BCローテーションバトル奮闘記





小説トップ
第一章:初心者編
第七話:育て屋のお手伝い

7月7日

「まずは、糞掃除と草刈りだ」
 威圧するように見下ろして、スバルさんは俺に命令した。今日は眼鏡を着用していなくて、そのせいか目つきが鋭く見える。
「は、はい!!」
 手押し式の一輪車とスコップを渡され、俺は糞みたいに暑い群青色の作業着をきっちり着用。
「森林エリアや、草原エリア、池沼エリア、砂地エリアに洞窟エリア……色々あるが、お前に任せるのは、草原エリアだな。草が生えている方が望ましい草原エリアではあるが、あまりぼうぼうと生えすぎていても人間が困る。だから、ひざ下……お前の場合は膝より少し上を基準に草を刈りとっていって欲しい。
 草を刈る間、糞が落ちているのを見つけたらそれを回収し、所定の場所に捨てる。糞と草は別々の場所に捨てることは徹底するんだぞ? 後で肥料にして、色々なところにばら撒くものでな……とりあえず、お前に与える仕事はそれだけだ。ポケモンの力を借りても構わんが、怠けるなよ?」
「か、かしこまりました……」
 緊張した俺の声は、裏返ってしまいそうなくらいに震えていた。
 今日は仕事ではなく、手伝いの初日。無理を言って手伝いたいと申し出てみたが……頼まれた仕事は、単純な肉体労働。ポケモンの世話や指導を任せるとか、そんなことは俺に頼めるわけもないのは分かっているから、納得である。
 とにかく、頑張ろう。
「ママン!」
 ゼロは物を切り裂くのは得意だけれど、持久力がないからこういう長い時間のかかる作業は苦手だろう。こういう作業を手伝わせるならば、やはり草を扱うエキスパートのハハコモリがよさそうだ。実際、この草原エリアには俺のママンと同じハハコモリが草刈要因として働いている。平地エリアではカットロトムが草刈り要因として働いているが、元が芝刈り機であるためか、膝下まで草を残すというのは難しいらしく短く刈りそろえるのが目的のようで、草原エリアには配属されていない。
 森林エリアにはキリキザンやコマタナが下草刈りをしているというし、流石に育て屋というだけあってポケモンの人材は豊富だ。それなら、ポケモンだけに任せた方が人件費も浮くと思うのだけれど……まぁ、見張りや指導役として人間を雇わなければいけないような事情があるのだろう。

「ママン……この辺の草を刈りたいんだけれど……俺と一緒に、草刈りを手伝ってくれるか?」
 やれやれ、仕方ないとでも言いたげに、ママンは肩を竦めて微笑む。俺がここに手伝いに来た理由と言うものは一応語っておいたが、きちんと理解してくれたからこそのこの反応なのだろうか。いきなりこんなことを頼まれてもきちんと応じてくれるというのはなんだかうれしい限りだ。
 草むしりは草むしり。特筆すべき作業なんて何もないのだが、この育て屋は広大だ。一辺が1kmはありそうな正方形の育て屋の中で、この草原エリアは500m×200m程と言った所。平地エリアの草は、ここに預けられた草食のポケモンたちが勝手に食っていく餌場でもあるらしいのだが、この草原エリアは広大過ぎて食事による処理が追いつきやしないほか、成長しすぎて不味い草らしい。
 そのせいで、ところどころに俺の胸よりも高い草が生えている。それを刈り取れと言うのだから気が遠くなるような作業だ。刈った草を一輪車に乗せ、それを草捨て場まで持っていく。この草捨て場も微妙に遠い距離にあり、しかも草のせいで道路条件が悪いため、一輪車を何度も横に倒してしまう。
 こればっかりは、力の強いイッカクにも手伝いを頼み、疲れたら(すでに疲れているけれど)無理せずに代わってもらって、何とか失敗しないようにと頑張っている。ポケモンに全部任せて自分は黙々と草刈りしていてもいいのだが、それだとなんだかポケモンに悪い気がする。
 自分はポケモンに給料出せるわけでもないから、あんまり働かせてもイッカクに出せるものはない。せめて母さんが置いていってくれるお金がもう少し多ければ、と思わずにはいられない。
 10分もしないうちに、着用している作業着の中は蒸し暑くなる。まるでサウナか何かに入り込んだかのような暑さと、蒸れのせいで体中がかゆいような、うっとおしいような。非常に不快だ。俺のポケモンは夏に元気になる虫タイプばっかりの上に、ママンなんかは草タイプであることも相まってか生き生きとして見えるのが、なんだか羨ましい。
 こっちはすぐにでも水浴びをしたい気分だというのに、ママンと言ったら鼻歌でも歌いそうなほどご機嫌だ。

