3:アンジェラとの二人旅、後編
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 結果はもはや一方的な虐殺である。ドワイトはジムリーダーと同じくハッサムを所持しており、ハッサムのアビゲイルのレベルは五七ほど。リッシュのどのポケモンよりもレベルが高く、運が悪い事に最初に出したポケモンがエンブオーでもファイアローでもななく、ムーランド。
 ドワイトはまず最初に剣の舞で決定力を上げさせる。対するムーランドはすなあらしを起こしたが、ハッサム相手ではあまりに意味がない。その上、ドワイトの控えにはガバイトが居るのだ、墓穴を掘っているな……お互いのすなあらしと剣の舞が終わると、アビゲイルはムーランドをバレットパンチで殴り、仕留める。相手も砂カキの特性で速くはなっているものの、ハッサムのバレットパンチの攻撃速度には敵わず、無残に舞い散るしかない。
 続いて、ファイアローが出て来る。どうもそのファイアロー、通常特性なのだろう、普通にフレアドライブを命じられたのだが、ドワイトは何もさせずにバレットパンチで顎を打ち抜き撃破した。
「えーと……俺のポケモンに手加減させた方がいいか?」
 ドワイトは、バッジの数と実力が見合っていない典型的な例である。世の中、ベテラントレーナーが地方の外から引っ越してきたりなどしてバッジを集め直すこともあれば、ドワイトのように旅を始める前からジムやスクールで経験をかなり積んでいることもある。
 だから、バッジの数が少ない相手だからと言って、負けても恥ずかしいことではないと私は思うのだけれど。
「そんなのいらないわよ!!」
 それが分からないのか、それともバッジの数ではなく都市舌に舐められるのが嫌なのか、意地になってしまう者もいるのだ。
 結局、手加減はいらないといわれたこともあって。ドワイトは素直に手加減しなかった。ハーフバトルのつもりだったが、結局フルバトルをすることになってしまって、しかしそれでもリッシュはアビゲイル一匹すら突破できないまま終わってしまう。ギガイアス以外は全員、アビゲイルに一撃すら加えられずに全滅だ。
「……あぁ、まぁ、なんだ。お姉さん、才能なさそうだし、旅は止めたほうがいいんじゃないのか? 旅の目的がなんなのかはわからないけれど、もしもリーグだとかを目指しているんなら、マジ止めたほうがいいぜ?」
 ジムリーダーでも言えなかった言葉がドワイトの口から炸裂する。こんなにはっきりと聞かされてしまったら、もう立ち直れないんじゃ。
「あ、貴方に……何が分かるの、よ」
 リッシュは必死になって反論するも、ドワイトは難しい顔をして悩む。
「あー、言っちゃっていいなら言うけれど」
 そう言ってドワイトは前置きをする。リッシュは答えなかった。
「答えないってことは同意と取らせてもらってもいいのかな?」
 ため息をついて、ドワイトは始める。
「えっとな、まずお前さんの服装、ボロボロだ、靴も服もリュックサックもひどい有様だし、身だしなみも整っていない。女ならって言い方はあんまり好きじゃないけれど、女なのにそれでいいのかって話。身だしなみを気を付けることが出来ないのは、それだけガサツなのかそれとも経済的に豊かじゃないのか。
 その答えについては、お前さんの栄養状態が物語っているんじゃないかな? 髪も肌もボロボロじゃん、腕だって細いし。
 で、どうしてそういう状態になったかと考えると、まず親からの仕送りが無くて……その上、バトルでも勝てないから賞金も奪われてばかりって感じかな? ってか、俺がバッジ二つって聞いたときにお前目の色変えてたからなぁ。お前のバッジがいくつかは知らないけれど、それってつまり俺よりは強い自身があって、カモにするために勝負挑んだってわけだろ?
 いや、俺も格下だと思ったトレーナー相手に勝つつもりで挑んだことはあるから、強くは言えねーけれどさ。でも、なんというかなりふり構わない感じがして卑しいなあって思うぜ?
 あー……でも、例えば食事もまともに与えてくれないような酷い親から逃げるために、着の身着のままで旅に出るってタイプのトレーナーもいるからな。お前がそういうタイプのトレーナーならば、まだ旅に出たばかりでも服がボロボロってこともあるだろうし、その場合は弱いのも仕方ないっていう可能性も考えられるわけだけれど。
 けれど、モンスターボール。お前のモンスターボール、塗装が擦り切れてる。何年も使い続けている証拠だな。服はともかく、ボールがボロボロってことは、旅に出て間もないとか、ポケモンが生まれたばかりってこともないわけだ。
 モンスターボールは空っぽになっても再利用できないから、中古のボールだなんてこともないだろ? どう考えても、長い間付き合いのあるポケモンってことだ。なのに、長い付き合いのポケモンが弱いってのは、つまりお前か、ポケモンに才能がない証拠だと思う。
 で、お前とポケモン、どっちに才能がないかという問いだが、六匹全員が才能がないなんてのは珍しい確率だな。人間に才能がないと考えたほうが自然だ」
 ドワイトは彼女の服装から読み取れる情報を次々と口に出していく。ドワイトの言葉を聞いてモンスターボールに目をやってみれば確かに塗装が剥げかけている。そんなところまで見ているとか、ポケモントレーナーとしてはもちろん、セールスマンや探偵としても大成できそうだ。
「で、そんな長い付き合いのあるポケモンだけれど、お前さん負けた時に舌打ちして『戻れ』って言っただけだよな。なんというか、もう少し適切な声かけをすればいいのに、そんなそっけない声かけじゃ、ポケモンだって懐かないわな。
 そうそう、ちなみにポケモンの栄養状態も良く無いね。ムーランドはちょっと体毛が濃すぎて良くわからないけれど、クレッフィとかエンブオーなんかは非常に分かりやすいね。もっと飯を食べさせてあげなよ、俺がプラズマ団だったら今頃お前のポケモン解放させてるぞ? 家に帰って、飯をたっぷり食わせてやれよな。
 まー……そんなところかな。栄養状態とかに反論があるなら聞くけれど?」
 ドワイトは一通り言いたいことを言ってリッシュの反応を待つ。これだけ観察力があるからこそ、ポケモンバトルなんかも強いのだろう。



Ring ( 2016/09/15(木) 23:00 )