4:合流して三人で
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「それでは、今後とも良い旅を」
「押忍、そちらこそ良い旅を、お嬢さん!」
 地上に降り立ったマキシムはすっかり元気になり、堂々とした足取りで人ごみの中に消えていく。普段はあの態度なのに、本当に高所恐怖症なところだけが残念な男だ。

 さて、先に降りているはずの二人はいまどうしているのやら……。
「シングルのハーフバトル、三体で戦うルールだ。三体選び終えたら、合図しろ」
 聞き覚えのあるこの声。すっかり忘れていたけれど、あいつもこの街に来ていたのか……ドワイト。

 ◇

 観覧車を降りると、なぜか狙ったようなタイミングでドワイトが居る。なんであんたは約束したわけでも無いのにこうやって鉢合わせするんだ……しかしあいつ、今は何だか変な奴に絡まれてるようだ。
「ねぇ坊や、可愛い子ね。お姉さんと観覧車に乗って色々なことを教えてあげるわよ?」
「え、いや……俺は別に観覧車に乗りに来たわけじゃねーし」
「あらあら、じゃあこんなところに迷い込んじゃった迷子の君には、お姉さんがいいこと教えてあげるわ」
「迷子じゃねーっての!? ってかどんだけ俺にいいことを教えたいんだよ!?」
「これくらいよぉ?」
 胸の谷間を強調して言うなこのビッチめが。まぁ、いいか……ドワイトは顔だけはウィル君の数段上だもんね、ああいう手会いに絡まれるのも仕方ないね。
「どうせそんなのただの交尾だろ!? 実家が育て屋なんだから、そんなの見慣れてるんだよ!! 大体胸だって……子持ちのサーナイトの方がよっぽども見甲斐があるわ!」
 ドワイト、若干引くよその発言!?
「あらぁ、そんな野生の荒々しいものじゃなく、もっと大人の甘ーい雰囲気の物よ?」
 引かないのか、アロマのお姉さん!? それはそれですごい。
「俺はなぁ、人を探しに来たんだよ! こいつが、知りあいが居るって俺を連れてきたから!」
 ダイフクの奴、余計なことを……そうか、タブンネって耳がいいから、もしかしていく先々でドワイトと出会うのってタブンネに探させてたのかな?
「あら、そのタブンネが? そっかぁ、じゃあその人を観覧車で上から探しましょう」
「お断りい・た・し・ま・す!!!」
 ドワイトは毅然と断っているようで大丈夫そうだし、まぁいいや、放っておこう。
「あ、おいデボラ! ちょっと変な奴に絡まれているんだ、助けろ!!」
 放っておきたいのに何であいつはこっちに気付くんだ。あぁ、ダイフクの奴がこっち指さしている……そういうこと。
「あら、アロマなお姉さんに観覧車に誘われているんだ。お似合いね、楽しんでらっしゃい」
「ごめんなさい、デボラさん。お願いします! 助けてください」
「よろしい。最初っからそうやって下手に出て頼みなさい、ドワイト」
 そんなやり取りを見ていたウィル君は、どういう事かと目を丸くしている。
「あの銀髪の子、知り合い?」
「あの子が以前話していたドワイト君よ。すみませんね、その子私の事を探していたんです……その、一緒に行きましょう、ドワイト」
「ちょっと、私その子と話している途中なんだけれど」
 アロマのお姉さんは私に言われても怯まない。全く、面倒くさい。
「おばさんはすっこんでなさい!」
 最後の一言をあらん限りの低い声で言って、私はドワイトの手をとる。
「おばさんだなんて……あんた小娘の癖に生意気よ!?」
「この子、年上の女性は好きだけれど、十五を超えたら対象外なんです。分かったら黙ってろ、しまいにゃ怒るぞ?」
 ボールを掴みながらの私の脅しに何を感じたのかはわからないがアロマなお姉さんは一歩引いた。そこで私はドワイトの手をひいて、少し離れたところまで引っ張って行く。
「全く、あんたは面倒をかけさせるわね……」
「すまねぇ、デボラ。ところで……アンジェラにお礼を言いたいんだが、どこにいるんだ?」
「アンジェラは今観覧車に乗っているよ」
 なんだ、私に用があるわけではなかったのか。
「そ、そうか……その、花が届いてな……メールが帰ってくるまでに随分と時間がかかったんだが、親父が怒っていなくって、俺の旅も応援してくれるそうだ……何でも、親父の従業員たちの話によるとどう返せばいいのか何日も悩んでいたそうで……それで、チェストシティであった時までに返してくれなかったんだってさ。
 へへ、親父もなんと言うか大袈裟だよなぁ? なんも考えずに返せばいいものをさ……って言うことを報告しようと思ったんだが……親父すっげー喜んでたし、それがあいつのおかげだって報告したいのに、なんだかタイミング悪かったなぁ」
「あら、良かったじゃない。タイミングはまぁ、悪いかもしれないけれど、もうすぐ来るでしょ。下りてくるまで待ってなさいよ」
 なるほど、アンジェラが父親への謝罪を付き合ってくれたから、ドワイトはお礼をしたかったらしい。ちゃんと、そういうところは躾が行き届いているようである。いい子じゃないか。


Ring ( 2016/09/29(木) 23:11 )