BCローテーションバトル奮闘記





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第二章:成長編
第四十六話:家族計画は慎重に

10月21日

 あまり知られていないが、ダゲキナゲキとエルフーンは共生関係にある。と、いうのもエルフーンのモコモコしたあの綿は、上質なセルロースで出来ており、人間には理解できないが、メブキジカやバッフロンにとっては甘いらしいのだ(一応、ビリジオンなど聖剣士達にとっても甘いらしい)。
 何言っているのかよくわからねーと思うが、ありのままに説明するとそれら草食のポケモンにとってはエルフーンのモコモコはおやつ代わり。綿あめのようなものなのだという。
 けれど、エルフーンにとってあのモコモコはファッションだとかクッションだとかそんなものでは断じてない。外敵が襲ってきたら、それを後ろに向けて身を守るという、有用な使い方があるのだ。

 実際、あのモコモコに噛みつかせ足り爪を当てさせて、相手が絡まった綿を取ろうともがいている最中に、綿を千切って逃げたりする姿もよく確認されている。すり抜けの特性も、そうして生き残った個体が積み上げてきた遺伝子の賜物なのである。
 戦っても敵わない相手にはそうしてやり過ごし、痺れ粉などをばらまいて対処するエルフーンだが、草食の特性を持つバッフロンやメブキジカにはヤドリギの種も痺れ粉も効かない。だから、普通に考えれば、この二種に捕まったエルフーンはモコモコを根こそぎ喰われるしかないのである。
 そこで登場するのがダゲキとナゲキだ。彼らは、真っ白な胴着を見に纏い、草で作った帯を締めて気を引き締めることで知られるポケモンだ。彼らは格闘タイプのノーマルタイプに対する優位性を活かしてエルフーンを草食の特性のポケモンから守る代わりに、体毛の薄い身体を傷から守るために綿の衣服を纏うのだ。

 そんなエルフーンのセナがやってきて、もう4ヶ月。夏の頃には薄かった背中のモコモコも、冬が近づくにつれだんだんボリュームを増してきているようだ。
 その薄かったモコモコというのは、ムーランドやチョロネコのように自然に抜けていくことで薄くなるだけではなく、原因はうちで飼っているポケモンのもう一人、ダゲキのタイショウのおかげだ。
 もともとは、お祝いのためにセナをゲットしたのだが、捕まえ方が原因だったのか、最初は俺に心を開いてくれなかった。そんな時でも、本能的に味方だと認識できるのか対象に対してだけは落ち着いて接しており、タイショウの服の修理のために綿を分け与えていた
 タイショウは綿を少量つまんで、それをより合わせて糸にする。その糸を、ほつれた胴着と同化させ、繕って穴を塞ぐ。セナを家に迎えるまでは、わざわざ専用の綿を購入していたが、いつでも新鮮な綿が手に入る今の状況を、タイショウは気に入ってくれたようである。
 日中の鍛錬を終えると、その過程で傷ついた部分を、夜な夜な修繕する。セナと暮らすうちにそんな習慣が出来てゆく。

 ダゲキやナゲキは、上手く胴着を作られない子供に対して胴着を作ってあげる習性があるらしいが((『良い子のポケモン図鑑(ひとがた)』より))、その習性の賜物なのだろうか……今日は、数日前に進化したコジョンドのアサヒに対して、一週間かけての進化祝いのお披露目となった。人間と暮らしているうちに、記念やお祝いという概念も覚えたのだろうか、進化したアサヒに対して専用の胴着を作ってあげたのである。
 セイイチにプレゼントしないのはアレだ……男女格差だと思う。まぁ、タイショウは雄だから仕方ないよね。
 着せてもらった胴着を、鬱陶しいと思いながらもまんざらではないのか、開いた胸元を気にしながらアサヒは照れた顔をしていた。それを作るために体を張ったセナと、腕を振るったタイショウは満足げに微笑んでいる。

