3:アンジェラとの二人旅、後編
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 リオルの名前をジェネラルと名付け、私達は国立公園を徒歩で突破した。リオルの名前は将軍と呼ばれるような強い子になるように……と言う理由ではあるが、正直なところチェンピオンやジムリーダーが使うようなルカリオと比べれば、どう考えても劣るような実力しかないだろう。別に私達はポンマスターやチャンピオンを目指しているわけでも無いし……ね。
 まぁ、言う事だけはでっかくてもいいだろう。
 古都コリーに到着して、私達は早速城壁のある街の中心部へと歩みを進める。街の一画をぐるりと囲む城壁の上を歩いて、見下ろす街の風景を楽しむのだがこの城壁の楽しみ方は風景を楽しむだけではなく、回りながら所々でポケモンバトルが出来る場所があるのだ。合計八つのチェックポイントをすべて勝利で一周出来たトレーナーは記念のメダルが授与されるのだが、なんとこのチャレンジはこの地方のチャンピオンですら失敗したという難易度を誇っている。
 なぜかってそれは、チャンピオンが前日にここにチャレンジするのが楽しみだとブログに書いたため、ネット上の掲示板に『チャンピオンの挑戦を失敗させようぜ!』と書き込まれて、チャンピオンを泣かせるために強豪トレーナーがずらりと集まったせいである。
 いかにチャンピオンといえど、状態異常による搦め手や、道連れなどを利用した捨て身の戦法をやられれば苦戦は必須である。チャンピオンが六人目の相手をしているところで手持ちが全滅し、ネットの住人の大勝利で終わった際は『君たちひどいよ』とブログに乗っていたのだそうだ。当時その様子を間近で見ていたという案内人の男性は、あの時ほど面白いことはなかったと笑顔で語ってくれた。
 城壁をグルリと回って街の内外の景色を楽しみ、そしてチェックポイントでは戦いも楽しんだ。4回目にはシャドウも倒れてしまったが、素人の私には上々と言ったところか。一応、ファイトマネーもそれなりに懐へ入ったので、全体的に良しとしよう。
 城壁を回り終えた私達は、ポケモンセンターでポケモンを治療したのちに、コリーミンスターという大聖堂に向かって、内部の探索をする。入場料は少々高いが、それだけ管理が大変なのだろう。美しいステンドグラスや、顔が映りそうなほど綺麗に磨かれた大理石の床。見上げる天井は息を飲むほど高く、建物は何もかも巨大なのに、石を削って掘られた彫刻は反比例するように美しく繊細だ。機械の手がない時代にこんな建物が建設できたとは、当時の人間の技術に驚かされる。アンジェラは特に、木で出来た家具の彫刻に強い興味を示していて、自分でもこんなもの作れるだろうかと隅々まで調度品を見回している。

 流石にここではポケモンバトルは出来ないが、そう言えばカロス地方のチャンピオンの部屋がこんな感じだったなぁと思いだしつつ、荘厳な雰囲気を存分に堪能する。かつてのリテンの王の彫像が並んでいたり、地下には聖人の墓があったり、静かな雰囲気で声を出すのもはばかられて、終始息が詰まりそうだ。
 地下の墓場の前にはゴルーグがいて、彫像のようにじっとして動かないが、もしも粗相があった時は周囲を焦土に化すレベルで大暴れするとか。ちょっと興味本位でライブキャスターでレベルをスキャンしてみたら、測定不能と表示される。一〇〇レベルまで測れるはずのスキャナーなんだけれどな……個人が所有するポケモンは一〇〇レベルを超えるとリミッターをかけなければいけないし、そもそも一〇〇レベルなんてポケモンは生まれてこの方見たことがなかったからそんな法律の事など忘れていたが……」
 なるほどここのポケモンは『個人』が所有しているわけではないから、問題ないというわけか。そんな化け物ポケモンは野生の伝説のポケモンか、もしくは軍隊が所有しているくらいなものかと思ったが……昔は聖職者も軍隊であったということを今更ながらに思いだしてしまった。しかしこのゴルーグは人間が従えられるレベルを超えているような気がするが、こんなのが街中にいるというのは、いくら何でも恐ろしすぎないだろうか?
 昔、子供が職員の制止を振り切って墓に悪戯しようとした時は、パンチ一発で子供の原形が残っていなかったそうだ。
 そうして、大聖堂の中を一通り回って、私達はその日の観光を終わりにした。
「ふーむ……ジェネラルのレベルは一〇か」
 城壁の上での臨時収入もあったので、今日は暖かいポケモンセンターに宿泊する。持ってきたライブキャスターでジェネラルのレベルを計ってみると、今日はシャドウが頑張ったおかげもあってか、学習装置により彼のレベルも上がっていた。貰った直後はレベル五だったのが、この四日でこれだけ上がったという事か。そろそろ野生のポケモンに戦いを挑まれた時は彼に任せてみてもいいかもしれない。
「こらこら、ジェネラル。あんたタフガイの石柱を勝手に使っちゃだめでしょ」
 個室にてポケモンを出してみると、ジェネラルはタフガイが持っている二つの石柱のうち一つを、よたよたとおぼつかない足取りで持ち上げている。
「すごいねー、ポケモンって。こんな小さい頃からこんなに重い物を持てるなんて。でも、危ないからタフガイに返してあげてねー」
 と、アンジェラがジェネラルごとひょいと石柱を持ちあげてタフガイに渡すのだ。しかし、タフガイは笑ってそれを拒否して、ジェネラルに石柱を好きにさせてあげる。
「なに、これ持たせちゃっていいの? あんた親切ね」
 タフガイは、子供が体を鍛えようとしているのならば、それを尊重するつもりらしい。ジェネラルも意地っ張りな性格だし、無理やり奪っても怒るばっかりだと他のポケモン達も分かっているのか、他の皆も空気を読んでいる。強くなりたいと体を鍛えようとするジェネラルの姿が愛らしいので、タフガイもそれを見守るつもりなのだろう。
 けれども、ジェネラルは自分の体が疲れても、意地を張って休もうとしないせいで、おぼつかない足取りはさらにふらついて。大きな音を立てて床に転がる……かと思われたが、前に、エリンがお得意のサイコキネシスで石柱を拾い上げた。
 エリンの表情はいつもと変わらないしかめっ面なので、彼女が何を考えているのかはいささか伺いにくいが、ため息交じりにタフガイへ石柱を投げてよこしたことを見ると、彼女の言いたいことは『まったく、ちゃんと見てなさいよ』と言ったところだろうか。
「ありがとう、エリン」
 とりあえず大きな音を立てずに済んだことに対するお礼を言って彼女の事を撫でてあげると、嫉妬したのかシャドウとジェネラルが揃って私の前にワラワラと集まってくる。シャドウは私の顔を舐めて来るし、ジェネラルは体を擦りつけて私にマーキングをしてくるし。とりあえず非常に鬱陶しい。この上なく鬱陶しい。けれど、この鬱陶しさや圧迫感がくせになるくらいに。至福のひと時であった。


Ring ( 2016/08/16(火) 22:45 )