7
「あのー……デボラ、これどういう状況?」
バトルが幕を開けたところで、アンジェラが観覧車から下りてくる。彼女は少々呆れているようだ。
「あぁ、アンジェラ……見ての通り、ドワイトがウィル君に喧嘩売ってるの。っていうか、何でドワイトって私達とこうも偶然同じ場所で会うんだろう……?」
「ストーカーなんじゃないの? ポケモンを育てる腕とかは悪くないと思うけれどあんなのと運命の赤い糸でつながっているのはちょっといやよ」
私達が間抜けな会話をしている間に、バトルはもう始まっている。
「行けよ、ブレイク!」
「さぁ、暴れてこい、アビー!」
ウィル君の一番手はオノノクスのブレイク。対するドワイトの一番手はハッサムのアビゲイル。どうやらいつの間にかアビーというあだ名になっているらしい。
ハッサムと言えばオノノクスでは弱点を突くのが難しい厄介な相手だ。炎の牙さえ覚えていれば何とでもなるけれど、そう都合よく覚えてはいないだろうし。
補助技の龍の舞も、ハッサム相手には無意味だろう、偶然かはたまた読み負けか、厄介な相手である。
「そいつ……型破りか!? アビーは異性だし闘争心だったらありがたかったがな」
「へぇ、分かるんだ」
ドワイトがブレイクの姿を見た瞬間にその特性を見破る。一目見てわかるだなんて育て屋ってすごい。地味に性別まで見切っているけれど、オノノクスの性別はどこを見ればわかるのか、ペニスも見えなければわからない私には皆目見当もつかない。
「性別のあるポケモンを見た時の反応や、手の発達具合で分かる。型破りのオノノクスは闘争心に比べて手が発達しているんだ」
「ふぅん、良く知ってるじゃない! じゃあ、知識はさて置き実際の強さを見せてもらうよ! ブレイク、距離を詰めるんだ!」
「アビゲイル、剣の舞をして迎え撃て」
相手のハッサム、アビゲイルは定石通りの指示を下される。テクニシャンなバレットパンチによる素早くも重い攻撃を得意とするハッサムは、高い攻撃力を剣の舞でさらに底上げして叩くのを得意としている。一方、オノノクスは、龍の舞や剣の舞で攻撃力を底上げして戦うのが一般的だが、鉢巻を巻いて圧倒的な攻撃力で叩き潰すような個体も存在する。だけれど、ウィル君は攻撃力の底上げを無意味と思ったのか、距離を詰める指示。
「掴みかかってハサミギロチン」
「バレットパンチ!」
恐ろしいのは、オノノクスの膂力か。バレットパンチに頭を叩かれるも、ひるまず掴みかかったオノノクスのブレイク。バレットパンチの後、一歩下がって理想的なヒットアンドアウェイを見せるハッサムだが、猛進したオノノクスがハッサムの腕をつかむと、腕を下に引っ張ってハッサムの体勢を崩し、抵抗させる前に強烈な顎の一撃をハッサムに見舞う。
「まずは一匹」
ブレイクは、大きなハサミではたかれた頬を痛そうにさすっているが、しかしまだまだ戦えそうだ。
「……ブレイクのレベル、六七。すごい」
私はライブキャスターでスキャンして思わず声を上げる。対するアビゲイルのレベルは六一だ。どちらも良く育っているけれど、ウィル君の方が一枚上手である。
「さ、次のポケモンだしてよ」
「くそ……お前のポケモン、年上じゃねえか。一歳にもなっていないこいつじゃ荷が重いな……」
毒づきながらも、ドワイトは二匹目のポケモンを出す。ドワイトの言うことはもっともだが、それでも割と戦えているあたりは流石としか言いようがない。ウィル君のポケモンは私のポケモン程度じゃ触れることすら許されないレベルだというのに……