「暑いと元気になるっていいなぁ……はぁ」
 これ以上ママンを見ていると、なんだか嫉妬してしまいそうなので、俺は草刈りの片手間に、ここに預けられたポケモンを見る。この育て屋にはブリーダーとして、ポケモンに指導する人間がいるのはもちろんの事、教官と呼ばれるポケモンがいるのも特徴だ。
 俺の視線の先にもその教官と呼ばれるポケモンがいて、それらはこの育て屋の主である、スバルさんの手持ちらしい。この草原エリアには、スバルさんの手持ちの中でもエース級の強さを持っている(と、思われる)サザンドラが指導に当たっている。
「あいつの名前……トリニティとか言ったかな」
 いやはや、見守っているとすごい。軽く相手をしている時はいいのだが、少しでも本気を出すと相手は散々だ。
 あれを指導と言えるのかどうかは不明だが(ただ戦っているだけのように見える)、その戦いも非常にレベルが高い。アバゴーラのハイドロポンプを皮切りにバトルがスタートすると、トリニティはハイドロポンプを翼の隙間に紙一重で通てやり過ごし、まだ体勢もまともに整っているように見えないのに、気合い玉を放つ。
 わずかに照準とタイミングをずらして三つ放たれた気合い玉は、それぞれアバゴーラの右肩と右足に当たる。もう一つは胴の横を通り過ぎた。気合い玉を喰らったアバゴーラはふらついたが、それだけで終わりにするつもりもないようだ。周囲を飛行しながら旋回するトリニティの攻撃を警戒しながら、体に力を込めている――が、トリニティは避けることが出来ないように、声で攻撃する。
 ハイパーボイスだ。敵の攻撃を避けたり弾いたりして出来た隙をついて攻撃する、というのはよくある戦法の一つだが、あれじゃ隙なんてあったものじゃない。トリニティが息切れするまで耳を塞いで凌ぐしかない。こっちまで五月蠅くて耳をふさぎたくなる音量の中で、トリニティは歌いながら着地する。ご丁寧に、アバゴーラの後ろだ。
 すぐさま振り向きなおったアバゴーラは、耳を手で覆って音を凌ぎながら水鉄砲を放つ。この体勢では、アバゴーラはアクアジェットも放てやしない。水鉄砲はハイドロポンプと比べれば出も速いし、弾速も悪くない。しかし、威力の低さゆえか、トリニティは翼を差し出すようにしてそれを防ぎ、力を溜めつつ相手の攻撃の途切れ目を狙う。
 いい加減水鉄砲の受けすぎで翼が痛くなってきたところで、アバゴーラの攻撃が止まった。その隙をトリニティは見逃すことなく、上空に向けて龍星群。打ち上げられた龍の波導の塊が、花火のようにはじけて周囲に降り注ぐ。ちまちまとダメージを与えられていたアバゴーラだが、この生半可な威力ではない攻撃を喰らい、気絶とまではいかないものの、降参まで持って行かれてしまった。

「ひゅー……すっげぇ」
 教官として活躍するポケモン達は、当然のことながらレベルが高い。その強さというものを見せてもらった気がする。あんな風に圧倒的に叩き潰してしまったら、挫折の1つや2つしてしまうんじゃないかと心配になったが、立ち上がったアバゴーラは、トリニティと喧嘩ではない激しい言葉のやり取りを交わしている。
 それが、指導というやつなのだろうか。凶暴そうなサザンドラがまじめに仕事をしている光景というのは、なんだか予想だにしなかった世界だ。すっかり見入ってしまって手が止まってしまったが、そう言えば俺は草刈りの最中であった。少しくらい見物するのもいいが、仕事は仕事、きちんとやらなければ。
 しかし、誘惑は多い。教官と門下生という組み合わせの圧倒的な戦いが面白いのはもちろんだが、門下生同士の戦いなんかも面白いし、どんな指導をしているのかはうかがい知れないものの、人間の指導に従って頑張るポケモンたちのひた向きな熱っぽさ。草刈りの最中は、ダメだとは分かっていてもそんなものに目移りしてしまう。
「でも、やっぱり素敵だなぁ……」
 なんというべきか分からないけれど、強くなりたいっていう目標があって、それに向かってひた走る姿。それはやっぱりかけがえのない物なんだと思う。
 俺は……ポケモンソムリエに言われたように愛情を持って育てたり、活躍できる場を作ってあげることを忘れてたし……ともかく、ゼロを目立たせてあげられるように、強くなりたいな。そのためにも、頑張らなくっちゃ……とは思うんだけれど。
「あっつい……」
 脇や股間に、靴下の中の足の指などの場所にいやな汗はたまるし、胸はよだれかけでも欲しいくらいに濡れていてかゆいし……もう全裸になって走り出してしまいたいくらいに、汗だくだ。
 いつになったら休憩できるんだろうなぁ……? そんなことを思っていても、仕事は延々と続く。すれ違った職員に挨拶をしたり、ポケモンに声を掛けたりするたびに時計を確認してみると、徐々に昼食の時間が近づいているから、時計の針の回転を励みに俺はひたすらに頑張った。

