5:それぞれの旅路、前編
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「では、もてなして差し上げなさい。ブリーズ」
 二番手はエルフーン。彼女の切り札であるサーナイトは最後の最後まで取っておくのだろう。このブリーズという名のエルフーン、web上にあるトレーナー名鑑によればすり抜けを用いるエルフーンで、神秘の守りだとかそういうのを無視して毒を放つ厄介者だ。
 基本戦術はコットンガードで耐久し、毒々で攻め、ヤドリギとみがわりで粘るというものである。食べ残しを持つことにより体力の回復にも優れるため、この戦法ゆえ物理型のポケモンにはめっぽう強いが、ピクシーのような天然の特性もちのポケモンや、コットンガードで対応しきれない特殊技もちのポケモンには弱い。
「一旦退くんだ、キリカ。ミカに代われ!」
 故に、特殊技で攻めるのが正解だ。今回はおあつらえ向きに炎タイプを得意とするマフォクシーのミカが居るので、そいつに役に立ってもらおうということだろう。
「まずはヤドリギの種よ!」
 ゲッカさんが指示を飛ばす。交換の隙を突かれ、繰り出されたばかりのミカは体にヤドリギを植え付けられる。汚いものに触れられたかのように手で払おうとするミカだが、しかし粘ついた種はその程度では剥がれるはずもない。
「火炎放射!」
 こんなものすぐにでも外したいとばかりに額に縦筋を浮かべながら、ミカは結局ブリーズに向き直って炎を放つ。当然、みがわりを盾にしてブリーズはそれを防ぎ、表面が燃えているみがわり人形の陰から毒々を放つ。腕に仕込んでいた杖を振るって、念力でその毒液を逸らし、今度は広範囲に火炎放射を薙いだ。
 威力は落ちるが、炎が拡散することで相手は前後左右からの火攻めにさらされる。
「堪えて追い風よ!」
みがわりの盾も意味をなさないため、ブリーズは本体を守るべく、分厚い綿とみがわりに含まれた空気を断熱材にして耐え、熱気を風で振り払う。
「風上に立つんだ!」
 突如湧いて出た追い風を受け、ミカは風上に移動してやろうと走り出すも、しかし風向きはブリーズの自由自在。如何に回り込もうとしても、サイコパワーで空中に浮こうとも、追い風は向きを変えてミカに襲い掛かる。追い風なんて、一回放てば向きなんて変わらないと思っていたけれど、あのエルフーン、方向転換をあっさりやってのけるだなんてバケモノだ。そうして移動しているうちに、攻撃を当てることばかり考えているものだから、ヤドリギの種に少しずつ体力を奪われる。
「やむを得ない、火炎放射でゴリ押すんだ!」
「堪えなさい!」
 ゲッカの指示に従い、ブリーズは再度のみがわり。威力の減退した火炎放射を受け止めるなど造作もない事で、その最中に口にため込んだ毒液を吐きだそうとすると、ミカは思いの他近くまで接近している。とっさに毒液を吐きだしてけん制するも、ミカは腕の毛で毒液を受け止め、ブリーズの体を押し倒すようにして掴みかかる。
 ブリーズは抵抗のためにミカの腕をビシバシ叩くも牙をむきながら殺意までむき出しにしているミカの握力が勝った。至近距離の火炎放射は、自身の腕ごと焼き払って、毒を蒸発・変質させる。それによって腕にダメージを負って、ミカの握力は緩んだものの、すでにブリーズはボロボロだ。最後っ屁としてマジカルシャインを放とうとしたが、その前に木の枝を腹に突き立てられて悶絶し、再度の火炎放射……を、放つふりをしただけで戦意を失い抵抗をやめた。
「……エルフーン、戦意喪失です。ゲッカさん、この人やりますよ」
「勝てる自信があるからこのレベルに挑んだわけでしょうし、驚くには値しません。では、そろそろメインディッシュを召し上がってもらいましょう!」
 そう言って、ゲッカさんが最後のポケモンを繰り出した。最後のポケモンはやっぱり彼女の切り札であるサーナイト。このレベルでの挑戦だと、メガシンカをしてくる強敵だ。
「さあ、優雅に踊れ、プリズム」
 口ずさむなり、ゲッカさんは髪をまとめるヘアバンドに仕込まれたキーストーンに触れて、プリズムという名のサーナイトのメガシンカを促した。
 プリズムはスカート上の膜を広げ、ウェディングドレスを思わせるような傘状の形状へと変貌する。胸の角は二股に分かれたさらに感度を増し、強化されたサイコパワーはノーマルタイプの攻撃を強力なフェアリータイプの攻撃に変えて相手を殲滅する力を持っている。
 さぁ、言うまでもない強敵だ。シイさんはどう挑むんだ?


Ring ( 2016/11/15(火) 00:13 )