第十話:2回めのバトル
この前は俺も醜態をさらしてしまったが、今回はそういうことが無いように注意しなきゃな。進化の輝石を入手した今でも耐久力は難が残るけれど、れのおかげで相手を本気で殴っても痛くなくなったので、好きなだけ攻撃が出来る。それだけで反撃を受ける可能性も小さくなるし、疲れる前に相手を倒せる可能性だってある。
とにかく、以前のような醜態をさらすつもりはない。そう思ってカズキの『戦いたいか?』という質問には頷いてみたはいいものの、人間たちの話は長い。あくびが出そうなくらい退屈だったので、俺はご主人にボールに入れてもらって、その中で戦いが始まるのを待った。
次に繰り出されたのは、草原エリア。この緑色の体色が草に紛れて狩りがしやすい、俺が一番好きな場所だ。
見れば、ママンやイッカクも繰り出されていて、相手はアサヒとかいうコジョフー、タイショウとかいうダゲキ、セイイチとかいうリオルの3人。あの時と同じ組み合わせだ。
「さぁさぁ、お2人さん。バトルともなれば色々と入り用でしょうからね。たくさん道具を持ってきましたよ」
そんなことを言って赤い籠に雑多な道具を入れて、いつの間にかモンスターボールから出したポリゴンZを連れたスバルが2人にそれを寄越す。種類は20程だろうか、そこから選んでバトルに使えという事らしい。俺は進化の輝石があるからいいとして……イッカクにはなんだかオレンジ色の珠。確か、火炎珠とか言ったっけか。
ママンには若草色の宝石。アレはなんだっけか……? 俺が持っている道具以外はあんまり興味ねえや。
そして、相手はタイショウが何やら木の実を持って行った。ドライフルーツにされているからよくわからないな……あれはいったいなんの実だろう?
そして、アサヒは黒い帯を腰に巻いている。アレは……弱点の攻撃をすると、ダメージが増える道具だったか。そして、あのリオル、セイイチには、オレンジ色の宝石を持たされていた。……ママンに持たせた奴と同じ系統の道具であろうか? よく分からないが、警戒しておこう。
「よし、お前ら……ちょっとした作戦会議……というか、道具の説明をするからな?」
そう言って、ご主人は俺達に道具の使い方を教えてくれる。まず、俺の進化の輝石は持っているだけで効果が出るからいいとして。ママンが持たされた宝石は草のジュエルという代物らしい。何でも、それを持っている時に草タイプの技を使うと、自動的にその攻撃が強化されるのだとか。1回使うと回復するのに数分かかるそうで、1回の戦闘では1回くらいしか使えないと言う。
ここぞという時に使いたい道具であるそれのために、ご主人はタイミングをきちんと教えていた。そして、イッカクの道具である火炎珠。アレは、持たせることで、戦闘中に気分が高まるに応じて強酸がにじみ出て火傷する珠らしい。主人曰く、大事な試合以外では使いたくないそうだが、後でチーゴの実を食べさせてあげると言った途端イッカクは俄然やる気を出した。
……まぁ、やる気があるのはいいことだ。流石に幼いバルチャイ、トリの出番は無しという事で、説明もそこそこに試合も始まってしまうようだ。
『お前ら、練習試合だからといって、ご主人に恥をかかさないように頑張ろうぜ!』
『無論、小生はそのつもりだ』
ママンが渋い声で答える。
『とりあえず、チーゴの実を貰えるように頑張るわー』
お気楽そうな声でイッカクが答える。
「よし、みんな! やる気十分みたいだな。期待してるぞ!」
もちろん、その期待に応えてやるとも、ご主人!
