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そうして、日が暮れて数時間ほど経った頃にトレーニングは終わる。シイさんはミカの後にキリカにも同じように膝枕をしてあげて、ポケモンを最大限労っていた。ただ撫でるだけでも満足してくれるのだから、彼がよっぽどポケモンに好かれているのだとよくわかる。
私達は見学をさせてもらったお礼にジムの後片付けや掃除などを手伝ってから、改めてポケモン達が思っている事を代弁してもらう。それについては私もついでにということになり、シイさんも私もポケモンを繰り出して、メガシンカしたプリズムに見てもらう。
まず最初に、マフォクシーのミカとレントラーのキリカがメガサーナイトの二つの角に挟まれるように抱擁され、ゲッカさんは背中の角に触れて伝わってきた思いを読み取って行く。
「ふむ、多分ですけれど……貴方のポケモンは『もう少し別れる予定のポケモンでも可愛がってあげたい、大切にしてあげたい』のではないでしょうか? なんというか、シイさん。貴方がポケモンを愛していることは十分に伝わってくるのですが、それだけに……別れが辛いからだとか、そういう理由でミカさんとキリカさん以外のポケモンには多少冷たい扱いをしているのではないでしょうか?」
ゲッカさんに指摘されると、シイさんはバツの悪そうな顔をする。
「そのとおりです。ポケモンが、親離れできないのも困るし、私も子離れできないのは困るから、意図的に扱いに差を出しています……それが……まずかったんですかね」
「そうですね……しかし、ポケモン達はもう少しそれら幼いポケモンを可愛がってあげたいようです。野生でも、成長すれば子供も巣立っていくもの。それを割り切れないほど、ポケモン達もやわではないと思いますよ。
ですので、他のポケモン達もただ育てて売るだけでなく、真剣に向き合って可愛がってあげてください。もちろん、こちらの二人との関係も今まで通り、ですよ」
ゲッカさんはそう言い終えて、なぜか急にもじもじとしだす。
「あー……でも、その……私もその、褒められたものではないのですが、貴方もあなたで、病気には気を付けてくださいね……?」
ゲッカさんは一体何を言っているのか? 病気とは一体何の病気なのか? ポケモンから病気がうつるとでもいうのだろうか、はははまさか。
「え? あ、はい……そんなことまで分かるんですか?」
「いや、まぁ……ポケモンは素直ですから、その……はい。世の中、色んな人がいますからね」
ゲッカさんはあはは、と苦笑する。いったい何のことを話しているのやらわからないが、ゲッカさんが多少理解を示しているところを見るに、性に関する話題なのだろうか? 男性から女性になるために手術までするようなゲッカさんがいるのだから、いまさらシイさんがどんな性癖を持っていようと別に驚きはしないけれど。
話の流れからすると……もしやポケモンと? たまに防音性の高いホテルに行ったときなど、シイさんは別々の部屋で眠ったりして怪しいことはなくはいが……まぁ、いい……私の身に危険が及ばないというのはいいことじゃないか。
「それでは、気を取りなおして、デボラさんのポケモンを」
苦笑しつつ、ゲッカさんは私のポケモン達にも同じことをする。最初から私と一緒に居るエリンやトワイライトの気持ちを代弁してもらうように頼んだわけだが、果たしてその結果は……
「貴方、『昔とは急速に変わった』という印象がポケモンからは強いようですね。『人間は進化するわけでも無いのに、ある日を境にいきなり進化したかのようだ』と、ポケモン達は言っています」
「いやまぁ、本当にそんな感じですよ。私、旅に出る前から別人みたいに成長したって言われているし、旅に出てからも……多分、それ以上に成長していると思いますから」
「だから、今までは頼りない主人だと思っていたけれど、今は安心して指示を任せられるって、ニャオニクスの女の子は言っているみたいです。愛されていますね」
そう言って、ゲッカさんはにっこりと笑う。
「うーん、それでですね。この子曰く、『アブソルの女の子がよくちょっかいだしてきてうざったいから、もっと彼女と遊んでやってくれ』と、そんな要求もしています」
「う、そうでしたか……エリンとシャドウはほほえましく遊んでいると思っていたんですけれど、そんな事思っていたんですね……シャドウももうちょっと空気読んでくれないかなぁ……」
「ポケモンときちんと向き合って話をすると、案外それくらいの心は分かるものですよ? 今すぐできるとは思いませんけれど、ポケモンと目を見て話しかけてみてください、きっとポケモンも応えてくれると思います」
自分もそれが出来るのだろうか、ゲッカさんは言う。自分に出来ないことを他人に出来るというような人でもないだろうし、彼女も恐らくは目を見て話しかければポケモンの気持ちも何となくわかるのかもしれない。
「そういえば、なんですけれど……」
ポケモンの言葉を聞かせてもらい、一通りの用は済んだけれど、一つだけ聞きたいことがある。
「あの、ゲッカさんってグレトシティで結婚式を挙げたって聞いたんですけれど、その時って家族の反応はどんな感じでした? ちょっと、私も結婚って言うのがどんな感じか気になって……私も下手したらグレトシティで結婚式を挙げそうな状態なもので」
家族に反対されながらの結婚とはどんなものなのか、私は恐る恐る尋ねる。今ではいい思い出なのか、ゲッカさんは微笑んでいた。