『カズキ君、聞こえますか? キリのいいところで管理棟に戻って休憩を取ってください』
 いつ終わるともしれない肉体労働を続け、やがて持たされた500mLのスポーツドリンクも空になりかけてきたころ。ようやく渡された無線機から休憩の合図が響き渡る。すでにへとへとだった俺は、ほっと息をついてポケモンをボールに仕舞い込み、今積んである草を所定の場所に捨ててクーラーの効いた管理棟へと戻った。
 戻ってみると、強烈な冷気が俺を歓迎してくれた。胸元をはだけ、冷たい空気を服の中に取り入れると、汗でべったりと張り付いた服の隙間から癒しが体に滲んでくる。ほっと息をついて、底の方に少しだけ残ったスポーツ飲料を飲み干し、俺はため息とともに疲れを吐き出した。
 モンスターボールの中は快適な空間になっていると言うが、今ボールの中に仕舞い込んだポケモンたちはこんな風に快適なのだろうかと思いを馳せて、俺はデスクワークの最中のスバルさんに話しかける。
「あ、ただいま戻りました……」
「ご苦労。どうだ、辛かったろう?」
「え、えぇ……はい」
 単刀直入に聞かれ、戸惑いながらも俺は答える。
「労働というのはそういうものだ。得てして疲れるし、辛い……途中で、早く時間が経たないかなぁとも思ったろう?」
「はい……」
 ここで正直に答えていいのかどうかは分からなかったが、偽りなく俺は答える。
「それについては、頑張れとしか言えん……だが、お前の働きで……見ろ」
 2時間ほど働いた俺に突き付けられたのは、ブロックメモ用紙の一枚であった。書かれているものは、『あと13時間!!』と大きく書かれた文字に、今まで働いた時間と、進化の輝石の値段。
 15時間働けば、輝石をプレゼントとしてくれるという意味らしく、俺は大きな一歩……いや、二歩くらいを踏み出したというわけだ。
「目標に近付いていると分かれば、否が応にもやる気は出ようぞ。今日はあと3時間、きっちり励んでもらうが……その前に、飯と飲み物だけは摂取を忘れるな?」
「あ、はい……言われた通りスポーツ飲料は3本持ってきましたので……」
「上出来だ。飯は弁当を用意しておいたから、冷蔵庫に入っている物から好きに選ぶがよい。いつもは他の職員と早い者勝ちで争うのだが、今日は貴様に特別だぞ?」
「あ、ありがとうございます……」
 いやはや、スバルさんは親切なものである。無理言って働かせ……手伝わせてもらったり、弁当とかもこうして優先してもらえるとは。
「ただし、貴様とは少しばかり話したいことがあるのだ。付き合ってもらうぞ」
 ……でも、それらは子供だから可愛がられているというだけかもしれない。親がアレだから早く大人になりたいとは思うけれど、こうして得できるなら子供というのも悪くないのかな。俺は弁当が入っている冷蔵庫を漁り、1人で食事をするようになってからあまり食べていない魚介類や、揚げ物が多い弁当を選ぶ。
 電子レンジで温めてふたを開けてみれば、揚げ物の香ばしい香りとご飯の香りが同時に脳髄を襲って、食欲を掻きたてる。
「いただきます」
 狩りをするようになってから、重みを感じるようになった食への感謝の言葉をだし、俺は割り箸を握る。すでに減っていた腹が、さらに音を立ててへこむような錯覚を覚えて、俺は冷たい麦茶と共に早速かぶりつく。
 油のうまみが下に広がり、一瞬遅れて白身魚の油が舌の上に滑り込み、一口目で早速幸せな気分になった。麦茶のそそがれた胃袋に、食物が入ることで満たされる感触。すきっ腹に舞い降りたタルタルソースで味付けされた白身魚のフライとご飯の咀嚼された物体が、悲鳴を上げた胃袋を鎮めてくれたような気分だ。
 昼食を食べる休憩室は、汗を掻いた俺達に配慮してか、大量の梅干しが置かれたりなどもしていて、そういう細かいところで意外とスバルさんは気が利く人なのだと思う。