◇
スバルさんは、俺達のための道具を持ってきてくれた時には、ポリゴンZのふじこをモンスターボールから出していた。タバコを吸うためのパイプ型のUSBケーブルを咥えさせていて、スマートフォンに電力を供給しているのだろうか? スマートフォンは写真判定とかにでも使うのだろうか、それともローテーションの審判をしやすくなるようなアプリでもあるのだろうか? よく分からないが、そういうことなのだろう。
「それでは私、スバルが審判を務めさせていただきます。勝負形式はローテーションバトル。交代は体の一部をタッチすることにより認められ、一度交代すると、10秒以内の交換は認められません。人数は3対3、ポケモンは個別に棄権させることが出来、3体すべてが棄権もしくは戦闘不能になった場合決着といたします」
開始の合図がスバルさんの口から洩れる。一番手はゼロと行きたいところだが、今回は様子見もかねてママンを出す。相手も、前回とは最初に繰り出す相手を変えて、ダゲキのタイショウを繰り出した。
「こりゃ、難しいね……」
相手がどう出てくるかは分からないが、ダゲキは遠距離攻撃は苦手なはず。出せる技と言えばストーンエッジくらいなものだろう。こちらは相手が近づいてきたら、捨て身であの技を放てばいいのだが、さてどうなることやら。
「分かっているか、ママン? 隙をうかがうんだ……とにかく、防御の構えを取れ。相手がいつ殴って来てもいいようにな」
体の前にカマを構えさせる基本防御姿勢。それをやっておくだけでも、気合いの入り方や安心感は違うものだ。
「隙を狙うのはこっちも一緒だぞ、タイショウ? とりあえず、攻撃のタイミングはお前に任せる……期待してるぞ!」
どうやら、キズナも似たような戦法で来るようだ。それなら、こっちにも考えがある。
「ママン……防御の体勢のまま虫のさざめきだ。相手の目を……」
覚まさせてやれ、と言う前にママンは翅を震わせさざめいた。耳障りな音があたりに鳴り響く。格闘タイプであるタイショウにとっては効果が今一つだし、生憎俺のママンは物理型。威力には乏しい。しかし、相手の攻撃を誘うだけの材料にはなったようだ。
耳が潰される前にと駆け出したタイショウは、顔とわき腹を守りながら半身になって突進。鋭い踏み込みから、防御しているカマごとひじ打ちで打ち砕く。インファイトだ。
右腕で、後ろから前へ打ち払うような横なぎのひじ打ち。次いで、前から後ろへのひじ打ち。往復して行われた2度の肘打ちにより、ママンの防御が完全に崩されたが、もう一撃が加わる前にママンのリーフストームがさく裂した。掌底を加えようとしたタイショウは、その草の奔流に切り裂かれ、一撃の元に叩き伏せられた。かと思ったが……耐えたか。
それが、どうして耐えられたのかを考える前に俺は指示を下す。
「ママン、逃げろ!」
「起死回せ……」
不完全なままに潰された虫のさざめきでは、頑丈の特性を潰すには役に立たなかったらしい。そして、ここでダゲキが耐えたとなれば次に来る攻撃は起死回生のほぼ一択である。ママンがそれから尻尾を巻いて逃げるのは無様な姿ではあるが、こういった判断が出来るのもローテーションバトルの魅力。
「そのままゼロとタッチ!」
タイショウの起死回生の一撃は、放たれる前にママンが射程外に逃げてしまったため、ママンを追う羽目に。そうこうしている間に、ママンは自身のカマを伸ばしてゼロのカマと触れ合わせる。長いリーチを持つ者同士、カマが触れ合うとともに交代が成立。ゼロが振るう神速のカマがタイショウを小突いた。
タイショウの胸を狙ったで疾風の一撃が伸び、タイショウの攻撃はゼロの長いリーチに阻まれ届かない。胸にカマが突き刺さったところでタイショウは崩れ落ち、倒れ伏した。
「タイショウ、戦闘不能。バトルから除外してください」
スバルさんが淡々と事実を告げた。よし、いい調子だ。
「……よし、よくやったぞママン、ゼロ」
インファイトの最中の無防備なわき腹に刺さったリーフストームは、頑丈の特性なしには耐えられないレベルでのダメージを与えた。腕にひじ打ちを喰らったママンは痛そうにしているものの、まだまだ戦うことは不可能ではないコンディションだ。
「タイショウ、戻れ」
悔しそうに歯を食いしばりながらキズナがモンスターボールを構え、タイショウをボールに戻す。
「すまないな……本当は、インファイトから起死回生の一撃にかけるつもりだったのだけど、それをやるには最初のけん制。虫のさざめきが効いちゃったな。効果はいま一つでもゴリ押しできるかと思ったんだが……もう少し、技を色々考えてみるよ、タイショウ」
モンスターボールを見つめながらひとしきり言って、キズナはこちらを向く。なるほど、そんな作戦があったのかと感心するが、そんなことより俺も目の前の敵に集中しなければ。
「さて、次はお前だ。行けるな、アサヒ?」
そう言って、キズナがアサヒをけしかける。言いたくはないが、このパーティーは全員飛行タイプに弱い。アサヒのアクロバットは、非常に都合の悪い技なのだ。特にママンとイッカクはそれが顕著で、ゼロもまた外骨格が薄すぎて一撃でやられることは必至。
だが、どうせ一撃でやられるのならば……
「やっぱりお前だよな……リベンジ決めて来い、ゼロ。ママンは休んでいろ」
そう、こいつしかいない。ゼロはシャーッと鳴いて俺に応え、退くことなしにアサヒに挑む。相手は怯むことを知らない精神力もちのポケモン。素早い連続攻撃を主体に攻めるゼロの攻撃でも、ひるむことなく攻撃を叩き込んでくる。それをどう対処するのか……ヒット&アウェイを徹底できればいいのだが、それは言うほど簡単じゃない。
だけれど、ゼロは以前より強くなったはず。
「頼むぞ!」
「頼むぜ!」
俺とキズナの応援が交差する。面白いじゃないか、度肝抜いてやれ!