「ほら、アサヒ。これが今のお前の姿だぞ?」
 みんなが幸せそうな表情になる中、鏡を持ってきてアサヒ自身にもわかりやすく披露目を。服を着ないポケモンにはピンと来ないかもしれないが、人間の俺にとってみれば、アサヒの姿は妙に似合っているように思える。それがポケモンにはどう映るのかわからないけれど、タイショウのためにも喜んでくれるといいな。
 そんな事を思っていたら、アサヒは角度を変えながら自分の姿を確認し、飛び出た尻尾をぴょこぴょこと動かしたりしながら、自分の姿を確認している。
「うわ、すっごい可愛い……」
「本当ね……進化しても可愛いポケモンってのはやっぱりいいわー」
 俺もねーちゃんも、そのアサヒの仕草には悩殺される。いつもは可愛いものにあんまり興味のない俺だけれど、こういう初々しい仕草ともなると別物だって思う。そんな俺達の反応に気付いたのだろう、アサヒは手首を合わせておねだりのポーズをする。
 手首から垂れ下がった鞭のような体毛が細かに揺れた。胴着の凛々しさとコジョンドの可愛さが見事にマッチして思わず抱きしめてあげたくなる気分だ。しかし、その気持ちをぐっと堪えて、この可愛さをねーちゃんと共有しなければ……。
「ちょっと、キズナ。写真とらなきゃ」
「あ、そうだな……携帯のカメラを使うよ」
 セイイチが進化したときも写真は一応とったが、これは桁違いの可愛らしさだ。アサヒはノリノリでポーズをとってくれるし、お洒落が好きみたいだし……うーん。戦闘では見られない一面が、こんなところで開花するとは。これは嬉しい誤算だった。
 その後、俺達は気が済むまでキャーキャーとはしゃぎながら撮影を続けていた。たまには女の子らしいのもいいか?


「と言うわけでな……俺ら年甲斐もなく興奮しちまったよ」
 その夜、俺はカズキに近況を報告する。タイショウがあんな風に胴着をプレゼントするだなんて思っていなかったから嬉しいのなんのって。それを電話で報告すると、カズキも嬉しそうな声色で相槌を打ってくれた。
『へー、タイショウが作ってた胴着、アサヒちゃんはきちんと受け取ったんだー。っていうか、年甲斐もなくってキズナは小学生でしょ』
「細かいことは気にすんなってカズキ。それよりも、アサヒったら嬉しそうでさー」
『ふふ、そうなったらアサヒちゃんも大人の女だね。出産の時は是非ウチの育て屋利用してねー』
「え……」
 いやまて、今カズキが変なこと言わなかったか?
「おいおいおい、カズキ? 出産ってなんだよ!?」
「ちょ、キズナ……あんたこそ何の話をしてるのよ!? カズキ君とアサヒの話をしているんじゃなかったの? まさかカズキ君とそこまで進んでるわけじゃないでしょうね」
「ねーちゃん、アサヒとタイショウの話に決まってるだろ? 心配するなよ……ってか、俺は獣か!!」
 まったく、2人の話に水を刺さないでくれよなねーちゃんは……。いや、今回は俺も悪かったか……話の内容が内容だし。
「あー、すまん、カズキ。説明を頼む」
『うん、ダゲキはね……雄しか存在しない種族だっていうのは知っているよね?』
「お、おう」
『だから、同種の雌に対して求愛を行うということができないからね……求愛の方法は、例えば食料を渡すとかなんだけれど……それだと食料が豊富だったり、もしくは狩りが上手い雌に対しては意味がなくなっちゃうわけだ。
 同様に、人の管理下にあるポケモン。君の手持ちもそうだけれど、飼われていれば大抵は餌の心配がないからね……そうなると食料を渡してもあんまり意味がないことになる。だから、身を守る手段として胴着をプレゼントにするんだ……闘いを営むトレーナーの元に育っているならばね。だから、胴着を渡すのは求愛だし、それを受け取ると言うことはアサヒもきちんと意味がわかっているっていうこと。
 要するにね。タイショウとアサヒは放っておくと子供を作るよ。アサヒちゃんとタイショウは。子育てできる環境はある? ポケモンセンターに行けば、交尾用のファミリーボールっていう8匹まで入れるボールがあるし、うちのp育て屋を利用してもいいけれど……』
 急に、カズキの声がまじめになった。
「ってー事はアレか? セックスするのか?」
「ちょ、キズナ……カズキ君相手にそこまでストレートな言葉は……相手男の子よ?」
「うっせー、俺も男みたいなもんだろ?」
「ぶっちゃけすぎ……アンタは。その通りなんだけれどさ」
 いやまぁ、確かに俺も性別は女の子なんだけれどさー……乙女ではいたくないというかなんというか。うん、俺は俺だ、体は女でも心は男なんだから、喋り方も男同士で話すつもりでいいじゃないか。
『え、えーと……いいかな。とりあえず、逆に子供が出来るのを防ぎたかったら、それ用の薬や避妊法があるからね。ポケモンセンターに相談するのもいいし、そのまま産ませるならウチでもいいし……薬はうちでは処方できないから、かならずポケセンでね。ポケモンの体質と蚊と相談して処方してくれるから。
 残りの手段としては、異性のポケモン同士の隔離っていうのもある。ジムリーダーの手持ちの性別が偏っているのも、だいたいそのせいなんだ』
「ははぁ……なるほど。いや、でもカズキ。きちんと躾をしておけば交尾なんてしないんじゃ……?」
「あー、もう……これだからキズナは」

