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「それで、デボラは……お前は少なくとも二つの外国語をマスターできるようでなければ、認められんな」
そんなことを考えているうちに、話は進む。
「それって、今私がやっていること?」 デボラは一体何を言っているのか俺には全くわからない。どうやら異国の言葉……というか日本語のようだ。
「お前、いつの間にそんな言葉を覚えたんだ?」「冒険の最中に学んだ。もちろん冒険に出発する前にもたくさん勉強する」 デボラが何を言っているのかよくわからないし、ちょっとたどたどしく言葉にも詰まり気味。だけれど、オーリンさんの表情を見る限りでは、きちんと意味が通じている事は明らかだった。
「なるほどな……お前達も、一時の気の迷いだけで私に歯向かったわけではないというわけか……お前から突然日本語で話しかけられるとは思いもしなかったぞ」
確かに、驚くのも無理はないけれど。デボラは俺と一緒になってからも、隙を見ては日本人観光客を世間話をしていたから、それを知っている俺達にとっては当然のようにも見えた。
「……少し文法の間違いはあったが、まだ成長の余地もありそうだし、外人が相手ならこの程度の間違いで気を悪くする者もいないだろう」
なんて言ったのか気になってしまうが、今はそんなことはどうでもいいか。どうやら、オーリンさんは俺達のことを甘く見ていたらしく、子供達の浅い考えだと思っていたらしい。恫喝すればデボラが従うと思っていたのも、きっとそういうことなのだろう。
「分かった、いいだろう。中学を出たらお前はすぐにパルムと結婚させる予定だが……それまでにもう少し日本語をうまく喋られるようになって、その上でカロス語を話せるようになるならば、認めよう……」
デボラが中学を出たら結婚。と、言うことは義務教育は一六、中学生期の卒業が一八歳までだから、それってつまり大会にはあと一回しか出られないということだ。いや、だとしてもやるしかない。
「……では、二人の条件は以上だ。確かに、アンジェラの言う通り、私達が取り決めた婚約に法的な拘束力はないが、こちらとしても簡単にウィルとの結婚を許すわけにはいかない。もしも約束を破るのであれば、この村に住むことは出来ないと思え」
具体的に何をどうやって俺達をミクトヴィレッジに住めない状況にするのかはわからないが、オーリンさんの言葉はどうやら本気のようだ。睨みつける彼の視線が痛いくらいだ。
「何にせよ、こうして密会を続けるならばこれ以上は旅を続けさせるわけにはいかんな。デボラ、荷物をまとめて帰るぞ」
「断ります」
オーリンさんが凄んでデボラを連れ帰ろうとするも、デボラは毅然とした態度でそれを拒否する。
「ウィル君と旅をしなければいいんでしょう? 今まで出来てたんだから、出来るし」
「わかった。ウィルと密会しないのであれば……勝手にしろ」
デボラは今まで親に反抗したことなどなく。それゆえ、こうやって明確に敵意を向けられるとオーリンさんもどうすればいいのか良くわからないのだろう。すぐに暴力を振るう者は、逆に暴力を振るわれると一気に大人しくなるというのは聞いたことがあるけれど、これがそういう事なのか。
「それじゃあ、お前はどうするんだ、ウィル?」
デボラが旅を続行する意思を伝えたところで、父さんが俺に尋ねる。
「俺はいいよ。デボラがいないなら、旅を続ける意味もないし……またデボラと会っているんじゃないかって疑われるのもしゃくだしね。それに、大会に参加するためには色々と回らなければいけないし、旅はその時に出来る」
俺はじろりと父さんを睨む。父さんが余計なことをしなければ俺は旅を続けられていたんだと思うと、恨めしくって仕方がない。
結局、俺は家に帰ってからもみっちりと怒られることになったが、それを最後まで聞くことなく俺は外に出てポケモンの育成を始めた。もう俺はポケモン売買免許を持っているんだ。その気になれば親の金がなかろうともどうにだってなる。現に今俺の手持ちのファイアローを売れば、二年程度の生活費を得ることは訳ないのだ。
親のメンツだか何だか知らないけれど、結局のところオーリンさんがどれだけ吠えたところで、島唯一の育て屋への需要がなくなることはない。野生のポケモンから家畜を守るための番犬は、ウチが育てるのが一番強いのだから。ってか、俺のポケモン三体居れば軽くジム八つ突破できるし。