BCローテーションバトル奮闘記





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第二章:成長編
第五十八話:セッカ湿原慰霊祭、決勝
「頑張ったようだが、表彰台は譲れんな、少年よ。悪のカリスマは、2度も負ける訳には行かぬのだ」
「……仕方が無い、こんなものか」
 ハチクマンの手持ちは、虫や格闘に弱いポケモンが多いので、取りあえずはずれが無いイッカクを選出し、トリの追い風でサポートをしつつの強力な攻撃で攻め立てる戦法を取ったのだが、ハチクマンの強さはやはり相当な強さであった。カウンターや搦め手を的確に交えた戦法……特に厄介だったのはシュバルゴだ。
 オリザさんとの戦いのときもサラをほぼ一撃で倒すようなすさまじい強さを発揮していた印象があるあいつは、ゼロとは対照的にどこまでもシングルバトル向きな、動く要塞のようなポケモンだ。炎に極めて弱いのが残念ではあるが……ゼロにクリーンヒットではないとはいえ一撃を与えたり、サミダレを一撃でしとめたりと、異常なくらいの攻撃力で俺達を攻め立ててきた
 その見事な攻防に俺は手も足も出ないで惨敗。ハチクマンは元ジムリーダーのハチクと同等の強さだというが(実際同一人物だけれど)その実力と言うのは恐ろしいものだった。
 ハチクマンはオリザさんには押し切られて負けてしまったが、同じジムリーダー同士実力が切迫していただけで、もう一回くらい戦えばハチクマンが勝ってもおかしくないくらいだ。

 実況が、ハチクマンが3位をキープした事を伝え、解説が俺やハチクマンの戦いぶりについ手を語ってくれている。ただ、その解説も初心者向けで、俺が聞きたいこととは少し違っているような気がした。もっとアドバイスのような事でも喋ってくれればいいのにな。
「負けてしまったか、カズキ」
 ベンチや中継画面があるだけの簡素な選手控え室を抜けると、スバルさんが待ち構えていた。
「うん、母さん……ごめん」
「気にするな。悪のカリスマ、ハチクマンは今のお前が勝てる相手ではない。きちんと抵抗できただけ、お前がきちんと成長している証拠さ」
 母さん、そこで彼の二つ名をきちんと呼んであげる必要はあるのかな?
「今回の負けを、きちんと糧にして、次に生かすことだな。まだまだお前は成長するし、成長すれば今は倒せない相手を倒す事だって出来る。ビデオはとっておいたから、よければ後で確認してみるとよい」
「うん、ありがとう……」
「じゃ、私の撮影は頼んだぞ」
 ビデオカメラを手渡され、話が終わる。さて、医務室にポケモンを預けたら、観客席に戻らないとな。

「ごめん、キズナ……負けちゃったよ」
 スバルさんとの話を終えると、その後ろで待ち構えていたキズナに話しかけて彼女と合流する。
「あぁ、残念だったな。けれど、ベスト4まで残っただけ大した物だと思うぜ? 俺の分もよく頑張ってくれたさ」
「それはわかっているんだけれどさー……やっぱり、プロのポケモントレーナって半端じゃないんだなって思い知らされるよ」
 実際、上位陣はポケモンに関することを生業に生きるプロが名を連ねているわけだ。俺もいずれはそうなるつもりではあるが、今はただの候補でしかない。あれを目指すのならば、頑張らないと……
「さ、次は母さんとオリザさんの戦いだ。いつも母さんのほうが勝っているらしいことは聞いているけれど……」
「師匠、負け越しているらしいからなー。こういう大会で、勝てるのかどうか」
 それはごもっともだ。母さん、四天王並の実力者だからなぁ。
「勝てないと思っていても、全力をつくして勝負するしかないよ、こういうのは。俺もキズナも、そうやって強い相手に挑んだんだ。オリザさんだって同じでしょ」
 結局負けはしたけれど、最後まで相手をしてくれた2人と、こうやって強者に挑む機会を与えてくれる大会には感謝である。
「強かったよな、スバルさん……俺もカズキも、惨敗だった、師匠もそうなるのかな?」
 昨日戦ったときの記憶を反芻してキズナがぼやく。
「うん、無茶苦茶強かった。だからこそ、俺は母さんに力を認められて、抱きしめてもらって……ものすごく嬉しかったよ」
 対して、俺は戦ったときの実感よりも、抱きしめられた時の感触を思い出してキズナにそう語る。
「カズキが嬉しそうなのはとてもいい事なんだけれど……俺は、師匠に抱きしめられるのはなんか嫌かなぁ……」
 おいおい、キズナ。それは言っちゃいかん。
「その言い方だと、オリザさん泣いちゃうよ?」
「いいだろ? ねーちゃんじゃないけれど、俺だって男は格好いいほうが好きだぜ? さすがにあの筋肉の塊はなぁ……」
「まぁ、オリザさんも身長2mに加えて筋肉もムキムキに鍛えた時点でそういう女性からの好意を諦めてはいるんだろうけれど……」
「そこはいいじゃねーの? 筋肉フェチな女性にはきっとたまらないだろう、師匠の筋肉は」
「うーん……そうだろうねー。あの筋肉、男としては少し憧れるけれど……なんだろう、ボクサーのよく引きしまった筋肉のほうが個人的には……スバルさんなんかそういう筋肉だから着痩せするし」
「あー、わかるわかる。俺も、さすがに女としてゴリマッチョは勘弁だから、ボクサーみたいな筋肉を目指したいな」
 なんだか筋肉の談義になってしまったな……元の話題はなんだっけ?