 ねーちゃん、盗み聞きは良くないぜ。
『勝手に交尾しちゃいけないなんて教えるのはねぇ……出来ないことはないけれど、ポケモンにそれ用のビデオとかを見せながらやらないと難しい……らしいんだよね。俺はまだやったことがないけれど、スバルさんがそう言ってた。あと、ストレスがかなりたまるから、特に発情期の間は毎日相手しておかないとかなり暴力的になるから気を付けて。相手っていうのはその……まぁ、手とかで射精やオーガズムを促したりとか。それ用のぬいぐるみを与えるって方法もあるけれど、その手段はメスには使えないし、種族によってはそれじゃ満足しないし、何とも言えないなぁ』
「あー……なるほど。と言うかお前、すっかり育て屋って感じだなぁ」
『まだまだ未熟だよ。もっと勉強しなくちゃいけないことはたくさんあるし。母さんには、餌をあげるのが遅いだけでもよく怒られている。これが、お金をもらう仕事になる社会人って大変だよ』
「そっか……ところで、話がそれちゃったけれど……ジムリーダーみたいに性別を偏らせたほうがいいって訳なのか……いまさら、あとの祭りだったな」
『そうだね。トレーナーは結構性別が偏る理由を知らないことが多いから……だから、まぁ。こうなった以上はキズナが納得する方法を選びなよ。セイイチに対して、手でやってるからでやり方はわかっているんでしょ?』
「うん、まぁ……一応。何回か、その……手でしたことはある」
『なら大丈夫。ダゲキは交尾の時間もそんなに長くないし……あとは、アサヒだね。雌の性欲は……うーん。卵子を排卵させない薬、頼めばポケセンで薬が処方されるはずだけれど……なんにせよ副作用には気をつけてよ? 俺は専門的なことはわからないからなんともいえないけれどさ……苦労は、色々あるから。それと、保険適用外だから、お金かかるんだよね……去勢手術なら一応、割引されるけれど』
「わかってる。そこらへんはポケモンを第一に考えるよ。お気使い、ありがとう……」
『へへ、どういたしまして。それより、その写真は取った? 胴着を着たコジョンドっていうの、ちょっと見てみたいんだけれど……可愛い?』
「そりゃ、もちろん可愛いよ。コジョンドが可愛いのは元からだけれどさ。その代わり、服の材料になったセナが結構悲惨で、今は光合成を頑張って綿を回復させようと頑張っているけれどね……完全回復にはもうちょっと時間がかかるよ」
『はは、エルフーンは損な役回りだね、セナは。やっぱり食物連鎖の下位にいる分、色々大変なポケモンだから……』
「でも、みんなと仲良くできているから、俺としちゃ嬉しいよ……誰も仲間はずれにならないってのは、トレーナーとしちゃ楽だし」
『ま、仲良くさせるのは基本中の基本だよ。スバルさんの手持ちも、ギーマさんの手持ちも、個々の単位では仲が悪いこともあるけれど、チームでは一丸だし』
