BCローテーションバトル奮闘記





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第一章:初心者編
第十七話:ポケモンと自分


「ふぅ……」
 目覚めた俺は、ポケットの中を調べてみる。
「クロオビバッジ……」
 ホワイトジムを制した際にもらえる証。今日の午前中、スバルさんの元でこき使われて、仕事が終わった際に貰った代物だ。


 育て屋の仕事に加えてジムリーダー代理の仕事までやって、へとへとに疲れた俺が家に帰る用意をしている最中に、スバルさんは俺を呼び止めた。
「そうだ、カズキ……お前のトレーナーカードを見せろ」
「え、あ、はい……」
 俺は財布の中に入っているトレーナーカードを、言われるがままに差し出す。スバルさんはそれを受け取ると、ジムリーダーに配布されるカードリーダーに通し、情報を入力する。
「あの、何をやって……」
 スバルさんは答えずに、ポケットの中を弄る。
「こいつを持って行け……クロオビバッジだ」
「え……でもこれって、挑戦者に渡されるものじゃ……?」
「試験官がバッジを持っていなかったら締まらないだろ? 心配するな、お前の実力ならバッジ1個なんて余裕だから。だからまぁ、私がジムリーダー代理の権限で、お前に渡したいんだ。受け取ってくれないか……?」
 スバルさんは眼鏡をかける。鋭い視線が眼鏡で隠されると、途端に口調も穏やかになる。
「いえ、受け取ってもらえませんか?」
「あ、はい……ありがとうございます」
 思いがけずジムバッジを送られたおかげで、最初は気が引けたけれど、スバルさんの口ぶりから察するに、受け取らないと失礼な気がした。ごつごつとしている、およそ女性の手とは思えないような手からクロオビバッジを受け取る。
 ホワイトフォレストのジムで、オリザさんに認められれば手に入るこのクロオビバッジは、白い勾玉の中に小さく黒の円があしらわれたバッジである。
「白の中の黒……真実を追う者が、ほんの少しばかり理想にも耳を傾け、相手の良いところを尊重するという意味が込められたバッジです。真実と理想が異なる意見を持つにしても、必ずしも正反対なものではないですし、相手の意見には欠点だけでなく利点もあるのです……さっきの貴方の演説、年の割には見事でしたよ。
 狩りが野蛮だとか思う者に対して、きちんと自分の意見を出しつつも、相手を尊重しようとしていました。頭ごなしに否定するのではなく、自分がなぜ正しいと思ったのかを話し、そして相手が野蛮と思う理由も尋ね、尊重していた。
 議論の仕方、説得の仕方に正解はありませんし、まだまだ粗削りではありましたが……神経を逆なでせずに伝えようとする力は、おそらく私よりも上でしょう。私は、相手の神経を逆なでしないのが不得意でしてね。つい挑発してしまいたくなる」
 大人としてそれはどうなんだろう? というか、途中から俺も相手に暴言を吐いていたような気がするけれど……まぁ、いいか。
「眼鏡をしたまま話せば、相手を挑発するとかそういうことはないんじゃないですか?」
「ふふふ、カズキ君はシンボラーで戦った時の私が相手の神経を逆なでしていないように見えたのですか? 眼鏡をしていても、口調は変えられますが、本性だけは変えられないのですよ」
「あー……」
「そういうことなのですよ。カズキ君の言いたいことは分かりますが、口調が丁寧だからといって、相手の感情を逆なでしないわけではありませんし、丁寧な方がより相手を傷つけたりすることもあります。ですので、貴方のように棘の無い言い方が出来るといいのですがねぇ……はぁ」
 スバルさん、そういう自分の性格を気にしているんだ……。気にしていないかと思ってた。
「ジムの人気を横取りしようともいましたが、これでは評価悪そうですねぇ……ホワイトジムを乗っ取りたいというのに」
「そこはもう少し小声で言いましょうよ、スバルさん」
「よいではありませんか。裏表のない女性の方が、オリザさんはきっと好きでしょうからね」
「確かに俺もぶりっ子は嫌いだけれど……それはどうなのかな……?」
 やはり、このスバルという女性はなんか色々おかしいと思う。けれどおかしいなりに色んなことを考えている彼女が、俺も好きだった。

