第四十話:弱みを握れ!
9月21日
まったく、妹がカズキ君に恋して青春を謳歌しているというのに、私は一体何をやっているのやら……。自分の境遇にはため息が隠せないわ。
夏休みが明けてから陰湿ないじめにあっていた私は、プリントアウトしたいじめの証拠の写真を犯人へ送りつけ、主犯格の4人を人気の無い場所に呼び出した。もちろん、隠し撮りのデータとかはまだ家にあるし、念のためスバルさんにも渡している。
「来たわね……」
閉鎖された屋上へ続く階段。コシがいなかったら、車椅子で来るのは億劫な場所だがら、車いすに憑依してどこにでも連れて行ってくれるコシには感謝してもしきれない。まぁ、どっちにしてもコシがいなかったらそれはそれでコロモに頼むんだけれど。
「あんた……こんなところに呼び出して……何のつもり?」
弱みを握られていながら、盗人猛々しくいじめの主犯格が私を威圧する。
「よく撮れているでしょ? 先生のいないところで罵詈雑言に、私のノートや教科書への執拗な落書き。知ってる? 器物破損って言うのよ、あれ」
いじめは主犯格が主4人。そいつらに目を付けられたくないからと、クラスメイトは私へ行われている事を見てみぬ不利をしている感じ。私としては4人が相手ともなると多勢に無勢……だし、非常に都合が悪いことに、相手にはポケモンバトル部では1年にしてレギュラーを張っているアヤカがいる。ウチの子自慢大会の時にドレディアをけしかけたのもあの女……そりゃ、ドレディアの頭の上に思いっきりゲロを吐いたのは悪かったと思うけれど、ここまで目の敵にされたら、こちらとしても立ち向かうしかない。
理不尽な嫌がらせなんかに、私は絶対に引いてやるもんか。
「あの写真、色んなところに公表されたくなかったら……分かってるわよね? 貴方たちは、今後一切私に手を出さないことくらいは取り合えず、誓ってもらわなくてはいけないわ」
弱気なところを一瞬でも見せたら、返り討ちにあうと思わなきゃ。だから、絶対に目は逸らさない。そんなことを考えていると、目つきも悪くなってしまうのか、相手は3人が私から目をそらしている
「何が望みよ!」
ただ、主犯格のアヤカだけは、私に対して敢然と睨み返してくる。何が望みって、それは貴方が言う事ではない。
「私はね、復讐だとか、そんな事は考えていない。ただ、今後私に一切関わらなければ、どうにもしないわ。ドレディアの件がきっかけなら、私も悪かったと思うし……だからもう、お相子ってことで手打ちにしないかしら? 悪い事は言わないわ……変な要求して、これ以上話がこじれるのはごめんだし。
だけれど、これ以上私に何か働きかけるなら、私は容赦しない。それがどういうことかを、きっちり理解させるつもりよ」
みんなのほうを見る。皆が目を逸らしていた中で、決して目を逸らさないのが、やはりアヤカ。プライドの高さと腕前と、ついでに性格の悪さまで一流だから始末に置けない。そりゃ、ドレディアにあんな事をしたのは悪かったし、きちんと謝れなかったけれど……。
「みんな、返事は? 私が出るとこ出てもいいわけ?」
けれど、引いてやるつもりは一切無い。私が引いたら喰われる、それぐらいの覚悟じゃないと、仕返しの仕返しされかねない。4人中、その他大勢の3人が分かったと頷く。命令口調なのは気に喰わないと思われているのだろうが、それでも分が悪いと悟ったらしい。
「貴方は? アヤカさん。あんたは部活で将来有望な立場なんじゃないの? これを見せれば、貴方の立場も危うくなるわよ」
語気を強めて、私はアヤカを睨みつける。人目には付かないとはいえ、あまり騒げばすぐに人がやってくる場所。この場所で粗相をすることも出来ず、アヤカは歯を食いしばる。
「仕方ないわね。もうしないわよ、アオイ」
と言う。この態度を見るに全く反省していないし……やっぱり、こういう輩は罰を与えないと、後悔すらしないのだろう。優しくしたのは間違いだったかしら? なんにせよこれは、警戒しておかなきゃダメね。ボイスレコーダーもあるし、スバルさんから借りた小型カメラもいつでも起動できるようにしておこう。自分の身は自分で守らなくっちゃ
その日の授業は特に何事も無く過ぎていった。体育だけはもちろん見学になるけれど、これは仕方が無いとして。私は部活も特にないので、そのまま帰ってゆく。田舎道の道は、歩くとものすごい時間がかかるけれど、以前はタイショウに押して走ってもらえたし、今はコシがいてくれるから、意外と高速で行ける。
でこぼこ道も気にしなくていいから、相当風の強い日でもなければノンストップで駆け抜けることだって可能だ。家に帰ったら、宿題と勉強と、手話の勉強会とやることはたくさん。結局、この日は特に何事も無かった。
けれど、警戒は続けなきゃいけなそうだ。
9月28日
