奮闘その十:お見合いの相手を探そう!!
24
酷い熱が杭奈の全身を支配していた。燃やされる……草原が燃え盛り、その灼熱の中で杭奈は喘ぎ苦しんでいた。
一回だけ行った事があるドリームワールドのような夢だと分かる夢の感覚。
ダークライは悪夢を見せると言うが、それが現実になってドリームワールドを変質させてしまったのかな?
そんな考えがおぼろげながらに杭奈の脳裏にちらつき、目覚めたいと切に願う。しかし、杭奈は長い間目覚める事は叶わなかった――
「起きろよ、杭奈」
懐かしい声に、夢か現実か、それとも天国か定かではない場所にある意識を杭奈は覚醒させる。
「ジョン!! どうしてここに!! あっ痛……」
驚きと喜びに満ちた声で起きあがろうとすると、杭奈は全身の痛みに顔をしかめる。そんな杭奈を、まだ安静にしていろと、苦笑しながらジョンが諌めた。
「いや、俺はここにいるのはむしろ普通の事なんだがな。というかむしろお前、自分が今どこにいると思っているんだ?」
あ、と気付いて杭奈はあたりを見回す。簡素なつい立てで仕切られた個室に、顔の部分が穴があいたベッド。
「そう言えばどこ、ここ?」
「ゴギョウ整体院。つまり、俺の家みたいなものさね……」
「え、しょ……勝敗はどうなったの?」
「それはもう、見事にお前らの勝ち。シラモリ育て屋本舗が協力しなかったら、イッシュ全体が危うくなっていたところさ……奴ら、夢の世界に介入して、この地方の支配を画策していたらしくってね。
よくわからないが、何でも夢の中じゃダークライに勝てるポケモンはいないのだと……これまたよくわからないが、スバルさんがダークライを奴らに使わせなかったことで、奴らの計画もとん挫した。
うん、そういうことだ。難しい事を考えるのは人間の専売特許さね……俺達は簡単に考えればいい。お前が、すごい事を成し遂げたってさ」
「は、はぁ……」
ピンとこない杭奈は生返事でジョンに言葉を返す。
「よくわからないって顔だな。大丈夫だ、俺も良くわからん。だが、よくわかるのは。お前と袴が大活躍したってこと」
「そ、それ大げさだよ。戦闘じゃ強い人の尻に隠れて一発大技を放ったくらいだし……僕がしたことと言えば、ただのいいとこ取り」
「いや、おおげさじゃないそうだ……あの育て屋のポケモンは、お前達がいなければもっと大量に攫われていたそうだ。
もし、そうなっていたとすれば……最初の段階で警察の抵抗が押し切られ、敵さんがダークライをハイリンクに介入させる隙が出来ていたって話だ。
そうなってしまえば、四天王が4人束になってもどうにもできない事態になったとか……どうとか。俺の全く知らないところで随分と大変だったみたいだな。
戦闘であまり役に立たなかった……というのはまぁ信じるとしてもだ。世の中、喧嘩の強さだけが強さじゃないだろ?
