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さぁ、それが終われば最後のバトルである。最後のバトルはタブンネのダイフク。今更だが彼女の名前は日本のスイーツの名前で、柔らかそうなタブンネにはぴったりな名前である。
対する相手ポケモンはペロリーム。甘いものが大好きで、人間と味覚の好みが似ているおかげか、スイーツづくりに採用されることもあるというポケモンである。当然、このレストランの従業員だ。
スイーツ担当である彼女の腹を見てみると、何度も何度も叩いたような跡があり、使いこまれている様子が見て取れる。子のポケモンは腹太鼓を覚えるはずだが、恐らくそれを使う戦法なのだろう。
しかも腰に下げているのはオボンの実。腹太鼓で失った体力をオボンの実で回復して、かるわざのとくせいで攻めるという型だろうか?
「ショコラ、腹太鼓だ!」
バトル開始とともに、オーナーはペロリームに命じる。予想通りの指示が下されたが……
「いくぜ、ダイフク! メガシンカ!」
さて、こっちの初手はどう来るかと思ったが、ドワイトは自慢するかのように高らかにメガシンカを宣言する。メガシンカはダイフクの桃色の体を白く染め直し、さらにもちもちとした柔らかそうな体ながら、皮膚と脂肪の下にある固い筋肉の鎧が彼女を守るため耐久力は非常に高くなる。
「そんでもって、マジカルシャイン!!」
その一撃で終わりだった。強力な光を遮断するバトルガラスは一瞬で黒ずんだ不透明なガラスとなり、観客たちを守る。中に仕掛けられたカメラは画面が真っ白に染まり、一瞬何が起こったか分からない状況になるが、その光が収まった頃にはもうすでに終わっている。目をくらませられたペロリームは、後ろからダイフクに抱きしめられて行動を封じられている。
ラルやシャドウと違って優しい止め方で、タブンネの優しい性格が伺える。
ダイフクのレベル、今測ってみたところ七〇レベルである。六〇レベルに調整されたポケモンが勝てる相手ではないというわけだ。むろん、フラッターを使用しなくとも勝てたかどうかは定かではないが……。
「良くやったぞー、ダイフク。お前はいつでも最高だなー」
そうして、勝利した際のドワイトは、嬉しそうに彼女を抱きしめほおずり、果てには額にキスまでしている。ガバイトのニドヘグが勝利した時などは流石にこんなことをしないのだが、ハッサムやカメックスが進化した際はこうやってかわいがるのが彼である。
ポケモンを愛しているのが十二分に伝わるだけに、毛のあるポケモンを愛してあげられないのは本当に残念で仕方がない。
最後のバトルを終えると、出て来るのはデザートだ。キャラメルアイスに、香ばしく焼き上げられたクッキーが刺さっており、イチゴベースのソースとオレンジベースのソースが美しくクロスするスイーツだ。アイスの上には数種類のナッツが香ばしく薫り、歯ごたえまでも楽しませてくれる。
皿の端っこにはクリームチーズにベリブの実のジャムを乗せたものもあり、程よい酸味と甘みは、添えられたバッフロンのクリームチーズの滑らかな口当たりとかすかな塩味が非常にマッチする。
満腹でもすんなりと入り込んでしまう、香り、見た目、味に至るまで非の打ちどころのない一品だ。
そうして、最後に出された料理は紅茶だ。メブキジカの夏の葉を乾燥、発酵、熟成させて作った紅茶と、小さなマフィン。最後に甘い茶菓子で終えて、紅茶で口の中をすっきりさせるというものだろう。口に中でいっぱいに広がる紅茶の香りを堪能して、私達は全てのメニューを完食する。
子供用のメニューゆえ、大人用よりも量は少ないものの、それでもあまり運動せずに食べると満腹で、動くのもおっくうになりそうな量だった。
「ごちそうさま。こんなところに連れてきてくれてありがとねー、ドワイト」
「なに、俺は親に謝るなんて、細かいことならともかくこういう大きいことじゃ初めての経験だから、アドバイスしてくれてすごく助かったんだ」
「いや、私なんて何もしていないのに……」
「デボラも、そう卑屈になりなさんな。アンジェラと一緒にこの街に引きとめちまったわけだし。素直に奢られておけよ。負い目を感じるんなら俺に奢り返せばいいだろ?」
その奢り返すのが、財布に負担になるんだけれどね……。ま、いっか。
「そうね、ありがとう。また会った時は私がね」
「おう、待ってるぜ!」
っていうか、そもそもまたどこかで会うつもりなのか、こいつは……
「それで……もう昼だけれど、私達はこのままこの街を発とうと思っているんだけれど……ドワイトはどうするの?」
アンジェラが尋ねるとドワイトは頷いて微笑む。
「うーん……俺はちょっと薬が切れちゃったから、薬を貰ってちょっと観光客からお金を巻き上げようかと思ってる。まぁ、追いつけたら追いつくよ。何回も会っているから、いつかまた会えるだろうよ」
確かに、また会えそうな気がする。会おうと思ってもいないのに、何度も会ってしまうくらいに腐れ縁なのだから。
そうして、私達はチェストシティへの道のりを行く。急ぐ旅ではないからいいけれど、目的の街までたどり着くのは今日は無理そうだ。
「はー……今日の料理美味しかったねぇ」
「だねー。アンジェラが世話を焼いてくれたおかげだよ……でも、よくまぁあんな奴の世話を焼いたよね、アンジェラも」
「まーね。あいつうざったいけれど、何だか放っておけないうざったさなんだよね。あいつ、多分根は悪い奴じゃないし、不器用じゃないんだよ。ポケモンをあんなに上手く育てられて、しかも父親をきちんと愛しているし。何とか、本当に何とか性格が治ればって思うんだけれど……今日のが、いいきっかけになるといいんだけれど」
「放っておけないウザさかぁ……」
「ドワイトだって、ああなりたくってなったわけじゃないっしょ。それに、私達と話す時の態度は、大分ましになって来たような気もするし……あの子には、友達が必要だよ」
アンジェラはそう言ってほほ笑んでいた。筋肉のある男性が好きなはずのアンジェラなのに、何だか知らないけれど……ドワイトを気にかけるだなんて、一体何が起こったのか? あれか、家族が兄ばっかりだったから年下の妹か弟が欲しかったのだろうか。