 頼りない口調であったが、とりあえずはもう大丈夫だろう。きっとカズキは、成長してくれるはず。そんな希望的観測を抱きながら、俺とカズキはようやくさよならをした。いつか、カズキも大人を信じられるようになったらいいのだけれど。




Ring ( 2014/04/20(日) 14:30 )