5:それぞれの旅路、前編
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 そういえば、デボラがいなくなって、料理が出来る人がいなくなってしまった。とはいっても、旅先ではまともな調理器具をそろえられるわけでも無いので、デボラがいたところで凝った料理など望むべくもないのだが。
 ただ、ドワイトの食料事情を鑑みると、レストランや食堂に行ったとき以外はシリアルやサプリメント、ドライフルーツくらいと言うことで、外食じゃなくとも何か別のものが欲しいところ。そう考えたところで、私が選んだのは果物と野菜である。果物ならば皮をむくだけで食べられるし、外食でやたらと高いサラダを食べるよりかは幾分か経済的である。
 ドライフルーツもコストパフォーマンスや携帯性は優れているが、やはり生の果物でなければ得られないみずみずしさと言う魅力には叶うまい。包丁を使えなくても、ピーラーを使えば皮をむくことは出来る。

 そして野菜だが、こちらは緑黄色野菜を多くとらなければいけないが、生でニンジンやらピーマンやらを食べろというわけにもいかないので、茹でる、煮込むだけで簡単に食べられる料理を作ることにする。例えるならばコンソメスープや、ジャガイモやカボチャ、コーンなどのポタージュ。ホワイトシチューなんかも良いだろう。幸い、調味料はどこのスーパーマーケットに行っても売っているので、街についた時に数日分を買いこんでおけばそれなりにもつ。
 野菜と果物さえあれば、あとは缶詰だけでも何とかなる。缶詰や保存の効くビーフジャーキーなどは少々塩分は濃い目だけれど、歩いて運動しているから知らず知らずのうちに、分厚いコートの下で汗をかいているから問題あるまい。
 デボラと一緒の時よりも食事の質は落ちてしまったが、それでもドワイトが一人の時は温かい料理を野外で食べることもなかったため、彼は私の気遣いを気に入ってくれたようである。包丁の使い方も全くと言っていいほど未熟だったため、私は少しずつ教えて行こうと思う。デボラみたいに料理が上手くなる必要はないけれど、それでも何かのきっかけでドワイトが一人暮らしをした時に、自分で料理を作れないようでは苦労も多いだろう。
 ニンジンやキャベツを薄切りにし、暖をとるための炎を囲んでじっくりと煮え立つのを待つ。待っている間は暇なので、おしゃべりをしたりレポートをまとめたり。ドワイトは私のポケモンの分までレポートが脳内にあるらしく、やっぱり素人の育てたポケモンは弱点が多いなぁと感じるところを遠慮なく言ってくれた。
 ちょっとイラッと来る発言だけれど、彼のポケモンが私のそれよりもはるかに上を行っている以上、ぐうの音も出ない正論なのだろう。相変わらず、発言をオブラートに包むということは出来ないようだから、それもおいおい覚えさせておかないとまずいかもしれない。
 一応、育て屋は客商売だし、学校生活でも本音でしか喋られないようでは何かと苦労するだろうから。

 さて、そうこうしているうちにスープが出来上がり、私達はポケモン達の目の前で食事をする。しっかりとお座りをしたまま舞っているポケモン達をしり目に食事を続け、二人とも食べ終わったところでようやくお待ちかねの、ポケモン達の餌の時間である。
 一番最近に仲間入りしたマリルのモスボーも、食いしん坊な子で最初こそ苦労したものの、今では他の仲間に合わせてじっと耐えている。少しかわいそうではあるけれど、主従関係が大事という決まりを守るため、こればっかりは厳しくしなければ。
 ドワイトのポケモンは相変わらずびしっと決まった格好で待てをしている。しかしながら溢れる食欲まで抑えることは出来ないのか、口の端から唾液が漏れていたりするなど、顔まできめることは出来ないようだ。餌を差し出すと、待ってましたとばかりにくらいつく。運動量が私のポケモンとは違うせいか、私のポケモンと比べてかなり食欲が旺盛に見える。
 ガブリアスやハッサムの荒々しい食事風景は圧巻だが、タブンネの食べっぷりも負けていない。レベルが高いというのは、それだけエネルギーの消費も多いという事か。


Ring ( 2016/12/31(土) 22:26 )