4:合流して三人で
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 彼の仕草が気になるけれど、とりあえず話を進めよう。
「でも、君もまだまだ強くなるだろうし、どっちが上かはまだまだ分からないよ。頑張って強くなろうね」
「言われなくたって……俺はお前よりも強い親父よりも、強くなることを目標にポケモンを育てているんだ。げほっ」
「へぇ、父さんに憧れているんだ?」
「そりゃそうさ、あんな姿を見てたら憧れないほうがおかしいさ。それで、ごほっ……父さんみたいになりたくって、今はとにかくポケモンリーグを足掛かりに強くなろうって努力してい……ゲホッ努力しているんだ。それで、やるからには優勝だな。それが終わったら引退して育て屋をやるって言うのが俺の人生設計だ」
「そう簡単に上手くいくといいけれどね」
「ごふっごっ……」
 大きな事を言うドワイトに、俺は少し笑ってしまった。だが、そこら辺の身の程知らずならばともかく、そんなに強い父親とやらを持ちながらこれだけのことを言うのだ、四天王くらいなら上り詰めるのかもしれない。しかし、さっきからドワイト異常に痒そうなんだけれど大丈夫だろうか? 咳も出始めているし、これは完全にやばそうだ。
「そうだな、先ずはお前を超えなきゃ、父さんを超えることなんて出来ないわけだ。……じゃあ、げほっ……まずはお前をライバルと認めてげふっげふっ……ごほっ」
 多分、格好良くライバル宣言しようとしたところを邪魔されて、ドワイトは全身を掻きむしりながら、ポケットに入れていた薬を取りだした。
「んぐ……ちょ、ダイフク……癒して」
「だ、大丈夫?」
 薬を水無しで無理やり飲み込んだあと、彼はダイフクという名のタブンネを出して、苦しそうに咳を連発するドワイトに、俺は何も出来そうにない。けれど、何かせずにはいられず掛け寄った。
「……の観覧車、ごふっ……掃除されてない。メガシンカも連続じゃできね……くそ」
 本来観覧車の中でポケモンを出すのは禁止されているがこればっかりは仕方あるまい。癒しの鈴と癒しの心のダブルで癒され、ドワイトの体に浮き出ていた赤いポツポツは引いていき、咳も徐々に収まって行く……が。
「ご、ごめん……無理やり誘っちゃって悪かったかな」 
 そう謝る俺に対し、ドワイトは咳き込みながら大丈夫と答える。しばらく咳は収まらず、観覧車が全行程の四分の三を回り終えるころ、ようやくドワイトは落ち付いてきた。
「えらい目にあった……」
 ドワイトはそう言って毒づきながら、ため息をついた。
「多分だけれどこの中でポケモン出した奴がいるんだろうな……本来出しちゃいけないはずなのに。くそ……特に陸上の犬系のポケモンがダメなんだ。よりにもよってウチで売れ筋のルカリオとか……けほっけほ……苦手だから、親には心配されっぱなしで……」
「しかし、そんな調子じゃポケモンの育て屋なんて大変だろうに」
 タブンネのおかげで、すこしばかり呼吸が楽になっているようではあるけれど、それでもポケモンの毛が少しでもついてしまえばこの調子という事ならば、育て屋は難しそうだ。
「分かってる。でも、だからこそ俺は俺が出来るだけのことをやる。リーグでの優勝は、陸上グループがいなくても何とかなる。俺が有名になれば育て屋の客が増える。ルカリオは別の、信用できる奴に育てさせればいいんだ。ウチは優秀なスタッフが揃っているからな! ルカリオを育てることに関してだけなら親父よりうまい奴だって……げほっ、いるんだ」
 なんだかちょっとムキになった様子でドワイトは言う。こうやって強がるのは、父親には体を気遣われて、あまり期待されていないからかもしれない。そうでなくとも、父親以外の誰かが『無理だろう』みたいなことを繰り返し言ってきたら、反動でこんなに意地っ張りで、弱気な自分を隠すために態度がでかくなるだとか……考え過ぎかな?
 でもまぁ、何にせよだ……これだけは言っておこう。
「その優秀なスタッフに逃げられないようにね……その、口調というか、態度のせいで」
「あぁ、また言われた!? 俺そんなに口調ダメなのかよ……」
「少なくとも俺は、君を上司にはしたくないかなぁ」
 まだ仕事がどうとか、そんなことを考える年齢ではないが、言っておくべきだろうか。
「……えぇい! ごほっ。とにかく、強くならないことには部下はついてこないんだ、口調なんて後だ後! 強くなることが先決だ」
「そ、そう思うならそれでいいと思うけれど……」
「ともかく、まずは俺はお前を倒すことを目標に頑張るからな! いいな、他の奴に負けるんじゃねーぞ」
「えっと、どうも……頑張ります」
 これは、応援されたのであろうか? 応援されたのであればお礼を言うべきではあるが、果たして今ここでお礼を言うべきであったのだろうか? 男のツンデレはどうにも扱いが難しい。
「……まぁ、なんだ。今日は負けたが、年がさほどはなれていなくとも、強い奴がいるって言うのはいい勉強になったぜ。感謝してやる」
「どういたしまして」
「さて、そろそろ観覧車も下につくな……けほっ。ポケモン出すのは禁止だし、ダイフクはしまっておくか」
「癒しの鈴の音でばれてるんじゃない?」
「緊急避難だ、それに掃除をしていない職員が悪い」
 ドワイトは開き直りながらタブンネをボールにしまい、観覧車から出た彼は大きく深呼吸をする。
「はぁ……やっぱり、ポケモンが集まる場所は危険だなぁ」
 そう毒づきながら、ドワイトは今度は俺に振り返る。
「まぁ、なんだ。最初は俺を笑い物にするのかと思ったけれどよ、すこしは話が出来て良かったぜ。そこでだ!」
 そう言って、ドワイトはライブキャスターを取りだす。
「これからも話がしたくなった時のために連絡先を渡してやるからな。俺に何かポケモンの事で聞きたいことがあったら、いつでも電話して来いよ!」
「あ、うん……」
 彼は高らかにそう宣言した……男のツンデレって、面倒くさいな。などと思いつつも、俺はそれに対応してあげた。これだけ強い奴ならば、連絡先を交換しておいても損はあるまい。

Ring ( 2016/10/13(木) 23:40 )