お前と袴の感知能力は、立派な強さってことさね……まぁ、ジムの中にいる分には必要のない、レンジャー向けの強さかもしれないが……」
ジョンは、仰向けに寝そべっていた杭奈に覆いかぶさるように抱きしめた。
「なんにせよだ。お前が生きてて良かったよ……何でも、公式戦では使えないような大技を使って両肩と手首を脱臼したって聞いたけれどさ、そん時は心配したよ。
でも、警察のやつらで柔道が得意なやつが骨を嵌めてくれたし、骨の歪みとかその他もろもろは……俺が治しておいたよ。
昨日の夜は、酷い熱にうなされていたみたいだけれど、もう熱も下がったし安心だ。
一応ポケモンセンターでレントゲンを撮ってみたけれど、酷い事にはなっていないってさ。
癒しの波導で取り急ぎ直せば、三日後には修行を再開しても良いとの話さね」
話を聞いていると、まだ実感に乏しかったが迷惑をかけてしまったという事だけはなんとなくわかった。
「あ、ありがとう……ジョンが治してくれたんだんね」
反射的にお礼を言って、杭奈は体が動かないので首だけ動かしてお辞儀の代わりをする。
「なあに、英雄様の治療を行えたんだ。俺の方が感謝したいくらいさ……それに、熱が収まったのはタブンネの癒しの波導のおかげだし……」
ジョンは喜びの感情を手放しに晒し、笑いながら杭奈の頬を両端に引っ張りつつそう言った。
「や、やっぱり大げさだよぉ。僕、そんなに大それたことしていないってば……」
「いいの。俺が褒めたいから褒めているんだ。それぐらい、いい気分にさせてくれや」
そう言って、ジョンは杭奈の顔を愛でるように撫でた。まだ照れの抜けない杭奈は、褒められる事を素直に喜べないままに、次々と見舞いに来た主人たちの称賛に戸惑うのであった。
静流までもが素直に称賛の賛辞を送ってくれた事が杭奈には嬉しかった。
そうして三日。久しぶりに会ったジョンといろんな話をした後、ポケモンセンターに場所を移されて過ごし、杭奈は再び育て屋に預けられる事となった。
なんだかんだで今回の件で被害を防ぐ事が出来た立役者である袴は、お礼と言われて大量の木の実を要求したらしい。
と、言うよりは毎日1個ずつ配給される木の実を2個にしろといっただけのようだが。
この三日間で、杭奈もイッシュ地方を救ったのは自分であるという事はなんとか納得できた。
自分はただ感情の揺らぎから異常を察知し伝えただけだと言うのに、不相応な待遇に戸惑っているのは袴も同じらしい。
身の丈に合った控えめな要求に終わったそうだが、せっかくなので毎日特別に2つの木の実を配給される昼食を満喫しているらしい。
袴は毎日の食事が豪華になった事を嬉しそうに語っていて、杭奈は何を要求するのかと尋ねてくる。
「う〜ん……色々悩んだんだけれど、スバルさんが推薦してくれたのがあるから……もう願いは頼んだよ。詳しくは秘密ね」
「……杭奈兄さん。流石にこればっかりは僕も詳しい言及は避けますが、いやらしいですよ。感情を無防備に晒すのは、恥ずかしいですよ」
袴は角を押さえて苦笑しながら小声で告げる。
「あははは……皆には秘密ね」
杭奈も、なんだかんだでこの三日間の間降って湧いた幸運を素直に享受することに決めたのだ。
「まったくもう。兄さんは元気すぎです……恥ずかしいなぁ」
「いや、きっと袴もエルレイドに進化するころにはわかるよ……問題は、相手がいるかどうかってことだけれどね。流石に都合よく見つかるものじゃないしねー」
苦笑する杭奈に対して、やれやれと袴は首を振る。
「ふふ、エルレイドに進化ですか。残念ながら、ご主人曰く私が催眠術を覚えるまでは進化はお預けだそうです。まだ変わらずの石は外せませんね」
「そっか、じゃあこういう話をするのはもっと後になりそうだね……」
楽しげに二人が話していると。ペテンが後ろから、ピョンと跳びはね袴の隣に座る。
あまりにも一瞬で終わってしまって呆気なかったイッシュの危機だが、こうして戯れるうちに平和の価値を実感する。
杭奈は今、幸せであった。
25
翌日の朝方。約束通り管理棟に訪れた杭奈は胸をわくわくと躍らせながら、尻尾でそれを表現してスバルの元に待機する。