「そして、もう一つ。貴方には一つ大事なことを教えます……今まで黙っておりましたが、私のポリゴンZ……ふじこは……」
「ふじこは……なに?」
「ポケモンの通訳できる。ラマッコロクルとかいう、謎のプログラマーが作った怪しいアプリのおかげでな。あんまりそれに頼られても困るから、自分でポケモンと気持ちを通じ合えるようにと努力させてみたが……お前なら、ふじこに頼る必要もなかろう」
「な……なにそれ?」
 最近こんなのばかりじゃないか。アイルが通訳できるとか、ふじこがどうとか……それに、キズナ達も手話ができるし……。俺だけ、ポケモンと意思疎通する手段が何もないのか……昔は、ガルーラと会話をしていたような気もするけれど、今はポケモンとしゃべるなんて夢物語のようなものだ。
「スバルさんも……なのか」
「おや、どうしました?」
「俺だけ何もないんだ……この前会ったキズナちゃんとかは手話を使えるじゃないですか」
「ふむ」
「それと、俺の近所に住んでいるトレーナーとかは、詳しくは言えないけれどポケモンと会話する手段を持っているんだ……所持しているポケモンがテレパシーが使えるポケモンなんだって……ふじこがどれくらいのものなのかは分からないけれど……でも、なんか……」
「悔しいですか?」
 最後の言葉を出せないでいると、スバルさんが先に言ってしまう。俺はその言葉に応えるのがはばかられながらも、『はい』と小声で答える。すると、スバルさんはメガネを外した。
「気にするな。いつだってポケモンの声を聞けるか、私がふじこを貸してやった時に聞けるかどうかの違いだ。嫉妬する必要はない。そんなにポケモンと話せるのが羨ましいのならば、頼めばいつだってふじこを貸してやる」
 スバルさんは俺のために言ってくれているのだとは思うけれど、なんかそういうことじゃない。上手く説明は出来ないけれど……
「そういうことじゃないというツラだな……いや、まあ、そうだろうな。悔しいのか……だが、恥ずべきことではない。手話なんてこれからゆっくり覚えればいいし、テレパシーは覚えさせる方法を教えてもらえばいい。ポケモンと意思疎通できないことが悔しいならばそれを原動力にしろ」
「……はい」
 そうだ。嫉妬をしていても仕方ない……ポケモンと意思疎通をしたいのならば、行動しなきゃ。
「分かりました……出来る事から始めてみます……」
「そうだ、それでいい」
 スバルさんはそう言って俺の頭を撫でる。
「だがまぁ、その前にウチの子自慢をさせてもらうぞ……たとえば、そうだな……ふじこ、トリニティ」
 言うなり、スバルさんはふじことトリニティを出す。ふじことトリニティは、スバルさんのパーティーの特殊技速攻アタッカーを担う二人だ。スバルさんは、ふじこのクチバシに葉巻の形をしたUSBケーブルを差し込むと、スマートフォンのアプリを起動させる。
「例えば、そうだな……トリニティ、今の気持ちは?」
 スバルさんがにこやかに尋ねると、トリニティが野太い声を上げて唸る。その声を聞いて、ふじこはポケモンの言葉を訳しているのだろう、目を泳がせている。
「ふむふむ……『ハラペコなう、メシキボンヌ! くぁwせdrftgyふじこlp!』だそうだ……」
 スバルさんは画面に表示された文面を、俺に見せ付ける。なんだこの文章は……ぶっ壊れてるし。
「あぁ、こうやって変な変換をするときにふじこって……だからこの子の名前はふじこなんだ……」
「うむ、だからふじこだ……とまぁ、言葉がめちゃくちゃなりに通訳させてみたが……お前なら、ふじこがいなくても腹が減っているのも、餌を希望しているのも、なんとなく分かるだろ?」
「あ、はい」
「その要領で、喜んでいることも、楽しんでいることも、怒っていることも、悲しんでいることも、感謝していることも、ポケモンを見ていれば実はなんとなく分かる……そうだろ、カズキ?
 確かに、ポケモンと話すことが出来るというのは魅力的なことだ。けれど、ポケモンと一緒に政治の話や、就職、学業の話をするわけでもあるまい。ポケモンと語るのに、あえて難しい言葉なんて必要ないのだよ。
 特にお前は、ポケモンとの交流を上手く出来ている。だから、どうしても話したくなるような……そんな時が来たら私に頼め。だがきっと必要はないがな」
 そう言えば、アイルも俺にはあまり必要がないって言っていた……どうしてだろ?
「あの、例のテレパシーを使えるポケモンと……そのトレーナーにも同じことを言われました……俺には通訳する必要はあんまり必要ないって」
「言ったろ? お前くらいのトレーナーならばポケモンが言いたい事はなんとなく分かる。そういえば、道案内をしてもらう時とかもポケモンの言葉が分かるのは便利だったな……そればっかりは、ふじこがいないとどうにもならんかな。
 とはいえ、何度も言うようになるが、具体的な言葉が必要なとき以外は、なんとなく分かればよい。んー……まぁ、難しいかなぁ、子供には。じゃ、参考までに……キズナさんと戦って勝利した時はだな。
 イッカクさんのセリフが『ヤッタッタwwwwぜwwwご主人www ギザウレシスwww』だったかな。『w』の数は正直忘れた。だが、今日に挑戦者と戦ったときのゼロのセリフはしっかり覚えているぞ。
 『マスター、勝ったぜwwwww!』だったな……な、そんなこと、人間の言葉に訳さなくともなんとなく分かる。そうだろ?」
 確かに、あの時抱き付いてくれたゼロにセリフを当てるとしたら……そんな感じだろう。

