奮闘その十六:育て屋卒業まで頑張ろう!!
38
気がつくと杭奈は星空を見ていた。
「目覚めたか? 杭奈」
心配そうなジョンの声がまず耳に付く。
「僕……」
周りを見渡してみて、杭奈はとりあえずみんなに心配されていた事だけは分かった。試合の内容は思い出せないが、きっと負けたのだという事は分かる。
「頸動脈を絞めたんだ……苦しいって思う間もなく、倒れたと思う」
「負けたんだ……」
眼に大粒の涙をためて、杭奈は泣き始める。
「正直、あのダゲキとの戦いでお前が自分の戦法を見せなければ……俺は負けていたよ。
……なぁ、杭奈。どうしてダゲキとの戦いで、あの戦い方を俺に見せてしまったんだ?」
思えば、杭奈はあまり自己主張の激しい方ではないので、敵を舐めきったようなダゲキとの戦いは少々違和感のあるものだ。
「僕は、あの技の弱点を知りたかった……から、だと、思う。ジョンなら、あの技を破る方法を……知っていると思ったから。案の定、寝転がられると対応が難しいんだね」
間合いを詰める技は優秀だ。しかし弱点もあるだろうとは杭奈もうすうす感づいており、その弱点を杭奈は知りたがっていた。
今でもジョンが育て屋にいるのであれば、きっと指摘してくれたであろう間違いを教えてもらえると信じていたのだ。
「なるほど……いや、技を破る方法はしらなかったよ。あんなふうに寝転がって見せるのも一か八かだった……うん。
終盤に一か八かの勝負に出たら、瞬く間にやられる可能性があると思ったから、いの一番に、戦闘中にインファイトへの対策法を練習してみたら……確信したよ……対策法。
人間だったら、銃を持っているから通じない戦法さね……けれど、覚えておけば何かの役には立つもんだ」
「でも……やっぱり、ジョンには負けたか」
「大丈夫だって。お前は強い……待ってろ。後で寝っ転がった相手に対する対策法を教えてやる……波導弾やボーンラッシュで戦おうとしたお前は間違っていない。
だから、その……なんだ? お前、もうちょっと経験を積め……今の俺と杭奈じゃ体力も技術もそんなに差が無い……多分、お前は経験の差で負けたんだ。
ジムバッジ検定のために戦う機会は、きっといくらでもあるはずだろう。だから来年はきっとお前が勝つよ……な、杭奈? 来年に俺を負かせられるように頑張ってみろ」
一通り言い終えると、ジョンは黙って杭奈を抱きしめる。すっかり小さくなってた杭奈は、すがりつくようにギュッと抱き返した。
「はぁ……そういう、臭い会話は決勝戦でやってほしい物だわね〜」
雰囲気ぶち壊しに、静流が聞えよがしに言う。
「そんだけお涙ちょうだいしたなら、責任とって今年はあんたが優勝しなさいよ? ジョン」
「ああ、そのつもりだ。今年は、何だか負ける気がしないものでね……こんなにテンションが上がってきたのは初めてだ」
ジョンは杭奈を抱いていた腕を解いて強気に笑う。
「ふふ、そう。それじゃ明日の夜に、あそこの社でデートでもしましょう? お互いキャンセルは嫌よ」
明日の夜とは、酒の奉納の儀式の時間である。お互いキャンセルは嫌よとは、もはや言葉通りだろう。
「いいぜ、静流。俺には妻がいるけれど、お前とデートの約束ってのも悪くない。だが、お前準々決勝でスバルさんのサザンドラに当たるから気をつけろよ。
そこでデートのキャンセルする必要が出てくるかもしれないぜ? なんせ強敵だからなぁ」
ジョンは杭奈を抱いたまま拳を突き出した。話においてけぼりの杭奈は戸惑うばかりである。
「アタイなら大丈夫よ」
静流は突き出されたその拳に自身の拳を合わせて誓いの証を立てた。
「じゃ、行ってきまーす」
軽いノリで静流は舞台に降り立った。静流がいなくなったところで、ジョンは杭奈の顔を起こす。
「さて、杭奈……ちょっと頼みたい事があるんだ」
「ん……何?」
「聞いてたろ、さっきの話? 静流ちゃんと優勝する約束しちゃったものでね……この傷、治しておきたいんだ」
先程の試合で、杭奈の棘を突き刺されて傷つき血のにじんだ右手首を見せてジョンは苦笑する。
「再生力の特性持ちの俺とて、脚の腫れも腕の傷も次の試合までに治るか分からないんだ……俺に癒しの波導、使ってくれないか?」