「しかしまぁ、なんといいますか……主人にお見合いを頼まれる事はありましたが、ポケモンにお見合いを頼まれるのは初めてですよ。
それが杭奈君だとは何かの縁でしょうかね……貴方に、こんなチャンスを与える口実を与えられて私も嬉しい限りですよ」
パソコンを弄りつつ、スバルは笑っていた。
このシラモリ育て屋本舗では、自分の手持ち同士や、トレーナー友人であるポケモン同士で子供を作る場合ももちろんあるが、GTSのように互いの事を知らない相手のポケモンとも子作りが出来るようお見合いシステムというものが搭載されている。
このシステムは、姉妹提携を結んでいる育て屋間のネットワークでやり取りされるものもあり、例えばシラモリ育て屋本舗ならイッシュ地方にある他の三つの育て屋に対応している。
とは言え、そんな事は杭奈にはどうでもいい。杭奈にとって重要なのは、主人の了承が取れていること。そして、例の件のお礼でお見合いの場を無料且つ優先的に提供してくれるということである。
「それでは、杭奈君。覚えている技を確認したいので、一つずつ口述していってくれるかな?」
ガゥッと頷き、杭奈は列記する。
『まずは波導弾、ブレイズキック、悪の波導、ストーンエッジ、剣の舞、メタルクロー、インファイト、フェイント、電光石火、カウンター――』
杭奈の言葉が、太巻きの意匠を施したUSBポートを咥えたふじこを通じてライブキャスターに表示され、スバルはそれを次々とパソコンに打ち込んでいく。
「性格は少々寂しがりの気が強いか……で、えーと……素早さと攻撃力が素晴らしく高いようだね。
ふむ……一つこの条件で検索してみると……おっと3件のヒットですね。
おお、このドクロッグの順子ちゃんなんてどうでしょう? フェイントを欲しがっているそうですが、悪くない条件ですよ」
杭奈は困惑気味に肩をすくめる。
「かしこまりました……では、おや……ペテンちゃんのご主人も悪の波導とカウンターを欲しがっているようですね。
相手のポケモンに合わせて体格を調整するためかまだ変わらずの石をつけてこそいますが……すぐに進化は可能なようですよ?」
杭奈は知り合いという事で何かと気まずくなるような気もしたが、一応悪くないと感じて頷いて見せた。
「分かりました……保留という事で。では、最後にローブシンの……ウルキオラさんですね。彼女の御主人は杭奈さんの起死回生がご所望のようです。
イバンの実でも使うのでしょうかね? ……あぁ、トリックルームという手もありますね」
ぶつぶつと戦略性を語るスバルに、ググッと唸り声を上げて杭奈は否定する。スバルはライブキャスタ―を覗くと苦笑した。
「なに? 『そんなごつい女マジ勘弁>< テラワロス』ですか……仕方がありませんね。
そうなるとペテンちゃんが第一希望ということになりますが……ふむ、かしこまりました。少々お待ち下さい」
そう言って、スバルはライブキャスタ―で電話を発信する。
「……さんの電話でよろしいでしょうか? いつもご利用ありがとうございます。こちら、シラモリ育て屋本舗のスバルと申します。今回はお見……えぇ、はい。
お察しの通り育成ついでのお見合いの件でございますが……はい、相手の候補はルカリオの杭奈君です。後でそちらにメールでデータを送りますので……
はい、了承するか断るかの旨を返信して頂ければ……ん? はい、えぇ……数日前お送りいたしましたキルリアと一緒に映っていたあの子でございます。
は、はぁ……OK? と、言う事は……あとはポケモン達に任せる……と。かしこまりました……えぇ、はい。
それでは、シラモリ育て屋本舗のご利用、これからもよろしくお願いします……失礼しました」
プツッと電話を切り、スバルはため息交じりに肩を下ろす。
「喜んでください、杭奈君。ペテンちゃんの飼い主は良いと言っておられますよ……あとの性格などの相性については貴方達次第ですので、任せましょう。
う〜む、しかしどういたしますかね。これまでの関係を見るに、貴方達はすでに親しいようですし……貴方達の関係がおかしくならなければいいのですがね。
お見合いの件は私から話しておきましょうか、それとも杭奈君が直接ペテンちゃんに話しますか?」
杭奈は胸に手を当て、ガゥッと鳴く。