「と、ともかく……筋肉のことはどうでも良かった。えーと、あれだよ。俺達はまだまだ、小学生の趣味のレベルを抜け出していないって事だ。プロになるためには、ハチクマンやスバルさんを超えるとまでは行かなくとも、匹敵する実力が無くっちゃいけない」
「俺は将来ポケモンレンジャー……に、なるつもりだけれど。そうなると、あれを目指さなきゃいけないんだよな」
「俺は、ポケモンブリーダー……そうだね。あれを目指さなきゃいけない。まだまだ、将来を考え始めるのは速い時期かもしれないけれど、なんにせよ目標があるってのはいいことさ。やる気が出る」
「来年の大会も、スバルさんや師匠が出場するかもしれないし。その時には、今回よりももっと強くなって、もっと追い詰められるようになりたいもんだな」
「出来るよ。俺達も、俺達のポケモンもまだ成長途中だし。2人で、強くなろうよ……それでさ、漫画とかアニメみたいに、決勝戦で戦ってみたいもんだよね」
「おー、いいねぇ。ライバル同士決勝戦とか、ロマンの塊だな」
 そんな事を話している内に、俺達は医務室にたどり着いた。 
「じゃ、ポケモン預けてくるからちょっと待っていて」
「おう」
 と、会話してから、ポケモンを預ける……のだけれど。

「それでは、お願いします」
 ドアの向こう側ではハチクマンが普通にお願いしちゃっているし。なんかこう、『ファッファッファ!! このハチクマンのポケモンを治療できる栄誉に打ち震えるがよい!!』ぐらい言って欲しいものである。だが、俺がドアに手をかけようとすると……
「我がポケモンを治療する権利、お前らに与えてやろうではないか!!」
 なんか、態度が変わったし。気配で分かったのか、流石悪のカリスマ。
「ドアをまたいで向こうにいる者も、入って来たらどうだ? この肉体美、甘いマスクに酔いしれる権利を与えてやるぞ」
 すごいな、ハチクマンも忍者なのかな?
「む、お前はさっきの少年か!? 残念だったな、我輩が先にポケモンを預けさせてもらったぞ!! 貴様は二番手に甘んじるがよい!! ファーッファッファ!!」
 ハチクマン。さすがプロである……そして、別に気配を消したつもりは無いとは言え、恐らくは防音のドア越しの人間の気配に気付くのだろうか。
「……次こそは、このストライクキッドが勝利するからな!! 絶対だ!!」
 もう、ここは俺もノリをあわせることにする。ストライクキッドなんて名前は今考えたけれどもうそれでいいよね。
「ほう、それは楽しみだ。無敵の我輩を倒すことなど、限られた者にしか出来ぬがな!!」
 それ、無敵って言いません。
「今に見てろ!! ルカリオダンディに同じく、悪は栄えさせないからな!! 首を洗って待っていろ!」
「ふん、敵が多くなってこそ悪のカリスマは燃えるものよ。貴様を倒す日は、悪の帝国の記念日として祝日にしてやろうではないか」
 記念日にしてやるって……そりゃまた斬新な褒め言葉だなぁ……。
「上等だ……だが、そのためにはまずポケモンを回復させてからだ……ジューイさん、お願いします!!」
 なんだか、この無理やり高められたテンションのおかげで、異様に元気な声で俺は職員に声を掛ける。
「了解だ、ストライクキッド。今日はゆっくり休んでくれ……いつかはハチクマンを倒せるようにな」
 ジョーイさんまでもノリノリですか。ハチクマンの影響力のすごさが伺える……俺もだけれど、皆が強迫観念にでも苛まれているかのようにノリを合わせてくれているなぁ……あんまりテレビを見ていないから知らないけれど、ハチクさんがそれだけ人気があるっていう証拠なんだろうなぁ。
 俺としては、普通にハチクさんが来てくれたほうが嬉しかったけれど……。