「分かった……任せてよ、ジョン」
杭奈はジョンの手を取り、傷口に肉球をそっと当てる。波導使いの所以とも言える波導を存分に用いた癒しの力で杭奈は今までで最高の感謝をするのであった。
◇
一方その頃人間はというと……
「お久しぶりです、オリザさん。今の試合どうでしたか」
杭奈とジョンのビデオを取り終えたスバルは、満足そうな顔で杭奈の主人、オリザへと話しかける。
彼は祭りで振る舞われた、ブラックシティのビリジオンへ奉納する物と同じホワイトフォレスト産の濁り酒をちびちびと飲んで、ほろ酔い気分で血色も良い。
対してスバルはというと、同じくホワイトフォレストのダークライへ奉納するブラックシティ産のカクテルやビールを大量に煽っているらしく、すでにして異臭が発生している。
「どう、というと……素晴らしい試合としか言いようがありませんでしたが……?」
その匂いに動じないよう努めながら、オリザはスバルの質問に答える。どうやらその答えが不満だったのか、スバルの顔から愛想笑いが消える。
「では、質問を変えましょうかね。ジョン君が行った、あのオープンガードポジションによる杭奈君のインファイト対策はどうでしたかね?」
質問を変えると、そうだな……と、オリザは顎に手を当て考え込んだ。
「人間同士、リングの上での戦いなら、アレはほぼ満点の選択だと思います……しかし、なんと言いますか。
飛び道具が標準搭載のポケモンバトルでは、寝転がるのはあまり得策ではないと思います。
ルカリオならボーンラッシュや波導弾、エルレイドならサイコカッタ―、ゴウカザルなら火炎放射……ついでに格闘タイプはほぼ全員ストーンエッジが使えます。
ですので、寝転んだ側のローキックがギリギリ届かない位置でストーンエッジや岩雪崩を繰り返してやれば、両刀のポケモン以外は不利な状況を作り出すだけですね。
以上の事を踏まえて考えれば、ジョン君が取ったあの対策は点数をつけるなら75点くらいでしょうか……
逆に言えば、両刀のジョン君ならオープンガードポジションで何とか対応できるわけですから、そういう面も踏まえて言えば85点くらいですね。
他にジョン君と同じ対策が出来るとしたら、バシャーモとエンブオー……あとはチャーレムくらいでしょう。
ゴウカザルやルカリオも両刀ですが元々インファイトが使えますのでインファイト対策は不要という事で」
「85点とは……恐らく100点満点は滅多なことじゃつかないのだとは思いますが、それに近い対策はおもちで?」
感心するようにスバルは尋ねる。
「貴方の言う通りで、もちろん完璧だとは思いませんが、コジョンド以外でも90点はあげられる対策法を……実は、インファイト対策は、すでに静流には仕込んでいるのですよ。
静流は昔、サザナミタウンで強いルカリオにこっぴどくやられた経験がありましてね、それをバネに習得させた技が」
「それはそれは……準備がいい事で。しかし、対策しているのは静流ちゃんだけでしょうか?」
「え、えぇ。ズルズキンは、格闘タイプに弱い格闘タイプ……その格闘タイプの中でも特別強力なインファイトは、事前に対策するべきだと思いましてね。
同じく格闘タイプが苦手なルカリオの杭奈は、インファイトに持ち込まれてもインファイトし返せばいい話ですが、ズルズキンともなるとそうはいかず……。
まぁ、対策とは言ってもローキックの防御をする方法と同じく言うだけなら簡単なものですよ。咄嗟に出すには経験が必要でしょうが」
「ふむ」
と、スバルは前置きをしてオリザに対して笑いかける。
「それ、教えてもらえませんか? ウチにも、格闘タイプに弱い格闘タイプのズルズキンがいるものでして。
いつかインファイト使いと当たった時にも対応できるようにしときたいのですよ」
「あ、はい。構いませんよ……静流が帰ってきたら実際にやらせてみます」
杭奈と同じく、スバルもまた努力の人。同じ状況になっても対応できるよう、格闘のスペシャリストから教えを乞うのであった。
◇
祭りの2日目。ホワイトフォレストとブラックシティのちょうど中間に立てられた社の中に、二匹のポケモンが放り込まれた。