「何の用かしら? アヤカさん」
この日、雨の帰り道にアヤカが待ち構えていた。ムクホークの足にぶら下がりながら先回りしたらしい彼女は、ずっと握られていたのだろう、手が少し赤くなっている。スピードの関係もあるのだろう、レインコートを着ていても開いた顔の部分から雨粒が大量に吹き込んでいたおかげで、胸元は濡れているようだ。
「ふふ、虚勢を張るのはよしなさいよ? 今日は人目もないし、雨のおかげでちょっと叫んだくらいじゃ誰も助けてくれないわよ……」
「助けるって、何のことかしら……カヨコさん」
「あんた、喧嘩売ってんの? 私の名前はカヨコとかいう変な名前じゃないわ……アヤカよ」
「喧嘩売るってそんな……それは鏡を見て言いなさいよ。叫んでも助けてくれないとか、それってアニメや漫画で典型的な小悪党が使う言葉じゃないの……イッシュ無双ってゲームでも、そんな言葉を使う悪党がデモシーンにいたわ」
ここは引いちゃいけない。絶対に……
「あーあー、そういう態度取っちゃうんだ。あんた、調子に乗ってると容赦しないわよ?」
「分かったわ。要求は何? 仲直りのための指きりげんまんなら、してあげるわよ?」
……今私が持っているポケモンは、コシと、クラインと、コロモ。対して、アヤカの手持ちは……ウチの子自慢大会の時と同じならば、オノノクス、ドレディア、ムクホーク、ブルンゲル。他にも、フルメンバーだとドサイドン、メブキジカもいるらしい。まぁ、勝てるわけがないのよね……まともにやったら。
「あんたのせいで、ドレディアの花がまだ枯れたままなのよ」
それは自業自得でしょうに、私がドレディアは嫌いって言ったのに、しつこく近づけてくる方が悪い。
「は、それはドレディア嫌いな私に、貴方がドレディアをけしかけたせいでしょ? 私は本気で嫌がったはず……それを逆恨みだなんて、アヤカさんはずいぶんと良いご身分ね。君子危うきに近寄らず。あんたが君子とはほど遠い愚か者だったって話でしょう?」
「あーもう、うざったい。もう、まだるっこしいことは抜き」
私との問答に飽き飽きしたのか、アヤカはポケモンを繰り出した。オノノクス、ブルンゲル、ドレディア……ドサイドンにメブキジカすでにムクホークは場に出ているから、フルメンバーと言うことになる。
見てみると、確かにドレディアの花は茶色くなって枯れている。それを私のせいにされても困るんだけれど……。
「ほら、あんたもポケモンを出しなさいよ」
「なんで? 目があったら勝負を受けなきゃいけない法律はこのイッシュにはないわよ。それより、オノノクスに雌のブルンゲルに、花が枯れたポケモンを出すなんて何を考えているの? 脅しのつもり?」
「私のドレディア……リリィの花が枯れたのは誰のせいだと思っているのよ!?」
アヤカが突っかかる。あんたのせいでしょう、完全に。そもそもあの子は元からストレスが強かったのか、花も最初から萎れていたはず。全面的にアヤカのせいで。
「あんたがけしかけたドレディアのせいで、私が嘔吐しちゃったから、私のせい? 私は本気で嫌がって、ドレディアを拒絶したのにね。ドレディアだって、私の事を感じ取ってか、あまり近寄ろうとしなかったのに、無理やり命令したのは誰かしら?」
私はじっとアヤカを見据えたまま、あえてコシも車椅子の中から出させると、ボールの中に収納した。アヤカのポケモンじゃ、証拠を残さずに私を殺すようなことは不可能……流石にそこまでやるほどの根性を備えているわけはないだろう。
「……ふざけんな」
「これ以上は警察を呼ぶわよ、いいの?」
私がおもむろにポケットに手を突っ込み、携帯電話に手をかける。まぁ、呼ばないけれど。
「余裕ぶってるんじゃねぇ!!」
アヤカってば女性に相応しくない言葉遣いだ。同じ女の子らしくない言葉遣いでもキズナはまだ可愛げがあったけれど、怒ってそういう風になると醜いことこの上ないのね。スバルさんいわく、いじめにポケモンを使うようなやからでも、ポケモンで直接殴りかかれる根性がある奴はそうそういないというから、あいつもまず攻撃してこないと考えるべきだろう。
ブラックシティでは、それくらいの事をするやつもいるが、それは価値観の違いだ。
このアヤカとか言う女も、ホワイトフォレスト出身なだけある。流石に私をポケモンで攻撃するだけの度胸はないようだ……それなら、安心してやられる。私の顔面に、右手での平手打ちが見舞われた。
「殴ったわね? あんた、それがどういう意味か分かっているの?」
と言って、私はアヤカを毅然と睨み返す。
「知らないわよ。持っているポケモンも弱いし、足も使えない役立たずのくせに、堂々としちゃって、むかつくのよ。あの時だって、男子が構うのはあんたの事ばっかり!! 私の事なんて誰も構いやしない」