「美味しいですか?」
 そうして幸せ気分を味わっていると、休憩室にスバルさんが入り込んでくる。先ほどのデスクワーク中には欠けていなかった眼鏡を、彼女は今かけている。
「はい、美味しいです。ありがとうございます」
「子供の内は、一杯食べて一杯動くといいですよ。今の貴方のように……」
 スバルさんが持っていたのは、鳥の竜田揚げ弁当であった。キャベツの千切りと黄色い大根の漬物がいい具合に彩りを添えている、無難な弁当である。
「いただきます……と」
 おしとやかに感謝の挨拶をささげたスバルさんは、まず一口を放り込んで俺を見る。
「ところで、カズキさん。貴方が仕事をしていた草原エリアには、トリニティ教官……サザンドラがいたと思いますが……バトルは観戦しましたか?」
「はい、片手間にですが……強いですね、彼」
 あのサザンドラを褒めると、スバルさんは嬉しそうに笑う。
「そうですか。あの子は私の一番のお気に入りなので、そう言っていただけると嬉しいです。ところで、戦っている最中に何か気付いたことはおありですか?」
「気付いたこと、ですか……そうですね。あのサザンドラ、空中で体勢を整えてもいないのに、ものすごく正確に対象に攻撃しますよね。アレは素直にすごいと思います……あとは、そうだな。敵が待ちの体勢に入った時……ハイパーボイスで攻撃してましたね。
 あれなら、攻撃は音速なのでどんなに素早いポケモンでも避けられませんし、それに狙いもアバウトでいいから高速で飛び回りながらでも安定して相手にダメージを与えられる。膠着状態を打開する良い戦法だと思いました。」
「なるほど、ありがとうございます」
「……私の見立ては、どうでしょうか?」
 正直、思ってみたことをぺらぺらと喋ってみただけなので、自信がない。
「ポケモンソムリエの才能があると思いますよ、あなたの見立ては……その時、戦っていた相手と、その相手にこうすればよかったんじゃないかと思えることはありましたか?」
「トリニティはアバゴーラと戦っていたんですけれど……トリニティが竜星群を出したその時にはすでに気合い玉を喰らっていたので、頑丈の特性も期待できなかった状態なでして……そうですね。アバゴーラもせっかくの岩タイプなのですし、何とかトリニティを撃ち落として、ちょろちょろ動き回るのを何とか阻止出来れば……まだ勝機はあったんじゃないかと思います。
 とはいえ、あのトリニティさん……飛べなくっても強そうというか強いでしょうし、正直勝機なんて言っても僅かなんでしょうけれど……」
「いや、そういう風にいろんな視点から発想を持てることそのものが素晴らしい」
 スバルさんがメガネを外す
「やはり貴様、ポケモンソムリエの才能があるんじゃないかと思うぞ?」
 突然、口調が変わったような。
「そう……ですか」
 正直、実感というものが湧かないのだけれど。ポケモンソムリエになったら、あんな風に訳の分からないことを言って、他人のポケモンが活躍できる方法や、活かし方をアドバイスできるのであろうか? いや、思えばスバルさんは普通だったし、普通にアドバイスをしてもいいのかもしれない。
「難しく考える必要はない。本職にでもしない限り、資格なんてものはただの飾りでしかないのだからな。ただ、ポケモンソムリエの才能というのは、自分のためだけにその才能を活かしても役に立つという事だ。自分とそのポケモンが強くなるために使ってもいいし、私のように育て屋としてその才能を活かすも良い。
 だが、ポケモンと関わり続けたいと思うのならば、その才能を伸ばしてみろ。仕事中でもかまわんから、そうやって多くのポケモンを観察して、自身を高めるといい。育て屋で働くならば、そういうこともきちんと考えておけ? いいな」
 言って、スバルは竜田揚げを一口齧る。
「はい……」
「ただの雑用と侮るな。雑用の最中にも学ぶことがあり、その学んだことで強くなるんだ。それは、進化の輝石という道具以上に貴様のポケモンを強くするはずだ。学校はお金を払って学ぶところだが、職場というのはお金をもらって学ぶ場所。それを念頭に置いて働くがよい」
「……はい!」
 一度に色々なことを言われて少々頭が混乱しているが、とりあえず褒められたり、これからどうすればいいのかを言われたことは理解出来た。
 観察かぁ……確かに、狩りの時は観察して様子を伺ったけれど、今のようなポケモンバトルとでは観察の仕方も違う。そして、才能を伸ばす……か。俺、ポケモンソムリエに言われるまで、ゼロの才能を見きれなかったのに、本当にポケモンソムリエの才能なんてあるのだろうか?
 激しく不安だけれど、見るだけで学べることがあるんなら……とは思う。

 俺の答えに満足したのか、スバルさんはメガネを着用した。
「ポケモンを育てるうえで、ポケモンとの信頼関係を築くとか、ポケモンを鍛えるとか、それも大事なことに変わりはありません。ですが、ポケモンを良く知り、様々な戦略を知り、それに対応できるというのは、ポケモンが何らかの原因で入れ替わっても、失われることとない財産になります。
 せっかく育て屋にいるのですから、その時間を大事に、ね?」
「分かりました……頑張ります」
 よし、俄然やる気が出た。昼からはもっと熱くなると思うけれど、頑張ろう。


