3:アンジェラとの二人旅、後編
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 チェストシティへの道のりには国立公園こそないが、街を外れた田舎道に出れば見渡す限りの草原が広がっており、そこで牧畜を行っている場所も多い。途中に立ち寄った貯水池では、淡水を住処とするビッパや、マリルなどが生息しており、覗いてみるといくらかの野生のポケモンが勝負を挑んできたので、それを軽くいなしておいた。
 デボラはパーティーのバランスを考慮してマリルが欲しかったらしく、力持ちの特性を持ち、意地っ張りで攻撃に秀でたマリルが勝負を挑んだ時は、それをハイパーボールで捕まえた……のだが。

「とおりゃあ!!!」
 彼女は、マリルを捕まえる際にポケモンなど使わず、自らの肉体を使っていた。彼女曰く、レベル30くらいまでならばどうにかなるということで、短い手足のマリルをサッカーボールのように蹴り飛ばし、追いかけて踏みつぶし、反撃で掴まれて投げ飛ばされたら、受け身を取って体勢を立て直しつつ、尻尾を掴んで思いっきり地面に叩きつけてノックアウトにする。
 彼女自身も擦り傷や打撲を負い、鼻血なんかも出ていたが、そんな状態になることを厭うことなく向かって行くのだから、すさまじい。カエンジシのラーラを相手取る時はガチの肉食獣なので怖気づいてしまったが、マリルならば行けると思ったそうだ。その根拠はなんだ……?
 ともあれ、私達に新しい仲間が増えたのはとてもうれしいことだ。マリルは人間の下で楽をして生活して生きたいと思っていたおかげもあってか、思いっきりボコられてもそれは主人になる人間を見極めるための必要な怪我である。そのため、ボールから出されても怯えることはなく、様子をうかがうそぶりを見せつつも、従順かつ落ち着いた様子でアンジェラに従っていた。

 そうして私達は先を急ぎ、そのまま岩石群のある道へ。
 巨大な岩が斜面からゴロゴロと突き出たその場所は、本物の岩ばかりでなくギガイアスが擬態しているものもあり、触れてみるまで分からないくらいにじっと動かない子ばかりである。その岩石群のある一帯には洞窟もあり、懐中電灯やフラッシュを使えるポケモンがいれば誰でも探検が可能である。内部にはイワークやらコロモリやら、暗闇を住処とするポケモンが多く、最強のポケモンの一角としても有名なガブリアスも住んでいる。まぁ、見つかれば最悪命はないが……一応、フカマルは人間よりも近くの貯水池や用水路に住んでいたり、水を飲みに来たポケモンを主食にしているから、よほど縄張りを犯して挑発しない限りは問題なかろう。
 とりあえず、私達も探索しようと洞窟に潜り込もうとしたのだが、甘かった。悠久の時をかけて積み重ねられたコロモリなどの糞が、所狭しと積み上げられていてふかふかのベッドのようになっている……悪夢の光景であり、その上臭い。こんなところに喜んで踏み言って行けるようなトレーナーがいるとしたら、それはそれは偉大なトレーナーだろう。私達はそのすさまじい匂いと嫌悪感に耐えかねて、入り口から洞窟内を覗くだけで、その光景に断念せざるを得なかった。

 さて、そんないらない思い出も作りつつ、私達はチェストシティへたどり着く。リテン地方の中では比較的大きな町。蜂がシンボルであるが故に、スピアーやメガスピアーがモチーフのオブジェクトや工芸品などがちらほら見受けられる。季節も移り変わって、12月をむかえたおかげだろうか、街にはクリスマス風の飾りつけやイルミネーションが取り付けられて、賑やかなムードになっている。
 そんな事よりも、私としてはそんなクリスマスよりも嬉しいことが起きている。このタイミングで、ウィル君も私達を追いかける形で旅を始めて来ており、ファイアローやミロカロスを乗り継ぎながら全速力でジムを制覇するらしい。両親には偽装のために観光地を回っている風の写真も撮るそうだが、あくまでそれは最低限なのだという。ウィル君のポケモンは以前から育てていたポケモンは六〇レベルを超え、ミロカロスも四〇台後半なのだからまず問題なく突破してくるであろう。
 さて、私達がこの街でやることなのだが……この街にはサッカーのクラブチームもあって、アンジェラはそれの試合をどうしても見たいとかで、一人スタジアムに駆け込んでいった。私はサッカーにはあまり興味がないので、その間観光している日本人観光客のと思しき人物を訪ねては、日本語の練習と称して思う存分会話をする。
 夜、予約しておいたポケモンセンターの宿で落ち合うと、サッカーの興奮も冷めやらぬ様子のアンジェラが、生のスター選手を見れたことでひどくはしゃぐ様子を見せていた。私としてはそんな事よりも明日のジム戦なのだだ……まぁ、こうやって旅先でしか出来ないことを楽しむのは旅の楽しみだ。はしゃぐアンジェラと一緒に私もはしゃがないのは失礼だろう。

Ring ( 2016/09/05(月) 23:55 )