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確か、彼がチェストシティで出会った時にそんな話をされた気がする。親から逃げるためにポケモンを貰い、旅立つ若者がいるそうなのだが、ドワイトの育て屋はそういったトレーナーのために、商品としての適正が足りないポケモンをある程度育てて与えていただとか……親の虐待やら過干渉やら、ネグレクトやら、そういった理由で家を離れたいトレーナーが育て屋を頼るらしい。
ドワイトが少々達観したような話をするのも、育て屋としていろんな客に出会ってきたことが原因なのだろう。彼の実家のお仕事はお金持ちや企業、四天王やチャンピオンなどの大物を相手にすることもあるから礼儀正しくすることも出来るし。
逆に貧困にあえぐトレーナーを相手にするときもあるから、それに関して何か思うところがあったりするのだろう、ドワイトは意外といろんなことを考えている。
そのくせ同年代と普通に関わるのが一番苦手というのが、何だかアンバランスな奴である。もうちょっと素直になれればいいんだけれどなぁ……
「そりゃな、俺自身親からは『ポケモンに関わらない人生を送ってもいいんだ』って言われて育ったんだ。お前がそういう人生を歩んだところで、大工の親が文句言うわけもねーだろ? お前しか家業を継ぐ者がいないとかなら別だけれど」
「そうだね……旅から帰ったら、親と色々話をしようかな。お洒落な家具を作って、それで生活する……私も、何を以ってしてお洒落というのか分かっていないところがあるから、そういうこともきちんと勉強したいな」
「いいじゃん。そういうのを見つけられただけでもこの旅をした価値はあると思うぜ」
ドワイトが笑顔で私の事を褒めてくれる。こいつ、ポケモン意外には素直になれないから、こうして手放しで褒めてくれるのを見たのは初めてかもしれない。
「ありがとう、ドワイト」
「なんだよ、俺当たり前のこと言っただけだぜ?」
けれど、ドワイトは普通にお礼を言うと照れくさいのか、照れ隠しのように自分の気持ちを隠す。男のツンデレなんぞに、需要なんてないというのに。
エクセロスシティには、ゴーストタイプのジムがある。この街にも大聖堂があり、その内部にかつての聖人の墓が存在する。そこではレベル一三〇を超えるという強力なデスカーンが聖人の墓を守っているという。例によって例の如く、個人が所有するポケモンは一〇〇レベル以下に調整することが義務付けられているが、個人が所有しているポケモンではないので一〇〇レベルを超えていても咎められないのだとか。
このデスカーンは平均的な寿命と比べると非常に長大だが、その代わりにそこら辺にいるデスカーンと違って普段の時間のほとんどを眠りながら過ごしている。普通のポケモンののように毎日活動していると普通のデスカーンと変わらない寿命になってしまうが、毎日眠ることで長大な寿命を確保することに成功しているのである。
どうしてそんな休眠が出来るのか、レベルの関係か、突然変異か。それともいまだ科学で解明されていない聖人達の聖なる力の賜物か。聖人には極稀に遺体が腐らない者が存在するが、そういった力がデスカーンに作用するのかもしれないというオカルトな説も根強い。
そのデスカーン、科学者たちには垂涎ものの研究素材だが、当然そのデスカーンは文化的にも非常に価値があるもので、伝説のポケモンと同レベルの保護対象に指定されている。捕獲しようとしたところで返り討ちにあうのが常のため保護する必要もないほど強いけれど……そのため、あのデスカーンの体の秘密が明かされることは、よほど非合法の手段でも使わなければ無いだろう。
その大聖堂の管理及び、デスカーンの監視を行っているのが、ジムリーダーのミスティル。輝石サマヨールを初心者にぶつけてくるという鬼のような戦法が得意な陰湿なトレーナーで、呪いや影分身、鬼火などの様々な補助技で攻め立てる嫌われ者のカリスマである。
彼自身は聖人として認められているわけではないが、敬虔な宗教家であり、祈ることよりも実働することによって神に仕える活動家でもある。彼はジムの他にも会社を経営しているが、その収入を自分の贅沢には使わず、難民を支援するために使ったり、移民たちに仕事を与えたりと様々な活動をしている。
リテン地方の各地に営業所や工場を持っているおかげもあってか、様々な地域で感謝されている彼なのだが、その実それは各地の営業所や工場がある地元の人間には好かれていない。彼が守る難民たちが仕事を奪い、またその地域の文化や宗教を踏み荒らし、その自治体のルールを守らずに暮らしていることが原因だ。
移民や難民がせめてルールを守り生活しているならばその地元住民の反発も少しは抑えられるのだろうが、実際は難民が言葉すらままならない者が多い。紛争が行われている国には、空を飛べるポケモンやダイビングを使えるポケモンを使役して国境やぶりを支援するような輩がいるらしく、そいつらの手引きにより不法入国の難民が大量に流れているのが原因だ。