「分かりました。杭奈君が直接伝える……と。こういう事には相性がありますから、ダメでもめげずに頑張ってくださいね、杭奈君。
ペテンちゃんは知っての通り、強い遺伝子を残すことを信条としております故、杭奈君はそういった意味では適任です……
ですが、もう一つダブルバトルの相性がよくなくっても断られます故、そこら辺については……袴君がライバルなのでしょうかねぇ?」
これは大変だとばかりにスバルは肩をすくめて笑う。
「ま、なんにせよ、頑張りは無駄にならないでしょう。卵が出来るまでは無料で付き合ってあげますので、当たって砕けてきなさいな……
あと、飼い主曰く必要なら進化してもよろしいとの話ですので、変わらずの石の取り外しはご自由に行ってくださいませ」
ガウッと、杭奈は力強く頷くが、その後何かを考え始める。
「小さい子が好きというのならゾロアのまま交尾というのも乙なものですね……どうしました?」
冗談を言っているスバルに対し、杭奈は何かを言いたそうに杭奈は彼女の服をつまんで引っ張る。
スバルが顔を見下ろすと、杭奈はガウガウと鳴いて意思を伝えた。
「『棘つきの靴で戦う術を教えてちょんまげ』……棘つきの靴、といいますと、これ……ハイヒールの事でしょうか?」
スバルが靴を指し示して訪ねると、杭奈は頷いた。
「なるほど……君の武術は八極拳に近いものでしたね。ジョン君には教えてもらえなかった脚技があるのでしょう……あの子とはスタイルが違いますから」
杭奈は頷く。悪い返事ではなさそうな雰囲気に目を輝かせ始める杭奈の頭を撫で、スバルは笑った。
「いいでしょう。ですが、今日は社員と飲む約束をしております故、明日にでも。朝と昼はデスクワークがありますので、明日の夜にでもお願いします」
嬉しそうに杭奈は頷いた。その様子を微笑ましい眼で見ていると、ふとスバルは話をしたい衝動にかられて、育て屋に出て行こうとする杭奈を呼びとめる。
「待ってください、杭奈君。ちょっとの私の話を聞いて行って下さいませんか」
杭奈は怪訝そうな顔で首をかしげて見せる。
「いや、ですね。貴方はこの育て屋に来た時、雑魚だったではありませんか……今でもまだ、強さは不十分ではありますがね。
人間もポケモンも、強くなるには目的が必要です。貴方は明確な目的を持つと言う事でどんどん強くなっていきましたが、最近はモチベーション下がってきてたでしょう?」
杭奈は図星を突かれて気まずそうに頷いた。
「ふふ、やっぱり。私も、昔その日食べるにも困っておりましてね……その日の糧を得ると言う目的のために、私はひたすら強くなりました。
その時は必死でしたよもう……ここの昼食マッチの勝ち負けどころの話ではなく、負ければ食事抜きという惨憺たるものでしたので、
まぁ、それはどうでもいいですか。昔語りは老化の証拠ですよね……まだ三十路手前だと言うのに恥ずかしい」
ふぅ、と溜め息をついてスバルは笑う。
「最近は、育て屋のポケモンが強くないと示しがつかないという理由だけでポケモンバトルの勉強をしておりましてね、モチベーション赤丸急降下です。
貴方は、これからお見合いで引きあわせてもらった異性のために尽力すると言う目標が残されておりますが……それがちょっと羨ましいくらいですよ」
スバルは杭奈の頭をなでて笑う。
「さて、貴方はこれから、ペテンちゃんと言う女性を手に入れるかもしれません。それで、貴方は女性を手に入れるという目的を果たしたと思うかもしれません。
しかし、これは我儘なお願いかもしれませんが……目的を果たしたとしても強くなる事を止めないでください。
次は子供が生まれるまで女性を守るために強くなってください。それを目的にして、貴方はきっと強くなれます。
子供が生まれれば、女性を守るために強くなる意味を失うかもしれません。しかし、その時は子供を守るために強くなってください。
そうすればきっと、杭奈君はまだまだ強くなるはずです。そして、強くなりましたら……あなたさえよろしければ、私のポケモンと戦いましょう
私がファンになった君となら、私のポケモンともいい勝負が出来ると思うのです……ですので、お願いします」