「お帰り、カズキ……いま、ハチクマンが出て行ったけれど……なんか話してた?」
「少しだけだけれど、会話できたよ」
「サインでも貰っておけばよかったんじゃねーの? きっとプレミアが付くぜ」
「いいよ、そういうのは。ファンでもない人が貰ったら逆に失礼だし」
 キズナが言うような事も考えていないわけではなかったけれど……別に、ハチクさんに名前を覚えてもらったりしても、得するわけじゃない。覚えられるとすれば、自然に強敵の1人として数えられることで覚えてもらえないと意味が無いんだ。
「そっかー。確かに、ギーマさんに対するねーちゃんみたいに、ガチの大ファンに与えたほうが、与える方としても気持ちがいいよなぁ」
「そうそう。俺なんて3ヶ月前まで全然テレビも見ていなかったんだし……でも、今日のでちょっとファンになっちゃったかも」
「えぇ!?」
 キズナは空飛ぶホエルオーでも見るかのような表情で俺を見る。
「いやいやいや、キズナ。リアクションが大げさすぎるから」
 肩をすくめ、大口を開けて。そこまでリアクションをされると俺もどう返せばいいのやら。
「いやだってほら、ジムリーダーとしてポケモンバトルの実力は一級品、映画スターとしても一流だし、さっきの医務室の会話ではファンサービスもきちんと行っていたし……尊敬できる人だなぁって」
「なーるほど。なんにせよ、尊敬できる人が多いってのはいいことだけれど……俺の師匠とかは尊敬されているのだろうかな……」
「してるさ。和菓子の腕が上手いこととか、お茶をたてるのが上手いこととか」
「カズキ……料理関連以外で褒めてあげてくれよ……強いんだぜ、師匠は? ポケモンでも格闘技でも」
「知ってるよ。ポケモン勝負に強い事も、喧嘩に強い事も」
「そっか、なら安心」
「そんなことよりさ。早いところ2人の試合を見に行こうよ。もたもたしていると始まっちゃう」
「そうだな。ねーちゃんも暇しているだろうし」


「お2人さん、お帰り」
 アオイさんは休憩時間の最中、コロモと一緒に湯気の立つコロッケを頬張っている。一つのコロッケを半分こにして食すとか、本当に恋人じゃないか・
「ただいま、ねーちゃん。席取り、ありがとう。これ、紅茶な」
「ただいま。アオイさん、ありがとうございます」
「いいのよ、2人とも。こっちはこっちで飲み物買ってきてもらったんだし」
 会場は、休憩時間の最中に買い物へ行ったり、トイレに行ったりで、人がせわしなく動いていた。試合の感想などを隣の人と話したり、待ち時間を携帯電話を弄って過ごしている人など、様々だ。
 人を観察したり、姉妹の他愛のない話を聞き流したりしながら待つこと十数分。

「さーてさてさて! 大いに盛り上がりを見せたこのセッカ湿原慰霊祭も、この戦いでフィナーレを迎えます! 対戦者は、一人がホワイトフォレストにジムを構える、ホワイトジムリーダー、幸羽オリザ!! 
 彼は、光矢院流忍術という忍術道場の師範の傍ら、ジムリーダーとしても門下生を鍛えており、ポケモンバトルでも忍術でも門下生を鍛えており、人を育てることに余念が無いジムリーダーとして知られております。
 対するは、同じくホワイトフォレストにて、育て屋を営む女性、白森スバル!! 彼女は、なんとオリザさんの手持ちを育てた経験がある他、彼女の育てるポケモンは強くて質がいいことから、一部で人気を得ている育て屋でございます。
 ちなみに、先程インタビューをしてみましたところ、準決勝で戦ったカズキ選手は親子のようなものらしく、そして対戦相手のオリザさんですが……なんと、対戦相手と恋人同士と答えたそうです。いやはや、それが事実ならば燃える対戦ですね。というか、身内だけで盛り上がりすぎだ!
 さて、アケビさん。選手紹介もこの辺にして今回の戦い、どういったところが見所でしょうか」
「そうですね。オリザ選手が使う、毒ガスをばら撒いてからルカリオを出す戦法ですが、これ自体はとてもよく出来た戦法だと思われます。しかし、風を伴う技に対して非常に弱いのが珠に傷で、凍える風などでも簡単に取り除かれてしまうのが大きな弱点であると思われます。
 恐らく、熱風や銀色、怪しい風、吹き飛ばしや霧払いなど、多くの技で無効化されてしまう事を考えると、実用するには相手の編成を良く見ることが求められますね。逆に言えば、相手の選出を縛れるというメリットがあるとも言えます」
「つまり、飛行タイプにはもう何も出来ない戦法と言うことになりますね」
「そうですね。ただし、そういう相手には使わなければいいだけの話です。あのマタドガス、ショウキは普通に戦っても強いので、使いどころを誤らなければ何の問題もありませんし、ジムリーダーとしての実力があればそこらへんは問題ないでしょう。
 そして、スバルさんのほうですが……彼女の戦い方は実に変幻自在ですね。強い相手と戦った3回戦では、強力な技である竜星群やオーバーヒートによって失った攻撃力を黒い霧で戻しています。この戦法自体は昔からあるものですが、そのタイミングのいやらしいこと。
 その他エルフーンの挑発も、サザンドラの超火力も、取り立てて目立った特長ではないのですが、基本に忠実かつ的確。それが、彼女の何よりの強みでしょう」
「なるほど。スバル選手はお手本のような戦い方というわけですね。ありがとうございます」
 ……加えて、とてもSっ気の強い人なんです、はい。さすがにそこまでは実況されないようだけれど。
「ではでは、そろそろ試合開始の時間も近づいてまいりました。ここは大人しく審判のコールを待ちましょう」

