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「さぁ、マスク。サービスです。その子の攻撃を一度だけ受けてあげなさい」
四天王のデータベースを調べてみると、マスクという名のピクシーの特性は天然。威張ると小さくなる、そして毒々と自己再生で耐えつつ毒で削り殺すという性悪ポケモンである。大した攻撃技は持っていないが、相手は混乱によってジワリと体力を削られて、マスクが持っているアイテムは食べ残しなのでじわじわと回復する。
性根の悪さで右に出る者はいない、凶悪なポケモンであるといわれている。
「舐めやがって……ニドヘグ、地震だ!」
相手はフェアリータイプであるためドラゴンタイプの技は通じないため、地面タイプの技で攻撃するしかないニドヘグは地面を勢いよく踏みつけて地面を隆起させるが、可愛らしいピクシーは歯を食いしばりいかつい顔をしながらもそれを耐えた。
「さぁ、サービスタイムは終わり。次からはぶちのめしなさい」
ゲッカさんの物騒な笑みが光る。真っ向からガブリアスの攻撃を受け止めて、涼しい顔で居られるだなんて、やっぱバケモノだなぁ。
「……よし、積まれる前に戻れニドヘグ……そんでもって、行け! ダイフク」
ドワイトはそう言ってタブンネを繰り出す。
「相手は強敵だ、簡単に勝てる相手じゃないけれど頼んだぞ!! メガシンカ!!」
そのままベルトに触れて、彼がメガシンカを促すことで、ダイフクは光に包まれ純白の毛皮を身に纏う。柔らかさも強さもアップした、メガタブンネの降臨である。
「まずは小さくなりなさい」
「瞑想だ!!」
二人はまず、戦う前に準備を整え様子見と言ったところか。どちらも放置すれば痛い目に合うような積み技を積んでいるが……あれ、ドワイト。なんで瞑想を積んでいるの!? ピクシー相手に瞑想したところで、意味なんてないはずじゃ……
「ドワイト、相手の特性は……」
私が大声で注意をすると、ドワイトの口元が少しゆがんだ気がした。
「もう一度、さらに小さくなりなさい!」
「瞑想だ!!」
あぁ、ダメだ。ドワイトは聞いちゃいない。
「さぁ、マスク! そろそろ行きなさい! 毒々!!」
「スキルスワップ!! 特性なんぞ知ったことかよ!!」
「あ……」
ドワイトがスキルスワップを命じると、ゲッカさんが間抜けな声を上げる。これにより、小さくなっても回避が上がる効果は無効になってしまうし、ダイフクは瞑想を積めるようになる。反対に、メガタブンネの特性である癒しの心は、シングルバトルでは全く役に立たない。こんな特性をスワップされた以上、これはもう、ゲッカさんの詰みか……
終わりはなんともあっけないもので、ダイフクがそのままマジカルシャインで押し切ってしまった。相手も威張ると自己再生で粘り、毒で削り切ろうとはしたものの、メガシンカにより強化された攻撃力の前には無駄だった。
ダイフクは荒い息をつきながらも勝利して、どっかり座り込んで毒に侵された体を休めた。彼女は癒しの鈴をかき鳴らして自分の体調を元に戻すと、ドワイトの抱擁に体を預けて微笑んだ。
「良くやったな、ダイフク。流石俺のポケモンだ」
ぎゅっと抱きしめプニプニと彼の頬を弄る。ダイフクは父親から貰ったポケモンだったはずだけれど、きっと一緒に居た年月は彼の方が長いのだろう、俺のポケモンという表現も問題はないか。
「参りましたね。貴方がタブンネをエースにしていたのは知っていましたが、まさかスキルスワップを使えるとは……」
「ダブルでは、まずタブンネの状態でスワップして、そこからメガシンカとかそういう使い方も出来るんだぜ。もともとダブル向けのポケモンだし、一応スキルスワップを覚えさせておいたが、おあつらえ向きのポケモンが出て来てくれてよかったぜ」
「……悔しいけれど、これは私の完全敗北ね」
「いやいや、それでも良く育ててあったからな、瞑想を積んでも押しきれないかとひやひやしたぜ、マジで。威張るもあるし、本当にいやらしいポケモンだぜ。作戦勝ちしていても運が悪ければ負けていたよ」
ドワイトが言う通り、威張られたダイフクは混乱して前後不覚に陥っていた。その状態できちんと瞑想をきめ、猛毒にも耐えてマジカルシャインをきちんと当てられたのは、運と根性と、ドワイトの期待に応えたいという彼女の執念だろう。
「何にせよ、私に見事に勝利した以上、商品を渡さないとね。さあ、お受け取りください……でかいきんのたまです。大切に扱ってよね、おねえさんの、きんのたまなんだからね」
「おう、記念に取っておくよ」
なんだろう? 何故だか知らないけれど、今猛烈に変な違和感のようなものを感じたのだが、その正体が分からない。『おねえさんのきんのたま』、その言葉に何か変な意味はないはずなのに……。
私の中に生まれた小さな疑問。そのもやもやの正体はつかめそうにない。