「まぁ、大体……分かります」
「そう、それでいいんだ。お前は、きちんとスキンシップを図っているし、ポケモンともきちんと向き合っている。トレーナーというのは、『餌と住処だけあげているからトレーナー』なのではない……それぞれの体を気遣い、無理させない。そして、ポケモンと感情を共有し、時に一緒に汗を流す。ポケモンを、家族と思って接している。言葉が通じなくともそれで何とかなるんだから、それでいいんじゃないかな?
 ポケモンと意思疎通する手段が欲しいからといって、手話を覚えさせたりポリゴンZを持ったり、テレパシーを覚えさせる必要はないさ」
「……はい」
 言葉がなくとも、伝わるか……
「なぁ、カズキ。お前にとって、ポケモンとはいったいなんだ?」
「なんだ、と言われましても……ずいぶんと抽象的な言い方ですね……範囲が広すぎるから、結構曖昧になっちゃいそうですけれど……」
「それでいいよ。まとまらなくとも、答えてもらえばいい」
 そう言われると、困っちゃうな……どう答えるべきか。悩んでいると、スバルさんは眼鏡を装着する。
「私はですね……昔は、ポケモンっていうのは競争相手でしたね。残飯漁りの邪魔になるから、たまに殺してその肉を食べることもありました……」
「ざ、残飯漁り?」
 え……なにそれ、スバルさんはどれだけ過酷な人生を歩んでいるんだか……。
「なに、ブラックシティでは今も行われている事でしょう? 浮浪児がたくさんいるのですから」
「そ、そうだけれど……」
「ですけれど、ある時残飯漁りをするポケモンを殺したら、血の匂いを嗅ぎつけてポケモンが寄ってきましてねぇ……食べきれないので残りを譲ってやったら、懐かれてしまってな……そのうち、私にとってポケモンは協力し合う仲でもあり、獲物にもなりました。
 私が懐かれたポケモンはデルビルでしてねぇ……どこかのお金持ちが、逃がしてしまったヘルガーあたりが野性化したのでしょう。これが私にとって都合がよくてですね……まぁ、食べ物を焼いてもらうことで、コラッタの様な病原菌で危なそうなポケモンも、平気で食べることが出来たのです。
 そうして成長した私は、ある時親が失踪しまして……捨てられた服を漁ったり、ワゴンセールの服を盗んだりして服を手に入れていた時期もありましたが、その頃からはスリや強盗によって生計を立てるようになりました。
 その時は、ポケモンは仕事をする上でのパートナーでしたよ。」
「強盗とかスリってそれ、仕事って言わない」
「ふふ」
 笑って誤魔化されたけれど、誤魔化せてない。スバルさんって普通に犯罪者じゃないか。
「スリがばれたら、何としてでも逃げる……ヘルガーと一緒に。運命共同体ですから、その時はすでに……パートナーというよりも家族だったのかもしれません。野性のポケモンは狩りの対象でしたけれどね……ブラックシティは何でもあるので、貴方と同じくホワイトブッシュで狩りをしたりなんかして、お世話になったものです」
「ポケモンは家族、ですか……俺もそうなのかな」
「そうでしょうね。狩りをやるなんて、自分の信頼における人とでなければできませんよ」
「それから先はどうなったの?」
 俺が尋ねると、スバルさんは俺の口を閉じて笑う。
「初恋の相手に、出会ったのですよ。今のお話とは関係ないので、割愛です」
「えー……なにそれ、残念だなぁ」
 俺が言うと、スバルさんは意地悪に微笑む。

「今、私にとってのポケモンはですね……」
 スバルさんが眼鏡を外す。嫌な予感がする。
「私にとって、人間の元で育つポケモンは奴隷だと思っている」
「いやいやいや……」
 思わず素の口調が出てしまうくらいで勢い良く突っ込んでしまった。
「あぁ、奴隷と言っても勘違いするなよ? 奴隷というのは確かに金銭で売買されるし、労働に従事させられるが、その全てが苦役を強いられていたわけではない。奴隷というのは、広義では職業選択の自由がなく、金銭で売買される者のことを言うのだ。だから、能力の高い、家庭教師や医者といった職業に従事する奴隷は、下手な市民よりも高い待遇を受けていたんだ」
「はぁ……」
 よく分からないけれど、黙って聞いておこう。
「私はね、金銭でポケモンを売買するし、育て屋として他人のポケモンを育てたりもする……それらのポケモンは、時に戦闘に。時に通勤や農作業の手伝いに……だが、それはポケモンたちが本当に望んでいたことなのだろうかと、たまに考える。
 もしかしたら、ポケモンコンテストやミュージカルが好みかも知れないし、そもそも野性のまま暮らしていたいかもしれない……人間の奴隷と同じく、下手な野性よりもよっぽどいい暮らしをしている者もいれば……まぁ、虐待されているポケモンについては気分が悪いが、私ではどうにもできないからひとまずおいておこう。
 虐待されているのは問題外として、私たちは少なからずポケモンたちに職業を強制している。同じバトルやコンテストでも、戦闘スタイルやアピールするポイントの違いで主人の思惑とポケモンの思惑が食い違うこともあろう。だからこそ、奴隷だ」
「確かに……奴隷ですね」
「先ほども言ったように場合によっては奴隷も好待遇だし、家族のように扱うこともある……ポケモンは奴隷なんていきなり言ったら、『ポケモンは道具』という者たちと大差ないように思えるかもしれんが、私にとってのポケモンとはそういうことなのだ。
 いや、道具だって大事に扱えば長持ちするだろう……一生使い続ける懐中時計なんてものもあるわけだしな。ポケモンは道具と言うのもあながち間違っていないのかもな。
 ともかく、私は『自分が命を奴隷として扱っている』ということを戒めとするために、私はこういう表現をするのだが……奴隷なんて表現は少々印象は悪いかもな」
「いえ、きちんと聞いてみると、とても納得がいきました……確かに、ポケモンは人間の奴隷かも……」
「そうか……カズキは感受性が豊かだな」
 と、スバルさんが嬉しそうに言う。そうなのかな……というか、感受性が豊かなのだろうか、それは。
「そしてな。だからこそ私は、奴隷であるポケモンが、自分が奴隷であることを幸福に、そして誇りに思えるくらいにしていきたいと思っている。ボールは、ポケモンを収納するために必要かもしれんが、願わくば鎖の要らない奴隷となれるようにな」
 ふぅ、徒ため息を付いてスバルさんが笑う。
「これをジムリーダー採用面接で言ったら不採用になってしまったよ……苦い思い出だよ」
「そりゃー……スバルさんが悪いんじゃ」
「面接官の人間性を見抜けなかった私の責任というのであれば、そうかもしれないな。先程言い争った女と同じ。人の想いを、主張を、最後まで聞こうとしないで上っ面だけで判断する、浅い連中なんだよ、面接官の連中は……きっとね。奴隷でも、道具でも同じ。長く、大事に使わなければいけないものなのにな……」
 スバルさんは、呆れたようにため息をついた。