はたかれる、はたかれる……こいつ、逆恨みなんてレベルじゃない。私はドレディアのせいで車いす生活を強いられているんだ、だから、前触れもなく吐き出すほど、ドレディアの事はトラウマだったんだから。男子が……いや、男子じゃなくとも私を心配するのは当たり前でしょうに。
「それは自業自得でしょう? それで、今回はこんな事を遣って、さらに男子から評判を下げようとしているんだもんね、お笑いだわ」
「五月蝿い!!」
ところで、私も運動不足はいけないからと、泳いだりしているし、他にもきちんとリハビリをしている。父さんが、家の庭に歩きを補助するためのバーを作ってくれたから、私は最近それで歩く練習をしている。と、言っても歩くと言うよりはほとんど腕の力だけで体を支える事になるわけで……
さらに電動じゃない車椅子もまだまだ現役だから、それなりに腕の力や握力は鍛えられているのだ。妹には負けるけれどさ。
左手を伸ばし、ビンタをしようとしている相手の肘辺りへ、私の右手首をぶつける。一気に減速したところを見計らい、私は左手を伸ばして相手の右手首を掴む。
「調子に乗っているのはどっちよ?」
つかんだ多首を握りしめて、相手の握力が弱くなったところで、私は小指を一本握りしめる。
「な……」
「何回もビンタしてくれたわね? このまま、指を折られたい?」
折るつもりはないけれど……小指を握り締めてやったら、顔面を蒼白とさせていた。多分、私もキズナ程じゃないが武術の才能はあるのだろう。
「土下座して謝るなら、許してあげるわよ?」
本当は許してやるつもりもないけれどね。車椅子相手に怯えるだなんて無様なやつだ。
「く……っ」
「どうしたの?」
私は小指を握る右手に力を込める。折るぞ、との脅しだった。
「分かったわよ、土下座すればいいんでしょ」
多分だけれど、まったく分かっていないし。私が穏便に済ませてあげようとした段階でやめればいいのに。
「じゃあ、地面におでこをくっつける勢いでね」
精一杯笑顔を作り、余裕をアピールする。もう、この女には行き着くところまで行って貰おう。私がアヤカの指を放すと、アヤカは走って下がり、オノノクスの後ろに隠れる。
「アクスウェル、あの女を取り押さえなさい! 両腕を掴んで」
ついに、というか目論見どおりポケモンまで使い出したか。残念だけれど終わりね。まだ少年法で守られているだら、刑罰は軽いけれど……でも、ここまでやってしまうと、犯罪に使われた物は没収され、国の所有物になってしまう。要するにポケモンは没収だ。まぁ、それだけで許すつもりはないけれど。
アクスウェルとかいうオノノクスは一度力なく唸り声を上げつつ、アヤカのほうを見た。
「何やっているのよ、早くしなさい!」
オノノクスは本来心根の優しい子なのにな。あんな事をさせられたら、そりゃ戸惑うだろう。今回も渋々命令に従っているという感じだ。案の定あれよあれよと言う間に、私の車椅子は捕らえられたけれど、アクスウェルはちらちらと後ろのほうを伺っている。あの威風堂々としたオノノクスが、こんな風に不安げな表情を見せるなんて新鮮だ。
「ふふ、形勢逆転ね……こうなったらもう、手段は選ばないわ。あんたのポケモン、貰ってあげるわ……返して欲しければ、3万用意してきなさい」
アヤカは、私のポケモンが入ったモンスターボールを奪い、自身のポケットに入れる。あーあ、恐喝までしちゃって……録音しているのに。
「やめなさいよ。それは犯罪よ?」
一応、私も最終通告をしておく。ここを過ぎれば、アヤカの事は自殺するまで追いつめてやる。絶対に許しはしない。
「すました顔してるんじゃねぇ!」
オノノクスに腕を押さえつけられた私の頬に、平手打ちが飛ぶ。口の中に血が滲んでる。鉄の味だ。
「はん。ミカワったら、オノノクスに押さえつけられて何も出来ないくせに態度だけは一人前ね。あんたのポケモン3匹は、私が預かっておくから。1匹当たり1万円で引き取らせてあげる」
「あんた正気? 他人のポケモンを奪ったら泥棒よ」
私は言葉とともにアヤカを睨みつけて挑発する。
「当然本気よ。アンタこそ弱いくせに粋がりやがって」
アヤカは中指の第一関節で私の額をぐりぐりとやる。あぁ、痛い痛い。
「言っておくけれど、親にちくったりしたら、どうなるかわかってるわよね? 私のポケモンは強いけれど、私の親のポケモンだって強いのよ。あんたたち一家、丸ごと焼き払ってやるから」
脅し文句、一ついただきだ。こうしてどんどん首を絞めていくんだな。
「じゃあね。お金を楽しみにしているわ」
申し訳なさそうな顔をしているオノノクスたちをボールの中にしまい込み、アヤカはムクホークにホバリングさせて、その足につかまる。
「待ちなさいよ!」
私は申し訳程度にそう言った。アヤカはそれを無視して飛び去るが、違和感はなかったのだろうか?
