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ルールは、ジムバトルと同じ方法に則り、三匹のポケモンを使い先に全員が倒れたほうが負け。ただし、挑戦者は交換が自由だが、ゲッカさんは交換出来ないという、ごく普通の戦闘方式である。ちなみに、いくつか手加減のコースも用意され、バッジ八つ相当の場合は彼女は自分のポケモンを五五レベルにするようフラッターで調整する。フェアリータイプなので恐らくは無理だろうが、五五レベルくらいならばシャドウでも一人で勝てなくはないレベルだ。
上の段階に挑戦すると、六〇、六五レベルと上がっていき、そして真の実力の彼女と戦う際は、ハーフバトルではなくフルバトルとなって、七〇レベルを超えるポケモン達に加えてメガシンカまで駆使して、必要とあらばポケモンの交代もして、本気で叩きのめしにかかってくるのだ。
シイさんは、六〇レベルの彼女との戦いを選んだ。流石に彼女の本気に勝つ自信は無いこともあるが、戦えるポケモンも二匹しかいないので、これが一番いいのだそうだ。勝てば、賞品としてお姉さんのきんのたまを送られる。本気の彼女に勝った場合はでかいきんのたまを貰えるのだが、四天王を相手にするわけなので、滅多なことじゃお目にかかれないそうである。
「では、始めましょう。あなた以外に飛ぶ者がいない、平和な空を作りなさい、プライズ」
ゲッカさんがそう言って、ポケモンを繰り出す。あの、それ物凄い物騒なことを言っていません?
最初に繰り出されたポケモンはトゲキッス。高い耐久と、嫌らしい特性の合わせ技で敵に何もさせずに勝つことを得意とする、邪悪な平和主義者である。基本戦術は電磁波で麻痺をさせてからのエアスラッシュの連打。対策をしていなければ、本当に何もさせずに散ってしまうこともあるのだとか。
性質上、麻痺もしないしエアスラッシュも効果はいまひとつで、しかも素早いポケモンの多い電気タイプのポケモンは非常に苦手だが、岩タイプのポケモンに対しては波導弾でお茶を濁すことも出来るなど、ゲッカ曰くやればできる子である。まぁ、七〇レベル超えてるんだから、何も考えずに使っても強いけれどね……
対するシイさんは、まず最初にレントラーを出す。良い選択だ……と、言いたいところだが、ゲッカさんは本気で相手をするとき以外は初手にトゲキッスを繰り出すため、当然のチョイスといえる。
「あちゃー、電気タイプのポケモン、持っていたかぁ」
「私の嫁です!」
シイさんは何を宣言しているのやら、困っている振りをしながらしっかり笑っている。
「そうですか、貴方の嫁でしたら、丁重におもてなしいたしましょう! プライズ、マジカルシャイン!」
「キリカ、接近しながら十万ボルトだ!」
二人の指示が交錯する。広範囲かつ光速の攻撃は、バトルフィールドに立った直後では避けづらい。そのため、シイさんがまず最初に指示したのは接近することだ。無論、近づけばそれだけマジカルシャインの威力は高くなる。だが、接近戦を得意とするレントラーもまた、至近距離物理攻撃を放てばそれだけ威力は高い。
キリカはマジカルシャインを喰らいながらも前に進み、シイさんはマジカルシャインを伏せて凌ぎつつ、キリカへ再度の指示を伝える。
「そのまま狙いすませてワイルドボルト!」
「空中に退避して波導弾!」
キリカの接近を嫌い、プライズという名前らしいトゲキッスは空中へ退避。狙いもそこそこに放った波導弾だが、そこは狙いを絶対に誤らぬ波導弾。ワイルドボルトを空かしつつ、青い波導の塊がキリカの肩で爆ぜる。耳をつんざく轟音と強烈な痛みを歯を食いしばって耐え、キリカは今度こそ狙いを定めてマジカルシャインを放たんとするプライズを、瞼を閉じて睨む。
瞼に生えた体毛と、瞼そのもので眼球を保護しつつ、壁をも透過する透視の眼光で敵を見据え、地面を蹴ってワイルドボルトを叩きこむ。マジカルシャインは強烈だが、歯を食いしばってそれを耐えた後に、跳躍からの電気を纏った強烈な体当たりでがプライズを貫いた。弱点タイプの攻撃をまともに受け、プライズは羽ばたくことが出来ずに地面へとポトリと落ちる。そこへ、キリカの牙が強烈な電撃を伴って添えられて、それが相手の戦意を見事に折り取った。
「戦意喪失のようですね。ゲッカさん、新しいポケモンを出してください」
「ですね、電気タイプが相手とあっては、さすがにこれは仕方がありません」
そう言って、ゲッカさんはため息をつきながら次のポケモンを繰り出す。まだ態度が余裕たっぷりだ、どっちが勝つかはまだわからない。