「よう、トリニティさん。やっぱりあんたが優勝したなぁ。静流ちゃんも頑張ってたけれど、地力が違うさね」
「お久しぶりだなジョンさん。俺は杭奈が勝つと思っていたよ……大番狂わせだねぇ」
奉納の儀の準備段階。育て屋で知り合った教官と研修生の二人は、ポケモン用の服を着せられる最中に笑って挨拶をしていた。
去年は再生力の特性でも回復が追い付かずに、去年オールバックの執事が使役するエルレイドに負けたジョンも、杭奈の癒しの波導のおかげでなんとか勝ちを拾う事が出来た。
今年は都合がつかなかったのか、前回の優勝者が参加していないことがそもそもの幸運であった
対して静流であるが、彼女はトリニティの波乗りと気合い玉の波状攻撃に耐えられず、準々決勝で沈んでしまった。
この大会、悪タイプに有利な悪タイプであるズルズキンの出場率は異常で、トリニティが決勝戦で戦った相手もズルズキンであったのだが。
静流と比べれば少々呆気なく終わってしまい、杭奈とジョンの戦いも相まって今回の大会は何とも尻すぼみであった。
言ってみれば、2回戦の敗退者である杭奈が準優勝で、8位入賞の静流が準優勝といったところか。
「杭奈って言ったっけか。あの子、ご主人のお気に入りでね……ご主人、きっちりとビデオを撮っていたぜ。課外授業って事で、ホームページに掲載するみたいだから……機会があったら見てみろよ」
「いや、俺さすがにパソコンは使えないや……すまんね。御主人に頼めば見せてくれるかねぇ……」
「そうか、残念……とりあえず、なんだ。俺のご主人、スバルからの伝言なんだが、杭奈君を鍛えてくれてありがとうだってよ。
いやー、それにしてもあれだね。主人は特等席で見たいとか言って、俺もわざわざ空から観戦させられたが見事な試合だったな」
「そりゃどーも。俺もあんたも静流との試合は……燃えたねぇ。飛び膝蹴りを受けても耐えられるもんだな、そのでかい図体だと」
「危なかったがな…………あの一発で意識が飛ぶ所だったぜ……」
二人とも早くも話題が無くなって、黙りこくってしまった。
「お互い、お世辞合戦も苦手なようで……口の数は三つあるのに口数は多い方じゃないんだよな」
「同じく。俺は口は一つだけれどな」
トリニティとジョンは互いに苦笑する。
「俺は、この後もらえるポフィンとやらが欲しくて頑張ってきたが、あんたはどうだい?」
「う〜ん……杭奈に対する示しって奴かな? あいつのために、勝ってあげたかったんだよ……だから勝った」
「そうかい。大切な者を持つと大変だな……俺は、主人が賞品の酒を欲しがっていたから、主人のために……なんて頑張らされたから、よくわかるよ」
夕暮れに行われたその会話のあと、その日の夜に酒を奉納する儀式が始まる。
ホワイトフォレストには黒装束をまとった集団が闊歩し、ブラックシティはその逆に白装束集団が闊歩する。
奇しくもそのままでも大丈夫そうな色合いのサザンドラとコジョンドであるが、彼ら二人もきっちりと極端な色合いの服を着せられ行列の先頭を歩くのであった。
そして、ご神体に攻撃を加え、二つの街を作りこの地に均衡を与えてくれた神へ向けて力を送り込むのだ。
ジョンは、ブラックシティにて、ビリジオンの御神体に向かって飛び膝蹴りをして砕き、キックと波導弾で完膚なきまでに粉々にして、御神体に格闘の力を送り込んだ。
トリニティはホワイトフォレストにて、三つの顎で御神体を噛み砕いて、悪の波導で消し炭にしたあと、更にまくし立てるような暴言を振りまくバークアウト。
前回よりも更にパワーアップした破壊力で御神体に悪の力を送り込んだ。
すでに育て屋へ帰っていた杭奈は、その夜具体的にどんな事が行われたのかを見ることなく夜を過ごした。
寝ころんだ相手に対応する方法を袴と一緒に反復練習する傍ら、ジョンに想いを馳せながら夜は更けていく。
39
「いよっし。今日も大勝利!!」
強い相手をインファイトで下して、杭奈はガッツポーズをとる。
平地エリアにて、杭奈はペテンやファントムと共に休憩の最中。最後の昼食マッチで得た、戦利品を親子そろって食べている。