「下がれ!」
「猫だまし!!」
ゼロがバックステップを行いながら突き出したカマがアサヒの猫だましを阻止する。そのカマを叩き落とそうとアサヒが右手を振り抜くがそれが当たる前にゼロは手を引いた。
「はたけ!」
「脚!!」
カマを胸の前まで引く反動で、蹴りを飛ばす。叩こうとしたアサヒの手を右足で逆にはたきあげ、防御を甘くしたところでゼロは右カマを横なぎに振り回す。その斬撃は、地面の草を刈るように進む。いや、実際に草を刈りながら進んだ斬撃が、草に紛れながらアサヒを襲った。
「縦!!」
脚を狙った斬撃を、アサヒは見切って小さな跳躍でかわす。しかし、まともに地面を踏み締めることも出来ずに跳んだおかげで、空中にいる朝日の姿勢はまともに整っていない。そこを襲うはゼロが縦に振り抜く左カマの追撃。薄い外骨格の刃から繰り出される、鋭く速い斬撃がアサヒの脳天を叩く。大事を取ってカマには布を巻いているとはいえ、跳躍したところを地面に叩きつけられ、アサヒは尻餅をついた。
倒れながらも破れかぶれに放ったアサヒのストーンエッジをゼロが避けると、その一瞬の隙にアサヒは立ち上がっていた。仕切り直しだが、ここで息を整えれば、ゼロはあと10秒は戦える。
「よし、ゼロ……良い調子だ」
「やるじゃねーか……というか、お前のストライク攻撃力も上がってねーか?」
「今までのゼロは外骨格が薄すぎて本気で攻撃出来なかったんだ……でも、進化の輝石のおかげで、多少強く殴ってもカマが痛くならなくなったおかげさ」
「なるほど、俺と同じか……俺も拳を鍛えていなかった昔は瓦割りできなかったからな……」
そう言えばキズナはポケモンレンジャーに憧れていると言っていたが、そういう鍛え方をしているのか。ポケモンと人間を同列に扱うのはなんだか違和感があるが、拳を痛めるという自身の経験のおかげでキズナもなんとなく分かったようで何よりだ。
そうこうしているうちに、膠着状態のままゼロは息を整えている。さて、次はどう来るのか。
「トンボがえり」
「ラリアット!!」
次にキズナが選んだのは逃げの一手。ゼロの体を蹴り飛ばして突き放しつつ、仲間のセイイチに対して安全確実にタッチしようと決めたらしい。しかし、そういう攻撃を捌くのはゼロにとっては得意中の得意。
相手の攻撃を斜め前に歩んで避け、同時に首に向かって翅を叩き込む。テクニシャンであるこいつが、自身のタイプと一致する飛行タイプを交えた一撃は、格闘タイプのアサヒには相当痛いはずだ。ゼロが向き直った頃にはアサヒも立ち上がっていたが、首を押さえて痛そうにこちらを睨んでいる。いま、アサヒの逃げ場はゼロの体の向こう。タッチすれば交代というルールは、裏を返せばタッチしなければやられるか棄権させる以外に交換する方法はないという事。
アサヒは、通せん坊されることで、目の前なのに遠のいてしまった仲間を見ているゼロと俺との視線が合わさる。もちろん、アサヒの事も同時に見ていて、注意は緩んでいない。
「見切って逃げろ」
「ツバメ返し!」
キズナの指示は、見きり。短時間だが集中力を高めることにより、いかなる攻撃も避けることが出来るようになるという魔法のような技だ。その謳い文句は裏切ることなく、アサヒは必中と称される飛行タイプの一撃をも見切っていなして避ける。
「虫のさざめき!!」
追わせることはしない。ちょっとでも体力を奪うべく、俺はゼロにそう命じる。突然の翅音に、キズナやセイイチまでも耳を塞いだ。ある程度指向性を持たせているとはいえ、こっちまで五月蠅いくらいなのが珠に傷だ。
「ゼロ、イッカクと交代だ」
言い終える事にはアサヒはセイイチと交代する。その間に俺達は俺達でゼロを交代させるのだが。その時キズナが奇妙な行動をする。右手の人差し指を頬に当て、次は左手の上に右ひじを乗せ、右腕を伸ばす。
「あれは……」
スバルさんが驚いている。どうやら、手話で指示を下しているようだ。そんなの有りかよ……いや、何が来ようとやってやるだけだ。そうこうしているうちにゼロはイッカクとタッチして交代を果たす。
「まずは守れ!!」
相手のリオルは悪戯心。何をされるか分からないので、初手は様子見を……
「剣の舞だ、セイイチ!!」
やられた。悪戯心のリオルが相手だからと思って安全策を取ってしまったが、相手に技を積むチャンスを与えてしまったとは……だが、呼吸を整え一時的に攻撃力を挙げたとて、流石にイッカクを一撃で落とせるほどでもなかろう。
根性の特性を持つイッカクが火傷した状態の攻撃力は伊達じゃない。力押し一点張りのゴリ押しだろうと、リオルくらいなら軽く粉砕するだけの膂力はあるのだ。
「イッカク、インファ――」
一撃で決めてやる、そう思ったらセイイチは突然尻尾を巻いて逃げだした。恐れをなしたか……そのまま相手は転んでしまったことだし、ここは苦しませないようにこのまま一気にインファイトを決めて……
「やっぱ地震だ、イッカク!!」
決めてやろうかと思ったが、何か言いしれない恐怖を感じた俺は地震を命じる。
「あ……」
キズナが間抜けな声を挙げる。バトルフィールドをに地響きが放たれる。転んでいたセイイチにとっては急所に当たったも等しいダメージが体を貫きセイイチは吹っ飛んだ。
「……セイイチ、戦闘不能。バトルから除外してください」
スバルさんに言われて、キズナは悔しそうに歯を食いしばりながらセイイチをボールに戻す。
「すまないな、セイイチ……あと、スバルさんすみません」
そう言ってキズナはスバルさんに向き直る。
「俺、棄権します。傷ついたアサヒだけじゃ、あの三人には勝てる気がしません」
「なるほど……では、棄権により、カズキ君の勝利で勝負ありとします」
スバルさんがバトルの終了を宣言する。
「いよっしゃあ! 俺達の勝利だ!」
俺は歓喜し、イッカク達ポケモン3匹と抱き合って勝利の喜びを分かち合う。
向こうでは一人残ったアサヒが悔しそうにキズナを見上げていたが、やがて諦めたのかため息をついて不貞腐れてしまった。スバルさんはスマートフォンの画面を見て微笑んでいる。何のアプリなんだろうか?