スバルは笑顔でお辞儀をする。杭奈は戸惑って頬を掻いていた。
「なに……今答えを出さなくともよろしいのですよ。この育て屋を卒業する、半年契約の切れる日にでも。お願いします。
貴方さえよろしければ、貴方に私のすべてをぶつけてみたくなりました。
あなたのように恐ろしいまでの才能の持ち主が相手なら、私もモチベーションが上がりそうな気がしますので」
スバルの真剣な眼差しに見詰められた杭奈は、ガウッと鳴く。ペテンの手元のライブキャスタ―には、『考えてやんよ』と表示されていた。
実際には杭奈はそんな上から目線ではないのだが、相変わらずの通訳精度から繰り出される杭奈の前向きな答えがスバルは嬉しかった。
◇
「杭奈兄さん、どうしたの?」
そわそわとしながら、いつも袴とペテンがたむろしている木の元に訪れた杭奈に、袴が話しかける。
「いや、実はね……ペテンちゃんなんだけれど、お見合いのために来たって言っていたじゃない?」
「あぁ、うん。確かに……変わらずの石はチラチーノみたいに小さいポケモンとでも相手が出来るようにって付けていたような事を言っていたけれど……
素敵な男性がいないとかで、ペテンちゃんあんまり乗り気じゃないみたいね。あと、ゾロアの方が皆ちやほやしてくれるから進化したくないとか言っていたなぁ」
その時のしたり顔を思い出して、袴はクスクスと笑う。
「あ、それは初耳……やっぱり腹黒いね、ペテンちゃんは」
「まぁ、悪タイプだし仕方ないのかもねー。悪タイプって結構みんながみんなそういう気質ですし……
で、ペテンちゃんがどうしたのってぇ……この感情。兄さんまさか……何か変なこと考えていない?」
袴は、頭に手を押さえながら苦笑して肩をすくめる。
「その……なんというかごめん。袴……その、僕がペテンちゃんとお見合いすることになってね」
袴は絶句。
「はぁぁぁぁ……そういう事ですか……」
そして、渾身の力を込めて大きなため息をついた。
「確かに、もう彼女は大人ですよ。オイラもその気になればいつでもサーナイトに進化できますし、彼女もいつまでも子供じゃいられないのは分かっておりますがね。
そのペテンが、子供を卒業するきっかけが杭奈兄さんだとか……はぁ、気まずいなぁ」
再度の深いため息をついて、袴は頭を押さえる。
「そ、そんなに嫌?」
「……ペテンちゃんと親しくなかったら、嫌じゃなかったかもしれませんね。ルカリオとゾロアークって見た目悪くない組み合わせですし。
ですが、そんなことになったら僕は明日からどういう顔して袴君に会えばいいのだか……」
「ま、まぁそんな事言わずに……って、袴は自分のことでしょ」
「い、今のは動揺して間違えただけです。そんな事より、杭奈兄さんを祝福したいところですが、今回ばかりはね……祝福するべきなのでしょうが……ああぁぁんもう!!」
考えているうちに頭がかゆくなってきたのか、袴は良く整った髪をかきむしる。
「上手くやってくださいよ!! 友達なんですから、ペテンちゃんと変なことになったら僕は承知しませんからね。
僕が格闘タイプになった暁には兄さんのことインファイトで仕留めますからね!!」
丁寧語のまま、宣戦布告のような脅しをかけられ、杭奈は肩をすくめた。袴と戦って負ける事はまずあり得ないが、戦い以外での強さを袴はもっている。
主に感情を感じる事で嘘が付きにくい事が原因か。
恥ずかしいことを赤裸々に暴露する罰でも与えられようものならたまらない。なんにせよ脅された事も加味して、杭奈は頑張る理由が増えてしまったわけだ。
ただ単純に異性を手に入れるとかそういう問題ではなくなりそうだ。
「大丈夫……初恋は失敗するっていうけれど……初恋は散っちゃったから今度こそ僕はペテンちゃんを物にしてみるから。
ダブルバトルはやったことないけれど……僕だってやってやれない事はないよ」
「それは根拠のない強がりというのですよ杭奈兄さん。まったく、頼みますよ……ペテンちゃんを傷つけたら怒りますよ」
前回、静流という悪タイプに失敗した杭奈は、同じ悪タイプだけれど今度こそ射止めて見せると奮起した。
それに水を差す袴の言葉も、今は気にならなかった。
「で、彼女何処にいるか分かる?」
知りません、と袴は答えた。