許嫁を取り戻せ6:それぞれの旅路、後編
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 翌日、俺達は四天王のゲッカが経営する非公式ジムへと出かける。野宿から一夜明けて下山し、せっかくなのでストーンヘンジの周りを観光し、コモルーにポケモンと遊んでいる光景を見ていたら、丁度時間もいい具合で、昼食後に約束していた時刻はもうすぐだ。
 時間を確認しつつなんともメルヘンチックな見た目の外観を持つジムの中に入ると、内部もまたなんだかメルヘンチックで不思議な気分になってくる。
「ここに来たのは初めてだけれど、甘い匂いのするジムだな」
 ドワイトはそう言って顔をしかめている。
「咳の方は大丈夫?」
「平気。喉や肺にくる匂いじゃないから」 
 ドワイトが臭いのことを言及すると、なんとなく身構えてしまう。ジムやポケモンセンターはポケモンの出入りが多いからと、マスクをして入室しているあたりも、何だか心配になってしまう要因である。今は本人が大丈夫というので問題ないのだろう。
「こんにちは、ゲッカさん」
 ジムのバトルフィールドへ続くドアを開け、ドワイトが元気よく声を上げる。ジム生の視線が一斉にこちらに集まり、私は何とも言えない緊張感に包まれた。
「あらぁ、ドワ、お久しぶり。元気にしてたー?」
 出迎えてくれたジムリーダのゲッカはとてもうれしそうで、私ですら呼んだことがないようなあだ名で彼の名を呼んでいる。
「へへ、実は旅に出てから少しずつ体調が良くなっているんだぜ。今まで咳が出るからって運動しなさすぎたのがまずかったのかもな」
「そうなのぉ? でも、さすがにまだ陸上グループの子はダメなんでしょ? ここ、ニンフィアとかデデンネの毛が舞ってるかもしれないから気を付けてね?」
「わーってるって。今のところ危険な感じはしないから多分大丈夫だ。マスクもしてるしさ」
 ドワイトの表情伺い知れないが、声色を聞く限りではとても気分が良さそうだ。
「それにしてもドワ、またかわいくなったね? お父さんそっくり。将来は良い男になるねこりゃ」
「男に向かって可愛いはねーだろうがよ」
「あら、ごめんなさい。それで、こっちの子はガールフレンド?」
「んー……旅に同行してもらっているだけで、別にそういう特別な関係とかってつもりはないけれど……でも、友達なのは確かだな。えっと、お互い自己紹介しましょう」
 そう言えば、ドワイトが大人と話しているところを始めて見た気がする。ドワイトってば子供相手には不器用だけれど、大人相手には本当にごく普通に話している。家が一応客商売ということもあって、大人への対応は心得ているのだろう。周りの門下生は四天王とため口で話すドワイトは何者なのかと顔をしかめている。
「それでは、改めまして。私の名前はゲッカ=アイゼンハワー。このジムを取り仕切っております。どうぞよろしくお願いします」
 そう言って。ゲッカさんは深々と頭を下げる。
「ご丁寧にありがとうございます。私は、アンジェラ=スミス。旅のポケモントレーナーなんですが、その……あんまり強くなることは求めていなくって、こういう場所はちょっと場違いかもしれませんが、よろしくお願いします」
「それで、えーと。俺はドワイト=マルコビッチと申します。えっと、ゲッカさんがよく利用している育て屋のオーナーの息子で、昔からよくしてもらっているんです。今日は遊びに来たっていうのもありますけれど……挑戦もしに来たから、ゲッカさん、よろしくお願いします」
 しかし、ドワイトは私と話している時とはまるで態度が違う。これが大人に対する彼の態度なのか……初対面の日と相手にこの振る舞いが出来れば、普通の好青年になれるのに、もったいないなぁ。


Ring ( 2017/01/15(日) 23:24 )