「ダメだな私。演技力がない」
と、独り言ちてしまう程度には落ち着きすぎていたような気もするけれど。人間、あまりに勝利を確信しすぎると、疑う力がなくなってしまうのだろうか? 私はもうあいつの住所や親の職業は調べはついているのになぁ。破滅させる手段ならあるのに、だから私は冷静だしあまりパニックにならなかったのだが。思えばもう少し演技すればよかったと思うほどに。
ポケモンバトル部の人からそれとなく情報を収集している間に、彼女の父親は黒の摩天楼と呼ばれる施設で戦うプロのトレーナーだというのは何となくわかった。例の写真で脅せば、取り巻きの女子たちも何度かアヤカの父親の自慢を耳にしていたようで、SNSで本名を検索してみれば、見事に当てはまるプロフィールを発見したり、黒の摩天楼の公式サイトにも『ボストレーナー』という肩書で7階層の副リーダー的な立場を務める強力なトレーナーだということが分かった。
まぁ、それはそれとして、いじめを放置した件で教育委員会に訴えるぞと教師を脅して連絡網を手に入れてから、住所の方もきちんと割り出した。色々、根回しもしておいたし、協力者も豊富だ。追いつめられているのに気づいていないんだろうなぁ、アヤカは、
さて、何はともあれスバルさんと連絡を取ろう。
頭に血が上っていたのだろうか? 他人のポケモンを奪ったら、普通は親が心配する。ましてや私のポケモンは、生活に必要不可欠な子なので、私が友達に貸すはずもない。ロトムが憑依していない車いすや、腫れ上がった私の頬を見て、母さんは当然私の心配するが、私の今の状況を落ち着いて教えると、黙って見守ることにしたようだ。
そりゃそうだ、私はあの後スバルさんの育て屋に赴くと、スバルさんからカズキ君と多数のポケモンを預かったのだ。アタッシュケースに入れられたポケモンは、本来なら一日レンタルするだけでも数万かかるような豪傑たちがぞろぞろとしまわれており、それを指揮するカズキ君だってすでに素人と呼ぶには少々経験を積み過ぎている。
妹の方にもいろいろコネはあるので、キズナもついてきてもらうように頼んでいる。子供の喧嘩なのだから、親を出すのは間違いよと笑顔で返せば、母さんは私の事を『強くなったのね』と褒めてくれていた。こういうところが私の母親の怖い所だ。相手が先に手を出した場合、やり方が酷かろうとも報復や過剰防衛を全く否定しない。キズナの時もそうだったが、私の時もそれはぶれないので安心した。
その夜、私は小雨の降る中知り合いを引き連れ、周囲に待機させつつアヤカの家に乗り込みに行く。オリザさんからもらったコロモのボールにはGPS機能がついているし、私もそれに倣ってコシやクラインのボールには発信機を付けている。要するに、アヤカの家にそれらのポケモンがいるという事はまるわかりなわけだ。
呼び鈴を押し、私はアヤカを呼びつける。連れは向かいの家の家主に許可をもらい、植え込みの後ろに待機させており、合図一つでいつでも出てくる準備OKだ。アヤカの家はなかなか豪華で、庭も広いしテラスもおしゃれだ。オボンとラムの木が植わっているのも、ポケモントレーナーの家としてはなかなかポイントが高い。
「あら、お金は用意した?」
開口一番、金属製の簡素な外開き門の向こうにいる私に対し、アヤカは高圧的に尋ねる。
「ごめんなさい、お金はないの……でも、こういうのはあるわ」
『何の用かしら? アヤカさん』
放課後の帰り道での会話内容は、きちんとレコーダーに録音してある。それでもって――
『助けるって、何のことかしら……カヨコさん』
『あんた、喧嘩売ってんの? 私の名前はカヨコとかいう変な名前じゃないわ……アヤカよ』
「あらあら、自分から名乗っちゃっているわね。これは私じゃないわ、とかいう言い訳も通じない」
もちろん、オノノクスの唸り声も録音済み。ついでに言えば、まだカードを提示していないだけで、私に対する罵詈雑言の類もすべて録音済み。平手打ちされた時の音も、会話も、バッチリと録音済みだし、バックアップもスバルさんに協力してもらっている。
「ちょ、ちょっと何よ……それ」
言いながら、アヤカは門を開けてこちらに詰め寄ってきた。あら、ようやく私ときちんと話すつもりになったか。遅いよ。
「で、どうする? この音声ファイル、メールですでに知り合いに送っちゃった。いやぁ、公表したら、器物損害に加えて暴行、恐喝未遂、及び強盗。もう少年院には入れる年だし、それがなくともポケモンの没収は確実ね? これをポケモン協会に見せたら部活動も、貴方のせいで学校ごと出場停止じゃないかしら?」