「改めて聞くよ、カズキ。お前にとってポケモンとはなんだ」
「俺は……ポケモンは……奴隷、なのかなぁ? 今まで家族だと思っていたけれど」
「言ったはずだろう? 家族兼奴隷の様な者もいたと。奴隷でもいいのだ。お前の奴隷であることを誇りに思えるのであればな……そして、お前のポケモンはお前の奴隷である事を誇りに思える。違うか? お前の下に生きるポケモンは生き生きとして毎日を過ごしている。違うか?」
「いえ、そうなるように努力しています」
「ならば、誇りを持て。そして、今のお前には私のふじこも、そのテレパシーを使えるポケモンもそこまで重要じゃない。ポケモンが喜ぶことが出来、分かるお前ならばな」
「はい、ありがとうございます」
 今度は、力強く答えることが出来た。力強く答えると、スバルさんは親指と人差し指と中指の間に挟んでいた眼鏡を付ける。
「よろしい。今日の仕事は終わりです。そのジムバッジ、大事にしてくださいね」
「分かりました……もしも、イッシュの旅に出ることがあれば、その時はこれを持って……」
「あぁ、そうしてくれ」
 そう言って、スバルさんは俺の頭を乱暴に撫でた。男の人のようなゴツゴツした手だったけれど、伝わってくる感触から愛のようなものを感じて嬉しかった。

 感傷に浸っていると、スバルさんも感傷に浸っていたようで、彼女は微笑んだ。
「懐かしいな……昔、ギーマに育てられたのを思い出す……」
「スバルさん、四天王と知り合いなんですか?」
「知り合いなんて浅いものじゃないさ。なんてったって、私を育てたのはあいつだからな。あ、育てたといっても、14歳のころからだからな? オムツを取り替えてもらったりとかはしていないぞ。ポケモンバトルを鍛えてもらっていたんだ」
「へー……四天王に育てられたんじゃ、強いわけだ……ポケモンバトル」
 感心したように俺が言うと、スバルさんは得意げに笑う。
「あいつのように、人もポケモンも育てられる女に……私はね、そういう風になりたくてジムリーダーになりたかったんだ。なのに、オリザにジムリーダーの役目を取られたのは非常に悔しかったが……」
「スバルさん、癖があるからジムリーダーには向いてませんよ、きっと。無理せず、自分にあった子を育てるほうが向いているんじゃないですかね? ジム生となったら、どんな子でも鍛えてあげなきゃいけないジムリーダーよりも、気に入った素材を生かす職人さんのほうが向いていますって」
 俺の言葉に、スバルさんが微笑む。
「いい土、いい木材が無ければ仕事をしない職人か……ならば、思わず育ててしまいたくなるお前は、いい材木かもな」
「……ありがとうございます」
「謙遜もなしとは、恐れ入る」
 そう言って、スバルさんは俺の頭を鷲づかみにしながら撫でた。
「だってほめているんでしょう? 否定したら、『スバルさんの目は間違っている』って言っているようなものじゃないですか」
 頭を小突かれる。
「その通りだな、生意気な奴め」
 上機嫌そうに鼻息をくぐらせて、スバルさんは肩の力を抜いた。

