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そう思いながらアンジェラの様子を見守っていると、彼女はどんどん先に行き、ついには視界から消えてしまった。万が一の事があっても、叫び声さえ聞こえればニドヘグが音速で助けに行けるが、大丈夫だろうか? 最近孵化したプテラのドレイクも、余力を残していつでも助けに行けるようにしておくか……
一応、心配なので三〇分ごとに連絡を取り合っていると……
「みてー、ドワイト。コモルー捕まえたー!」
「うおい! タツベイじゃないのかよ!?」
ライブキャスターの向こう側に居たアンジェラは予想外の事をしでかしていた。まったく、こいつも大物である。なんでも、穴倉にいるところを見つけた個体で、性格は陽気で、生後半年とそれなりに若い三一レベル。
強さもかなり優秀で、その上龍の舞いも覚えているのだとか。すごいな、俺も欲しいくらいに優秀な個体だ。
ちなみに捕まえ方だが、コモルーを後ろから捕まえて抱き上げることで、短い足をばたつかせても何も出来ない状況にさせたらしい。他のポケモンだと、手足が長い分、暴れまわると抱きしめていることも困難だが、コモルーは手足が短いから大丈夫なのだとか。背中には丁度持ちやすい突起もついているし……とのこと。
その状態で、崖の底にある河に顔を付けて、窒息させたところでボールを投げたら捕まったとか。いくらコモルーに足が地についていなければ何も出来ないという弱点をついたとはいえ、野生のコモルーを素手で捕まえるだなんてよっぽどの手練である。
そのコモルーだが、すでにアンジェラには服従している。体重も力の強さもアンジェラの遥か上を行くだろうが、それでもあいつには勝てないというのを嫌と言うほど思い知らされたのだろう。そりゃ、溺死寸前まで追い込まれれば、コモルーも弱音を吐きたくもなるか。
「しかし、ボーマンダだったら振りほどかれていたでしょうね……コモルーまでが相手を出来る限界だわ」
「お前いつか挑戦するとかいうなよ……? ボーマンダはマジで危ないから。きちんと世話しないと育ててくれたトレーナーでも殺すようなポケモンだからな?」
いや、俺の家にも二名ほど進化したてのボーマンダくらいなら背中に乗って、翼に掴まりながら後頭部をガンガン殴ってねじ伏せる実力の持ち主がいるから、アンジェラがボーマンダに勝てないとは思わないが……。他にも暴れるガブリアスを後ろから抱きかかえて、関節を極めてギブアップさせたり、バンギラスの体を鞭で叩きまわして服従させたり、そういうことが出来る人間は存在しないわけではない。
やっぱり、体が強い人はそうやってポケモン相手でも割と普通に勝ててしまうのだ。自分の弱い体が恨めしくて仕方なかった。
コモルーを捕獲したアンジェラと合流するころには、あたりはすっかり暗くなっていて、今日の下山は不可能と判断して、俺達は山の中で野宿をすることとなった。その際、たき火を囲みながらコモルーの実物を見てみると、こいつはすごいポケモンだ。
「なるほどなるほど……このポケモンは、素晴らしい能力を持っている。そんな風にジャッジできますね」
俺はコモルーのことを見て思わずつぶやいた
「ちょっと、ドワイト……いつもと口調が違わない?」
「ちなみに、一番いい感じなのはHPでしょうか。なるほど、攻撃もいい感じですね、素早さも同じようにいいですね。最高の力を持っている。そんな風にジャッジできました!」
「ドワイト、何か悪霊に取り憑かれていない?」
彼はコモルーを見た際に、目の色を変えて口走る。
「あぁ、いや……俺、ジャッジ検定二級を持っているもんでさ。職業病ってわけじゃないけれどこういう口調が身に付いたんだ」
「そ、そう……」
アンジェラはドン引きだ。
「多分、こいつヌシの子供だな……こんなコモルー、ホイホイいるわけない。やっぱり、ヌシはこの山のどこかでまだ生きているようだ」
「そうなの?」
「こんなのがなんの作為もなくゴロゴロいたら怖いよ……しかし、そんな主の子供でも、後ろから抱きかかえられて攻撃されると、この様か……」
「うん……さすがにちょっと怯えているよね……」
アンジェラは捕まえたコモルーを早速外に出して、先ほど餌を差し出したのだが。しかし、相手は警戒して食べようとしてくれない。遠巻きにこちらを見守ってはいるが、餌には近寄ろうともしない。
「当たり前だろ。溺れさせられたら相手も怖がるだろうよ。うーん、でも数日も一緒に生活していれば慣れるだろうし、とりあえずは慣れてもらうために食べかけの食料を与えたり、他のポケモンと一緒に眠るとこを見せたりとかして……」
「だよね……じゃ、とりあえずオレンの実。これなら安全なものだってわかるだろうし」
そう言って、アンジェラはオレンの実を一口齧ってからコモルーの前に投げる。コモルーは慌てて後ずさりをして威嚇するが、匂いを嗅いでそれがなんであるかは理解したらしい。更に臭いを嗅いで、腐っていないかどうかなどを調べるも、それについても異常なし。そのはずなんだけれど、一度抱いた警戒心は中々とけるはずはなく、コモルーはオレンの実にさえ口をつけようとはしなかった。
まぁ、腹が減ったら根負けして喰らいつくだろう。それまでの辛抱である。アンジェラもその辺のことはきちんと理解していて、むやみに自分から近づくようなことはせず、コモルーが逃げだしてしまわないように様子をうかがいはするものの、それ以上のことはしなかった。
「ところでそいつの名前、なんて名前にするんだ?」
「えっと……どうしようかな? こいつ雌だし、どうせなら女の子っぽい名前がいいなぁ」
「お前筋肉があれば女でもいいのかよ……」
こいつの好みが良くわからない。というか、マリルリは確かに筋肉はあるけれど、筋肉さえあればあんなかわいい見た目のポケモンでもいいのだろうか? 謎は深まるばかりである。
「とりあえず、明日までに決めてあげないとね。ポケモンセンターに登録しなきゃだし」
「そうか。まぁ、焦って決めることもないし、ゆっくり良い名前に決めてやれよな」
「当然っしょ。一生付き合う名前だもの、良い物を付けてあげないと」
変わった奴だよ、このアンジェラとかいう女は。俺と旅をしてくれることもそうだけれど、ポケモンを自力で捕まえるなんてのも変わっている。けれど、悪くない。
「大事にしてやれよ。可愛い子なんだから」
今までずっと一人旅だったけれど、こいつと一緒に旅を出来て良かったと言えるように、俺も頑張ろう。そんなことを考えていると、自分の顔が自然と笑顔になっているのが分かった。