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次のポケモンはギルガルド。故郷の島では草刈りやら家畜の番やら、様々なことに利用されているポケモン、ギルガルド。きちんと世話をしてあげれば百年だって生き伸びる長寿なポケモンゆえ、需要の高さは折り紙付きだ。
「この子、バスターって言うんだけれど、フェアリータイプ相手なら得意中の得意だ。ダイフクちゃん、死なないように注意しなよ」
「げ……最悪な相手」
ウィル君にとっては昔からなじみのあるポケモンで、旅を始める前どころか、物心ついたころからニダンギルと共に暮らしてきた相棒である。ウィル君のギルガルドは、確か旅に出る前は七〇レベルだったはず。今は、七二レベル。相性もいいことだし、相手がメガシンカしていようと関係あるまい。
「バスター、剣の舞だ」
落ち着き払った声でウィル君が告げる。
「くそ……瞑想だ!」
しかし、メガタブンネなんて高い耐久力を活かして瞑想を積んで、高威力の攻撃を放つとか、そう言った戦法が得意だが……ギルガルドはそれ以上に高い耐久力で剣の舞を積んで、しかも性質が悪い事に瞑想では対応できない物理攻撃をしてくるようだ。
リフレクターは覚えられるが、このタブンネは持っていない様子。大文字を覚えていて、それで攻撃しようにも、半端な一撃では弱点保険などのアイテムを発動させる恐れがある。まったく、本当に隙のないポケモンなのである。
「アイアンヘッド」
「敵が切りかかってくるところを狙って大文字!」
ドワイトの指示はおおむね正しい……だが残念ながら、アイアンヘッドは剣の柄の部分で叩く技。シールドフォルムを解かずに攻撃できるわけではないが、盾を構えたままでも突撃できる。ダイフクが圧縮した炎を眼前に吹き出したところで、バスターが相手の胴体めがけて頭突きを飛ばす。
ほとばしる炎がバスターを襲うが、それは盾により大部分が防がれ、火傷を負うも攻撃に支障はなし。攻撃力が高水準なギルガルドが、剣の舞を積んだうえで弱点の攻撃を放ったのだ。たとえメガシンカしていようと、そのすさまじい威力に耐えられるのはメガボスゴドラのような一部の例外くらいだろう。
炎を浴びて刀身は溶けかかっていたが、ダイフクは突き飛ばされて地面に転がり、立っていたのはギルガルドのみ。この勝負、ウィル君の勝利である。ダイフクは尻もちをついたまま胸元を抑えているが、もう戦意は失われてしまい、自分からメガシンカを解いてしまう。大きな怪我はないようでよかった、バトルで大きな怪我をさせるのは二流だというし、ウィルもドワイトも一流のトレーナーだしポケモンにも力加減を覚えさせているのだろうなぁ。
「……強いね、君。今まで戦ってきた同年代以下のトレーナーで君以上のトレーナーは見たことないよ。君が俺と同年代だったら、俺が負けていたかもね」
ウィル君は半ば挑発とも取れるような褒め言葉でドワイトを褒める。いや、本当に素直に褒め言葉を述べただけなのだろうけれど、ドワイトのようなタイプはこういうことを言うと逆に怒るタイプだ。だって、この褒め言葉は自分の立場が上であることが前提じゃないと言えないような上から目線の褒め言葉。当然ドワイトは……
「くっ……ちくしょーめ! 今度会った時は俺が勝ってやるからな!! それまできちんと今以上に鍛えておけよ!」
大声で喚くも、食ってかかったりはしないだけまだましか。ドワイトは割と努力家だから、少なくとも今のウィル君に勝てるだけの強さを得て帰ってきそうだ。その時のウィル君に勝てるかどうかは不明だとして。
「……あ、待って」
そのまま見物客の隙間を抜けて人ごみの中に消えようとするドワイトを、ウィル君が呼び止める。
「な、なんだよ! 無様な俺を見て楽しもうってのかよ!?」
「いや、負けたほうが観覧車の代金を奢るのがここのルールだし……俺と観覧車に乗りたかったんじゃないの?」
「いやいや、ランパート君、公開処刑じゃないんだから……そういうことを言って後に引けなくさせるの止めようよ?」
アンジェラがツッコミを入れるけれど、ウィル君としては、いきなり不躾に勝負を挑まれた仕返しのつもりなのだろう。
「い、いい度胸じゃねーか! そんなに俺と観覧車に乗りたいなら乗ってやるぜ、ウィルとやら!」
結局ドワイトの態度は偉そうなところが全く改善されていないし……今回の場合は意地を張ってるだけかもしれないけれど、そういうところが子供っぽいんだよなぁ。