「ところで聞いてくれ。さきほど、オリザの奴から電話があったのだがな……今回は迷惑をかけたお礼にデートに誘ってくれるそうなのだ。あいつのフライゴンと私のサザンドラで空中散歩してからライモンシティに繰り出すんだ……中々楽しそうだろう?」
「え、まぁ……頑張ってください。オシャレして……」
「いやぁ、オリザ以外に色っぽい姿を見せたくはないから、むしろダサい格好していこうかなと思う。そうだな、作業着で行こう」
「そ……そう。頑張って」
 どういうコメントをすればいいのか、俺は分からなかった。とにかく、機嫌は悪くなさそうなのでよかったということにしておこう。


 昼の出来事の回想を終えると、改めて自分がバッジを手に入れたことを実感する。思いがけずだったけれど、眺めてみると嬉しいものだ。そして、バッジスバルさんやアイルの言葉を思い出すと……そっちも嬉しい。
 でも、ポケモンは家族か……奴隷でもあるという前提条件を俺は納得してしまったけれど、やっぱり俺にとっては家族である事には変わりはないわけで。
「じゃあ、家族ってなんだっけ……?」
 なんて、いまさらながらに俺は考える。家族ってなんだろう? 喜びを分かち合ったり、一緒にご飯食べたり……一緒に遊んだり。狩りだって一緒にしているし……じゃあ、やっぱり家族でいいのかな? 分からないけれど、きっとそれが家族なんだろう。とも思うけれど……
「ユウジさんは、どうだったのかな」
 キズナとかは、アオイさんとは姉妹ですごく仲が良かった……それがどういう感じなのかは後で聞くとして、今日はとりあえず、ユウジさんの話を聞こう。隣から、声がするし……多分、帰って来ているのだろう。
「行ってみるか……」
 と、つぶやき、俺は携帯電話を確認する。キズナから連絡があったので、眼を覚ますついでに、俺は電話で今日の出来事についてキズナと語り明かした。けれど、家族というのがどういうものなのかなんて話題は、電話越しじゃちょっと話しづらくて、話題にすることはできなかった。


「こんばんは」
 ひとしきりキズナと語り終えたあと、俺は隣の家の呼び鈴を鳴らし、インターフォンから挨拶をする。
「お、カズキか? どうした、入れよ」
「あの……あぁ、はい。入ります……」
 少しだけ、話がしたいと思って訪ねてみたが、要件を言う前に俺は家の中に案内される。俺は合鍵を使って錠を開け、ユウジさんの家に入る。
「失礼します……」
 まだ時刻は午後8時だってのに、必要以上に声を潜めて俺は言った。
「こんばんは、カズキ。今日はどうした? 何か獲物でも持ってきたのか?」
 ユウジさんはアイルの絵を描いていたようで、スケッチブックにはメイド服姿でポーズをとるアイルが描かれている。アイルは雄なのに、何をさせているんだこの人は……。
「いや、そういうのじゃなくて……ちょっと聞きたいことがあるんです」
 くだらないことかもしれないけれど、と俺は心の中で前置きする。
「改まってどうしたんだ? 俺が答えられる範囲でなら何でも教えてやるぞ」
 そう言ってユウジさんはテレビから目を離して柔和に笑う。この人が父さんだったらよかったのにな。まぁ、21歳だからどう考えても無理なわけだけれど……。
「ユウジさんって、俺の年くらいの時って……家族とどういうことしていましたか?」
「んー……お前の年の頃か。海に連れてってもらったり、たまには勉強しなさいと怒られたな……勉強していなかったけれど、共働きの両親のために一生懸命飯を作っていたからな。褒められるのが嬉しくって、今じゃ調理を学ぶ高校まで卒業して、カジノのレストランで調理スタッフになる始末だ。
 褒めてもらって嬉しいのも、やっぱり両親が好きだったからな。ゲームも遊びも好きなことをやらせてくれたし、休みが取れれば海やスキーに連れてってくれたりとか……そうだな。夏は、一緒に花火をやったりとかしたっけ……」
 昔を懐かしんでユウジさんは笑う。
「だが、カズキ。こんなこと聞いても、お前は辛いだけじゃないのか? お前は父親が誰かも分からないし、母親だって……」
「いや、大丈夫です」
「そうか、何を思ってこんな事を聞いたのかは知らんけれど……そうだな。やっぱり、家族で行事をやるというのが面白い。バレンタインの時には家族に花を贈ったり、イースターの時は卵を探したりとか。ハロウィンもクリスマスも、独立記念日も、感謝祭もね……祝ったりしてさ。国の行事っていうのは俺達家族にとっては別に特別な日でもないけれど、祝ったりすることで家族の絆を確かめ合ったり……なんてね。
 あんまり確かめすぎても有難味が薄れちゃうけれど、年に数回あるイベントで確かめるならちょうどいいかなって感覚でさ」
「なるほど、そんな感じか……」
「で、どうしたんだ、お前は?」
「俺は……その……ポケモンとの向き合い方について聞かれたんです。育て屋のお姉さんに……」
「ふむふむ、それで?」
 その時俺が、単純に家族なんて言葉でしか表せなかったことや、スバルさんが奴隷という表現でポケモンを見ていたこと。ただ、それに共感してしまったことなどを話す。ユウジさんは、余計な口を挟むことなく、相槌を打ちながら聞いてくれた。
「なるほど……お前は漠然と、ポケモンを家族だなんて思っていたわけだが、家族ってものがどういうものだか分からなかったとか、そういう感じかな?」
「そんなところです」
「そっか……まぁ、でも家族の形なんて人それぞれだよ……」
 そう言って、ユウジさんはずっと放っておかれていたアイルの腰に手を回す。アイルは最初こそ体をびくりと震わせたが、上機嫌になってユウジさんの頬を舐め、お返しにユウジさんはキスをしている。相変わらず仲がいいなぁ。気持ち悪いくらいに。

