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「ねぇ、ところでさぁ。私ちょっと空を飛べるポケモンが欲しいんだけれど……どんなポケモンを入れたほうがいいかなぁ?」
食事中、ふと気になったことを聞いてみる。
「んー? 別になんでもいいんじゃねーの?」
「そんなぁ、ドワイト冷たくない?」
と、私が言うとドワイトは苦笑する。
「いやほら、お前は別にバトルで勝つために旅をしているわけじゃないんだろ? それだと、パーティーのバランスだとか、そういうのを考える必要もないわけで。そうでなくともバトルスタイルとの相談もあるし……せめて、どんなポケモンがいいか教えてくれないことには、アドバイスなんて出来ないよ」
ドワイトと旅を始めて三日目。私達は西を目指して旅をしている。今度のジムはリテン地方の南西にあるゴーストタイプのジムなので、ジムの攻略にはこれと言って役立てるつもりもない。そもそも、私はジムの制覇を目的にしているわけではないし、記念だからね。
「そうか……そうなると、まずは飛行できるポケモンということが大前提で」
「うんうん」
「それでいて筋肉質で……」
「胸筋ならほぼすべての鳥系ポケモンが当てはまるんじゃねーかな? 虫ポケモンが嫌だって意味なら考慮するけれど」
「そうね……筋肉があって飛行できれば……あとは……何でもいい」
我ながら、条件はこれだけしかないのかと思う。しかし、あまり条件を付け過ぎても見合うようなポケモンがいない場合もあるし、二つくらいならばそれなりのポケモンを見繕ってくれるのではないだろうか?
「そ、そうか。ならばあれだな。ここから西に数十キロ行くと、ストーンヘンジっていう遺跡があるんだけれど……そこにドラゴンタイプの楽園があるからさ。そこで……タツベイ捕まえねーか? その進化形のボーマンダならお前さんの好きそうな筋肉と鋭い爪や牙の持ち主だぞ?」
「ボーマンダ……あぁ、思いだした。あのポケモンなら筋肉も十分あるし、好みのタイプかも」
そのポケモン、見たことある。映画の題材になったり、飛行レースでは毎回常連となっている赤い翼と青い体の、強いコントラストが警戒色となっているポケモンだ。
「いいね……でも、私に育てられるかな?」
「いやぁ、あいつはなぁ……捕まえるのは簡単なんだ。タツベイのころは崖から飛び下りて、いっつも傷だらけでスタミナもすり減っている状態だから。だから、そういう状態のタツベイを見つけて勝負を挑み、何が何だかわからないうちに捕まえる。それがセオリーだな。
ただ、気を付けないといけないのは親の存在だ。親って言っても、ボーマンダは産みっぱなしで産まれたタツベイの面倒を逐一見るようなことはしないけれど、子供の叫び声が聞こえたら、とりあえず助けに来るからな。ボーマンダは、餌はタツベイに自分で捕らせるし、住処の面倒も見ないけれど、安全が脅かされれば全力で助けに来るってわけだ。ボーマンダに襲われた人間は最悪死ぬ、ってか殺される」
「そりゃ、確かに死ぬね……」
「まぁ、でもお前さんなら問題ないだろ。ラルって言ったっけ、あのドリュウズが居れば大丈夫だし、万が一だがボーマンダが二匹以上来た時は、俺も一緒に戦うよ……ついでにゲットしちまうかな?」
「ボーマンダが寄ってくるって、そんなことあるんだ……」
「そうなんだよ。かつてはその習性を利用して、大音量でタツベイの鳴き声を流して、ボーマンダを大量に乱獲する業者が現れてね……まぁ、強引に捕まえてすぐに懐くようなポケモンじゃないから、はく製にされたり、牙などを美術品の材料にされたりとかで、酷いことになったらしい」
「酷いこと?」
「うーん、俺も詳しくは知らねえんだけれどな。ヌメラやらポニータ、シママあたりの数が増えて植物系の食料不足になって農作物に被害が出たり、ボーマンダという強力なライバルがいなくなったせいでサザンドラが幅を聞かせて、近隣の町の家畜まで襲われるようになったとか。
ボーマンダは縄張りを荒らす相手には容赦しないが、基本的に威嚇すればほぼすべてのポケモンは退散するから、最低限の獲物しか狩らないんだよなぁ。だけれど、サザンドラは威嚇無しで襲い掛かるから、食べるつもりのないポケモンも狩ってしまう。その際に人間にも被害が出ることが多くなって、周囲は壊滅的な被害を受けたとか。
条例ででタツベイの鳴き声を使っておびき寄せるのが犯罪として扱われるようになってからも、密猟者はそんな事お構いなしだった。そんな状況を打破したのが、今の四天王であるゲッカとビジンさんの祖父と親御さんだな。ラティアスとラティオスを使役して密猟者をガンガン捕まえたんだ。ポケモンレンジャーも協力したけれど、その二人はレンジャー、一五人分の活躍をしたそうだ。伝説のポケモンの力が大きいだろうけれどな。
今もなんだかイビルペリッパーズとか言う密売組織の噂が聞こえ始めてきたが……本当にまた生態系とかが崩されてひどいことになりそうだから止めて欲しいもんだ」
「確かにね。密売組織とか言うのは出来ればお近づきにはなりたくないもんだわ……しかし、ドワイトってものすごく物知りだね……どこからそういう情報は仕入れてくるの?」
ドワイトは案外もの知りだ……しかし、いくらなんでも詳しすぎるような気もする。テレビ番組で特集でもしていたのだろうか?