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「わかった、それじゃあお前の望む通り、言おう」
オーリンさんが前置きをする。
「私は、確かに私の家のためにパルムと結婚させたがっている。だが、これはウチの家は代々地元の有力者同士と結びつくことで、より優秀な血を残すために必要なことなのだ」
「そう、じゃあウィル君が優秀なら文句ないという事ね?」
ようやくデボラは、一番もって行きたい展開へと持ちこめた。今のデボラならば、オーリンさんが首を横に振れば容赦なく殴るだろう。幼い格闘タイプのポケモンがそうするように、力任せに殴ってやろうという意思が見て取れる。
デボラは父親の顔を覗き込み威圧する、俺の方からは彼女の後頭部しか見えなくて、その表情は伺いしれないけれど、オーリンさんが無言なところを見ると、きっと恐ろしい表情をしているのだろう。
「そうだな。だから、そこいらにあるような育て屋の男なんかと結婚させるわけにはいかない……だが」
デボラがさらに拳を固めようとしたところで、オーリンさんは続ける。
「ジョセフと結婚するはずだったナノハ=カンバイは、ジムリーダーの娘であり、レンジャーの資格も持っているような強い奴だ。世間知らずなところはあるが、体も健康で家柄も問題なし。そして、カンバイ家はこの島……ライズ島の観光地である渡り鳥の休憩地にして、グラシデアの花畑があるカンバイ湖付近の土地を所有している。結婚して、ジョセフがその土地を管理出来ればと思ったが……そうだな、ウィル君がポケモントレーナーとして有名になれば、いくらでも利用価値はある。スポンサーが付くほどのトレーナーになってくれるのならば、いいだろう」
「相変わらず金のことしか考えていないんだね……呆れた。遺伝子云々とか言っていたけれど、けっきょくはそれに帰結するのね」
デボラが嫌味たっぷりに口にする。いや、なんというかオーリンさんの本性がむき出しになっているってことなのだろうか。
「妥当と思える水準の条件を出そう。この地方では祭りがあるな。四年に一度の祭り……大会の一年以内に生まれたポケモンだけで戦い、赤組と青組に分かれて戦う祭りが……確か、
赤青対抗幼獣喧嘩祭といったな」
その大会、知っている。大会開始の一年前以内に卵から育てたポケモンや、一年以内に捕まえた一〇レベル以下でなおかつ捕獲時に進化していない(カビゴンやマリル等を除く)野生のポケモンのみが出場できるという大会である。
「その代表選手に選ばれるのであれば、構わん。要するに、赤組か青組の四位以内に入れるのならばな」
最終的な戦いは赤と青の代表選手四人によるシングルバトル勝ち抜き戦。四位以内に選ばれた代表者は、対抗戦で一人で五匹までのポケモンを出すことが出来る。
対抗戦の大将は五匹に加えて、大会の実行委員が育てた一歳以下のラティアスかラティオスを使役することが出来るので、合計二一匹のポケモンで戦う団体戦だ。つまるところ、どちらかの陣営でベスト四に入る実力がなければいけないということだ。
生まれてから一年以内のポケモンのみが参加資格を得るという性質状、若くレベルの低いポケモンで争うことになり、また大器晩成型のポケモンとなると少々厳しいものがある。何年もかけて育て上げた最高のポケモンで戦うポケモンリーグとは違い、いかに素早くポケモンを育てられるかが勝負となる、早熟のポケモンが好まれる大会だ。
ある意味、それなりに使えるポケモンを手早く育てることが求められる、育て屋という職業が最も輝く大会ではあり、そう言う意味では俺が有利だ。リーグで優秀な成績をおさめろといわれるよりも、よっぽど有難い。
「このお祭りはリテン地方のローカル大会ではあるが、優秀な成績を修めた者へ送られる商品がキーストーンやメガストーン、そして場合によってはラティアスやラティオスをも入手できるとあって、色んな国から参加者が来るような国際的にも有名な大会だ。その大会で成績が残せるのならば、認めてやらんでもない。お前も何かと良い広告塔になる」
そう、この大会は外国からも参加者が来るお祭り騒ぎの大会である。そして、時にはポケモンリーグのチャンピオンすらも参加する。どうせ、オーリンさんは俺がその中で四人に選ばれるとは思っていないのかもしれないが、『優勝しろ』と言わない当たり、俺が代表選手に選ばれるならそれはそれで結婚する価値があると考えているのかもしれない。ある意味、そこまで家柄にこだわれるのであれば清々しい。
それなら、何がなんでもその約束を守らせて見せようじゃないか。
「やります」
舐められているかもしれないけれど、俺が育てたポケモンは強いんだ。シャドウとラルはあらかじめ育ててあったポケモンだから、純粋に一年で育て上げたわけじゃないけれど、若いポケモンをあれだけ育てることが出来たんだ。育て屋としての腕前ならば自信はある。俺を舐めたことを後悔させて……いや、恥じらわせてやる。
「ちなみにこの大会、かつては育て屋のユーリ=マルコビッチが二度も自身の陣営で一位に上り詰めたそうだ……育て屋のお前には丁度いい目標だ」
ユーリ=マルコビッチ……そういえば、俺が生まれる前の話だけれど、そんな名前の人が優勝していたっけ。それ、ドワイトと姓が一緒なんだけれど、まず間違いなく血縁なんだろうなぁ……。
アンジェラやデボラも察したらしい、こんな話の最中だというのに何かを納得したような表情をしている。