「おたがのろけ話は尽きないな。こりゃ」
『違いないね』
 俺達は2人揃って、軽く笑いあった。
「ともかく、交尾と子作りについてはまじめに考えなきゃいけない問題だし……こっちのほうも色々考えてみることにする」
「もう、突っ込むまい……キズナ達が何を話していようと」
 ねーちゃん、呆れないで欲しい。これ重要な話なんだから。
『うん。何か相談事があったら、ポケモンセンターでも俺でも、何でも聞くからね』
「ありがと。なんとかやってみる……早速、今から話し合ってみるよ」
『ところでさ、キズナ』
「うん、なんだ?」
『姉さんがその場にいたんじゃ、言いたいことも言えないでしょ? だから、俺から……大好きだよ、キズナ。キズナも同じなら、『俺も』って言って』
「ちょ、おま……あぁ、『俺も』」
 なんとまぁ、積極的な。って言いたいところだけれど、俺も積極的なのは似たようなものだからな。なんにせよ、『俺も』の一言だけでねーちゃんに悟られることなく恋心を伝えられたのは良かった。気遣いがありがたい。
『ありがとう。それじゃ、切るよ』
「おう、じゃなー!」
 電話を切る。
「ふぅ……」
「キズナ、あんたねぇ。女同士で話すときはいいけれど、男の子には女の子は下品な話をしないって夢を見せてあげましょうよ……」
「いや、俺はもう男だから……体は、確かに女だけれどさ。だから、女も男も好きになるのは当然だけれど、言動は男でいいんだ」
「開き直ってやがる……まぁ、いいわ」
「そうだよ、これでいいんだ。カズキだって、俺の事を男だと思って接しているしさ……女扱いするのは、体だけでいいから。少なくとも、俺は体が女だからって遠慮しないそういうカズキが俺は好きだし……カズキが『女の子らしくしろ』なんて言ってきたら嫌だぜ、俺。冗談交じりに『女の子らしくしろよー』とかって言うくらいならいいけれどさ」
「ふぅ……貴方が男として生きるの、やっぱり認めたくないわね。貴方、すごく可愛いもの。着せ替え人形にしたいくらいなのに、もったいない」
 ちょっと嬉しそうにねーちゃんが言う。ダメなのか、それとも嬉しいのかはっきりして欲しいものだ。
「アンタには、つくづくカズキ君しかいないのかもね……相応しい相手って者が。だからこそ、女の子として生きて欲しいんだけれど……」
「大丈夫。体は女だよ、ねーちゃん。それじゃダメか? カズキとは、性別関係なく友達だしな。子供作る時だけ女なら問題ないだろ?」
「まぁね。身も蓋もないけれど」
 ねーちゃんが苦笑する。さすがに、直球に言い過ぎたか?
「よくわからないけれど、あんたが幸せそうだし、幸せになれる未来を想像できるから、それでいいわ」
 どうやら、俺とカズキの関係が嬉しいようで、ねーちゃんは呆れながらも笑顔を崩さない。褒めると同時に呆れられているけれど、カズキの事について評価してくれるのは純粋に嬉しい。

