後書き
正義とは一体何か? このお話では、正義と名乗るものが、一方的に民衆を虐殺しています。それはアオのみならず、レシラム軍の者も、ゼクロム軍の者も同じで、特にレシラム軍のベルサリウスにいたっては、アオを利用するために森まで焼きました。
正義と言うのは勝手なもので、正義の対義語は悪ではなく、『もう一つの正義』であると言うことが、この物語を通してどこまで主張できたでしょうか。どちらも自分が正しいと思いながら、その正しさを脅かすものを排除する。
レシラム軍は、地域による税率の不平等を真実の姿と唱え、収入に差が有る以上税率は地域によって変えるべきだと主張します。逆にゼクロム軍は、税率が高い地域は豊かな分だけ敵にも狙われやすいし、多く稼いでいるのに税率が多い(収入の絶対量が多いため、税率が同じだとしても税収はゼクロム派のほうが圧倒的に多い)のは不公平だとし、税率は公平であることが理想だと言い張ります。
そして、アオはとりあえず森が無事ならば人間がどうなろうと構わないと言うスタンスで、防人の役目を果たしていました。アオが熱弁する『復讐は誰のため?』という問いも、この正義に関する観かたが大きくかかわってきますね。
さて、『本編』の部分をクリックしてもらえばわかりますが、読者の皆さんには私からあるお願いをしました。それは、この物語を最初から最後まで通して、悪役は何人(便宜上、ポケモンも『人』と数える)いたのか、数えてみてください。ということです。
この物語に出てくる者は自分が正しいと思いながら戦って、罪のない人を虐殺したりもしました。今回は主人公も普通にそういうことをしていたため、誰が悪役なのかも分からなくなりました……と、言いたいところですが。私の中で、明確に悪役と呼べるのは第2話に出てきたトルネロスくらいですね。他は、全員自分の正義に生きた人たちです。
アオたちを殺そうとした村の長であるカザルも、村の人たちを考え、良かれと思ってああいった策を考えました。もしもアオが死んでいれば、口減らしのために子供を捨てることなく冬を越せたでしょうが、アオが殺しまくったためにその必要もなくなりました。
ミドリも、人間との融和を考え、そのためにはアオが邪魔だと思い、殺すとまでは行かないまでも、戦いました。逆にミドリが邪魔だと思ったアオはミドリを殺しました。
ベルサリウス将軍も、領民のためを思えばこそ、アオを利用しました。もしもゼクロムやレシラムが人間に怒って出陣しなければ、この物語は円満に終わっていたかもしれません。
正義ってそんなものです。誰かを犠牲にしなきゃならないのですよね。それを、必要以上に美化せず、しかしアオの行動に納得できるように書き上げたつもりです。
納得できたからと言って、正しいわけではありませんが……それも含め、何を思い何を感じるか。読んでくださった皆さんなりに、残るものがあれば幸いです。
小話 このお話はホウエン地方まで微妙に巻き込んだお話になってしまいましたが、ゲンさんの手持ちを見る限り、アーロンとメタグロスにはこういう関係があったんじゃないかとw
例の『ミュウと波導の勇者ルカリオ』では、サイドン、エアームド、イワークやハガネールなどの他になんと600族かつ凶暴で育て辛そうなバンギラスまで戦争に参加しています。そんな砂パメンバーが揃っているような戦争の割には、メタグロスは参加していないのですよねぇ。600族を育てるのは大変だと思いますが、バンギラスがいる以上そんな言い訳は通用しないでしょうし、当時はメタグロスは個体数が極端に少なかったのでしょう。
今回はその理由を、アーロンが持ち込んだ移入種だからという設定で解釈しました。
ちなみに、ポケモンが戦争に参加すると、滅びの歌や黒い眼差しといった技がバトルと戦争では大きな違いを持つことになるでしょう。そのほかにもレベル差を覆すような技や戦法はいくらでもあり、そういった技が普通に使われるようになれば、ゲーチスのサザンドラごときに負けるようなレシゼク及び聖剣士達が勝てる道理もありません。
そのため、この時代のイッシュ地方では使役できるポケモンの種類は一握りであると言う設定を取りました。なに、ポケモン映画のアイントオークは千年前から存在してたようですが、その時普通のポケモンが戦争に参加していたのかどうかは不明なので、アーロン様は500年前の人間ですが、矛盾はないと思います。
最後に 流血描写が苦手な方には少々きついお話でしたかもしれませんが、楽しんでもらえたのであれば幸いです。