「あー……ごめんな、アサヒ。流石にあいつら相手に、お前だけじゃスタミナが持たないと思ってさ……」
戦えなくて欲求不満なのだろう、ツンとした態度でそっぽを向いたアサヒを抱き上げ、姉と比べて発達していない胸に抱きしめる。こうやってしまえば、不貞腐れた態度も形無しのようで、アサヒは大好きな(多分)主人の胸の中で甘える体勢に入ってしまった。胸に顔をこすり付けてマーキングの体勢に入っている。
こっちはこっちで、皆を労っている。ゼロを抱きしめて頭を撫でたり、イッカクニはチーゴの実を与え、ママンにもゼロと同じことをする。みんなよくやったもんだ。
「お2人さん、とても良いバトルでしたね。この年齢にしては、どちらも良く研鑽為されております」
「そうね、見ているこっちまで熱くなっちゃったわ」
スバルさんとアオイさんが、共に俺達を褒めてくれる。ちょっと、照れくさいな。
「え、そうですか……俺、今まではシングルで友達と勝ったり負けたりの、いたって平均的な成績だったんですけれど」
つい最近までは、没個性の分類だったんだけれどなぁ。それに、ローテーションバトルは相手がいないから、最近は全然勝負せずに、育て屋の子達と模擬戦ばっかりだったし。
「いや、俺は2対2のシングルバトルなら、ジムバッジ2個持ったトレーナーの相手を安心して任せられるって師匠に言われてるし……ローテーションバトルとはいえそれに勝っちゃうんだから、すごいんじゃねーの?」
へぇ、というかキズナって結構強いんだな……そうなると、いい勝負が出来る俺も、それなりに強い……のだろうか。
「まぁ、実力はポケモンたち自身の基礎体力、レベルも含まれますからそれはさておいて。カズキ君の戦い方で何よりも評価したいのが、道具を有効に使うことが出来ること。進化の輝石はともかくとして、草のジュエルや火炎珠の使い方、悪い物ではありませんでしたよ」
「あ、ありがとうございます」
あー、やっぱりプロの人から褒められるのは嬉しいなぁ。
「そして、キズナさん。貴方、戦闘中に手話で指示をしておりましたね……」
「あぁ、あれか。何でも、ポケモンと手話をするための本を書いた人が、バトルパレスで実際にやっていた戦略らしくって……セイイチ。リオルに使ったんだ」
「やはり、
堀川 一樹か……」
「知ってるんですか?」
スバルさんが口に出した名前。ホリカワイツキ……俺は全く知らない人の名前だが、誰なんだろう?