「なぁ、カズキ。お前はどっちを応援する?」
「もちろん、母さんを優先的に。でも、どっちも応援するよ」
「そうか。じゃあ俺は師匠を優先的に応援するよ。ねーちゃんは?」
「私はどちらにもかなりお世話になっているからなぁ……コロモの事も、将来の就職先の事もあるし……中立ってことで」
 キズナに尋ねられたアオイさんは、困った顔をしてそう答える。そういえば、アオイさんはコロモをオリザさんから貰って、今はスバルさんにポケモンブリーダーとしての講釈を受けているんだっけ。そうなると確かに、アオイさんはどちらを応援するか悩みそうだ。
 ともかく、誰にどうやって応援されようとも、戦うのはスバルさんやオリザさんなのだ。だから、俺達は見守るのみ……さあて、どんな結果になるのやら。

 ◇

 あーあ、ご主人ってば、ものすごく動揺しているし。負けたらなんか罰ゲームのような事をさせられる風な事をいっていたし、色々気がかりなのはわかるけれどさぁ。僕が育て屋にいた頃から、スバルさんは何かと変人だったし、ご主人もよからぬ想像をしているのかもしれない。
 今回ご主人が選んだのは、ズルズキンのシズル、エンブオーのエンマ、キノガッサのジン、そしてルカリオの僕……今回はジム戦の時と同じような構成を用い、小細工なしでスバルさんを叩きのめす算段らしい。まぁ、上手く行くといいけれどな……
「みんな、頼むぞ……」
 ご主人の声がボールの外から聞こえる。頷いても外に居るご主人へ伝わらないのはやくも承知だけれど、礼儀として僕は頷いた。
「勝負形式はローテーションバトル。交代は体の一部をタッチすることにより認められ、一度交代すると、10秒以内の交代及び交換は認められません。人数は4対4、ポケモンは個別に棄権させることが出来、4体すべてが棄権もしくは戦闘不能になった場合決着といたします。
 また、場に出すポケモンは3体まで。4体目は、控えとしてボールの中へ待機していただきます。交換は、待機中のポケモンとのみ行えます。それでは両者、試合開始!!」

 最初に出されたのは……僕以外! 切り札ってことで評価されているのかな、うん。そして、相手の方はと言えば……アイアントのユウキ君、シャンデラのサイファー君、エルフーンのケセラン君。あの中に女の子はいないのかぁ。
 さて、この組み合わせで出せるポケモンは……
「エンマ、お前だ!」
 ご主人はエンブオーのエンマを出す。アイアントやエルフーンが相手なら効果抜群。シャンデラ相手なら、メインウェポンのひとつが効果はいまひとつ……悪くはない。
「サイファー、行けるな?」
 相手は、シャンデラを出してくる。お互い、メインウェポンは使いにくいが……どちらも相手の弱点を突く技は使えるが、さて……

「サイコキネシスだ」
『クヒヒ、了解ですぜご主人』
「ストーンエッジ!!」
『おう、行ってくるぜぇ!!』
「相手のストーンエッジに気をつけろ。一発目はひきつけるか、相手が技を放ってから放つんだ。それ以外でも、ころあいを見て命令する」
 サイファーは待ちの戦法を命じられる。それにより、エンマはうかつに攻められない状況になり、お互い近づく事が出来ずに膠着する。
「にらめっこは飽きたな。最高の瞑想を頼む」
 この状況を打破すべく動き出したのは、スバルさん。
「む、ストーンエッジだ!」
 ご主人はさせてなるものかと、エンマに改めて岩の刃を繰り出す命令を下す。サイファーは、燭台の腕を前に突き出し、防御の姿勢。ストーンエッジを腕で払おうとすると結構なダメージを受けてしまい、攻撃にも支障が出てしまうが……シャンデラは僕たちみたいに物理攻撃が主体じゃないからそれでも問題が無いというのが恐ろし……ん?
『危ない、エンマ!!』
 何か、サイファー君から明確な殺意が。距離が離れて感知しづらかったけれど……遅かった。
『ぬおっ』
 エンマの体が浮き上がり、空中に投げ出される。そのまま、自由落下をはるかに超える加速度で地面に叩きつけられた。効果は抜群、その上受身も取れず、一撃であった。対して、サイファーはといえばストーンエッジを腕で受け止め、軽傷でそれをやり過ごす。
「最 高 のサイコキネシスだったな。サイファー下がっていつでも交代できるようにしておけ」
 またあの駄洒落か。命令を偽るなんて小細工、何度も何度もよく使うなぁ、あの人は。
『クヒヒ、そりゃもう一撃必殺でさぁ……』
 得意げな顔を前面に押し出してスバルさんが笑う。サイファーの笑い声がむかつくなぁ、うんむかつく。
「……また、それですか」
 あー、なんかキズナちゃんにも似たようなことやっていたなぁ。ともかく、先制されちゃったわけだけれど……これは僕の出番かな?

