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「あぁ、結婚式……その、夫の家族は意外に祝福ムードだったけれど、ウチの家族は妹しか出席してもらえなくって、すごーく寂しかったけれど……でも、そうね。一人でも祝福してくれる人がいれば、心は救われるから問題ないと思うよ。もしかして、デボラさんは女性同士で結婚したいとか? それとも、ポケモンと結婚したいとか思ってたりとか? グレトシティのジムリーダーのウドさん、ポケモンと結婚するカップルの結婚式もやったことがあるんですって」
なんだろう、ゲッカさん。その質問はアウトでは?
「どうしてみんな私をそう変態にしたがるんですかぁ!? ってか、ポケモンと結婚なんてしませんから!!」
ウドさんにも、なぜか私は女性と結婚したがっていると思われてしまった事を思いだして、私は顔から火が出るような思いであった。というか、ポケモンと結婚したいっていう発想はどこから? シイさんか? シイさんからか? あの人明らかにそういう性癖あるっぽいし!
「
そうか……そうだよな。やっぱり」
シイさんは何か一人で納得しているし! なにが『そうだよな』なのか!? 日本語で独り言を言ってるけれど、私は意味が分かってるんだからね?
「あら、両親から結婚を反対される何かがあると思ったのだけれど……別にそれはレズビアンとかポケフィリアというわけではないのですね……」
「いやまぁ、反対はされていますけれど、別にレズビアンとかじゃなくて……その、ちょっとしたお金絡みというか。父親が学歴と収入の高い男性を紹介してくれているんです。性格は悪いからそれが嫌で……ですので、私は性格のいい男子と結婚したいんです」
「おやまぁ、それは大変ですね。ですが、貴方はポケモン達から見ると、『強くそれに逆らおうとして努力している』と思われているようです。私も、強くあろうとしていたから、親に反対されてもその逆行を乗り越え、今は幸せに暮らしていますし。時には力づくで、なりたい自分になるんですよ。その時、ポケモンもきっと助けになってくれますよ。親に逆らうのって体力も度胸もいりますけれど、ポケモンがそれを補ってくれます」
「ははは……なんというか、やっぱりなりたい自分になるのって、ある程度力技が必要なんですね……」
こんな言葉、毒タイプのジムリーダー、トリカさんにも言われた。自分に打ち勝つ努力も必要だけれど、他人の反対をねじ伏せるだけの心の強さもまたそれだけ重要なのだろう。この人の場合は……
「えーと、ウチは……その、四年に一度の夏至の日にストーンヘンジにて若いポケモンを戦わせて、その若いポケモンの生命エネルギーを集めるお祭りがあるのですが……私達の一族は祭りの度に、戦いに出すラティアスとラティオスを育てる役目があるんです。
親は、その役目は家の長男に課せられるものだって……あー、長男っていうのが私の事だったのだけれど、その役目を私に強要したの。
父親は『長男じゃないと絶対ダメ』だって、そんな風に強く言ったんだけれど……でも、正直な話、育てられるラティアスもラティオスも、人間の性別が男だろうと女だろうと気にしていないから……長男がやる必要とか全くないのよね。むしろ、女でも何でも、向いている人材がやるのが一番いいの。
それに伝統的ったって、まだ三代しか続いていなかったから、そんなに由緒ある伝統でも無かったから、力づくで辞めさせちゃったのよ。妹が」
「妹が、ですか?」
「うん、父さんと妹のビジンが、同じ日に生まれた同じポケモンを一緒に育てて、そしてバトルしたんだけれど、結果はまぁ、ビジンの圧勝だったの。父さんは『女ごときに負けるなどありえん!』とかって言っていたけれど、何回やっても父さんはビジンに勝つことが出来ず……最終的に、美人は父さんを足蹴にして唾を吐いて笑ってたわ。
それからというもの、父さんは私たちに強い物言いが出来なくなってね。私も父さんを簡単に下しちゃってから自分の好きなように生きて、男から女になった。そしてビジンはドラゴン使いの後継者になったというわけ。
夢を追いかけるには……結局なりたい自分になるためには、努力で何かを乗り越えるしかないわけで……自分が強く、能力があることを証明しないといけないの。貴方が何を乗り越えるべきなのかはわからないけれど、どんな壁があっても怯んじゃダメよ。ぶち壊してやりなさい。
本気でやって、一つの方法であきらめることになっても、別の方法で試してまた挑戦して、それでもダメなら妥協して見ることよー」
ゲッカさんはあっけらかんとしてそう語る。この前向きさが無ければ、悩みの内容が内容だし、自殺でもしていたんじゃないだろうか。