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数時間かけて俺達は崖につき、ひとまず腰を落ち着かせる。小休止の後、俺達は薪を集めて火を熾し、ふもとの街で購入したレトルトのキーマカレーを温め、ナンを軽く炙って食事をする。それを終えたところで、ようやくアンジェラは捕獲へと移った。のはいいのだが……
「よし、これで大丈夫」
「お前、腹に道端で拾った雑誌なんていれてどうするつもりだ?」
アンジェラは、なぜか腹から胸にかけてを雑誌を入れて、包帯で巻いている。
「当然、タツベイに使う……ことになると思う」
「……ウチの育て屋にも素手でポケモン捕まえる奴はいるけれどよぉ。危険だぞ?」
「大丈夫だって、実はマリルリのモスボーも素手で捕まえたんだから」
ポケモンは自分よりも強い相手には基本的に逆らわない。だから。主人が自分よりも強いと認めさせることはポケモンを懐かせるうえで重要なことである。特に、狂暴で人に懐かないポケモン程その傾向が強く、ここにも生息しているモノズとその進化形のサザンドラやボーマンダなんかは主人がよっぽど強くないと不慮の事故で死ぬこともありうる。
そのため、未進化の頃に力の差を見せつけるというのは非常に重要だ。可能ならばボーマンダやサザンドラのような最終進化形の時に力の差を見せつける事だけれど、それが出来る奴はバケモノだ。まぁ、知り合いにはガブリアスにそれが出来る奴が何人かいるけれど。
ヌメルゴンみたいに人懐っこいポケモンの方がよっぽど初心者向きなのだが、アンジェラはあえてイバラの道を行くようだ。怪我しても知らんぞ……
アンジェラが素手でポケモンを捕まえようとしているのも、強さに自信があるだけじゃなく、ポケモンに早いこと命令に従ってもらえるようにしたいといったところだろう。あいつは……肉体も精神も逞しい女だ。
アンジェラの様子を窺うと、彼女は崖をタツベイと一緒に飛び下り、しかし見事に着地して傷ひとつなく着地している。そうして悠然と歩き、傷だらけで落ちて来たタツベイを誇らしげに見下ろしている。タツベイはアンジェラに威嚇しているが、アンジェラは足元にある石を拾い上げて投げつけ目くらましをすると、相手の下半身を蹴り上げて足払い、からの後ろから抱き上げて首を絞めて意識を失わせた。タツベイは後頭部で頭突きをしてアンジェラを攻撃するが、しかし腹に巻いていた雑誌のおかげでアンジェラはノーダメージのようだ。
そうして、アンジェラはライブキャスターを開いてポケモンをスキャンすると、どうやらお眼鏡にかなわなかったようで、ライブキャスターをしまいこんで別の場所へと向かって行った。
「おいアンジェラ、お前何やっているんだ?」
俺もライブキャスターを起動して通話する。
「いやその、どうせなら陽気な性格の子か、もしくは強い子を育てられればなぁって……私のライブキャスターは簡易ジャッジ機能がついているからさ、素晴らしい個体がいればいいなって思ったんだけれど……あ、傷つけるとかわいそうだから、極力相手を傷つけないように首を絞めて気絶させてるの」
「……そうか。頑張ってな」
アンジェラ、大工仕事で体を鍛えたり、男子とも普通に喧嘩をしているような奴だとは言っていたが、これほどアグレッシブな捕獲方法だとは思わなかった。
アンジェラは、まず無傷で崖から落ちることで、タツベイに格の違いを理解させるようだ。そして、川の水や石ころを使って相手を目くらまし。戸惑っているうちに、首を絞めて助けを呼ぶことも出来ないうちに気絶させる。そうして気絶しているうちにスキャン、そしてお眼鏡にかなう個体であれば捕獲と言ったところだろうか。
彼女曰く、レベル20くらいまでなら素手でもなんとかなるとのこと。トレーナーの下で素早く育てられた場合は三〇レベルにもなれば進化するが、野生でゆっくりと育った個体ならば、二〇レベルでもコモルーに進化することはあるから、三〇レベル以上のタツベイはまずいないだろう。それにアンジェラはいざとなれば強いドリュウズもいる。まず身体の危険は問題にはならないだろう。
俺は崖の上から手持ちのポケモンに模擬戦をさせつつ、ゆっくり見物させてもらおう。