「お前が、お前の思うままにやって行けばいいさ。お前がされて嬉しいと思うことをポケモンにやって、ポケモンも同じようにお前の望むことをやる。それでいいじゃないか。どんなポケモンも同じことをされて嬉しいわけじゃないが、そういう風に心がけるのが一番いいだろうよ」
「まぁ、そうなんですけれど……自分のやっていることが不安になっちゃって。でも、案外簡単なことなんですね……家族であるってことは」
「そうだよ。やる気になれば誰だって出来る事だ。だからこそ、家族というのは、家族であらなければいけないことだけれどさ。お前は、お前の親みたいなろくでなしにはなるなよ?」
「分かってます。ただ、それを実践するのが難しいきがしたから……家族ってのはどういうものなのか聞いてみたくって……でも、なんとなく分かったような気がします」
「なんとなく分かったか。じゃあ、どうする?」
「このまま、特に何もしないでも大丈夫な気がしました。たまに季節のイベントに乗っかって、ポケモンたちに何かお礼をできれば、それだけでも大丈夫な気がしました……家族って、何か特別なことをするから家族じゃないって」
「特別な事をしなくっても大丈夫だから家族なんだよ。家族は、日常の一部になるという特別な存在なんだからな。ま、それだけじゃ味気ないから、たまの彩くらいは添えてやんな。クリスマスとかで何か料理とかが入り要なら、俺も協力してやるからさ」
「……ありがとうございます」
「あ、そーだ」
 何かを思いついて、
「はい?」
「今から花火やりに行こう。近所のスーパーまだ空いているだろ?」
「空いてるというか、あのスーパー24時間営業ですし」
「よし来た、行こう。俺が花火買ってやるから、好きなの選べよー」
「で、でも……」
「俺も、お前の家族だよ、カズキ」
 テーブルを挟んで向こう側のユウジさんは、見下ろしながら微笑んでそう言った。
「だから行こうぜ」
 俺が、家族……ユウジさんとは全く血のつながりも何にもないけれど、家族……か。
「お願いします。一緒に行きましょう」
 俺達は、外に出る。ヒートアイランド現象が度々起こる摩天楼も、夜は涼しい風が吹く。湿気を伴った夜風だが、冷めた風は心地よくて、Tシャツが風に靡くたびに体の表面が涼しくなった。
 クーラーの効いたスーパーマーケットに行くと、まずは湿って張り付いたシャツをつまんで上下させ、シャツの中に冷たい空気を放り込む。体の芯は全然冷えないが、とても気持ちが良かった。ポケモンは入場禁止ではないし、もうお客も少ないので俺もゼロを出してみる。二人で花火のコーナーを物色していると、俺達はどんなふうに見られただろうか。
 ストライクを連れた少年と、ゾロアークを連れた青年。似てないけれど、年の離れた兄弟のようにみられていたらちょっと嬉しいだなんて俺は考えてしまう。

 外で一緒に食べるためのカイスの実なんかも買って、俺達は帰路につく。夜でも眠らないこの街は裏通りは危険だけれど、表通りだからなんら危険な目に合うでもなく、俺達は家にたどり着いた。
 そうして、俺達はアパートの庭に。あまり大きな庭ではないが、花火をやるには十分すぎるくらいのスペースはある。アスファルトの地面の上には消火用のバケツ。入口の石段には、綺麗に切り取られたカイスを大皿に並べ、そこから綺麗な炎を眺めつつ食べろと言った感じだ。
「みんな、出て来いよ!」
 いつもは、遠くから家屋がやっているのを眺めるだけだった、花火。一人でやっても寂しいから縁のない物だと思ったけれど、ユウジさんが一緒にやってくれるなら……今日は、全力で楽しみたい。楽しむためには、ガヤは多い方がいい。
 ボールから繰り出したポケモンたちは、キョトンとしていた。花火をやるというのはさっきから伝えているが、どうにも花火というものがどういうものなのか分かっていないようである。花火自体は空に打ちあがっているのや、他の家族がやっているのをを見たこともあるが、一度も単語を教えていないせいだろう。
 イッカクは花より団子といった感じで、早速カイスの実にかぶりつきにかかっていた。甘い匂いが好きなんだろう。トリはママンにぴったりと寄り添い、花火のパックを興味深そうに見つめている。鳥系のポケモンの刷り込みは偉大である。
「よし、みんな揃ったな? いっちょ驚かしてやるか!?」
 言いながら、ユウジさんは柄の長い使い捨てライターを用いて花火に点火する。途端、真っ白な炎が先端から吹きあがる。ゼロとママンは一瞬体を震わせたが、たまに見るあの炎だと分かって安心したようで、興味深げにその炎を見つめている。人間のように豊かな色覚は持っていないだろうけれど、それでもなんとなく綺麗なことは分かるようだ。
 トリは、興味津々なのか、炎に近づこうとしたが、飛び散った火の粉が熱かったおかげで、すっかり驚き、ピィピィと鳴き声を上げながらママンの膝の後ろに隠れてしまった。それでも、興味津々なのは変わらない。白から赤、青、緑と移り変わる炎を見ながら、トリが目を輝かせていたのを俺は見逃さない。
 イッカクはカイスの実を食べるのに夢中だが、ちらちらとこちらの方を伺っている。やはり興味はあるらしいし、虫だから光に惹かれるものがあるのかもしれない……触っちゃダメだよ?
 アイルは、カイスの実の味に舌つづみを打ちつつも、花火の炎を注意深く観察してるようだ。あれも、後で幻影で再現しようということだろうか、だとするならば頼もしい。