本当に出場停止になるかはわからないけれどハッタリは必要よね。本当のことに嘘を混ぜ込むとその嘘が信じられやすくなるとスバルさんから教わったけれど、これは結構応用が利きそうね。勝ち誇った笑みで私は車いすを動かしてアヤカに近づき、見上げているのに見下ろすような気分でアヤカを見る。
「で、どうすると言われても、貴方は結局土下座とかそんな陳腐な案しか出せないと思うの……だからさ。示談しましょ?」
「示談……?」
「うん。貴方はね、私が訴えると、施設に入れられる可能性もあるし、そうでなくとも慰謝料とか民事上の責任からは逃れられないし、ポケモンの没収からも逃れられないわ。つまり、ポケモンを国に没収された上に、私から慰謝料をむしりとられるわけ……それはかわいそうだから、私はポケモンを全部私によこすことで、貴方と私の会話や、器物損害の犯行現場の写真は一切公表しないわ」
「何言って……ふざけんじゃないわよ!!」
「そう、残念だわ。それじゃ、知人が弁護士を紹介してくれるようだし、慰謝料については法廷で話し合いましょう? 同級生を檻に入れるのは心苦しいけれど、ここは心を鬼にするわ」
しかし、スバルさんはこんなことになることも予見していたのだろうか? ハッタリを効かす為にも、私にちょっとだけだけれど法律の勉強もさせられたし……。
「どちらの立場が上か、理解しなさいよ。ポケモンを出して威嚇することは、立派な脅し……そして、モンスターボールを盗むためにオノノクスを使ったのも、しっかりと録音済み。
そうね、もしも貴方が私に歯向かうのであれば、お金とポケモンだけじゃなく貴方は社会的な立場まで失うことになるわ。あなたの親も道連れねどうする? 私は優しいから、貴方が私の要求を受け入れれば、失うものはポケモンだけよ……」
実を言うと、放課後の帰り道では、相手のポケモンが結構怖かったのだけれど、もう大丈夫。目の前にいるのは、怯えるエネコのようなものだ。
「さ、私にポケモンを頂戴。書面での正式な示談も後でまたやりますけれど、今は約束だけでも……あ、心配しないでください。一応口頭でも契約は成立するので、今も録音しているので、それが契約になりますし、貴方が私にちょっかいを出さなければ、私も例の録音を公表するようなことはしないので。
どうします? あまり雨の中で話すのも、風邪を引く原因になりかねませんが……」
冷たい笑顔を浮かべようと勤めていたはずだけれど、いつの間にか悪乗りしていた私は自然と笑顔になっていた。
「くっ……親と、相談してくる」
「あら、親に責任を取らせるのかしら? もう中学生なのに、1人じゃ責任も取れないのね?」
「五月蠅い!!」
ケラケラといやらしく笑ってみせると、アヤカは私の首を絞めてきた。私は、中指の第二関節で相手の鎖骨をぎゅうっと押さえつける。キズナから習った護身術だが、アヤカは首に走る激痛でしゃがまされていた。怒って殴りかかってこられたら困るので私はタイショウを繰り出す。
「貴方、私のように善良な一般市民に向かって、随分なことをするのね。それ以上は、私も黙ってはいられない」
「な、何よ何よ! 私にはオノノクスで脅されたとかって被害者ぶっていて、自分はダゲキを出して脅しているんじゃない!」
「脅しと自衛の違いも分からないのかしら? 正当な権利を守るための自衛を脅しというだなんて、貴方の脳味噌はきっとスポンジでも詰まっているのね。タイショウ、腹や顔に攻撃しちゃだめよ」
呆れたようにその言葉を発してやると、案の定殴りかかってくるも、タイショウがアヤカの手を弾き飛ばす、普段キズナのパンチを見ているからわかるけれど、アヤカの攻撃は隙だらけだ。それに、キズナのせいで錯覚してしまうが、普通の人間はポケモンに一撃を与える事すら難しいのだと再認識させられる。
「いいから、私から奪ったポケモンを持ってきなさい。親に相談するのもいいけれど、私のポケモンに何かあったら承知しないからね」
「分かってるわよ! あんたのポケモンなんか、手を出す価値もない!!」
「ふうん、今の暴言も録音させていただきました」
冷静にそう言い放ってやると、悔しそうに歯を食いしばっている。全く、どこまでん墓穴を掘ってくれるのかしら、この子は。
そうして家の中から戻ってきたアヤカは、ロックされたボールを持ち、父親を連れてきた。ボールロック機能は、暴れて始末に負えないポケモンや、伝染病のポケモンが中から勝手に出てくれるのを防ぐための機能であるが、健常なポケモンに使う分には虐待にあたる可能性のある機能である。これも超獣保護法違反でポイント一つね。
「返すわよ」
無造作に投げ捨てる私が拾えないのを分かっている癖に地面に落とすものだから、タイショウがかいがいしく拾ってくれるからいいものの、とことん屑ね、この女。
「おい、娘がいじめってどういうことだ」