「そのイツキって人は、何者なのですか?」
俺の知らない話題で盛り上がっていると、ものすごく困るんだけれど……
「リテン地方という場所のフロンティアブレーン……の中でも最強と称された育て屋です。ポケモンマスターの称号も、ミクリと同じく二回の受賞の経験がある……まぁ、育てや業界の中では神のようなお方ですよ」
「バトルフロンティアのバトルパレスって施設では、交代以外にポケモンに具体的な指示が出せねーんだ。そこに、ナツメってジムリーダーがテレパシーでポケモンへ指示しだしたから特殊な装置被らされてテレパシーも禁じられたんだが、手話だけは禁じられていなかったんだ。
そのフロンティアブレーンは相棒のサーナイトやラティアスに手話で命令して……まぁ、そのおかげで連戦連勝だそうで……。俺たちが手話をポケモンに教えたのも、その人の影響……」
「手話による指示は本来はバトルパレスでルールの穴をついてポケモンに指示を出すための技術ですが……あの時、貴方はいったい何を指示したのですか?」
「『嘘』、『転ぶ』……転んだ振りしてだまし討ちをしろって意味……見破られちゃって、地震で攻撃されちゃったけれどね。ただ、嘘の指示っていうのは……ポケモンバトルではたまに行われる。有効に使えば強いよ」
思い出してキズナは悔しそうに一瞬俯く。
「でも、それをすぐに見破ったんだから……カズキ、やっぱりお前すげえよ。今回は俺の完敗だけれど、次は負けないように……シングルバトルでやってもらっていいか?」
「あぁ、構わないよ……でも、俺、これからはローテーション一本でやって行こうと思っているんだ。模擬戦程度にシングルはやろうと思っているけれどさ……」
「えー……でもそれじゃ、友達と遊べなくないかしら?」
確かに、それはアオイさんの言う通りなんだけれど。
「確かにそうなんですけれど……アオイさんはビリジオン捕獲祭りって知ってます?」
「え……そりゃ、もちろん。あれでしょ、ブラックシティの均衡を保っているビリジオンを称えて行うローテーションバトルの祭典……格闘タイプのポケモンを必ず一匹入れる試合だったわね。ビリジオンの親が旅立つ年は、彼らを捕獲する祭りになるだとか」
「そう言えば、来年の春は実際にヌシが旅立つから、普段は飾りである『捕獲』という言葉が現実になるそうですよ」
アオイさんの言葉を補足するようにスバルさんが言う。
「マジで? ってことは、大会で優秀な成績を残せばビリジオンをゲットするチャンスがあるって訳か?」
「そうらしいよ……とはいっても、2位までに入らなきゃ無理だし、捕獲祭りのときは強い人たちがこぞって訪れるから、勝ち残れる保証はないけれど……」
まさか、キズナはやる気になってくれるのかな? 一緒に鍛えられる人がいてくれるのは非常に嬉しいし、誘っちゃおうかなぁ……
「関係ねーよ。ポケモンはその気になればすぐに育つ。なぁ、カズキ、俺も一緒にローテーションバトルやるから、色々教えてくれよな!」
「えー……あんた、ポケモンレンジャーの夢はどうするのよ?」
「もちろん、ポケモンレンジャーになるための勉強も鍛錬も怠らないさ……良いじゃん、たまには趣味に走ったって」
「ふふ、やはり伝説のポケモンをゲットできるというのは魅力的な物ですね。私もビリジオンやダークライと会ったことがありますが、それはもう美しく、そして逞しいポケモンでしたよ……思わず、マスターボールを投げてしまいたくなりましたが、理性をこらえるのに必死でしたね」
スバルさんが、キズナがローテ勢に入ることを確定させたように纏める。そして、彼女はメガネを外し……
「だが、気を付けろ。私も狙っているのだ、ビリジオンはな……育て屋の宣伝になる。ライバルとなることは許可するが、邪魔はさせぬぞ」
口調が明らかに違っていた。命令口調だし、一オクターブほど声が低かったし。しかし、眼鏡を付けると元通り。
「これで、私達3人ともライバルですね、握手しましょう」
ら、ライバル……か。スバルさんのポケモンはレギュラーメンバー全員がバッジ9個。つまりジムリーダーの本気と戦い、勝利できるレベルから10個……つまりは四天王に匹敵するレベルレベルらしいけれど、正直勝てる気がしないよーな。
「開催は来年の春。ポケモンは人間なんて比べ物にならない速さで成長しますので、2人で切磋琢磨すれば、優勝はともかく、バッジ8個(ポケモンリーグに出場可能と認められるレベル)レベルまで成長するのはそう難しい事ではありません。ま、8個と9個の壁の厚さはそこまでとは比べ物になりませんがね。
でも、この町に住んでいるなら知っておりましょう。プードル刈りのルカリオ……クイナ君を。あの子を育てたのは私です」
「あー、師匠の自慢の子だし、よく知っているよ」
「一時期流行ったあの子よねー」
それなら俺も知っている。預けられた当初は幼くして進化したてだったルカリオが、半年で元四天王のポケモンであるズルズキンを打ち破ったという快挙のお話。ホワイトジムのオリザさんの手持ちなのだが、ジム設立のゴタゴタで忙しかったために、初心者を相手にするポケモンを育てるために育て屋に預けたそうで。
ポケモンの師匠を見つけたり、スバルさんが直々に育てたりで運に恵まれた杭奈は、半年でジムのレギュラーメンバーまで上り詰めたという。おかでげ、運営開始時にバッジの数が少ないトレーナーの相手をするポケモンがいなくて困ったそうだ。
「ですから、スバルさんが相当なブリーダーであることはここに来る前から知っていましたが……まだまだ素人な俺達でも、その域まで達せられますかね……?」
「どうでしょうね。トウヤ、チェレン、ひひひろし、メイなど、このイッシュ地方だけでも私以上に育てるのが上手いトレーナーはいます。貴方達の若き才能に期待しておりますよ」
「だ、そうだぜカズキ? 俺はやれるだけやるつもりだぜ」
不敵に笑ってキズナが尋ねる。
「俺も……出来る限り頑張ります」
「あらあら……青春ねぇ……」
茶化すようにアオイさんが言う。
「ねーちゃんもまだ青春真っ盛りなのに……」
呆れたキズナがもっともなことを言って、俺達は笑いあった。
「さて、カズキさんはこれから仕事を再開してもらうとしまして……」
忘れてた……あーあ、まだ仕事が残っているのか。
「ミカワさんたちはどういたしましょうか?」
「俺はもう帰ろうかと。ねーちゃんをいつまでも連れまわすわけにはいかねーし」
「そうね……とりあえず私も今日のところは帰ろうと思います。今日は、預かったポケモンを育てる事のみならず、育てたポケモンを売るという業務。スバルさんから教えていただいたことは色々と参考になりました……ありがとうございます」
「なあに、未来に大輪の花を咲かす苗に、馬糞を与えるのは当然のことです」
スバルさん……馬糞って……そこはもう少し何とかならなかったのかな?
