4:合流して三人で
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 ポケモン達は少々傷ついてはいるが、ドワイトのポケモンも流石である、今すぐ治療をしないといけないようなポケモンは一匹もいないし、それについては俺のポケモンもおんなじで、ドワイトのポケモンは全員無事。ハサミギロチンを喰らったハッサムも、軽く前後不覚に陥ったくらいで、意識はしっかりしていたから問題なかろう。
 先ほどメテオラの体当たりを喰らってしまった人間は、どうやら自力で病院に向かったらしい。リンドアイでの観戦は基本的に当たるほうが悪いという認識なので、よほどのことがない限りは軽い謝礼だけで済む場合が多い。アンジェラが連絡先を聞いておいてくれたので、そっちは後回し。

 さて、観覧車も二週目。実は、さっき観覧車に乗った時は景色を楽しめなかった。なぜってそれは、ずっとデボラのことを見ていたからだ。こんなところに来たんだから景色を見ればいいのに、本来の目的を忘れてデボラの事ばっかり見ていたというのは、話したら笑い話にされてしまいそうな失態だ。
 そんな時に、このドワイトとかいう奴が挑んできてくれて丁度良かった。
「旅を始めて、君ほど息の良いトレーナーに出会ったのは初めてだよ。強いんだね、君」
「そりゃどうも」
 目があったらバトルをするのがトレーナーの流儀だとか掟だとか、そんな言葉があるけれど、あそこまで強引に誘ってくるようなトレーナーは本当に見たことがない。
「改めて自己紹介をするよ。俺の名前はウィリアム=ランパート。えっと、ドワイト=Y=マルコビッチだったっけ? 君の事はデボラからよく聞いているよ、初めまして……だね。正直な話、アブソルについて全く気遣うことをしなかったことは、一度詫びたいと思っていました。申し訳ありません……」
「それはもういいよ……その、あれだよ。話しかけるというか、因縁を吹っ掛けるきっかけみたいなものだし」
「君、随分と意地が悪いんだね……その、初対面の人にこういうことを言うのもなんだけれどさ、初対面の人にそんな風に突っかかるのは止めたほうがいいよ?」
「それ、あいつらにも言われたよ……」
 ドワイトはため息交じりに愚痴をこぼした。
「バトルしたいなら、素直に言ってくれればバトルしたし……それに、俺達のレベルだと、こんな狭い場所で争うのは危険じゃないかな? ここってあくまでお遊びでバトルするような場所だしさ。そういうのをちゃんと考えて、ポケモンセンター付近にある演習場とかでやるとか、そういう考えを巡らせたほうが良かったかもね。
 すぐに直せって言われて治るもんじゃないとは思うけれど、徐々に良くなって行くように気を付けないとね……ところで、君って一緒に旅を行く相手はいないの? 多分だけれど、一人でもいいから一緒に旅を出来る人がいれば、結構治るんじゃないかと思うけれど」
「いや、いないな……あいにく、誰にも相談せずに飛び出してきちゃったもので」
「そっか、残念だね。俺も、デボラが好きだからって言うのもあるけれど……誰かと一緒に旅するのって結構楽しいよ? いいじゃん、誰とでもいいから、一緒に旅してみればさ」
「でも俺、強すぎるからなのかな、みんな遠慮しちゃって……」
「君が強すぎて遠慮って言うのもあるんだろうけれど、それ以上にその態度が原因なんじゃないかなぁ? もっとこう、仲良くなりたいですって感じを前面に押し出すとかさぁ」
「ぐっ……」
「とはいえ、そういう態度になってしまった原因が必ずしも君だけにあるわけではないと思うし……もしも、一緒に旅を出来るような人を見つけられたなら、徐々に柔らかい言い方とかを覚えていけたらいいね」
 笑顔でそう諭すと、ドワイトはものすごく恥ずかしそうな、むずがゆそうな顔をする。デボラから美少年とは聞いていたが中々かわいい顔をしているじゃないか。
「それで、ドワイトの地元ってどこなの? 俺さ、ライズ島って言って、ウイスキーとゴーゴートの製品なんかが名物の島に住んでいるの。そこのミクトヴィレッジってところのはずれでさ、ウチの両親が育て屋やっていてさ。だけれど、ウチの育て屋ってあんまり強いポケモンを育てるとかそういう感じじゃなくってさ、野生のグラエナから家畜を守るための番犬を育てるとかそういう感じのゆるーいところなんだよね。
 ドワイトの家も育て屋なんでしょ? どういう感じの傾向でポケモンを育てているの?」
「ウチは、偉い人や高い物を守ったりするポケモンとか、建物に泥棒が入らないように守ってくれるポケモンを育てているんだ。主に企業や政治家からの依頼が来るお仕事だからな、そりゃもう強いポケモンが求められるわけだよ。父さんはたくさんの人に感謝されて、お手紙も感謝状も飾り切れないくらいに貰ってるんだ」
「すごい父さんだね。ウチは、よく街の人達に野菜を送ってもらったり、チーズを貰ったり飲み会に誘われたりとかはよくあるんだけれど、感謝状なんて一度も貰ったことはないよ。だけれど、ポケモンの事は大好きで、強く育てようと頑張っていたら、今こんなにポケモンのレベルが上がってね。俺、結構強いでしょ?」
 包み隠さず尋ねてみると、ドワイトは認めたくなさそうに渋々頷いた。
「まーな、強いよ。お前の方が先に生まれた分有利だってのもあるかもしれないけれど、それにしたって、強い。悔しいけれど今の俺じゃ敵わない」
 ドワイトは認めたくはなさそうだけれど、自分に嘘はつけないのだろう。素直に俺のことを上だと認めている。可愛くない奴だと思ったけれど、案外かわいい奴じゃないか。なんてことを考えていると、ドワイトはどこか痒いのか、手の甲から腕にかけてを掻き始める。これって、もしかして……


Ring ( 2016/10/11(火) 23:47 )