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「えっと、君は、初めまして……だよね? ドワイト君、だっけ?」
ウィル君は、観覧車から下りたら、いきなり知り合いでも無い男性に上から目線で話しかけられて混乱しているようだ
「あぁ、この人が前に話していたドワイト=Y=マルコビッチだよ……」
「そうだ、俺の名前はドワイトだ。で、お前の名前は?」
「こっちの男性はウィリアム=ランパート、ウィル君っていっつも呼んでるの」
「えー、ウィリアムです。よろしくお願いします」
ウィル君はそう言って、戸惑いがちに挨拶をする。ドワイトは何かに気付いたようにうんうんと頷いて見せた。
「そうあぁ……ウィル、か。もしもお前が、アブソルを育てたトレーナーだというのなら、一言いわせてもらうことがある!!」
ドワイトはウィル君の正体に気付いて、まくしたてる。
「え、なに……?」
「お前のアブソル、随分と躾のなっていない奴だな!! 俺は陸上グループのポケモンにアレルギーがあるって言うのに、お前のアブソルは俺に飛び付いてこようとしたんだぞ! 咳が止らなくなったらどうする!? 痒くなったらどうするんだ!?」
「え、えっと……どういうこと?」
「俺みたいにアブソルのアレルギーの奴だっているんだよ!! それに配慮もしないで、飛び付く癖のあるようなポケモンを客に渡すんじゃねえ! お前のアブソルのせいで、体調が悪くなる奴がいたら大変だろうがよ!!」
ドワイトの説明の仕方があまりに急なため、ウィル君は少々戸惑っていたが、怒られているうちに彼の言わんとしていることの意味が分かったらしい。
「えっと……つまり、まとめると。俺のポケモンが、アレルギー体質である君に飛びつこうとして、一歩間違えば君が体調不良になるところだったってこと?」
「そうだ! お前謝れ!!」
「ねぇ、ドワイト君……君は間違ったことは言っていないけれど、そういう言い方じゃ伝わるものも伝わらないからね?」
こうまくしたてられては、ウィル君も素直に謝ることは出来なかろう、私は二人の緩衝材になるべくドワイトを宥める。
「ほら、ウィル君……この子なんだけれど、前に言った通りアレルギーの子で……シャドウが迷惑をかけてしまった子なの。それで、アレルギーの人間がいることも考慮せずに無差別に飛び付くポケモンを客に渡すだなんて、育て屋にあるまじき行動だーって、怒っているわけ。そうでしょ、ドワイト?
「そうだ! 全く、俺も親父が育て屋なんだがなー。お前、強いポケモンを育てる腕は確かだが、きちんと躾もしていないようじゃ、二流だぞ!!」
「そ、それは……俺のポケモンが迷惑をかけて、大変申し訳ありません」
職業柄なのだろうか、ウィルは決まり文句のような言葉を吐いて頭を下げる。しかし、ドワイトはやっぱりウィル君の実力は大いに認めているようだ。素直ではないけれど、自分に嘘はつけないタイプなんだろうか。
「……分かったらそれでいい。以後気を付けろよ」
しかし、ドワイトの態度のでかいこと。年上を相手にあそこまで大きく出られるのだから、大したものである。でも、誤れば許すあたり悪質なクレーマーというわけでも無いし……同じ育て屋だからこそ許せなかったことなのかもしれない。
「よし、言いたいことはそれだけだ……だが、俺の用事はまだ終わっちゃいない! ウィリアム! 俺と勝負しろ!」
「……え、いいけれど。あー……その、俺、まだ名前以外の自己紹介していなかったね。俺の家、ライズ島で育て屋をやっているんだけれど……もうライズ島のシャイミと渡り鳥が訪れる湖のほとりにあるジムにはいったかな?」
「あそこはまだだ。二月になると渡り鳥と……シェイミがやってくるって聞いたんでな。捕獲できるかどうかは分からないが、シェイミをゲットできるチャンス、その時を狙って行く」
「へぇ、なるほど。でも、シェイミの休憩地点はジムリーダーが土地を保有しているから捕獲するの犯罪だし、マスターボールですら周囲のシェイミがボールをぶち壊すから捕獲できないポケモンだよ。仲良くなって、相手から捕獲して欲しいって頼まれるような状況じゃないと捕獲させてもらえないから気を付けてね」
「えー、そうなのか? まぁいいや。野生のポケモンと仲良くなることだって、育て屋にも時には必要なことだ。ともかく、俺とバトルするのか、しないのか!?」
ドワイトははやる気持ちを抑えきれないのだろう、どうしてもウィル君とバトルしたくて仕方がないようだ。
「するよ。じゃあ……ルールはどうする?」
「シングルのハーフバトル、三体で戦うルールだ。三体選び終えたら、合図しろ」
「いや、もういいよ。いつでも始めて」
ウィル君はもうポケモンを選び終えたらしい、というよりは頼りになるメンバーはもう決まっていると言ったところだろう。
「じゃ、じゃあ私が開始の合図をするからね……」
なんだか、いきなりバトルが始まりそうな雰囲気に私は苦笑しつつ、息を吸う。
「勝負、開始!」
観覧車の前の広場で、バトルが幕を開けた。