私がタイショウからボールを受け取ると、怒りに満ちた声で父親が尋ねる。どういう事も何も、そのままなんだけれどな。
「どういうことだも何も、こんな写真をばっちりとれていますが……音声もありますよ」
私が証拠を叩きつけるように両親へと見せれば、両親は気まずそうに顔を歪めるも、とんでもないことを言ってのける。
「まぁ、なんだ……確かに酷い事をしているが、軽い喧嘩みたいなもんだろ? 君だって、ドレディアの頭にゲロを吐いたって娘は言っているし……」
「それとこれとは話が違いますし、そもそもお宅の娘さんがやっていることは犯罪です。親を巻き込むつもりはありませんが、私はきっちりと話をつけないと、気がすみませんよ? 裁判になりたくなければ、娘さんのポケモンをすべて、私に譲渡することで手打ちにすると、示談の最中だったのですが」
「いや、お前ふざけるな! たかがいじめで、そんな要求とか、頭おかしいんじゃないか?」
「あれ、たかがいじめとは? そこは、『たかが恐喝と窃盗および器物損害に障害』の間違いでは? 大人なのに状況の把握もまともにできないのでしょうか?」
私は毅然と言い放つ。なに、後ろにいるのは、軍隊でも手を焼きかねないメンバーだ。物怖じすることなんて何一つない。
「黙れ! 大体なんだ! 足も動かないかたわのくせに、未来のあるアヤカの将来を潰す気か!! 金が欲しいなら出してやるから、とっとと帰れ!!」
「未来も将来もありませんよ。貴方の娘に」
くす、と笑って私は意味深な笑顔を見せる。
「何を……アオイとか言ったな。お前、録音しているデータも破棄したくなるようにお灸でも据えておくか? 俺はポケモン協会のお偉いさんとも知り合いなんだ、一生ポケモンを持てなくしてやってもいいんだぞ?」
父親。名前を調べた限りマキトという名の男は、盛大に吠えながらキノガッサを繰り出す。というか、何もしていない私からポケモンを使役する権利を奪うなんて、出来るわけもないことを何言っているのやら。
「残念ですね。私は、父親が土下座して謝って娘を叱りつけるなら、あなたまで追い込むつもりはなかったのに」
私は防犯ベルを鳴らした。
すると、隣の家の塀の裏側に隠れて撮影していたカズキ、キズナ、そしてバンジロウさんがぞろぞろと私の後ろに立つ。事情を説明した向かいの家のおばさんも、わざとらしくこちらを伺っている。いやぁ、キズナがバンジロウサント知り合いでよかった。
「マキトさん。貴方、黒の摩天楼に訪れたトレーナーたちから、かなり評判悪いですね。『わざとかどうかは分からないけれど、明らかに戦闘不能な相手にしつこく追撃されて大けがした』とかって書き込みがいくつか見当たりました」
ふー、と息を吐き、見上げているのに見下ろすような気分で私は言う。
「そんな奴の娘とのいざこざがあったと聞いて、バンジロウさんがこの示談に協力してくれましてね。今の光景は、バッチリと録画させてもらいましたよ」
「マキト、マキト……マキト、お前。オイラ、色々許せなくって、何度も飛び出しそうになるのを堪えたぜ……今回の件、アオイが話をつけるから、オイラからは何も働きかけはしないが……摩天楼のオーナーにはきちんと報告させてもらうから、覚悟しろよな」
バンジロウさんは、白の樹洞や黒の摩天楼で頂点に君臨する男。マキトにとっては年下の上司にあたる。
「す、すみません、バンジロウさん。つ、つい頭に血が上って……」
その人を前にしたら、さすがに頭が上がらないのだろう、マキトはいきなりへりくだった。
「お前は頭に血が上ったら、他人にポケモンをけしかけるんだな? オイラはそう報告すればいいんだな?」
ポケモンバトルを心の底から楽しんでいるであろうバンジロウさんにとって、マキトのようにポケモンを自分勝手に使う輩を見て、怒り心頭と言ったところらしい。
「い、いえ……そういう訳では……」
と、弁明するも、じゃあどういう訳なんだと私は言いたい。
「さて、示談の話ですけれど、どうします? 私は、娘さんの罪については、これまでと変わらずポケモン全部で合意しますが。そうですねぇ……父親とは、示談の余地もないですね。貴方の事は、何があろうとも訴えます。危険なトレーナーを、野放しにしておくわけにはいきませんので」
「そ、そんな……すみません。娘のポケモンは全部譲りますので、どうかそれだけは……お、俺は反省しているから」
この期に及んでこいつは何を言っているのだか。反省なんて言葉、この家族から出るようなものだとは到底思えない。
「そうですね、娘さんはそれで許しましょう。しかし、貴方の罪を許すのはお断りします。いや、そうですね……示談なさりたいのでしたら、貴方のポケモンをすべて私に譲渡するという形でお願いしますね」
