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「とか何とか言っているうちに、あそこにあるのがエクセロスジム……に、捨てられたごみと、そこへ集まっているポケモンの群れでございます」
「匂いがひどいし、ポケモンもひどいな……」
まだここからはジムは見えないのだが、しかしジムがあることはここからでも分かる。なぜかというと、悪臭を好むポケモンではない小さな虫はもちろん、生ごみを狙って訪れるコラッタやヤブクロン、ベトベターが我が物顔で歩いているからだ。特にベトベターは、ヘドロではなくゴミを食べているためか、なんとも言えない、油膜のような淀んだ虹色の体色をしており、見た目は綺麗な透明の結晶を析出させている。
あの結晶は命を脅かす猛毒なので、絶対に触れてはいけないもので、毒・悪タイプの亜種……この地方では珍しいポケモンではあるが、あまりうれしくはない。
ジムは生ゴミを毎日片付けているのだが、それでも掃除しきれない分が出て来てしまう。それを処理するためにベトベトンやダストダスを飼い始めたら、繁殖してしまってあの有様だそうだ。
ゴミはただ処理場に送り出すのみならず、ゴミを空き地に掘った穴に埋めたりもしているのだが、その穴もそれらのポケモンの溜まり場となっている。
ジムの周囲には空き地ばかりで住居も施設も無いのが救いだが、これでは地元住民もいい顔はするまい。たとえそれがジムリーダーが直接の原因ではないにしても、だ。
「なんというか、そう言えばここにいる時点でほのかに嫌なにおいが漂ってくるな……」
「毒タイプのジムだったらこれもまたありだったのかもしれないけれどね」
苦笑しながらジムに近づいてみると、ジムの周りにいる清掃員が見えたのだけれど、どうにも言葉がまともに通じそうにない。
「こんにちは!」
「コ、コニチハ!」
予想通りである。挨拶くらいはできるのかもしれないけれど、会話をするとなると少々怪しいものがありそうだ。ジムリーダーのミスティルが雇った移民であろうか? さすがに、立場のある人なので不法入国者を雇ったりはしていないだろうが、それでも少し危うい感じはある。
「おいおい、あんなんで大丈夫なのかよ? 言葉も分からない人が大量に街をうろついていて、妙な権利を主張し出したら確かに嫌だぞ? そりゃ、移民を手厚く保護するようなジムリーダーが嫌われる理由もわかっちまうよ」
ドワイトも、この街が抱えている事情を理解したらしい。そう、こんな移民が街をうろうろしているせいで、地域の住民は不安でたまらないのだ。そのおかげか、周囲の育て屋で育てられたポケモンを買い付け、護身用に連れあるくようになった家庭も多いという。
「……ね? なんとなく彼が嫌われるわけが分かるでしょう? こういうのが街に一杯増えるのよー? 職場が違っても、お店とか、交通機関とか、役所とか、病院とかで鉢合わせになるかもしれないの。そういうところのケアまで出来ているのなら、地元住民からも反発は少ないと思うんだけれど……」
「うーむ、難民や移民を助けているとかって聞くとすごい人格者に聞えるんだけれど……善意だけじゃ上手くいかねえもんだなぁ。勉強になるぜ」
「神も悪魔も、誰かを幸せにする一方で誰かを不幸にするものよ。ミスティルさんは貧しい人達にとっては神様みたいな存在かもしれないけれど、そんな存在のせいで不幸になる人もいる……もう、難しいものね。
地元リテンの人達の我慢がたりないかもしれないけれど、それだけが原因ではないのは明らかよ。何よりも、移民や難民の方に我慢と理解が足りてないし、そしてそれを放置しているミスティルさんに罪があるのは間違いないわ。
要は、ミスティルさんはポケモンにその辺におしっこやウンチをしないように躾をしていないのと同レベルの罪なのよ」
「……アブソルとかな」
私の言葉に、ドワイトは恨みがましげにポケモンの名前を口にする。あぁ、覚えていますとも、シャドウに飛びかかられそうになった時、貴方はものすごく怒っていたわね。
「シャドウの事はその、ごめんなさい」
「なるほど、シャドウがその辺に放置されていると思ったら、俺も気が気じゃねーわな」
ドワイトは鬼の首を取ったように言って、くすくすと笑みを浮かべていた。
さて、今回のジム。私はバッジ四つ目に挑戦するわけだが、果たしてクリアできるだろうか? ラルを出せば楽勝だろうけれど、それはやっぱり気が引ける。となると、マリルリのモスボー、ローブシンのタフガイ、カエンジシのラーラ、コモルーのフレーズ、このメンバーの中から三匹選んで挑むことになる。
ラーラはゴーストタイプの技をすかしつつ、炎技をタイプ一致で放てるポケモンなので、採用決定。フレーズは今はゴーストタイプに対抗するだけの技のレパートリーがいまいちなだけに、少々辛いだろうか? 消去法で、モスボーとタフガイで挑む方がいいだろうか。
ドワイトは、ごく適当に選んでいた。彼のポケモンは軒並み強いので選ぶ必要もないのだろう。本当、同じポケモンを育てているとは思えないような成長スピードで、一緒に歩いていると恥ずかしさすら感じてしまうレベルである。
フレーズだけでもドワイトに育ててもらえば、私も強いボーマンダを連れて多いばりできるだろうか? でも、まだ小学生とはいえ、育て屋の仕事をしてもらうわけだから、タダでしてもらうわけにもいかないし、やっぱりフレーズは自分で育てなきゃいけないよね。育ててもらうなら、お金を稼げるようになってからにしよう。