「まだ大輪の花になるかは分かりませんが、そうあれるよう頑張らせていただきます」
「俺も、全力で姉のサポートします。今日はバトルにまで付き合っていただき、ありがとうございました」
さっきまでは礼儀なんて感じさせない態度だったのが、打って変わってキズナは礼儀正しく礼をする。しかも、ものすごく格好が様になっているところを見ると、ホワイトジムではそういうところも鍛錬されているのかもしれない。
俺は、これから仕事を続行するわけだが……さて、今日はアイルと狩りに行ってあげるって約束してたけれど、体持つかなぁ。なんだかんだで体は持っちゃうんだろうなー。
◇
「さて、ねーちゃん。セナの扱いは分かってるよな?」
押入れの奥に閉じこもっているセナの方を気にしながら、キズナは小声で私に語りかける。キズナはもうすぐ道場に行くから、私がセナに変なことをしないか心配なようだ。アンタに比べれば私はずっと安全だと思うんだけれどね。
「分かっているわよ。カズキ君が言っていた方法通り、あの子が甘えられるタイショウを一歩離れたところに置いておけば、そのうちきっとこっち側に来るわよ」
「そうだといいんだけれどなぁ。どれだけ時間がかかるのか、心配だぜ……」
「押してダメなら引いてみろ。引いてダメなら、鍵が出来るのを待つしかないわ。セナがいないかのようにいつも通り……仲間外れにしてあげるのも優しさよ」
「仲間外れにする優しさ……」
「かわいい子には旅させろって言うでしょ? 旅っていうのは比喩だけれど、試練を与えれば成長するってのはきっと本当の事だと思うわ」
「そっか……そうだな。というか、ねーちゃん勉強の成果出てるなぁ……前はそんなことわざパッと出てこなかっただろ?」
そう言えば……と、私も自覚する。
「思えばこれも、いい旅なのかもしれないわね」
そう言って私は車椅子を見る。思えば、これのせいで友達が遊びに誘ってくれなくなったりとか、寂しい思いもしたものだけれど……ま、その分いろんなことに挑戦するだけの暇が出来たのよね。
「だな……毎日大変だし、俺たち以上にねーちゃんは大変なんだろうけれど……ねーちゃん成長したよ」
「そうね。でも、成長できたのは貴方やポケモンのおかげ……いつもありがとう、キズナ」
「どういたしまして。そんじゃ、恩返し代わりにセナの事は協力してくれよ?」
「言われなくとも」
私は微笑み返してそう答え、車椅子に下げたボールホルダーの事を気にする。足場が悪すぎる育て屋でずっと車椅子を浮かせて頑張ってくれたコロモは、長い時間のサイコパワーの行使で疲れたのか、まだ3時だというのに眠っている。こんなに頑張ってくれるパートナーが隣にいるんだもの。私はこの旅を成功させなくっちゃ。
「そうそう、キズナ、私は今からレポートを書くわ。アンタも道場での鍛錬頑張りなさいよ」
「おうよ。ねーちゃんも頑張れー」
言われなくとも、頑張りますとも!