 午後からの仕事は、森林エリアでの下草刈りを行わされる。そこではキリキザン達が俺と同じように草刈りを行っており(カットロトムは狭くてやりにくいらしい)、職員が指導していたり、スバルさんの手持ちの中で最強である(スバルさん談)エルフーンのケセラン教官が指導していたりする姿も見えた。だが、一番驚いたのはこの育て屋で行われているバトルである。
 この育て屋、昼食の時間にはポケモンたちに木の実が配られるのだが、ポケモンたちはそれを自主的に賭けあって勝負を始めているのだ。『自主性に任せてそういった勝負をさせていることは、放任主義との批判もある』とスバルさんは自身のブログで語っていたが、反面木の実のように分かりやすいご褒美を賭けあって勝負することで、強くなろうという向上心が生まれるのだという。
 森林エリアや、その中にある池沼エリアの、いたるところでバトルが始まっていて、初心者や幼い子供同士のかわいらしいバトルから、大きなポケモンたちの息つく間もないバトルまで様々だ。このホワイトフォレストにあるホワイトジムのエースであるクイナというルカリオも、こうやって強くなったとは聞いているが、相当な迫力だ。
 観戦するポケモンも面白がったり、羨望の眼差しだったり。一様に熱っぽく、熱い戦いが行われている。ポケモンたちはここでこうして色んな相手と戦うことで経験を積み、どんな相手に対しても対応できるようにするのだろう。
「ふえ……すごいな」
 先週来たときは、ポケモンを貰うだけのつもりだったからろくに調べなかったけれど、いろんな対戦が同時に行われているだけあって目移りして仕方ない。
 ナットレイとデスカーンの仁義なき耐久対決や、ペンドラーとデンチュラのちょこまかと素早いバトル。ペンドラーの巨体からは考えられないほどの身軽さで、デンチュラと互角に素早さで張り合う様は見ていて気持ちがいい。あまりに面白すぎて仕事の手が止まってしまいそうなほどだが、そこは自制心を働かせなければいけない。
 次々と相手を変え、場所を変えて行われるバトルは片手間に、俺は下草刈りに精を出した。思えば、草原エリアは直射日光が照りつけるが、この森林エリアは日差しが遮られるし、池沼エリアという水辺があるおかげか空気も少しだけ涼しかった。
 こういうところにもスバルさんの気遣いがあるのだなと感心しながら、俺の一日は過ぎて行った。


「そうそう、カズキ君。これをどうぞ」
 俺は予定の時間を消化して管理棟に呼び出されたと思うと、紙幣を渡される。汗を拭いて冷気にあたっている最中で渡されたが、まだ湿っていた指先のせいで紙幣は心なしか濡れてしまった気がする。
「えと、これは?」
 給料出さないと言われていたのに、こんな風にお金をもらっていいのだろうか?
「毎日スポーツ飲料を買っておいてくださいとは言いましたが、給料も出していないのに出費を強要していましたからね。ですので、今度来る時はそのお金で買っておいてください」
 なるほど、と思った。確かに、弁当は用意して貰えたとはいえ、ここに来るたびスポーツ飲料3杯の出費は痛くなりそうだった。狩りのおかげで食費は少し減っているけれど、節約したい俺にはこういう気遣いはありがたい……というか、スバルさんは本当に色々気遣ってくれている。
「分かりました、ありがとうございます」
 その紙幣を手の平に包み込んで、俺は頭を下げる。
「いえいえ、軽い気持ちで手伝うなどと言って、すぐに投げ出すかと思いきや……今日は思いの外きちんと仕事をしてくれたようですからね」
「ははぁ……恐縮です」
「えぇ、今度からはもうちょっと厳しくしておきます」
「え……」
「冗談ですよ」
 素敵な営業スマイルを交えて、スバルは言う。
 この人、人格が豹変している時は怖かったけれど、人格が豹変していない時もそれはそれで怖いかもしれない。
「では、次は明日、日曜日にでもお願いしたいと思います」
 変らない笑顔で言われ。俺は無言だった。相手も無言だった。
「かしこまりました」
 相手が無言だからこう言うしかなかった。
「ありがとうございます、カズキさん」
 どうやら俺に、休日というものは与えられないようである。でも、これはこれでありがたい。
「こちらこそありがとうございます、スバルさん」
 休みたいけれど、働かせてくれるのは尊い事なんだ。お礼だけは言わなくっちゃな。


 一時間ほどかけて家に帰ってみると、時間は四時になっていた。果てしなく疲れているけれど、今日はアイルに一緒に遊んであげると約束している。
「連れてって……あげるかぁ……」
 正直なところ、体を動かす気分にはなれないけれど、今日はユウジさんお仕事だから暇しているだろうし。明日も仕事を頼まれてしまったけれど……うん、考えちゃだめだ。考えたら負けだと割り切って、アイルと一緒に狩りに行こう。

