5:それぞれの旅路、前編
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 リンドシティを発った私達は、数日かけてリンドシティから西に二百キロメートルほどの場所にある環状列石のある観光地、ストーンヘンジへとたどり着く。ここは四年に一回、とある大会の会場となる遺跡で、ごく普通の岩に見えるこの列石は、ラティオスの竜星群を喰らっても傷ひとつつくことのない、途方もなく丈夫な岩で出来ている。
 ここは、若いポケモン達が激しい戦闘を行うことにより、漏れ出た特殊な生命エネルギーを吸い取り、新しくメガストーンやキーストーンを生み出すことが出来る場所。それゆえ、ここでメガシンカを可能とするポケモンが暴れまわることで、それに対応したメガストーンが生まれるという摩訶不思議な場所である。
 その性質ゆえ、かつては若いラティアスとラティオスがこの場所で戦いを繰り広げ、メガストーンを生み出しては、メガシンカして外敵を排除するために使用していたのだという。
 それが今では大会として盛り上がるようになり、その大会というのが、ウィル君が代表に選ばれることを目指す赤青対抗幼獣喧嘩祭(レッドアンドブルー アンダーワンバトルフェスティバル)と呼ばれる大会である。メガストーンを生み出せる時期は限られており、四年に一度、夏至の日。大会が行われる日が最もメガストーンを生み出す力が高まる日である。
 しかし、普段はただの観光地。今は岩が環状に並んでいるだけで、それ以外は殺風景な野原である。ただ見て回るだけでもそれなりには楽しめるのだが、ここには、このリテンを代表する強豪トレーナーの経営する非公式ジムがある。
 非公式ジムというのは、ジムバッジを授与することが出来ないジムの事であり、要するにポケモントレーナーとしての腕を鍛えることだけが目的のジムである。非公式ジムは国からの援助を受けることがないため、よほどの腕がなければ経営が赤字になってしまうことは少なくないのだが、しかしこのジムに限ってはそんな心配とは無縁である。

 このジムを経営しているのは、四天王のゲッカ。この地方きっての強豪トレーナーである。彼女はフェアリータイプの使い手で、同じく四天王の妹ビジンはドラゴンタイプの使い手というエリート姉妹である。
 彼女の家は三代続くドラゴン使いの家系であり、彼女もそれを期待されてこの世に生を受けたのだが、どうしても自分の生き方に納得できなくなり、フェアリータイプを使うことを選び、妹にドラゴン使いの継承権を譲ったという。妹は『女だから継承権はない』という親の反対を押し切る際、だった二匹で相手の六匹をねじ伏せる腕前で、若い頃から親を超える程の努力をしてきた執念と、得られた強さは四天王という立場が証明してくれる。
 継承権のない女性である妹、ビジンは親からポケモンバトルについて何も教えてもらえていなかったため、彼女にバトルの手ほどきをしたのはゲッカである。妹にバトルを教えただけあって、姉のゲッカはポケモンを育てることは勿論、人間を育てることに関してもまた秀でた才能を発揮している。
 彼女に見てもらったトレーナーは、皆バッジ八つを手にする実力を得られるという。もちろん、才能がなかったりやる気がないようなジム生もいるが、そういったジム生は早々に切り捨てるそうだ。
 切り捨てるといっても指導する際に無視するだとか、そういうことはしないが、投げかけられる言葉がものすごく辛辣になり、それによってトレーナー本人やその親などとのトラブルが絶えないことから、やがて相手も自然に通わなくなるのである。ただし、あまりにもそういったトラブルが多いため、ポケモンバトル協会からは公式ジムへの認定を見送られたという過去がある。
 本人は、ポケモン協会から五月蠅い指示を出されることなく自由に指導出来るならば、それでいいやとばかりにあまり気にしていないようだが、しかし非公式ジムは公式ジムと違って挑戦者がいない。毎日門下生同士で鹿バトルが出来ないというのはあまりに寂しいため、このジムでは有料ではあるもののいつでも挑戦者を受け入れている。
 そういう形で四天王に挑めるような場所は今までなかったらしく、十年以上旅をしているシイさんも、四天王に挑むのは初めてだという。
 四天王が相手では、手加減してもらったとしても負けるかも知れないというのが、シイさんの見たてであった。

 今日、私達がこのジムにやって来たのもシイさんが是非ともゲッカさんと戦いたいとのことで。ゲッカの本気を相手にすることは到底できやしないだろうが、シイさんはバッジ八つを取得するに足るレベルは十分にあるから、育てられた彼女のポケモンの動きをいろいろと参考にしたいのだと。


Ring ( 2016/11/08(火) 23:31 )