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今日は、育て屋を見学させてもらったので、その事をレポートに書き記します。
まずは、ポケモンの販売に関する事。
私たちの隣町であるブラックシティは、草むらなんかよりもよっぽど危険な場所である。ポケモンを持っていないと、それこそ何をされるか分からないけれど、たまに出張などであの街を訪れる人に、いきなり強いポケモンを持てと言うのは無理な話。
そう言った人を対象に、スバルさんは商売しているようだ。バッジ何個分というおおよその強さの基準として、独自に育てたポケモンを販売しているらしい。安い物は15万程から、彼女が教官として育て屋に在籍させているサザンドラやアイアントなどのバッジ9個クラス(ジムリーダーが本気でバトルするときに繰り出すポケモンレベル)になると、500万という目の飛び出るような額を提示していた。
しかし、バッジ9個クラスの子は客寄せの意味合いが強いらしく、ポケモンを扱えるかどうかの審査の段階で基本的に全員を落選させると言っており、基本的に売るつもりはないようである。
私のポケモン達も鑑定して貰った結果、タイショウは80万、アサヒは30万、セイイチはまだ取り扱う段階ではなく、バッジ6個クラスのコロモは80万という値を付けていた。タイショウはコロモと比べるとバッジ2つ分弱いのだが、手話や介助ポケモンの資格という付加価値ゆえに高額を付けさせてもらったという。
アサヒも、介助ポケモンの資格を得て、コジョンドに進化すれば80万は確実につけることが出来るという。
命に値段をつけるのは少し複雑な気分だけれど、『無料で介護ポケモンを貸与する今の制度は屑だ』とスバルさんは言っていた。
何でも、無料で手に入るようにしてしまうと、本当に必要な人に届く可能性が減るとか、寄付だばかりに頼るから盲導ポケや聴導ポケといった介護ポケモン産業が発展しないのだとか。政府や寄付などから補助金は出すべきだけれど、無料にするのはやりすぎだと、スバルさんは言う。
なるほど、一理あると私は思う。引退するまでの数年間、ずっとポケモンには頼りになり続けるんだものね。車の事を『足』というように、『目』を買い『耳』を買い、私の場合は文字通りポケモンという名前の『足』を買うのだと思えば……高い買い物ではないはずだ。
だから、聴導ポケ、介助ポケに値段をつけるのをためらっている私に、スバルさんは自信を持って値段を付けろと言ってくれた。貰ったポケモンを虐待する屑もいるが、虐待するならわざわざ付加価値のついた高い買い物をする奴はいないから、むしろその金は大切にしてくれる人を選ぶための基準なのだと。
コロモは私のパートナーとして末永く一緒に居るつもりだし、タイショウ達は妹のポケモンだから売る気はない。けれど、いつかはポケモンを売らなければならないってなった時に、私しゃんとしてられる自信がないなぁ。
購入していったお客さんと交流できるようにすれば、寂しさも紛れそうだし、スバルさんは一部の客とポケモントレーナー交流用SNSのPixiで交流しているようだから、私も始めてみよっかな、Pixi。
さて、次は育て屋で働いていたカズキ君について。
14歳以下の子供を働かせてはいけないという理由で、彼は『お手伝いの社会見学』という名目で働き、給料もお金の代わりに物で支払われているのだという。家庭の事情もいろいろと複雑なようで、大変そうだ。
その代り、ものすごくしっかり者そうなイメージがあるのよね。あの年で朝夕の食事も作っているみたいだし……今はまだ脚の事を言い訳にすれば家事が出来なくってもなんとかなるけれど、料理をまったくしていない自分がなんだかすごく情けなく感じてしまう。
そして、次はエルフーンのセナを懐かせる方法について。
カズキ君から教わった方法なんだけれど、要約すると押してダメなら引いてみろってこと。今までは餌を押し付けるように与えていたけれど、好きなように手に取って食べられるようにと、セナの近くに餌を置いたり、まず一口齧ってから渡すようにとか、言っていた。
一口齧るのは食べ物に対する警戒心を解かせるためみたいだけれど……タイショウがやってくれれば警戒心も解けるかしらね?
それにしてもキズナってば……カズキ君の言葉を馬鹿正直に信じちゃって。素直なのはいいことなんだけれどね。でも、これで何とかセナと仲良くなってもらえるといいんだけれど……一番の問題は、アサヒとセイイチね。あの二人、セナの事を食料としてみている節があるし……コジョフーとリオルの二人には、エルフーンは捕食の対象……なのかもしれないけれど、やっぱりねぇ。
でも、そこはタイショウとキズナが監視しているからまさか食うなんてことはないだろうけれど、そういう目が一番セナを怯えさせているのかもしれない。ポケモンの感覚器官というのはよく分からないが、きっと私達よりかは敏感に殺気とかそういうものを感じているだろうから。
でも、殺気ってなんなんだろうかな? やっぱり、テレパシー的な何かか、脳波なのか、それとも唾液の匂いとか心臓の音とかが耳ではなく肌で感じられるのだろうか。
それを押さえろって言われたら……やっぱり難しいのかもねー。
そういえば、スバルさんのポリゴンZは、私たちの手話よりもよっぽど簡単にポケモンの言葉を訳し、出力してくれる機能があるとのこと。
しかし、それには相当ポリゴンZを懐かせなければならないし、スマートフォンのアプリにもポリゴンZ自体にもブラックボックスが多すぎて、何が起こるか分からないアプリだから少々危険なのだという。製作者は、ラマッコロクルとか言う謎のプログラマーのようで、そいつの正体も不明だし修正パッチも無いから、『ポリゴンZの翻訳アプリ』の安易な使用はサイバーテロにつながりかねないとか何とか。
ポリゴンZは前田エミナとかいう研究者が知能面の製作を行ったそうだけれど、その研究者は末期癌で死亡。一人の天才が生み出した多くの機能が未解析のまま今も放置されているそうだ。
いつか、そんなブラックボックスを解明したポリゴンに、私たちの手話という付加価値が蹴散らされてしまう時が来るかもしれない。そうなったら少し嫌だなぁ……
PS.キズナがカズキ君とメールアドレスを交換していたみたいね。キズナは昔の一件のせいで友達も少ないし、こうやって友達が出来たのならいい機会ね。
7月14日
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「さて、レポートも終わったし……コロモ、今日はいよいよ貴方にお願いするわよ。お風呂に付き合って頂戴」
と、僕は新しいご主人、アオイさんにお願いされる。お願いというのは、入浴のことでジムにいた頃は、オリザさんの他のポケモンと一緒に、水浴びや湯浴みをしたものである。
そこでは男同士でも色々あったのだが……まぁ僕と弟のハカマは基本的にノータッチなので、うん、考えないようにしよう。
要は手足が届かないから色んな場所を洗うことが出来ないフライゴンのサラを、シズル姉さんが洗ってあげていたようにすればいいのだと思う……アオイさんは、足が動かないみたいだから、取り合えずそれの補助をしてあげればよいのだろう。
まず、服を脱ぐことから。体を持ち上げたり、念力で服をつまんだりして補助し、服を脱ぎ終えるとまずアオイさんはありがとうと僕に言葉をかける。しかし、胴着を着ていても分かるけれど、人間の雌って胸が邪魔そうだな……実を言うと僕も胸の角がたまに邪魔になるのだけれど、感覚器官としては重要だから無くちゃ困る。でも……人間のこれはなんの役に立つんだろう? 防御に役に立つのかな? いや、それとも実は妊娠してるのか?