「エンブオー、戦闘不能。オリザ選手は新しいポケモンに交換してください」
「くっ……一撃でやられてしまっては、ローテーションバトルが成立しませんね」
「それはお前の責任だ、オリザ。ポケモンはきちんと鍛えておけよ」
「返す言葉もありません。シズル、行ってください。クイナはスタンバイ」
 スバルさん口が悪い。そして、シズルが2番手か……
『了解よ、ご主人』
 シズルが意気込んで前に出る。
「ほう、シズルか。ケセランに交代して、コットンガード」
『了解ご主人』
 スバルさんの命令に合わせて、サイファーはエルフーンのケセランと交代して控えに戻る。

「挑発するんだ、シズル」!!」
『かしこまったわ』
 さて、ご主人の命令は挑発……エルフーンにコットンガードなんてされたら、物理一辺倒なシズルはそれこそ手が出せなくなるけれど……さて、どうなることやら?
『いつ見ても可愛いわねぇ、ケセランちゃん』
『んー、そう? うれしーなー』
『うん、私がお化粧してあげる!』
 走り寄ったシズルはそう言って酸の混じったを吐き出す。うわぁ、あれはむかつく……。きちんとコットンガードを積んで防御力を増したケセランだけれど、コットンガードはこういう挑発に対して我慢強くなるわけではない。
『あん?』
 それは正に、悪タイプのシズルも顔負けの凄みである。本当にエルフーンかあいつ……
「シズル、なし崩し!」
 なるほど、そういうことか。主人の命令に答えるように、シズルはケセランの顔についた2本の角を掴んで持ち上げ、バックステップで下がりながら、ひたすら頭突き。相手もギガドレインで対抗するが、なし崩しの技によりコットンガードの効果は皆無。綿が覆っていない顔面をひたすら頭突きされているのだから当然だ。
「血で頭が冷えたか……毒々だ」
 何度も何度も頭突きをくらっているうちに、額が割れたケセランは血に塗れており、朦朧とした視線を揺らしている。
『くそっ……』
 頭に血が上っていたケセランは、毒づきながら口の中に毒をため、吐き出そうとするのだが、その前にシズルは角から右手を離し、平手打ちを男の弱点にヒットする。うわぁ、痛そう……
『ケセランちゃんの男の子の証は、かわいいのねぇ。小さくって、初めての女の子にも優しい初心者向けのイチモツ……思わず触ってしまったわ』
 そして、その男の子の証を踏みにじる。あの、シズル……今後交尾する機会があっても僕には……同じ事しないでね? というか、その言葉本当に傷つくからやめたげてよお!
『ケセラン君。このまま戦い続ける? このまま愛してあげてもいいのよ?』
 僕は同じ状況になるのは切実にご遠慮願います。それでもってケセランは……
「エルフーン、戦意喪失。スバル選手は新しいポケモンに交換してください」
 まぁ、そうなるよね、うん。僕もあそこを掴まれたら抵抗する気になれないよ……。

「ほーう、オリザ。シズルになし崩しを覚えさせたのか……このときのためにわざわざ覚えたのか」
「まぁ、貴方の一番厄介な手持ちですし」
「ふふ、厄介と思ってくれるのは嬉しいことだ……では。私も控えを出すとするか……」
 そう言ってスバルさんが繰り出したのは、ふじこ……破壊光線が強力なポリゴンZだ。ジュエルを装備しているところを見ると、破壊光線一択で攻めるわけではないようだけれど……。
「では、ふじこ。お前が3番手だ。破壊しろ」
「クイナ。お前が行け」
 そんな殺生な。ふじこの破壊光線は、鋼タイプを持っていても死ぬほど痛いんだけれどな……でも、誰かがこれをやらなきゃならないのなら……
「ガウッ!」
 結局やるしかない。インファイト……決めてやる。
「よし、インファイトだ」
「守れ」
 む……ふじこは守るのか。ならば接近するだけして、気合いパンチの準備をして、守るが途切れた瞬間に……
「逃げろクイナ!」
「おっと、追うなよふじこ!」
 ご主人からの命令を聞いて、僕は跳ねるように後ろへ飛ぶ。追うな、とスバルさんが言っている以上、何かあるのだろうか。
「すまんクイナ……なんか、得体の知れない怖さをかんじたもので……」
 ご主人が持つ忍者の勘がそう言っているのならば仕方ない。さて、次はどうすれば……
「ふむ、ならばこちらは……サイコキネシス」
「神速だクイナ」
 了解、ご主人。と、僕は意気揚々と走り出すのだが、サイコキネシスを喰らって足がもつれた僕は神速で躓いて滑り込んでしまう。
「サイファーに交代、からの火炎放射」
 くっ……ふじこは最小限の力で、足にサイコキネシスを放ったんだ。出力さえ弱ければ少ない時間で発動させることも出来るし、僕自身が素早く動いているから、転ぶだけでもダメージが……しかも、相手は手を伸ばせば届く位置に仲間が控えていた。
 腕を伸ばして反射的に跳ね置きるが、その前に炎が届いて背中が焼かれる。手に波導の骨を出現させて突くも、背中の痛みが気になった腑抜けた一撃で、いなされた上に側面に回りこまれて炎を放たれる。何とか伏せて避けようとしたが、相手は地面を狙っていて、伏せようとした体を無理やり起こして跳び退く。
 酷い体勢から跳んだ僕は、手の平から着地してすぐさま体勢を立て直そうと体を捻りながら足を後ろに投げ出し、サイファーと正対する。この火傷じゃもう物理技は使えないな……相手はまだいつでも交代できる位置にいるけれど……。
「サイファー、サイコキネシス」
「クイナ、悪の波導で牽制して中央にもどれ」
『了解、ご主人』
 吠えることでご主人に答え、僕は悪の波導を放とうとするが、その前にサイコキネシスで引き寄せられつつ地面を引きずられる。痛い……けれどサイコキネシスを始めとする特殊技は一発の威力が高い分、連続使用は出来ない。今、その隙をついてやれば……!
「ふじこと交代してサイコキネシスだ、サイファー」
 あぁ……その手があったか。僕は地面の土を掴んで投げる。苦し紛れの一撃だったが、それが上手く相手の目にヒットする。しかし、僕はもうそれに追撃する余裕も残されておらず、神速で逃げる。
 苦し紛れに波導弾を放って逃げるが、ふじこは正確に軌道を読み取り、冷凍ビームでそれを撃ち落す。ロックオンでもしてるのか……?