「ところで、さっき何を話していたの?」
「あ、あぁ……アサヒとタイショウの話なんだけれどな……」
 カズキから聞かされた話をそのまま伝えると、ねーちゃんも納得した様子で頷いた。
「なるほどね。確かに、ウチもこれ以上ポケモンが増えるのも……コジョンドはあの体毛が邪魔だから介護にも向かないし……」
「だろ? だから、俺も俺なりに性欲を解消させる方法を考えているんだが……」
「か、解消ねぇ……そういうお薬を使うとか?」
「いや、セイイチと同じ方法で……」
「はぁ、セイイチと同じ……? 具体的には」
「いや、手で……ペニスを握って、こう……」
 と、言って手を上下させる。いやまぁ、さすがに恥ずかしいからそんなことをしていたのは黙っていたけれど……
「はぁ……キズナ。女としてどうなのあんたは……ポケモン相手にそんな……初めてはカズキ君にしなさいな」
 うわ、ねーちゃんが呆れてる……さすがに、そうなるよなぁ。というか、最後の一言は余計だ!
「い、いいじゃないか。俺男だし、それくらい問題ねーから!」
「いや、男同士というのもそれはそれで問題かな……いや、うーん。もうわけわからん。男同士でも女同士でも多分問題よ」
「ど、どっちでもよくねーか? それに、男を満足させるのは女の仕事だろ? ポケモンにとってはもためや言動よりもきっと匂いとかの方が大事だし、たぶん俺の波導はきっちり女だろうからさ。ルカリオにはむしろ女である俺が……」
「その通りなんだけれど、何か間違っている気がしてならないわね……あー、でもややこしいからもういいわ。手でやっているなら、粘膜には触れないからあんまり感染症の心配もないだろうし、アンタならポケモンが興奮しても大丈夫でしょ。背負い投げ一本でぶっ飛ばしそうな強さだし……あ、ルカリオは背負い投げすると刺さるか」
「なんか引っかかる言い方だなぁ……」
「こっちは引っかかるどころか胸に十字架が刺さっているくらいの状態よ!! あんたはもう、女として……はぁ、もったいない」
「だけどねーちゃん。ねーちゃんも他人事じゃないぜ? クラインとコロモは卵グループ同じ異性なんだからさぁ……今後絶対同じ問題に悩まされるぞ? 具体的にはハロウィンの時はゴーストタイプってかなり……性欲が高まるし。コロモも誘惑されたら男の欲求にあらがえねーぞ? 人間と違って、ポケモンは自制は難しいんだ」
「うっ」
 お、ねーちゃんが動揺した。ちょっと攻めてみるか?
「ねーちゃんの体がきついって言うんなら、俺も手伝えることは手伝うけれどさ……でも、コロモもクラインもねーちゃんのポケモンだし、そこは自分がしっかりとしなきゃ……ポケモンによっては自慰を覚えさせて性欲を自己解消させるのも一つの手だし。セイイチも自分ですることを覚えてからは楽になったぞ? 覚えさせるのに苦労したし、人前でやらないようにしつけるのは大変だったが……」
「いや、まぁ……そうよね。なんてこと教えているのよキズナ」
「いやいや、必要なことを教えてるに過ぎないぜ、ねーちゃん」
「っていうか、野生のポケモンを相手にさせるのは無理かしら? この辺の畑には、よく作物を狙ったポケモンが現れるし」
「そ、それは……いや、カズキは出来るんだけれどな。ルカリオはこの辺には生息しないポケモンだろ? 育て屋じゃ、母親と同じ種のポケモンが生まれるのが普通だけれど、野生だとストレスとかの関係で父親側の種族が生まれることがあるんだ。そうやって生まれたルカリオが生態系を破壊したいとも限らないから……一応、タイショウなら同じ手段が使え……そうか、セイイチ以外ならそういう手もアリなのか」
「うーん……難儀なものねぇ」
「ともかく、その時になったら……いや、その時が来ないように薬を処方するなり、ポケモン達に真っ向うから向き合うなり、方法はいくらでもあるはずだぜ? カズキから貰った、『家畜用のポケモンの人工授精のための手引き』の写しとかもあるから、見せて欲しかったら言ってくれよな」
「用意がいいのね……ってか、そんなのあるんだ。家畜って、ケンタロスとか?」
「モココとか、ギャロップとかもね……事細かに書いてあるもんだから耳が熱くなったよ……ともかく、アレだ。ゴンゲンをもらったあの日に進化してからというもの……ルカリオは進化したばかりは特に性欲が強いらしいから……妙にソワソワして、俺を含む雌に抱きついたり、匂いをかいでたりしてたから……仕方なく学ばざるを得なかったんだ。胸の棘が刺さるかと思ったぜ……ルカリオは抱きたくない」
 仕方がなかったんだ。うん、色々と……よく野山に出かけていたから野生のポケモンの交尾は何度か目撃したこともあるし、なんとなくどういうものかはわかっていたけれど。実際にセイイチに抱きつかれたり(棘が刺さらないように気をつけてだけれど)したまま、セイイチが望む事をしてやった時は、生殖器の不思議な感触や生暖かさ、匂いに戸惑ってばかりだ。
 人間を知るよりも先に、触りだけでもポケモンの交尾の仕方を知ってしまった自分、正直俺自身戸惑うところはあるけれど……
「まぁ、いいじゃないか、ネーチャン。将来の練習、花嫁修業みたいなもんだって考えようぜ?」
「それは花嫁って言うよりは花を売る仕事なんじゃないかと……」
 ねーちゃん、インドア派になってから語彙力上がったよなぁ……やっぱり勉強すれば頭いいんじゃないのか?
「ねーちゃん上手いこと言うなぁ!」
「そんなのはどうでもいいから……ね?」
 ねーちゃんはまたため息をつく。そんなにため息ばかりついていると運が逃げてしまいそうな気がするんだけれど。