 そうして30分ほどかけてホワイトブッシュに行くと、今日はポケモンレンジャーのマコトさんとヨシオさんに鉢合わせする。
「お、カズキじゃねえの。元気にしてたか?」
 マコトさんの質問だが、どうだろう? 元気といえば元気だし……
「色々あって疲れているけれど、元気ですよ」
 うん、これが一番ふさわしい答えかな。
「朝から昼にかけては育て屋の手伝いなんかしていたもんで……」
「手伝いですか? また、なんで……」
 ヨシオさんが尋ねる。そこからは、俺の財布事情のお話を交え、育て屋に手伝いに行った経緯を話した。母親がろくでもないと大変だなぁとか、よく頑張るなぁとか。やっぱり、俺は同年代の子供と比べてもしっかりしている方らしい。
「しかし、こんな風に自由に狩りをしてもいい森があるってのは助かりますね……まだ狩りなんて始めたばかりだけれど、家計に優しいです。これのおかげで、バルジーナも飼えそうですし」
「この森は自由に狩りが出来るって言うか、むしろ狩りをしてもらわないと困るレベルなんだがなぁ……」
 俺のボヤキに対して、マコトさんがボヤキで返した。
「困る、ですか?」
 そのボヤキに、俺は突っ込んでみる。
「ああ、このホワイトブッシュにも、昔は肉食のポケモンがいたんだがな……今は家畜を襲われて怒った人間が肉食獣を皆殺しにしてしまったからいないんだ。それによって、個体数が増えた草食のポケモンたちは、やがて森の中では食糧が足りなくなっちまってな。街へ出て農作物なんかを食べるようになったり、人の食糧を奪ったりして食害を増やていったのさ。
 で、農業やっている人たちは、シキジカとかそういうポケモンが畑を荒らしていたら、適当に殺しちまってムーランドの餌だからな。そういう扱いには批判も出たから……適当に殺して廃棄するくらいなら、きちんと食肉として処理したり、毛皮にしたり、はく製にしたり。そうやって殺したポケモンを丁寧に扱ってくれる狩りをしてもらえるならそのほうがいいって訳さ」
「それでも、狩りをするなんて野蛮とかいう人もいるんですけれどね。そういう人は、狩りで殺されるのと飢えて殺されたり、畑に仕掛けた罠にかかって散々怯えた後に殺されるのと、どっちが辛いかも分かっていない分からず屋ですよ」
 マコトさんの説明を補足するようにヨシオさんが言うと、マコトさんもそうそうと頷いた。

「人間が狩らなければ、ポケモンは飢えてしまうし、そういうポケモンがブラックシティに赴いてゴミ漁りして迷惑をかける。ホワイトフォレストも、似たような状況で肉食のポケモンもほとんどの種が姿を消しているからな。生き残った草食の奴らが畑を荒らしちまう。
 殺してしまった肉食ポケモンの分も、俺たち人間が殺すのが仕事のようなものなんだけれどねぇ……飢えて畑に物乞いに来たポケモンを殺して野ざらしにして……車に轢かれさせて……どっちが残酷なんだかさ。
 そのくせ、狩りを批判する奴らは野菜が高くなったら文句を言うんだ。そういうやつは、論ずるに値しない馬鹿だと俺達は思っているよ」
「私も思ってますけれど、勝手に俺『達』って含めるのはいけないと思いますよ」
 マコトさんの言葉に、ヨシオさんは苦笑していた。
「カズキ君はどう思いますか?」
 そして、不意打ちの俺への振り。
「俺は……よく分からないかなぁ。でも、殺すのっていけないこと……だとは思うけれど……残酷ってのはもっと違うところにある気がする。魚を食べても何にも思わない癖に動物なら大丈夫って言う人もいるし……えと、すみません。こんな答えで」
「いやいや、俺はいい答えだと思うぞ? そうやって、自分の考えを持っているってのはいいことだと思う。すぐに答えを出せなんて言わないが……よく考えて出した答えなら、聞いた人が納得できるように説明できるまで煮詰めてみるといい」
「わ、分かりました……」
 しかし、俺にはマコトさんのお話、ちょっと難しい。
「さすがに、小学生にするお話ではないと思いますけれど……貴方がこれからポケモンと上手く付き合って行けること、期待してますよ」
 と、思ったらヨシオさんの言うとおり、小学生じゃなくても難しい話だったらしい。でも、それを話してくれるってことは大人扱いされているってことなのかな……なんだか、前は子供扱いされていたような気がするけれど、気のせいなのか、それとも俺は大人のようにも子供にも見えるってことなのかな。
「はい……考えて、おきます」
 まぁ、見た目はどう見ても子供だしね。大人びていたとしても……それにしても、不思議な気分だな。こうして、ポケモンを殺すことが仕事……か。
 昔は、食料を得るための仕事だったんだろうけれど……今は、ポケモンのために行う仕事? なのだろうか。飢え死にさせないために……いや、違うか。飢えたポケモンが街へ来ないようにするための仕事、なのか。
 そんな理由で狩りをする俺たち人間を、この森のヌシやヨツギはどう思っているのだろうか。いつか機会があったら聞いてみたいけれど、その尋ねる方法すら俺には思い浮かばなかった。また、会えるかな……ビリジオンに。