「防戦一方だな、オリザ。あまり逃げていても、活路は開けんぞ」
「確かにそうかもしれませんが……クイナ、ジンと交代」
 ごめんなさい、何も出来ませんでした……
「ほう、キノガッサか。怖い怖い。ふじこ、ロックオンからの破壊光線だ」
 まずい……相手はバトルフィールドの端っこにいるから、マッハパンチでも攻撃が届く前に破壊光線を撃たれる可能性が高い。ここは……ご主人はどうするつもりだろう?

「ジン、マッハパンチのあと、そのまま押し倒せ」
「ほう、構うな。ゼロ距離でぶっ放せ」
 ちょ、ご主人もスバルさんも、指示が怖い。ご主人からの命令どおりジンは捨て身でふじこに飛び掛る。それを避けることなくわざわざ受けて立ったふじこは、体を斜め前に倒して押し倒されないように踏ん張りつつ、破壊光線を放つ。
 ジンの拳が破壊光線を放ったふじこの頬りめり込み、破壊光線は逸らされたが……残念なことに、ふじこの首は可動限界が無いからくるくる回ってしまう。首で固定されていない顔面を殴っても、あんまりダメージはないんだ……そして悲しいことに、ポリゴンZってバグ対策が素晴らしいから、ちょっと頭を揺さぶられたくらいじゃ脳震盪を起こしにくいんだ。
「おっとと」
 スバルさんその他がなぎ払われた極太の光線をかがんで避け、一回転した首が再びジンを捉える。観客席から悲鳴が上がっているなぁ……まぁ、死にはしないだろう。
「おおっと、これは危ない!! お客様の皆さんは流れ弾にご注意ください。」
 実況、遅いよ!! まぁ、あれだけ高速でなぎ払われているから、命中しても多分当たったところが赤くなるくらいで済むこと思うけれど。そんなことより、破壊光線を浴びた顔面を押さえて蹲っているジンは、再度狙いを定めたふじこに破壊光線を当てられて吹っ飛んだ。
 破壊光線の最後に、大きな破裂音と共にノーマルのエネルギーの塊が投げられ、破壊光線が終わる。それをくらってなおジンは何とか立ち上がったけれど……攻撃、これ以上いけるか? 反動で相手が動けない間に……。
「ナイスキャッチだ、サイファー」
 と、思ったら。破壊光線の反動で後ろに飛んだふじこを、サイファーがきっちりと抱きしめている。あ、積んだ……
「火炎放射だ、サイファー!!」
 効果は抜群……耐えられるわけがなかった。

「キノガッサ、戦闘不能。オリザさんは次のポケモンに交代してください」
 サイファーもふじこも結構なダメージを食らってはいるが、まだユウキは無傷。あと、観客席にけが人が少々……それはいいとして、僕は火傷を負って満身創痍。シズルもケセランからギガドレインをくらいまくったおかげでかなり体力を消耗している。
 潮時か……。

 ◇

「セッカ湿原慰霊祭、決勝戦! お互い文句なしのつわものがぶつかるこの激戦を制したのは、シラモリスバル選手だ! エルフーンのケセランをやられはしたものの、その後は一方的な試合展開!! ペースを握られ続けたオリザ選手から、降参の言葉を引きずり出すまでそう長い時間は掛かりませんでした!
 今、2人のポケモンがボールの中に収納されてゆきます。皆さん、この大会を盛り上げてくれた2人の勇士に、改めて盛大な拍手をお願いします!」