「ば、そんなことが許されるわけ」
マキトは娘と同じ反応をする。反応だけは楽しませてくれるもんだ。
「まるで、貴方が私を脅したことが許される行為であるかのような言い方ですね? じゃあ逆に聞きますがポケモンを使って女性を脅すなんて、許されるわけあります?」
あざけるように笑ってやると、青筋を立てて怒りをあらわにしているが、バンジロウさんがいる手前、無茶は出来ないようだ。こんな人と知り合いだなんて、キズナもなかなかやるもんだ。
「まぁ、答えは明日まで待ちますよ。私も、気が長いほうではないので、それ以上は待ちませんが」
それを言われると、マキトは放心していた。そんな表情されても、余計いじめたくなってしまうだけで逆効果だというのに。
「それにしてももったいないなぁ。私は、一度アヤカさんを許そうとしました。ねぇ、アヤカ? 私は、貴方を一度は許して手打ちにしようと言いましたね?」
「う、う、うん……」
涙目になりながらアヤカがうなずく。素直に謝れば、こうはならなかったのに。どうしてこいつは、安いプライドのために人生を捨てるのやら。
「なのに、私のポケモンを盗んだし、ボールに閉じ込めて虐待もした。おまけに、父親まで巻き込んで、迷惑をかけたりなんかして……くだらないプライドのために、絵にかいたように犯罪を犯しちゃって。でも、私は許してあげる、さ、貴方のポケモンを頂戴。明日正式に書面で示談の契約をするから、その時までに預かっておいてあげるわ」
「……いや」
「そう、じゃあ警察に御用ね。お父さんの仕事もなくなっちゃうかもしれないわ」
すまし顔でそう言うと、アヤカは後ろを振り返った。
「もとはと言えばお前がやった事だろ?」
と、父親は娘を蹴り飛ばし、アヤカは地面に転がった。こういう風に娘を叱りつける態度が最初に出ていればよかったのに。しつけよりも保身を優先した結果が、今の状況だとしたら笑うしかない。アヤカは悔しそうに涙をこぼし、歯を食いしばりながら、家の中に戻る。自分のポケモンをすべて持ってくる気なのだろう。勝ち誇った顔で戻って来るのを待ち、叩き付けるように差し出されたボールを、私は一つずつ丁寧に中身を確認し、きちんとポケモンが入っていることを確認してポケットにしまう。
「よし、貴方の事を許すわ。私、人を許せる女性になりたいの」
思いっきり厭味ったらしい言葉を吐く。アヤカはもう何も言わずに、家の中へと逃げていった。
「バンジロウさん、ありがとうございます。今度、お礼に何かしようと思うので、何でも言ってくださいね」
「あぁ、いいよいいよ。オイラも、評判の悪い部下の様子を見る事が出来たしな。ああいう施設で評判の悪い事をされると、いいトレーナーが育つことの邪魔になる」
バンジロウさんは、相変わらずポケモンバトルの事を考えているらしい。ライバルが増えることを望んでいるのだろう、トレーナーの対戦施設の充実は彼にとって死活問題のようだ。まぁ、納得だ。私だって、あんなやつとは対戦したくないし、そういう気持ちがポケモンバトルを忌避する気持ちにもつながりかねない。それを思えば、バンジロウさんの判断は正しいと言えるだろう。
ともかく、ポケモンが一気に6匹も手に入ったわけだ。手話や介護が出来そうなポケモンはドサイドンやオノノクスくらいかな、性格などを見極めて、介護用のポケモンとして不適格そうならスバルさんに引き取ってもらうのがよさそうだ。
「そうそう。アヤカさんのお父様。私、子供の教育もきちんとできない貴方の事は許していませんから」
最後にそう言い残して、私は撤収する。後ろから聞こえた罵詈雑言の声だが、それをバンジロウさんに聞かれているという自覚はあるのだろうか? まったく、頭が悪い。
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今日は、アヤカに拠を突きつけて、奪われたポケモンを奪い返すとともに、相手のポケモンを示談金代わりにすべて譲ってもらう形で合意した。
母親に今回の顛末を話すと、まず最初に私の事を心配したが……軽く口の中を切ったことや、勉強のためのノートを買い換えなくちゃならないこと以外は無事だと伝えると、なんだか安心してくれたようである。
キズナがしょっちゅう問題起こしてくるおかげで、ポケモンを半ば強引に譲ってもらったことには特に気にしていないみたい。母さんも大分訓練されているなぁ。
さてさて、譲ってもらったポケモンに、早速もって餌をあげようと思ったんだけれど……やはり、簡単には食べてくれないようだ。特にドレディアは私だけじゃなく、母親にすら威嚇して唸り声を上げている。まぁ、こいつは養ってやるつもりはないし……どうでもいいか。