「あの、そういえば……」
「なんだ?」
「ビリジオンって、あれからどうしてます?」
「親のヌシもヨツギも、共に立ち入り禁止の禁猟区内で、のんびりと暮らしていますよ。ヨツギはたまに、親や私達に勝負を挑んで、強くなろうと努力しているみたいです」
 ヨシオさんが答えてくれた。まぁ、元気そうで何よりだけれど、やっぱりいつでも会えるわけじゃないんだよな……
「運が良ければまた会えるし、こうしてこの森に何度も通っていれば、運が悪くても嫌でも会えるさ。それにな、数日前に正式に決まったことなんだが……ヨシオ、もう言っちゃっていいんだよな?」
 マコトさんは思わせぶりに言って、ヨシオさんに確認を取る。
「えぇ、問題ありませんよ」
 なんだろう、全く想像がつかないんだけれど……
「このブラックシティには、毎年ビリジオン捕獲祭りというのがあるのを知っているか?」
「あ、知ってますよ。ビリジオンを讃えるために、ローテーションバトルを行う祭りですよね?」
 マコトさんはそんな前ふりを置いたが、それがなんだというのだろうか?
「そう、ただこの祭りは捕獲祭りと銘打っているものの、普段は捕まえてもいいビリジオンが居ないんだ……」
 マコトさんは、困ったもんだとばかりに言う。
「そりゃ、ビリジオンは個体数がむちゃくちゃ少ないですからね。というか、その話をするってことは……」
「そう、ヌシの旅立ちの日が来たってことだ。来年の春にな……その時、捕獲祭りで行われる大会で優秀な成績を収めた者は、ビリジオンをゲットする権利が与えられる」
「マジですか……?」
 マコトさんが言った言葉は、まさに衝撃だ。ビリジオンやコバルオンなど、いわゆる聖剣士と呼ばれる種族は、子供が生まれてしばらく経つと、子がそこを護り、親が巣立つという珍しい生態を持っている。
「その巣立ちというのは、子供が5歳になった次の春というのが通例で、つまりあのヨツギというビリジオンは今5歳だから……」
「来年の大会では、祭りの名前通りビリジオンをゲットできるというわけですか?」
「そういうことだ」
 ……そりゃ、すごいことだ。ローテーションバトルは競技人口が少ないけれど、それでもこういう時ばかりは普段はシングルをやっている人たちも参加するという一大イベントになる。ローテーションバトルをやるにあたって、その大会には出るつもりだったけれど……
「でも、俺に勝てるかなぁ……そうなると、強い人がわんさか押し寄せてきそうで……」
「いいじゃないですか、負けることも成長の秘訣ですし」
 ヨシオさん。それはその通りかもしれませんが、ちょっとひどいです。
「心配するこたぁないさ。ポケモンは鍛えてあげれば1年だって相当強くなる。その成長速度に期待して頑張ればいいさ。育て屋でお手伝いしているんだろ? プロの指導員から、ポケモンを強く育てる秘訣でも聞いて頑張ればいい」
 マコトさんが言う。そうなんだよね。地味だけれど、そうやって頑張るのが地味だけれど一番確実な方法だし。
「分かりました、頑張ってみます」
 出来る事ならビリジオンをゲットしたいけれど……まぁ、ビリジオンのゲットが無理でもとにかく頑張ってみよう。なるようになるさ。
「きちんとポケモンの事を理解して育てれば、それに答えてポケモンも強くなるさ。俺たちの子みたいにな」
 そう言って、マコトさんはタブンネのモッチーの頬をぷにぷにとつっついた。嫌そうにしながらも、まんざらでもない表情でそのタブンネは微笑んでいた。ふと、俺のポケモンを思い出したように見てみると、皆退屈そうに、恨めしそうにこちらを見ていた。
 会話に参加できないことが、除け者扱いされたようで気に喰わなかったらしい。アイルに至っては、気を引くためなのか、なぜかビリジオンに変身しているし、結構ご立腹なのかもしれない。

「ごめんごめん、皆」
 主にアイルを見て苦笑しながら、俺は全員の事を撫でてあげる。
「誰よりも、お前たちが……頑張るんだもんな。大丈夫、お前たちが頑張れる状況を、俺も頑張って作るから……俺も頑張るから、一緒に勝てるようになろうな」
 そういうと、ポケモン達が鳴き声を上げる。アイルは関係ないはずだけれど、一緒に鳴き声を上げてくれるあたり、付き合いがいいのかもしれない。
 よし、帰る時にこいつらの好きな物でも買ってやろう。幸い、スポーツドリンクは粉を溶かして作るやつを買えば安くつくから。浮いた分をこの子達に何か買って回してあげよう。

