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「そりゃ、アレだよ。四天王のゲッカさんがウチの常連でな。よく、俺の親父と食事をするし、俺も一緒に連れて行ってもらえるからだ。彼女のポケモンを交配させて、子供をある程度まで育ててあげたりするのがうちへの主な依頼で、他にも彼女のジムを警備しているピクシーはうちの従業員が調教したんだぜ。それに、四天王のポケモンの子供は高く売れるからな。繁殖させて販売するのも俺の家が受け持っているんだ」
「……貴方の家って、本当にすごいのね」
「まぁ、だから同級生に嫉妬されるってのもあるのかねぇ? 俺が同級生と仲良くなれない理由を、自分以外の何かのせいにするのは良く無いことだってわかっているけれど……普通の家庭に生まれれば違う人生もあったのかなって思うと、たまに恨めしくなるぜ。
で、えーと……ここのボーマンダに関するお話だったよな? とりあえず付近にボーマンダが生息する場所があるわけだから……寄り道くらいなら行ってもいいぜ。あと、ついでだからゲッカさんのジムにもちょっくら挨拶にでも行ってくるよ」
「あい、ありがとう」
そういうわけで、私達はドラゴンが生息するというストーンヘンジの周辺へと向かう。いきなり旅に同行させてもらったのに、急ぎの旅ではないからと、寄り道をさせてくれるのは非常に有難いことである。
ストーンヘンジのある街には非公式のジムがあり、その南側周辺にはドラゴンが住む険しい山岳地帯がある。この辺は温泉が湧く地帯でもあり、湿度が高めで湿気を好む水タイプや電気タイプのポケモン、熱いお湯を好む炎タイプのポケモン、そして寒さを嫌うドラゴンタイプが生息しやすい環境だ。
それゆえ、モノズ、チルット、タツベイ、ヌメラ、キバゴなど、様々なポケモンとその進化形が暮らしているというわけだ。その山岳にある、高い崖のあるV字谷。ごうごうと流れる川を下に臨むその場所で、タツベイ達は元気に飛び下りて飛ぶ練習をしている。
この行為、怪我をするばっかりで生産性はないのだが、タツベイ達はこうして打たれ強い体を作ることで、簡単に外敵には負けなくなる。食料となるコラッタやミネズミの牙も、ポニータの蹴りも、崖から突き出た岩に叩かれ続けたボディが耐えるのだ。
特に、頭の鍛え方は格別だ。空を飛べないことに苛立ち、そのいら立ちをぶつけるため大岩に八つ当たりをして割り砕くことが出来る。そんな鍛え方をしている為、タツベイは体中が筋肉の塊で、子供であっても油断はできない力の持ち主である。
ドワイトはやっぱりポケモンに関する知識は異常なほど脳内に詰め込まれているようで、暗記するほど読みふけった知識は尽きるところを知らないようだ。
◇
山を超えて崖のある地帯へと行く最中、湿度が高い分ある程度肺は耐えてくれたが、それでも激しい運動を続けたおかげで、途中から咳が止まらなくなる。吸入器で薬を吸い込み、カメックスのグレンに背負ってもらって山を越えた。アンジェラの奴は、俺がグレンにおぶってもらうと、歩調を合わせる必要もなくなったとばかりにずんずんと歩いていってしまう。グレンは当然ひょいひょいと付いていったが、やっぱりあいつは俺に合わせてゆっくりと歩いてくれていたんだな……情けない。
しかし、こうなにも会話がないと退屈だ。俺もカメックスに掴まっている間に咳も治まり大分体調も良くなって来たし、一つ重要な事を思いだしたので話しておかねばなるまい。
「そう言えば、ここでポケモンを捕獲する際は、主に注意しろ」
「ヌシ? って何?」
「ここのポケモンの、文字通りの主だ。伝説のポケモンじゃねーぞ……その、な。以前話した通り、ここには密猟者がたくさん来ていたんだ……ところで、密猟者の気持ちになって考えてみてくれ。お前さんがタツベイの密猟者だったら、どんなポケモンを連れてくるよ?」
「そりゃ、フェアリ―か氷タイプかなぁ?」
「そういうこった。氷タイプにはこの辺の環境は合わないが、フェアリータイプには適応出来ちまった奴がいてな。グランブル、ってポケモンなんだが、こいつはタツベイのみならず、モノズ、ヌメラ、キバゴなんかも好き勝手に捕食し始め、その上現地のポケモンと番って繁殖、帰化しやがったんだ」
「あれ、チルットは捕食されなかったの?」
「アイツは空飛べるからグランブルが相手なら結構逃げられるんだ。というか、チルットは進化するまでドラゴンタイプじゃない。で、そこでグランブルが繁殖したことにより、ドラゴンタイプの楽園は一気に地獄へと変わってしまったんだ。それに対する救世主が、四天王のビジンさん……ゲッカさんの双子の妹だな。あの人はゲッカさんと違って生まれた時から、女性の人だ」
「へー……四天王のビジンさん、そんなことやってるんだ……四天王ってやっぱり多芸に秀でるんだね……」
「あぁ、俺もゲッカさん経由で聞いたことがあるだけなんだがな……その頃のビジンさんは若干十五歳だけれど、『ポケモンを野生に返すことが出来る資格』である『ポケモン放流士』の免許を持っていたんだ。本来は大学で『下級第三種ポケモン生態系学』『上級第三種ポケモン生態系学』二年以上学ばないと取れない資格だけれど、飛び級重ねて若くして資格を取っちまったバケモノの人だ。
で、その資格を持っていると出来る業務の内容なんだけれど……飼いきれなくなった、扱いきれなくなったポケモンを生態系に影響を与えないように安全に野生へ返すための資格で。単にポケモンを元の生活圏に返すだけじゃなく、病気がないかとか、狂暴性が増していて他の野生のポケモンをむやみに傷つけたりしないかとか、妙な知恵をつけて群れを先導しないかとか……まぁ、いろいろ考えることがあるらしい。一度教科書読ませてもらったけれど難しくって……
野生に戻す依頼料金は高額だもんで、個人からの依頼はほとんどなくって、国から依頼を受けることの方が多い職業であり、そのための資格なんだ。
本来ならば、野生に返すポケモンは、他の野生のポケモンに対して無意味な攻撃性は持っちゃいけないんだ。例えば、腹が減っているわけでも無いし、縄張りを犯したわけでも無いのに、無差別に、無意味にポケモンを襲うようにしつけられたポケモンなんかは野生に返しちゃいけない。これは分かるよな?」
「うーん……そんなポケモンがあんまりイメージできないんだけれど、確かにそんなのが野生に放されていたら問題ね」
ドワイトが話す言葉は、なんだか、私の知っている日常とはだいぶ違う、テレビの中のお話の様で、現実味がない。話を理解するのも大変だ。