4:合流して三人で
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 ドワイトとは観覧車を降りた後にすぐに分かれたのだが、その後結局ポケモンセンターで鉢合わせして、俺達は苦笑いをしていた。あれだけの戦闘を終えた後なのだから、考えることは同じか。
 そのポケモンセンターで宿泊した時は、今日見た自棄のすばらしさを語るだけでいくらでも時間が過ぎた。俺達は、エリンとエリオット、二匹のニャオニクスが見守っている部屋の中で、人目も気にせずいちゃついていて。何だかエリンの目がいつもよりも冷ややかだった気がしたが、きっと気のせいだろ。
「でも俺さ、デボラと一緒に観覧車に乗ってた時は全然夜景を楽しめなかったんだ。お前のせいで」
「え、なんで?」
「当然だろ、お前しか見えないんだから。ドワイトと一緒の時は良く見えたけれどね」
 デボラにそう告げると、若干ショックを受けて悲しそうだった顔も、見る見るうちに明るくなった。
「んもう、ウィルったら……」
 顔を赤らめながら俺の体にすり寄られると、不覚にも体が反応してしまいそうになる。まだそんな年齢ではないので自重しなければならないが、いつかはこのまま次の段階まで進めるような関係になってやるんだと、俺は難く心に誓うのであった。


 そうして、クリスマスも過ぎて、今はハッピーニューイヤーと沸き立つこの街で、俺達は……再び引き裂かれることになる。
 うかつだったのは、俺のポケモンには耳の裏あたりにマイクロチップが埋め込まれていたということ。生体内に発生する微弱な電気を蓄積して、数分に一度だが現在地を周囲に伝えることが出来るという代物である。これは、育て屋から万が一ポケモンが逃げても大丈夫なようにという配慮なのだが、俺の両親は今子供がどこにいるのかというのが気になって、ついついエリオットの居場所を検索してしまったそうだ。しかし、出た場所は俺がいるはずの場所とは全く違う場所。それが何度も続き、アンジェラの親と世間話をしたところ、アンジェラのいる場所と俺がいる場所が一致したそうだ。つまり俺はデボラと一緒に居るのだろうというあたりを付けられてしまったのだ。
 その結果俺は、デボラやアンジェラと一緒に泊まったポケモンセンターで待ち伏せされ、デートしていることを両親に。そしてデボラの両親にも露見することとなってしまう。逃げようと思えばそれも出来たが、そんな気力も湧かなかった
 結局、次の日にデボラの父親、オーリン=スコットが飛んできて、俺達を一か所に集める。ホテルの一室を借りて、デボラの隣にオーリンさん。ソファを挟んで向こう側に俺と父さんを座らせ説教を始める。父親も申し訳なさそうに小さくなり、聞き分けのない俺を恥じているばかりで、俺の気持ちなんてお構いなしだ。
 オーリンさんが言いたいことは、『女なんて外に出て働く必要もないし、外の知識を得る必要もない』とのこと。デボラの兄の婚約者も、ポケモンバトルはジムリーダーの娘だけあって非常に強いが、シェイミの研究と自分の家の土地の手入れに没頭しており、世間知らずなところがある。だが、それがいいのだと言う力説をオーリンさんは続ける。
 『女はいつも家にいて、旦那に奉仕し、旦那が快適に生きられるようにするのが務めなんだ』、『お前は義務教育を終えたらパルムの下に嫁がせる』と、彼は言う。それは嫌だとデボラは訴えたが、オーリンは頑として譲らなかった。
 その重苦しく、そして不愉快な空気を打ち破ったのは、部外者であるアンジェラであった。
 彼女は、ホテルの一室で説教されていた二人の話を聞いており、その話が相当苦痛だったらしい。業を煮やした彼女は、他の部屋の客にまで聞こえそうなほどに、ドンドンと扉を叩きまくる。何事かとオーリンがドアを開けると、そこにはローブシンのタフガイが待ち構えていた。オーリンさんはドアを閉じようとするも、ローブシンであるタフガイの怪力の前にただの人間が立ち向かうことが出来るはずもなく、強引にドアは開け放たれた。
「黙って聞いていればさぁ……オーリンさん、随分とまぁ勝手なことを言うじゃあないの? 要はオーリンさん、女は頭が悪いほうがいいって言いたいわけでしょ?」
 アンジェラはデボラの父親、オーリンへ向かって勇ましく吠える。彼女は村で唯一の大工である、ミクトヴィレッジでは一番のお偉いさんであるデボラの父親を敵に回そうとも、唯一の大工という強みがあるため、仕事に困ることはない分強気に出られるのだろう。
 デボラは一瞬驚いていたが、そんなアンジェラの行動に勇気づけられたかのように、デボラの顔付きは少しだけ変わっていた。


Ring ( 2016/10/15(土) 23:26 )