「取りあえず、キズナ……貴方のポケモンの事は貴方に任せるわ。でも、勢い余って貴方が怪我や病気になったりしたら、私が悲しむからね?」
「大丈夫。俺がねーちゃんを悲しませるわけねーだろ?」
「そうね。貴方はそういう子だわ」
 嬉しそうにねーちゃんが頷いた。しかし、ねーちゃんもどうするんだろうな? 今までもコロモとねーちゃんがキスをしたりとか、そんなのを目撃したこともあったし……まさか、コロモの相手をするのならば満更でもないって事は……ありうるな。まぁ、ねーちゃんのプライバシーの事は詮索しないで置こう。
 誰にだって見られたくない一面の一つや二つあるだろうし。ポケモンが恋人でも構わないだろう、うん。俺だって、こうして男として生きるとか、奇特なことを言っちゃっているわけだし。

 ◇

 実際、私も興味がないわけではなかった。ポケモンだって、恋をして、その結果子供を作ることだってある(恋の結果じゃないことも往々にしてあるけれど)。だからこそ、今回のカズキ君とキズナの赤裸々な2人の会話はちょっと刺激的過ぎた。キズナってば、本当に恥じらい一つなくあんな言葉を平気で吐いているのだから、根性が悪い方向にも座っている。
 ふすま一枚隔てて両親が聞いているかもしれないということに対して、コイツは自覚があるのだろうか(私も無いか)? あったとしても気にしていないのかもしれない。両親は別に、同性愛者だろうと、フィギュアが大好きなオタクだろうと、人の趣味は人それぞれと割り切っているようだから、キズナも安心してああいった台詞を吐けるのかも。現に、キズナが性同一性障害っぽい所があったり、同性愛者でも親は問題視しなかったわけだしね。
 そんな両親であっても、さすがに娘が性にふしだらだったらそれは勘弁というかもしれないが……キズナはアレで、一線を越えるようなことはしないだろう。あの子はポケモンに対して性的な興味は一切ないようだし。

 問題は、私だった。キズナは勉学として、まじめに本を閲覧しているのだろう、カズキ君から渡された冊子を呼んでいるときの妹の表情はうかがい知れなかったが、ポケモンとまじめに向き合っているというのが感じられる。
 私はキズナに凝視されているわけでもないのに、カズキ君から渡された冊子を見るのが躊躇してしまっている。ブーピッグやらバッフロンやら、ケンタロスやら、家畜としてよく使われているポケモンを擬似台に誘導し、雌の匂いをつけたそれに向かって擬似性交をさせる。その際、トレーナーが器具を使う事もあれば、本当にペニスを握り締めて、刺激を与えることで射精を促すという方法もあるそうなのだが、何てことない、読み終わるのに数分もかからない内容だというのに。
 話を聞いてみればキズナは、わざわざ用を足したアサヒやセナの尿の匂いを採取して、興奮させてからセイイチに擬似性交を行わせたと言うのだから頭が下がる。……ポケモンと、真剣に向き合っている。