ブルンゲル(ジェリーというらしい)は例外で、当然のように母さんが作ってくれたポブレを食べている。この子、意外と豪気である。
その様子を見ていたオノノクスのアクスウェルは、少々警戒しながらもポブレを手に取ってくれた。コロモが半分食べたものを渡されると、その大きな腕には不釣合いな大きさのポブレの匂いを嗅ぎ、鳥がついばむように少しずつ食んでゆく。
オノノクスは本来、優しいポケモンだ。縄張りを荒らすものには容赦しないけれど、その縄張り意識もそこまで強いほうではないし、慣れれば介護にも適した子になりそうだ。彼はまだ落ち着かない様子で、家の中に出しているとあたりを気にしている。
ムクホークのゲイル、ドサイドンのブロック、メブキジカのメープルは、まだ食べなくても大丈夫なのか、ポブレを見ないようにしている。残念だけれど、貴方達も要らなくなりそうね……介護ポケモンを育てたい私にとって、介護に役立ちそうなのってせいぜいアクスウェル君とドサイドンのブロックちゃんくらいだし。
でも、そのブロックは、私に対してかなり敵意をむき出しにしている。キズナやコロモが睨んでいるから手は出されなかったがこいつはスバルさんに任せた方がいいかしら? どうも、コロモ曰く感じるのは怒りではなく『警戒』。アヤカの手持ちだったことで、いろいろ虐待まがいの事もされたのだろう、それが原因で人間不信になっているらしい。餌をあげるのも苦労しそうだ。
新しい手持ちの観察に四苦八苦しているうちにバンジロウさんと話していたキズナが帰ってくると、家の中に出したオノノクスをうらやましそうに見つめていた。ガブリアスと並んだら格好よさそうだけれど、バンジロウサンから貰ったゴンゲンちゃんまだフカマルだから進化が待ち遠しいとのこと。なるほど、『格好いいから羨ましい』だなんて男の子って感じな理由だなぁ。
RIGHT:9月28日
LEFT:
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その夜、二人で並べた布団に寝そべりながら、暗闇の中で私達は語り合う。
「ねーちゃん……いろいろすっきりしたけれど、あそこまで怒らせちゃって大丈夫なのか? 仕返ししてきたらどうするんだよ? 俺なら狙われても問題ないけれど、俺以外の誰かが狙われたら……」
「あら、それはないわよ。バンジロウさんに睨まれていたら、出来る筈もない。ああいう輩は、弱い者には強いけれど、強い者にはとことん弱いから。私を苛めた理由も、きっと弱いやつがのうのうと暮らしているのが気に食わないとか、そういう理由だったんじゃないかしら? 父親のマキトも、私の事が弱いと思っていたから、ああやって脅したんでしょう」
「はぁ……それじゃあ……つまり、どういうこと?」
キズナ、こういう事は分からないのね。
「あの父親は。アヤカなんて大切じゃないってこと。アヤカが家の名誉を守ってくれることが重要なのよ。そういう家に育ったら、進学校に行けなかったりとかすると悲惨なんでしょうね。親に『お前は頭が悪いから公立学校に行くことになったんだぞ』とか言われたりして。だから……アヤカは私が許せないのよ。成績もあんまり良くないし、そのうえ足までこんなになっても、男子がちやほやしてくれたりしてのほほんと暮らしている私がさ。でも、それはひとえにそういうことを許す事が出来ない、性根のせい。
嫉妬もいいところだし、大迷惑だわ」
「ふーん……ねーちゃん、努力しているし、苦労もしているんだけれどなぁ。なのに、のうのうと暮らしてちやほやされているように見えるのか……不思議だな」
「一番悪いのは、アヤカさんのしつけを間違えた両親だけれどね。そんな奴に育てられた娘に対して同情はできるけれど……あそこまで追い込んだことを間違いだとは思っていないわ。キズナ、あんたと同じ理由で」
「ん、何が?」
まぁ、こんな言い方じゃ分からないわよね。
「貴方みたいに、私も悪いことした奴には、毅然として立ち向かわなきゃいけないってこと。あんたが同級生の足の骨を砕いたって聞いた時は、やりすぎだとは思ったけれど……黙ってたら、いいようにやられる事を許すだけだもんね。だから、私も徹底的にやることにした。赦すのは一度っきりでいいわ」
「あー、なるほど。しかし、ポケモン使って脅されていたみたいだけれど……もう、そんな悪いことも出来ねーか。ポケモンはもう、すべてねーちゃんの手の内だもんなぁ」
「でしょ? ポケモンを遣って悪い事をする人からは、ポケモンを奪っちゃえば何も出来ないわ」
そんな言葉を交わしながら、私達2人は眠りにつく。明日はちょうど休日だし、スバルさんにもお礼を言わなければね。