ともかく、服を脱ぐと無防備な状態になる。タイショウいわく、人間はこの無防備な状態になると非常に警戒心が強くなると聞いたが……これは、警戒心なのだろうか? 僕の胸の角が感じる限りでは……確かに周囲の目を気にしている漢字ではあるけれど、そうこれは恥ずかしいという感じだな。
申し訳ないような、周囲の目が気になるような……交尾の前の特別な警戒心に似ているか……? んー、人間の雌はどうにも体臭が薄いからあんまり興味はないんだけれどなぁ……この感情、アオイさんは発情期だろうか?。
足を洗うために、壁にもたれかけさせ、股を開いてそこをタオルでこする。あの、アオイさん……僕の事を警戒しないで欲しいんだけれどな。すっごく、胸の角がむずがゆいんだけれど……うつ伏せにして尻を洗おうとすると、アオイさんの警戒心が爆発しそうだった。人間って不思議だな。
そういえば、アオイさんを見つめると、この感情が強くなるようだけれど……見られているとダメなのだろうか? 睨みつけられると僕も防御が甘くなっちゃうし、黒い眼差しで睨まれると、逃げようとしても心臓が張り裂けそうになるし。見るとダメというのは案外ありうることなのかもしれない。
「え、ちょ……なに?」
ならば、人間の体を洗うときは目を瞑って触ってあげれば、多分大丈夫だろう。その分手探りでやるしかないけれど……って、角がむずがゆい!! 胸が、胸が……なんだ、アオイさん物凄く恥ずかしがっているぞ? どうして?
「ちょちょちょ、ちょっと! コロモ!! そんなさわり方しないでよ、って言うかなんで目を瞑っているのよあんた!!」
ぎゃ、逆効果? 目を開けていても恥ずかしがる、目を瞑って手探りでも恥ずかしがる……僕は一体どうすればいいんだよ?
「無理しないで、コロモ。普通でいいから……ね?」
うーん、よくわからん。人間って難しいなぁ。
『と、言うわけなんだ』
以前はアオイさんと一緒にお風呂に入っていたというタイショウにこの事を相談してみる。
『あー、私も経験がある。服を脱ぐと非常に強い警戒をするようになるからな……私も胴着を脱いで、警戒心を薄くしようと思ったのだが、なんだか拒絶させられてしまってな』
タイショウも、どうやら似たような経験をしているらしい。人間ってよくわからない……オリザさんは別に裸を見られても恥ずかしがったりしなかったのになぁ。
『なるほど……人間ってよくわからないな。取り合えず、どうすればあのむずがゆい感情が発生しないか考えてみるしかないかぁ……』
『お前は胸の角もあるから余計大変だろうけれど、頑張れよ? なんだかんだで、俺達が狩りをしないでも食事にありつけるのはご主人のおかげなわけだし……』
そうなんだよなー。自分で頼んでおいて自分で警戒するとか訳が分からないけれど、取り合えずアオイさんのために頑張るっきゃないかぁ。
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7月14日の追記
今日はコロモにお風呂に入れてもらったのだけれど……タイショウ以上に人間らしいところがあるサーナイトだけに、すごく恥ずかしかった。
まぁ、それはいいの、それは。でもね、恥ずかしいのを感知したコロモは目を瞑りながら、私の体をべたべたと触ってきて……
タイショウに続いてコロモまでこうとは……今回も色々話を聞いてみると、『見る』と『警戒する』ならば『見ない』との事。なるほど、目を瞑れば私が恥ずかしがらないと判断したのね……コロモには、恥じらいという感情を教えることは難しく、今でも理解している自信がない。
どうやってその感情を教えるべきか、色々考えてみるべきかな? うーん……例えば、犬形のポケモンが腹を見せるあの服従のポーズとかは恥ずかしいのだろうか?
コロモなりに考えて私に尽くしてくれたのはとても嬉しいんだけれどね。なんかずれているのよね……ポケモンが、人間と感性が違うということがよくわかる。
ちなみに、この事を話したら、キズナにはまた馬鹿にされた……殴ってやりたい。
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