「私は……」
 自分のポケモンが収納されたボールを見る。コロモが入った、GPS機能付きのボールだ。
「どうしよう、かしらね」
 思わず自嘲気味に笑みがこぼれた。普通の女性なら、恥ずかしくってそんな事出来ないと泣き言を言う場面なのかもしれないけれど……私は少しそれを楽しみにしてしまっている。ついでとばかりに、サーナイトやエルレイドなどが交尾している動画を携帯電話で閲覧してしまったあたり、女として終わっている。その動画の中でで夢中になっている雄のサーナイトに、コロモを当てはめてしまうと、どうしても胸の高鳴りを抑え切れない。
 キズナがカズキに思いを寄せるのと同じように、知らず知らずのうちにコロモに想いを寄せてしまった私は……多分、これが恋をしていると言う感覚なのだろう。コロモは、日常生活で必要になることがあれば、その都度補助してもらっているし、リハビリのために歩く練習をする際も、いつも付き合ってもらっている。
 自分の足で体重を支えられない私の手を優しく握ってもらいながら、細く頼りない体をサイコパワーで支える彼へと体重を預けて歩く感覚はとても安心感がある。なんといったってサーナイトだけあって包容力もあるし……神経痛や生理痛などで腰が痛んで苦しんでいる際は、そっと抱きしめて私を安心させてくれた。今までだって、昨日だってそんな調子だから、きっとこれからもそんな調子だろう。
 これが人間の男だったら、惚れないわけにもいくまい。なにより、入浴の世話も主にコロモに任せているのだから、そこいらの男には許していないところまで晒している事になる。人間の男性との入浴は、いまだに父さんにだって許していないんだ。5歳くらいまでは許していたけれど、さ。
「コロモ……」
 彼の名を呼び、ボールをぎゅっと抱きしめてみる。格闘タイプのジムで育ったせいか、特殊型なのに接近戦が得意な変態サーナイトだけれど、その献身的な性格は図鑑どおりだ。ジムでは選別余りだったこの子が、正直こんなにも愛おしくなるだなんて……馬鹿みたいな話だ。


「ねーちゃん、風呂上がったぞー」
 先程の会話のあとから、私の意識は上の空で、日課であるはずの勉強をしていてもまったく集中が出来ず、ずっと不毛な妄想を続けていた。しかも、その妄想というのが如何わしい動画(といっても人間じゃないからR−18のフィルターはかからないそうだが)から連想されるものだから、口が避けても妄想の内容は口にできない。
「あ、了解キズナ」
 そんな妄想を振り切り、私は平静を装ってキズナに返事をする。
「今日も……よろしく、ね。コロモ」
 自分自身に動揺しながら、ボール越しに声を掛ける。あんな動画を見た後だから、嫌でも意識することばかりで、それがなんだか自分じゃないみたいで、少し怖かった。
 いつものように服を脱がされ、浴場に案内される。もう、ポケモンに脱がされるのも馴れたもので、私の中には恥じらいなんかもほとんどなくなってしまったはずだけれど、今日だけは、あんな妄想をしてしまったせいで、コロモとまともに目を合わせることが難しかった。
 久しぶりのこの恥ずかしい気分にコロモも戸惑っているのだろう、しきりに自身の胸の角を気にしている。それでも壁際に座らせて体を洗える体勢にしてくれたりとか、そういう作業はまったく滞りがないし、コロモ自身が自分で体を洗うのも手慣れたものである。
 スカート状の保温幕をめくり上げ、泡立てたタオルでそれをなぞっていって。もちろん、雄の象徴は自己主張をしていないが、触れようと思えばそう難しくはない……私の視線がそこに集中してしまいそうになるのを堪えるのは、なんだか今日はすごく難しかった。