 実況の呼びかけに応じて盛大な拍手が撒き起こる。どちらが申し合わせるでもなく礼をして、それから2人は同じ出入り口から共に姿を消してゆく。程なくして、拍手が鳴り止んだ……ここから先は表彰式か。表彰されるのは3位までだから、俺には関係のないことだな……
「スバルさんはやっぱりすごいなぁ……カズキ」
 試合の余韻に浸っていると、一足先に余韻から冷めたキズナが俺に話しかけて来る。
「あ、あぁ……オリザさん、俺よりもずっと強いはずだけれど……ペースを握られちゃうとあそこまで一方的な試合展開になっちゃうものなんだなぁ。考えられないや」
「それを考えると、ペースを握られなかったお前はすごいな……負けはしたけれど、ポケモンがもう少し成長してて強かったら結果も変わっていただろうし……」
「たらればは不毛だけれど……確かに、そうかもしれないね」
 しかし……と、俺はコロモを見る。ふじこの首が回転した際は、すぐさま光の壁を張って主人を守っていた。結局俺達のところには破壊光線は来なかったけれど、アオイさんを守ろうとするときの手の速さは頼もしい子である。

 表彰式は厳かに行われ、スバルさんは俺が望んだとおりにコバルオンとケルディオの木彫り聖剣士と、マスターボールを受け取って凱旋帰還する。
 大会が終わると、仮設のバトルフィールドが撤去された広場で、イッシュ神話に関わる伝説を語る歌と踊りの準備がなされている。今日は土曜日……日が暮れるまでは祭りの雰囲気が続いて、明日、日曜日には大体の観光客が帰ってゆく。
 俺達もそれに合わせて、今日はお祭りの雰囲気をたっぷり楽しむつもりである。

「ぐるぐる別れて ぐるぐる混ざって まわるまわる まわってねじれて はじけた絵の具大空に舞って 地面に落ちて絵が出来た 白も黒も綺麗に混ざる 調和の取れたゼブライカ 太陽が照らし 雲は踊って ミゾレが歌い宴する
 朝も夜も、混ざり 全てが許される 同じ空の下で 争い血を流すよりも 手を取り合い楽しもう 踊れよ踊れよ二匹のドラゴン」
 100円で売られている極薄の白黒ポンチョを纏い、俺達4人は手拍子を打って踊る。アオイさんは踊る事が出来ないので見学である。今はスピーカーから音楽が流れているからいいが、昔は奏者が一日中エンドレスリピートしていたそうだ……過労死するんじゃなかろうか。そもそも指が凍傷になるんじゃなかろうか。

 この歌は聖剣士ではなくレシラムとゼクロム。そしてキュレムが作ったとされる世界の成り立ちを歌う歌。ゼブライカは地肌が灰色で、その上に白と黒の体毛が折り重なっている。それは3種のドラゴンが作り上げた超獣としてこの世に生を受け、それはどんどん大きくなって、イッシュ地方そのものとなるくらいの巨大な獣となったそうだ。
 そのゼブライカが倒れたとき、体毛から次々とポケモンが生まれたのだとか。大抵は白と黒、どちらからでも生まれるが、バルジーナやエルフーン。ランクルスやゴチルゼルなど、一部のポケモンは白か黒、どちらかの体毛からしか生まれなかったポケモンであるという。

「楔で混ざって楔で別れてミゾレは雲と太陽に 真実・理想共に手をとり歩め歩めよ違う道 一つが別れ世界が広がる違う道でも同じ空 灰色の肌に映える白い真実黒い理想をもって 理性と欲求が、一つに混ざる時 道よ混ざり合え2匹のドラゴン」
 その上で、ホワイトキュレムとブラックキュレムから別れたレシラムとゼクロムは違う道を歩み始める。理性で以って『こうあるべき』と自分を律し、現実を見据え確実に世界に安寧をもたらす白い真実。欲求で以って『こうありたい』と周りを作り変え、高みを見据えて世界を発展へ導く黒い理想。
 2つは別の方法から世界を変えようと模索し、幾度となく口喧嘩をしたが、違う道でも同じ空という歌詞にあるとおり、『2人とも良い世界を作ろうとしていることには違いない』のだからと、共に相手を許しあったという。やがて2匹のドラゴンは、数を増やすことで自分たちよりもはるかに強大な力を持つにいたった人間達に地上を任せ(その頃の人間というのはこの大陸の先住民らしい)、自身は眠りについたという。
 そこから先は、レシラムとゼクロムが人間達の総大将として活躍する戦争や、今回の祭りにおける慰霊の対象である『防人、アオ』のような顛末になるわけである。この歌に語られる時代では、聖剣士達も人間と非常に仲が良く、一緒に酒を飲み交わす仲であったという。
 真偽は定かではないものの、野生のポケモンとそんな風に振る舞える時代があったというのは良いことだ。そんな事を言っている俺自身、野生のビリジオンにノミ取り用の薬を使ってあげたりしているわけだけれど……酒を飲めるようになったら、ポケモンと一緒に酒を飲むなんて事もしてみたいなぁ。