可愛らしい子供は目も開いて、母親の後をついて行くスピードも随分と速くなった。
育て屋出身のために危険を知らないせいか、ファントムはじっとしているのが非常に苦手で、母親が闘いに赴く時に押さえつけていると自分もついて行くと言ってきかない。
押さえつけていると狂ったようにわんわんと鳴き出すのだから手を焼くが、それも今日終わりだと思うと何ともさびしい気がして、杭奈はいつもよりも執拗にファントムを抱く。
あんまりにベタベタされてうっとおしかったのか、ファントムは鳴き出してしまい結局ペテンがあやす羽目になってしまう。。
親の心子知らず、今日でお別れで寂しいというのに父親へサービスしないダメな息子だと、杭奈は苦笑する。
「よしよし、眠たいのにお父さんがうっとおしくて仕方ないのね」
鳴けるという事はそれだけ元気な事だから良しとするかと広い心を持って杭奈はペテンがファントムを抱く様を眺めた。
杭奈は鳴きやんで眠るまで口が止まり、手に持った木の実は一向に減らずに時間が流れる。
否応なしに時間の流れを意識したのは、袴が食べかけの木の実を杭奈から奪い取ってかりりと齧ったその時だ。
「兄さん、来ましたよ。僕達の御主人です」
「……袴、それ僕の木の実」
「食べてないから、いらないのかと思いましてね」
にっこりと袴は笑って、悪びれずに杭奈の頭を叩いて立つ事を促す。
「それに、寂しくってそれどころじゃないんじゃありません? ファントム君、可愛いですものね」
「……行くよ」
杭奈は自分が感情を読まれ易い事は自覚している。角の感覚が鋭い袴の事だ、どうせ強がることは意味が無いけれど、杭奈は強がらずには居られなかった。
◇
管理棟には、杭奈と袴。そして見送りにペテンとその子供ファントムが見送りに訪れる。
ペテンはこのままあと数週間育て屋に滞在し、子供と一緒に元の主人の元へと帰るらしい。寂しいが、これもまた仕方のないことだ。
父親にもきちんと懐いているファントムには少々酷であるが、別れはきっちりと済ませておきたいからと、預けることなくこの場に連れて来たのである。
「さて、今日を以って貴方はこの育て屋を卒業いたします。思えば、この育て屋に来た頃は……頼りないお子さんでしたね」
「ですね。本当に、この子をよくまぁここまで強くしてもらえました……なんといってよいのやら」
腰をかがめて杭奈を撫でるスバルに、主人のオリザは謝辞を述べる
「ちがいますよ」
スバルは微笑む。
「この育て屋は、基本的に放任主義でございます。育つポケモンは大きく育ちますが、育たないポケモンは全く育たずそれがクレームの元になることも度々あります」
「とどのつまり、強くなったのは杭奈の頑張りってわけかですね……それが極端に出るだけと」
「ええ、私はその場所と、切っ掛けを与えただけですよ……無理矢理強くならせようとしたって強くはなりませんから」
そう言って、スバルは笑う。
「そもそも、主人の所でぬくぬくと、ただなんとなく強いポケモンになることを強要されても育たないというのが私の持論でしてね……強くなるには理由があればやり易いと思うのです。
例えば、野性のように食欲とか、性欲とか、縄張りとか……昼食マッチというのも、食欲に根差した強さへの欲求を奮い立たせるためのもの。本当は、昼食マッチはもう少し厳しめにしたかったのですよねぇ……勝者と敗者では食料に倍くらいの差があるように」
「そりゃまた、随分とまぁ極端といいますかなんといいますか……それだと流石に負けっぱなしのポケモンはたまったものではないでしょうね」
「ですよね。しかし、ブラックシティではもっと極端ですので。敗者は残飯漁り、勝者は高級料理店で嫌いな食べ物を残して下げさせる……
それが悔しいから私も強くなろうと思ったのですよ。そして、その幼少時代の経験が、この育て屋のコンセプトでございます。
目的を持たせて、育つ意欲を持たせるという。やはり、目的なくしてポケモンは育ちませんしね」
「なかなか、響きのいいコンセプトですよね、目的を持てるってのは……自分から強くなりたいと思う子でなければ、伸びてくれませんし……その点杭奈君は優秀ですね」