 お風呂上り。コロモに肩を預けさせてもらいながら、普通に歩けば10秒の道のりを手すりに体重を預けて1分かけて歩く。腕を抱くコロモの腕が、私以上に華奢なのに、サイコパワーで支えているおかげですごく力強い。その手を頼りに歩く道のりは、疲れるけれどもここ最近じゃ幸せな時間帯だ。それを、嫌な顔一つせずに付き合ってくれる衣には頭が下がる思いだ。だというのに、私はよこしまなことばっかり考えていて……恥ずかしいなぁ。というか、コロモに申し訳ない気がする。
 いや、男の子にとってはむしろこんな妄想をしている女のこの方が嬉しいと言うか、都合がいいのかもしれないけれど……コロモが私に対して異性としてまったく興味を示さないというこの温度差には、なんだかいいようのない歯がゆさを感じる。やっぱり、ポケモンは人間には興味ないのかしらね?
 そんな事を考えながら、足よりもむしろ腕で歩いているような足取りを続けていると、ふと頭の上にはコロモの手が乗っかっていた。コロモはそのまま私から手を離してサイコパワーで私を支え、胸元で両手のひらを上に向けてゆっくりとその手を下ろした(安心してよと言ってくれた)
 微笑みながらしたその手話に、真っ白な手で私の頬を撫でる動作まで加えられ、私の心は少し救われたような気がした。
「『安心』……『して』ね。ごめんね、不安になったら、角が不快よね」
 きっと、私の何がどう不安なのか、コロモにはよくわかっていないだろうけれど……それでも、彼は私を安心させようと勤めることは忘れない。
 ま、いっか。漠然とした不安は拭えないけれど……たとえ私がポケモンを真剣に愛した所で、死ぬわけでもあるまい。大丈夫……この子達がいれば大丈夫だ。今日は、神経痛だと嘘をついて、コロモには添い寝してもらおう。コロモには嘘だとばれるだろうけれど、キズナだけでも騙せればそれでいいや。この子に、甘えていたい。
 コロモを肌で、近くに感じながら、ゆっくりと眠りにつきたい。アサヒなんかはむしろそういうのをキズナと好んでやるし、コロモだって嫌がっている様子もないから、問題ないわよね?

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誰かに見られたらちょっと恥ずかしすぎる内容だけれど、親や妹が覗くことはないと信用してここに書くことにする。
キズナから聞いて色々調べたのだけれど、ダゲキは胴着を送ることで雌に求愛する習性を持っているらしい。そして、キズナのタイショウも、アサヒがコジョンドに進化したのを期に、求愛を始めてしまったのだ。
そして、胴着を渡した場合、雌がその気でない場合は胴着の受け取りを拒否するのだけれど、アサヒは満更でもなくその胴着を受け取ってしまった。
つまるところ、アサヒも発情期が訪れれば、最悪子供を作ってしまうというわけだ。
最悪という言い方は、なんというか変だけれど……なんというのか。コジョフーがさらに家族に加わわるのは、あまり良いことではないからね。キズナはすでにアサヒがいるからコジョンドは必要ないし、私も介護用に教育するならあまりコジョンドは好ましくない。あの腕の先から垂れ下がる体毛が結構介護に邪魔だからね。
だから、子供を作らせないためにどうするか、という話である。

キズナは、ポケモンの性欲を、直接解消する方法をとっているらしく……その方法は詳しく書くのはさすがにやめておこう。ただ、キズナはそれをするために、雌のポケモンの匂いを採取するとか、そういう手間までかけている。いや、本当にご苦労なことである。
で、私は同じことがコロモに起こった場合どうするべきなのか。今はわからない。クラインとはタマゴグループが不定形で共通しているし……そうなる可能性は十分あるのだから。その時のために薬を処方してもらうとか。キズナのように自分の手でどうにかするとか、そういう手段も考えておくべきかもしれない。
……それに、コロモが相手なら、悪くない気がするし。あんなにいい子で、あんなに格好いいもの。そう思ったって、仕方がないよね?

ん……待てよ。赤ちゃんからヨマワルを育てて立派な介助ポケモンに育てると言うのもありなのかな?
一応、繁殖用や親子揃ってボールに入れるために複数のポケモンを収納できる『ファミリーボール』なるものもあるらしいけれど……割高なのよね。スバルさんに頼めば、安く仕入れてもらえるかしらね? あの時のポケモンのお礼だとか言って。
いや、でも……サーナイトならともかく、サマヨールってどれくらいの売れ筋なんだろうか?

10月21日
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「あ、そーだ、ねーちゃん」
「なーに?」
 ベッドの中、目を瞑って眠ろうという時に、キズナが話しかけてくる。
「言い忘れていたんだけれどさ……ハロウィンに、ギーマさんが育て屋に遊びに来るってよ。ねーちゃんファンだろ? 前回、祭りの時はまともに話せなかったんだし、挨拶しに行こうぜ」
「ほんとに?」
 心の中でガッツポーズをすると、腕を抱いてもらっているコロモが、私の手をぎゅっと握ってくれた。今の喜んだ感情が気に入ってもらえているようだった。



Ring ( 2013/12/06(金) 21:39 )