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私たちはゲッカさんのジムを訪ねてからも旅を続けて、一ヶ月。最初は警戒していたコモルーも、徐々に差し出された食べ物を警戒せずに食べるようになり、手渡しでも食べるようになり、今ではポケパルレも許してくれるようになり、すっかりと懐いていた。
そんなある日のこと……
「なんじゃあこりゃ?」
ある日唐突に、ドワイトは顔をしかめる。突然の雨にレインウェアをかぶりながら歩いている時に、ライブキャスターへ届いたメールを見ての反応だ。
「どうしたの?」
「あー……親父からのメールなんだけれど……件名が『結論から言うと、ポケモン・人間ともに被害ゼロです』って……えっと、内容が……『今日の早朝、イビルペリッパーなるポケモンの密輸、強奪、密売組織からの襲撃に会い、ラティアスとラティオスの家族やその他のポケモンを狙われました。あとはメールの件名通りですが、ニュースになって色々忙しくなる前に伝えておきます。』だそうだ……何か当然のように言っているけれど普通はとんでもない事態のはずなんだがなぁ……やっぱ親父スゲーな……」
「スゲーで済ませちゃうあたり、ドワイトも慣れているわね」
「まあな。その組織の下っ端がたどった運命なんだが、殺しはしていないけれど関節を外されたり足を折られたりとちょっと悲惨な状況らしい……まぁ、問題ないだろ」
本来ならここは、親の活躍を目を輝かせて喜ぶべきところなのだろうけれど、ドワイトの反応は薄い。恐らくそれだけ信頼におけるポケモンを育てる人なのだろう、だからこそこういった活躍も当然のように思えてしまう。ドワイトはそんな父親に追いつけ追い越せと頑張っているわけだから、理想が高い。
しかし私は……やっぱりお洒落な家具を作る職人というのをやってみたいと思っている。これまで寄った街にあった宮殿や城跡。それらに飾られたお洒落な家具は、持っていると生活というか、気分を豊かにしてくれるものだと私は思っている。
そんな物を自分の手で作れたら、なんとも素敵じゃないか。旅を終わらせたら……私は、その道に向けて努力をするべきなのだろうな。ドワイトはもう、夢に向かって歩きだしているのだから、私もちゃんと歩き出さないと。
そんな出来事がありつつも私達の旅は続き、ドワイトと共にゆっくりと歩きながら私にとっては五つ目の、ドワイトにとっては四つ目のジムがあるエクセロスシティにたどり着く。と、言っても私はまだバッジは三つしか持っていないから、恐らくはここで追い抜かれるのだろう。
旅路はドワイトの歩調に合わせてゆっくりとしたものであった。バッジコレクターと旅をしているらしいデボラは、もうすでにはるか先を行ってしまっている。リンドシティにたどり着いたころには、ドワイトが持っていたタマゴからプテラが生まれていたので、その気になれば一日でこの街に来ることも出来たらしいけれど(合計一〇〇キログラムくらいなら飛行するのも余裕だそうで)、ドワイトは自分の力で歩くのが旅の醍醐味だと、あまりそういうのを良しとはしなかった。
ただ、今の季節はもう二月。ここでバッジを手にしたら、次は私の故郷へとプテラに乗って行こうと申し出てくれた。私の故郷は、そろそろ渡り鳥がやってくる季節である。そこには季節を同じくしてシェイミがやってくる。ドワイトは、それを一目見ておきたいのだという。
「いやー、この町の大聖堂も立派だな……重機もない時代にあんなもんをどうやって建てたのか、ほんとスゲーよな」
「そうだね……私達現在人も負けてられないよね」
「しっかし、これまでさ、色んな観光地に行ってみたけれど……お前さん、いっつも変なところばっかり見ていたな?」
「変じゃないでしょべつに? 私はその……家が大工で、小さい頃から家の建て方とか学ばされてきたから。と言っても、漆喰を固めて作ったような家が多くって、木造建築とかこういう大聖堂みたいな立派な建物っていう感じではないけれど、建築の勉強は小さい頃からいろいろな本を読まされたから詳しいんだ。
私は、家よりも家具の作り方に興味があったから、そっちの本も読んでて……まぁ、ドワイトが言う変なところばっかり見ているってのも、家具を隅々まで見ていたのがそう捉えられたのかもしれないね」
「家具? 意外だなぁ」
「うん、ウチは大工をやっているんだけれど、小さい島で人口も少ないから、家を建てる人はあんまりいないし、修理依頼もそこそこってところでね。それで、仕事がなくって暇な時は、父さんは木材を使って家具作りをしていたんだけれど……私も、小さい頃から玩具代わりに廃材を与えられて、ノミやノコギリの扱い方もすっかりマスターしちゃった。
でもさぁ、家で作るのはけっこう飾りっ気のない家具ばっかりだったから……宮殿とかにある立派な家具、そういうのを作ってみたいなって思うようになってさ。あー、でも……極限までシンプルな家具っていうのも一つの魅力ではあるんだけれどね。日本にある釘を一切使わない家具とか……」
「良くわからねえが、家具なんて場合によっちゃ一生付き合うもんだし、そりゃいいじゃないか。手先が器用なら目指してみるといいんじゃないのか? 俺達育て屋も種によっちゃ一生付き合えるポケモンを育てるんだ、同じくらいに素晴らしい職業だと思うぜ?」
「でも、ポケモンと一緒に旅をして見つけた夢がポケモンと関係ないっていうのもなー……なんか、旅に出してもらったのにちょっと申し訳ないわ」
「何言っているんだ? ポケモンと旅をして見つけるのは、何もポケモンに関わる仕事ばっかりじゃないぜ? ポケモンがいなくたって旅は出来る、ポケモンはあくまで旅の安全のために居るって側面もあるからな」
「流石に、親から逃げるために旅立つ若者を送りだしていた家は言う事が違うね……」