----
今日は、初めての仕事(の手伝い)を終えた。暑かったせいもあってものすごく疲れたけれど、色んなところでスバルさんの気遣いが垣間見えたから、何とか頑張れた気がする。
それにしても、昼食時の木の実を巡ったバトルのすさまじさはすごかったなぁ……これについては、後で追記するとして。
あぁやって、本気でバトルするから強くなれるんだろうと思うと、なんだか少し新鮮だ。そういえば俺、勝利したポケモンに労いの言葉をかけるようなことはあっても、ご褒美をあげるってことはしていなかったしな。金銭的な面での問題もあるけれど、そこはなんとか、スバルさんから貰えるお金で……いや、輝石を貰ったらそれで終わりかもしれないから、あてには出来ないか。

とりあえず、今日は狩りの最中にビリジオン捕獲祭りが、来年は本当に捕獲できる祭りになると聞いたから、そのおかげでモチベーションはアップしている。
育て屋さんからも、ここで働いているのだからポケモンの動きをよく見ておけと言われているし、出来ることから始めよう。そして、出来ることからやらせてみよう。
明日も、育て屋でお手伝いがあるし、ユウジさんは仕事だからアイルとも狩りをする。やれることはいくらでもあるし、頑張らなきゃ。


追記その1:白森 昴(シラモリ スバル)さんについて、色々分かった事を詳しく。
なんというか、変り者の女性。メガネを付けるかつけないかで性格というか、口調が変わるみたいである。なんというか自己暗示のたぐいなのだろうか……ダゲキやナゲキが帯を締めるようなものなのかもしれない。
手持ちポケモンは……何でも、第一級ポケモントレーナー免許を持っているとかで、手持ちポケモンの制限数は無制限らしい。俺は第三級トレーナー免許で、持ち歩きで来る数は6つまでだから……先は遠そうだ。
とりあえず、全部記述するには多すぎるのでエースポケモンだけを記述していくことにする。
トリニティ:サザンドラの男の子。もっともお気に入りの子(最強ではないらしい)

ユウキ:アイアントの男の子。張り切り爪とぎアタッカーらしい。酸を吐けないのが唯一残念なところらしい。よく意味が分からない

ケセラン:エルフーンの男の子。私(スバルさん)以上の性悪……らしい。スバルさん、自分が性悪って自覚しているんですか?

うな丼:シビルドンの女の子。喰うなよ……いや、喰うなよ? お肌の乾燥を気にしているらしいけれど、真偽は不明

サイファー:シャンデラの男の子。孵化要因として、普段は卵保管庫に在住しているけれど、戦えばかなり強いらしい。

ふじこ:ポリゴンZ。今日はヤドランの本体型のUSBケーブルを咥えて(シェルダーじゃあるまいし)、スマートフォンに電気とかデータとかその他もろもろ送受信している様子。強いのかどうかは戦った所を見ていないから不明だけれど、相当頼りにしている様子だった。

こんなところかな。四天王が持っていたって言うズルズキンもいたんだけれど、腰を痛めてしまったから引退して余生をのんびり過ごしているらしい。今は子供が1匹いて、群れのリーダーとしてその子を育てている最中なんだとさ。あとは、ラムパルドを育てているとも言っていた。

あと、ヨシオさんから聞いた話だけれど、この育て屋の戦力はレンジャー一個中隊(人間15人、ポケモン30匹)に相当するんだとか。以前、このホワイトフォレストに間の手が迫ったとき、この育て屋は職員の指導用のポケモン、個人・企業向けに販売しているポケモン、その戦力に加えて客から預かっていたポケモンも許可を取った上で出動させたそうだ。
 レンジャー中隊2つが到着するまでに、戦況を支えてくれたのは彼女だそうで、あの育て屋はホワイトフォレストに住むダークライを捕まえて悪事を働こうとした謎の組織から街を救った英雄でもあるとの事。
えーと……つまり、あの育て屋って軍隊より強い……の?

7月7日
----


7月11日

「よく頑張りましたね、カズキ君。こちらが、進化の輝石です」
「ありがとうございます」
 頑張った甲斐があった。休日の2日に加えて、学校が終わった後に手伝いに来て、9日は休んで10日と今日働き、ようやく手に入れた進化の輝石。
 これがあれば、今まで打たれ弱く、攻撃力も乏しかったゼロがまともな戦力になってくれるはずだ。でも、まだまだ俺はこの育て屋で色んなポケモンを見て学びたいし、俺のポケモン達にも学ばせたい。
「そ、それで……一つお願いがあるのですが……」
「はい、なんでしょう?」
「今度は、俺のヘラクロス……イッカクに、火炎珠を与えてあげたいのですが……」
「ふふ、本当は3日でやめさせるつもりできつい労働を強いたといいますのに」
 間髪入れずに、スバルさんは笑った。
「いいでしょう、貴方を続けてお手伝いさんとして雇うことにします」
「本当ですか? ありがとうございます!」
「それなりの覚悟はしてもらいますけれどね」
 にっこりと笑って、スバルさんは言った。何をさせられるのかは分からないけれど、俺の体力もつかな……最近、体力増えてきたようにも思えるけれど。


Ring ( 2013/09/02(月) 21:45 )