「ええ、当育て屋自慢のコンセプトでございます……杭奈君は、最初静流ちゃんと交尾したいという原始的な欲求から強くなりました。
しかし、私も食欲から強くなった……そんな杭奈君を見て、私の人生は間違っていないのだと、何だか再確認できた気がするのです。
杭奈君と一緒に強くなってみたら面白かったろうなぁ……と、ふと思ってしまったのですよ」
「そ、それはまた光栄ですね」
突然話を振られてオリザは困惑しつつも頷いた。
「それで、ですね」
と、言ってスバルは真面目な目つきでオリザを見る。
「はい、何でしょう?」
「この子を見ているうちに、私はすっかり杭奈君がお気に入りになってしまいまして、この育て屋を卒業する前に、一度私のポケモンとガチで戦わせて見たいのです」
「いずれ、ジムで連日戦いの渦中に放り込まれるわけですし……練習試合くらいはいくらでも構いませんが……」
「ええ、ありがとうございます。しかし、傲慢ながらただの純粋な試合なら了承して下さると思っておりました……ここからが本題なのですが……
ただ戦っても面白くありませんし、勝てば商品、負ければペナルティを与えたいと思っているのですよ……具体的には、杭奈君が勝ちましたら、このがんばリボンをプレゼントいたします」
「えーと……これは?」
指輪などを入れるような紺色の小箱に入ったリボンを差し出し、スバルは笑う。
「遠く離れたシンオウ地方では、頑張ったポケモンに対して勲章代わりに贈るリボンでございます……ただし、装飾の部分が純金製でございますがね。
時価にして25万ほど……丁度、中型サイズ人型・陸上ポケモン予防接種料金込み、半年預かり代金とほぼ同じでございますね」
「あ、あの……こんなものもらえませんよ。確かにジムは開設にお金を使ってしまったので財政は厳しいですが……ん?」
腕を引っ張られる感覚でオリザが見下ろすと、杭奈は首を振っている。
「杭奈君はやるつもりのようですよ。どうでしょう? 杭奈君の意思を尊重しませんか?」
「えと……ならば、商品とかペナルティは無しという方向で……」
杭奈はオリザの服を引っ張り、首を振って『それはダメ』とアピールする。
「ガウッ」
そして、任せてくれよとばかりに、杭奈は腕を振り上げる。
「杭奈……お前、そんなにリボン欲しいのか?」
元気よく杭奈は頷いた。
「仕方がない……なら、好きにしろ。しかし……ペナルティというのは? それしだいによっては流石にお受けしかねますが……」
杭奈がどうしてもリボンを欲しいと言うので折れたオリザだが、今は財政が厳しいので1円でも惜しいところ。こっちもお金を出せと言われたのではたまらない。
「なに、オリザさん自身が経済的にダメージを負う事はありませんし、負けたら好きなポケモンの交換などもしない所存です。
いえ、ね。私は昔、ポケモンバトルで賭博をしておりましたが……ある時賭けごとで大負けして、服を下着以外すべてはぎ取られてしまった事がありましてねぇ。
その時の私の気分を杭奈君にも味わっていただきたく、その体毛を刈ってプードル刈りにします。ブラと下着だけ残すというのはいい羞恥プレイとなりそうですね」
ニコッと笑ってスバルはバリカンを取り出す。
「く、杭奈……この人、結構とんでもない発想だ。止めるなら今のうちだぞ?」
何とも個性的なペナルティに、オリザは言葉を失いかけながら杭奈に諭す。しかし杭奈は、負けてなるものかと首を振った。
「どうやらやる気のようですね……では、刈る部分を具体的に言いますと、腹と、太ももと、上腕あたりの毛を綺麗に刈ります。あと、首の毛も涼しく刈りましょうかね。
流石に、生殖器は大っぴらに見えると見苦しいと思う挑戦者さんもいるでしょうし、私も髪の毛までは刈られなかったので生殖器周辺と顔は無しですね」
杭奈の体に触りながら、嬉々としてスバルは説明した。
「杭奈君、それで構いませんね? 負けて羞恥プレイになる覚悟がおありでしたら、賭け勝負を行いましょう」
真っ黒い笑顔を浮かべるスバルに対し、杭奈は躊躇いがちに、しかし確実に頷く。