 手拍子を打ちながら、そんな事を考えて、4人で作ったサークルを何周もぐるぐると回っていると、流石に体が熱くなって汗だくになってくる。ただ、最初に音をあげたやつが、コーラを一杯一気飲みというチャレンジをさせられるために、皆必死だった。
 結局、俺が一番最初に音をあげて、炭酸が利いた冷え冷えのコーラを一気飲み。体の中で泡がはじける感覚に悶えながら、僅かながらに口から泡を吐く醜態をさらすことになった。そんな様子を全員で笑いあったりしながら、夜は更けていった。


「そうだ、カズキ。渡し忘れていたものがある」
「ん、何?」
「木彫りの聖剣士はもう宅配便で発送してしまったが……こっちはまだ渡していなかった。いつでも使うといい……なんなら、今からセッカ湿原まで行っても構わんぞ?」
 そう言ってスバルさんが渡してきたのは、マスターボール。まだ箱の中に厳重に封印された、あらゆるポケモンを確実に捕まえることが出来るという究極のボールである。軍隊など、個人での運用が法規制される100レベルをはるかに上回る170レベルまでは確定で捕獲保障という、物騒なまでの折り紙つきだ。
 観測史上最高のアルセウスは500レベルを超えて測定不能らしいけれど、一体どんな化け物なんだろう?
「うわぁ……そういえば、これも景品だったねぇ……本当にいいの、これ? 高級品でしょう?」
「言ったろう? 目標を達成できた以上、お前にご褒美をやらなければならないと。子供は遠慮せずに受け取れ。そして、それで自分が欲しいポケモンを手に入れ、私に追いつけ。それに私はすでに、デボンコーポレーションの御曹司からマスターボールをもらっている。二つあっても。宝の持ち腐れさ」
 ゴツゴツとした手から、俺はそのボールを受け取る。丈夫なケースに入れられているためずっしりとしているが、ボール自体の重量はそんなに変わらないのだという。普通のルートでは手に入らないオーダーメイドのボールを握り締め、俺はゴクリと息を飲む。
「才能のある若い者に、こういうのを任せるのは気が楽でいい。私だと、ヘタな相手に使うとなんだか後悔しそうでな」
「俺だって、ヘタな相手に使ったらきっと後悔するよ……」
「いいんだよ。若い時には、しない後悔よりもした後悔を一杯積んでおけ。いろんなことに挑戦したほうが、経験も増えるぞ」
「なんにせよ、慎重に使うことにするよ、母さん」
「そうしておけ、我が子よ」
 俺がスバルさんの事を『母さん』と呼ぶと、『我が子よ』と返して微笑んでくれた。最初は恥ずかしがっていたようだけれど、今はもうすっかり慣れてしまったこと、そして俺を子供だと認めてくれたことが、胸を突くような嬉しさだ。
 封をされたケースの中身をきちんと確認した俺は、再びそれを固く閉じて旅行かばんの中にしまう。明日からは、これのマスターボールをお守り代わりに持ち歩こうかな?

 キズナとのデートの約束まで少し時間もあるし、携帯電話に日記の下書きをメモしておくかな。

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セッカシティで過ごした日々は忙しかったけれど、とても楽しい4日間であった。
大会では準決勝まで勝ち抜いて、母さんに負けて終了……しかしながら、母さんの手持ちを2匹まで削ることは出来、そのおかげで母さんに俺の力を認めてもらったし、抱きしめてもらえたりもした。柔軟剤とかを使うような人ではないし、分厚い防寒具に阻まれて感触も匂いもまともにしなかったけれど、抱きしめてもらった時の圧迫感、あれは嬉しかったなぁ。

キズナとも、観光地を歩いてデート気分を味わったりとかも楽しかったし、ポケモンたちと初めて見る雪ではしゃぎまわったりなんかして、文字にするよりもずっと充実した日々であったと思う。
反省点は、勝った試合も負けた試合にもたくさんある。それについてはまた後でかくとして、今はこの嬉しい気持ちを素直に表現したいと思う。

取りあえず、俺は幸せ者だー!!



RIGHT:11月25日
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LEFT:

「ところでカズキ」
 キズナと待ち合わせした場所に向かおうと上着を着込む最中に、母さんが俺を呼び止める。
「ん、何?」
「例の決勝戦で勝利した方は敗北した方に何でも命令できるのだが、何を命令したら言いと思う?」
「俺は肩こっていないからいらないけれど、マッサージとか……」
「あ、それいいな。オリザなら力も強いし、満足させてくれそうだ」
 なんか、母さんが言うと不安だけれど、まぁ俺には関係ないしどうでもいいか。




Ring ( 2014/02/28(金) 22:20 )