4:合流して三人で
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 親の目も気にならなくなった俺達は、ライブキャスターで頻繁に連絡を取り合うようになった。そして、大急ぎでバーミリオンシティまで向かった俺は、すでに先に到着していた二人と合流する。俺が手を振る姿を見た時、アンジェラは空気を読んで何も言わずに立ち去って行った。アンジェラはホテルに一足先に向かうとのことで、二人でデートを楽しんで来いという事らしい。
 高鳴る胸を押さえつけながらアンジェラが消えるのを見送った俺達は、早速いつかの時のように手を繋いで街へと繰り出した。城跡跡や博物館など、デートスポットとなりえる部分はバーミリオンシティにもいくらでもあるが、俺達はそう言ったところで観光するでもなく、ただ街をぶらつきながら歩いている。
 クリスマスまであと二週間ほど。寒さの厳しいリテン地方では、握り合った手すらも冷たく感じる。けれど、何も語らずとも伝わってくる互いの心境で、俺は思わず涙が出そうだった。
「ようやくまともに話せるけれど……長かったね」
「うん。でもこういう時が来るから、私も我慢して頑張ってこれたんだもの。この旅が終わったらまた、会いたくてもどうにもならない日々が続くけれど……それでも、大丈夫だよね?」
「大丈夫だよ。俺の愛は変わらないし」
 こそばゆいくらいのセリフを口にすると、顔がほてって熱くなる。似合わないことを言うもんじゃないなと照れていたら、デボラは小さく『嬉しい』と答えて肩を密着させてきた。
「なんだか、旅に出た影響なのかな……デボラの匂いが随分と、逞しくなったね」
「臭いが逞しいって何よ!? いや、今日はホテルでシャワー浴びるつもりだったけれど、洗濯もシャワーもここ二日間御無沙汰だったからさぁ……匂いはそれが原因。逞しくなんてなって無いし、女の子に臭いのことなんて言わないでよ!」
「ごめん……いい匂いだったから、褒めたつもりなんだけれど……」
「っていうか、逆にウィル君も匂いがきつくなってるよね? やっぱり、ファイアローにしがみつくのも楽じゃないかな?」
「そうだね。そりゃもうすごく大変だよ。握力ものすごく使うし、バランスをとるために体のいたるところに力を入れないといけないしで。でも、ポケモンに頼っているから、今までの君の旅路に比べれば楽なもんだよ。デボラはずっと歩いてきたんでしょ?」
「うん」
 今までの事を、何をどう話していいのかもわからず、俺達は取り留めのない事から会話を始める。これまでどれだけ会いたかったかなんて、言葉にしても語りつくせなくって、それが分かっているのか二人とも分かりやすい言葉でそれをアピールをしなかった。しばらく話していると、デボラは旅の最中にいろんな人の言葉を聞いて、自分なりに考えたこと。その中でも親には話せなかったことを少しずつ口に出す。
「それでさ、その……私はね、もしもウィル君がダメだったときは、旦那を……バルムを教育しようって言う話をしたんだよ」
「またそんな不吉な『もしも』の話をするね」
 デボラの思いがけない話に俺は苦笑する。
「たとえ夢が破れても、別に幸せになる権利がないわけじゃないしね。そして、そう言う心構えもしておくべきだって思ったわけ」
「でもさ、デボラは頑張っているんでしょ? ちゃんと勉強して認められれば、父さんも君に仕事を継がせられるって、納得するんじゃないの?」
「そうなんだけれど、多分そう簡単には行かないよ。だって、父さんはけっこう家柄とか気にする性質だからさ。私は、二人目の子供だから別に家柄なんて関係なかったけれど、それもなくなっちゃった以上、私は言え柄の高い男と鹿結婚させてもらえない。お兄さんだって、許嫁だったナノハ=カンバイさんは、ヒホウ=カンバイさんの娘……ジムリーダーの娘だったんだよ?
 しかも、観光地になっている湖一帯の土地を所有する大地主。シェイミの研究の第一人者だし……ウィル君の家を馬鹿にするわけじゃないけれど、ただの育て屋とはわけが違う」
「でもうち、ライズ島じゃ唯一の育て屋だから、結構需要あるし、生活も安定していると思うんだけれどなぁ」
「その程度じゃ、ダメなんだよ……父さんは」
「でも、父親は俺にはデボラが家を継ぐ能力が足りないからって言っていたし、それなら強引に家を継げるようにライザ島の人やその取引先へ、先手を打って色々交渉しておけばいいんじゃないの? パルムさんとやらが介入する余地もないくらいにさ」
「それもありかもね……私に出来るかどうかは分からないけれど」
 まだ見ぬ未来予想図を喋り合いながら、俺達は目的もなくひたすら歩いていく。そうこうしているうちに酒場の並ぶ場所に迷い込んでしまい、そこで男女が抱き合いながら熱い口付けをしているのを見て、俺は思わず眼を逸らした。
「やってみる? 私達も」
 なんて、恥を知らないデボラの言葉にハッとして彼女の表情を見ると、応じずにはいられないくらいの妖しい挑発の顔。生唾をごくりと飲んでキスをすると、デボラは俺の首を押さえつける力を強くして、話そうとしなかった。逆らおうと思えば逆らえたのだけれど、あいにく俺にそれをする気力は生まれず、こんな長いキスは人生で初めてだと、終わった後は放心状態である。


Ring ( 2016/09/22(木) 23:58 )