 ユウジさんは、数本の花火を一気に点火して俺と一緒にはしゃいだり、地面に置いて打ちあがったり、噴水のように広がる火の粉を見ながらカイスをつまんだり、スモークチーズを肴にビールを飲んだりと、割とフリーダムに花火を楽しんでいる。
 ビールは一本だけで、よく冷えているのか水滴が滴っている。その隣には、俺のために購入されたジンジャーエールが同じく水滴をかぶっておかれている。点火された花火から吹きあがる火花の噴水を見ながら、俺はユウジさんの隣、アイルの逆側に座る。アイルのように、ユウジさんの腕に抱き付いて寄り添うようなことはしないけれど。
「綺麗ですね」
「いいだろう、こういうのも?」
 色とりどりの炎には、俺だけでなく、皆が見とれている。涼しい夜風を感じながら、こんな幻想的な雰囲気を楽しむというのはいいものだ。
「はい……」
 親指ほどの小さなスモークチーズを口に放り込み、少し打つ噛み砕きながら、俺はジンジャーエールを飲み下す。しょうがの独特の辛さ、冷たさ、炭酸の刺激的な感触を味わいつつ立ち上がり、口の中に残っているチーズの残りをまた少しずつ砕いていく。
「もう残りも少ないですし、一気に燃やしちゃいましょうか?」
 手持ちの花火はもうない。残っているのは設置式の花火が三つだ。
「そうだな……おい、アイル! 行けるか?」
<おうよ、ご主人!>
 何が、とは言わない、アイル自身確認もしない。けれど、アイルは当然分かっている。俺が残った三つに火を着ける。すると、応えるようにアイルが立ち上がって幻影の力をフルで発揮した……はずなのだが、周囲は一瞬歪んで見えたかと思うと、特に何も変化はない。
 俺が怪訝に思っていると、噴出した火花を見て驚いた。色とりどりの火花は、散っても消えることなくキラキラと瞬いている。しかも、その輝き方と言えば、火花のような荒々しくて、とげとげしい光ではなく、LEDのイルミネーションのような優しい光。それが風船か何かのように空中を漂っている。
 いつしか、その輝きは飽和して、光の珠と吹き上がる火花の噴水が共演するようになる。花火が力尽きるまでその光を浮かばせていたアイルは、一度手拍子してすべての光をはじけさせる。グリーンピースほどだった光の塊は、ゴマ粒ほど、粉雪ほどの小さな欠片に分裂して。最後には空中に溶けて消える。
「すっげぇ……」
 思わずため息が漏れるくらいの美しさに、思わず声を上げる。ゼロ達も見とれていたようで、まだあいつらも心ここに在らずと言った、どこか浮遊感のある表情をしている。
「どうだカズキ? アイルはすごいだろー?」
<褒めて褒めてー!>
 俺にも聞こえるテレパシーを放ちながら、アイルはユウジさんに抱き付く。ユウジさんはアイルの背中や尻を撫で頬ずりをし、最後にアイルの頬を引っ張りながらアイルの口にキスをする。お前ら、男同士だろ……いや、もう何も言うまい。
「えと、すごい……ですね」
 俺も褒めてやろうかと思ったけれど、これだと何とも話しかけにくかった。それにしても、もうテレパシーは飛んでこないが、抱き付いているアイルは『大好き』とかなんとか思っている気がする。気がするだけだけれど、それでもいいのかな。なんにせよ感情は十分伝わっているわけだしさ。
 さて、俺は……。
「ゼロ、ママン、イッカク、トリ。綺麗だったな?」
 俺のポケモンたちを見回してみると、皆が頷いていた。
「綺麗なんだな……」
 花火の光を綺麗に思うのは人間と一緒。その感覚を共有出来て良かった。

「そりゃもう、綺麗だろうさ」
 後ろから語りかけられて振り返る。ユウジさんが笑っていた。
「アイルの幻影は一級品だからな……で、楽しめた?」
「そりゃ、もちろん!」
 答えると、ユウジさんは俺の頭を撫でる。
「なぜ、楽しかった? 綺麗だったから? それとも、俺達と一緒だから?」
「どっちも……かな? あぁ、そっか。1人でも楽しめるゲームとかはあるけれど……こういうのは1人じゃ楽しめないもんね」
「そう。それが家族とか、友人ってものだと思うぜ。こういうのは1人じゃ絶対に楽しめない……まぁ、サッカーとか野球みたいな人数いないと成立しないのは別として、家族ってのは1人では楽しめないものを共有出来る事が……大事なんだと思うよ。
 奴隷とか言っている、その人の言い分も十分に理解できるし、きっとその通りなんだと思う。だけれど、奴隷で家族……だったけ? お前ならばなれるぜ。奴隷だろうとなんだろうとレッテルを張られても、家族という面を押し出していければ……大丈夫。
 俺とお前は赤の他人なのに、こうして仲良くなれるんだ。人間とポケモンで出来ないはずがないだろ?」
「……はい」
 臆面もなく言ってくるユウジさんと違って、照れてしまった俺はまともに目を見ることも出来ず、目を伏せたまま頷く。顔を上げる時は、ユウジさんの右手を取って、握った。
「これからも、ずっと家族でいてくださいね」
「あぁ」
 ユウジさんはにっこりと笑って、俺の手を握り返す。その手は汗ばんでいたのか、ビールの水滴で濡れていたのかは分からなかったけれど、湿っていて少し残念だったと思う。
「お前、狩りなんてやっているからな。もし俺が店を持つことになったら狩人の気まぐれランチなんてメニューを付けたいくらいだ」
 数秒経って手を離すと、ユウジさんは唐突にそんなことを言う。
「えー。でも、熟成していない肉だから結構硬いですけれど、お客さんきちんと食べられますかね?」
「俺が上手く料理をする。何の問題もないさ」
 夜風に当たりながら、俺達は語り合う。ポケモンたちは、最初こそボーっとしていたが、やがて微睡んで溶けるように眠りに落ちてしまった。眠りに落ちた子から順番にモンスターボールに入れて、俺は眠くなるまでユウジさんと語り明かす。
 その気になればいつでも出来ることなのに、なんだか貴重な体験だったように思える夜であった。

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今日は、スバルさんのジムリーダー代理を手伝った。午前中の忙しさは、そりゃー大変だった。あのポケモンを持ってこいとか集めて来いとか言われて、育て屋の園内を縦横無尽に右往左往。そして、その時スバルさんの強さも十分すぎるくらいに思い知った。
あの人、育てたポケモンが強いのは当然だけれど、ポケモンに指示してポケモンの真価を発揮させるのもとても上手い。ジムリーダーとしての強さの資質は十分というわけだ。トリニティは元が強いから良しとしても、シンボラーをコスモパワーで強化して3タテしたのは、忘れられない。

そしてその後、仕事が終わった俺にスバルさんはジムバッジをくれた。俺は十分な強さを持っているし、試験官を任された以上は持っていないと格好がつかないからからという理由で、特にバトルは行っていないけれど代理権限であげるとの事。
その時に話したふじこの秘密……あいつ、変な言葉を使いまくっているけれど、ポケモンの言葉を訳す力があるらしい。アイルとほぼ同時期にそれを教えてくれたということは……その、俺が成長したとかそういうことなのだろう。確かに、ビリジオンと深く交流したのも最近だし……
その時に話した内容なんだけれど……ポケモンとの関係について。俺がどうこたえるか迷っている間に、スバルさんはポケモンの事を奴隷だと言った。
奴隷と言っても、奴隷はすべてが苦役を強いられているわけではなく、優遇される奴隷もいたそうで……でも、奴隷である限りは職業選択の自由もないし、金銭で売買されるというあたりは確かに奴隷なのかもと……育て屋の仕事を思えば、俺もそう思った。
確かに、ポケモンはトレーナーがバトルをやりたいと思えばバトル。コンテストをやりたいと思えばコンテスト。その他ミュージカルも、農作業も、土木建築も……トレーナーの意向次第だ。ある意味じゃ職業選択の自由がない。
確かに、野性で暮らすよりはまともな生活なのだろうけれど……そうやって、ポケモンのやりたいことを制限しかねないことをやっている俺達トレーナーは、罪深い……なんて言われないように、スバルさんは『奴隷であることを幸せに思えるよう、奴隷であることを誇りに思えるよう』にと言っていた。

だから俺は、ポケモンを奴隷でも家族として生かしたいと言った。そしてスバルさんは『それでいい』と言ってくれた。
家族というのがよく分からなかった俺だけれど、家族というのは一人じゃ楽しめないことを楽しめる存在なんだと思う。
ユウジさんに花火に誘われてそう思ったから。だから、俺はポケモン達と楽しみを共有していきたい。嬉しいことも苦労することも、全部。
7月25日


Ring ( 2013/09/12(木) 22:11 )