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一宿一飯の恩恵にあずかり、私達はウドさんの家を去る。客人用のマットレスまで用意していただいた感謝は計り知れず、何度も頭を下げてお礼をしたが、ウドさんは『そんな事よりも結婚式はぜひうちで』と、その事をアピールすることにばかり余念がないようだった。
翌日、立ち寄ったポケモンセンターで、家族にその時の出来事を報告すると、アンジェラは貴重な経験をしたなと父親に褒められて、私も似たような感じで母親には褒められたのだが。父親はあまり男を信用するなと難色を示す。相手は社会的地位もある人間、ウドさんと二人きりでホテルに泊まるとかならばともかく、家族が住んでいる家に泊めてもらったのだというのに、何を怖がる必要がある? 父さんは、ジムリーダーが家族ぐるみで追いはぎやら裸の写真を撮って金銭を脅し取るような真似をするとでも思っているのだろうか?
楽しい話をいろいろしたのだけれど、父親の余計な言葉のせいでなんだか色々と台無しの気分である。
ともあれ、楽しい旅路をそんな父親の一言で台無しにしてはもったいない。私は母親の言葉や表情を心の深くに刻み込んで次の目的地を目指す。
次のジムはチェストシティ。この街は皆で知恵を出し合い、協力して生きることの象徴として、ビークインとミツハニーが街の象徴として扱われている。そんな街に住むジムリーダーは虫タイプのポケモンを操るほか、ドラピオンなどタマゴグループが虫のポケモンも繰り出してくるらしい。私達には炎タイプのポケモン、ギャロップのトワイライトが居るので、弱点を突くにあたっては引き続きその子達で問題ないだろう。
しかし、岩タイプの攻撃は、アンジェラはタフガイに任せれば何とかなるとして、私はどうするべきだろうか? ストーンエッジか岩雪崩を使えるポケモンがいればいいのだが……新しくゲットしないことには難しそうだ。
まぁ、チェストシティにたどり着くまでの移動距離は長い。寄り道もしながら考えればよいことだ。その寄り道をどうするべきかという話になると、私達は古都コリーへと向かうことに決まっている。
コリーはリテンの中でも比較的大きな聖堂がある場所だ。その建物の荘厳さは写真で見ただけでも圧倒的だが、その周囲の街並みも、時間に取り残されたかのような趣のある光景で美しい。とはいえ、そんな街並み自体はリテン地方全体で見ればそう珍しいものではなく、コリーの大きな特徴は街の小さな区画を取り囲む城壁から大聖堂や街並みを見下ろすことが出来る事。その際の美しい俯瞰はこの街に訪れるにあたって最大の魅力といえよう。
//ヨーク・ミンスターとその周りの城壁を見たいようです York→Kory
そこへ訪れるにあたり、私達は二〇〇キロメートルの道のりを歩かなければいけないわけだ。トワイライトに乗って行こうかな? と弱音も吐きかけるが、そうやって楽をしていると私達の足腰が育たないだろうから、やはり野生のポケモンや観光客などと戦いながら、ゆっくり向かうのが最善だろう。でないと、急ぎすぎればジム戦も厳しくなってしまう。
そんなわけで、今回も変わらず歩いていくことに決めた私達は、進路を南東に、約二週間の旅路をスタートさせる。
グレトシティを南にひたすら進み、途中にある国立公園を突っ切って行く。これから向かう土地は、ヨーテリーがネズミ退治要因として重宝された場所。犬系のポケモンがネズミ退治というのは少々意外なようだが、気まぐれな猫系のポケモンよりも、きちんと命令を理解しやすい犬系のポケモンの方が都合のよいこともあったのだろう。国立公園には野生のヨーテリーもちょくちょく見かけ、勝負を挑んで来ようとする子もちらほら見かけるが、それらはシャドウを出すだけでその力量差を理解して逃げて行ってしまう。
ヨーテリーたちは育てれば強くなるかもしれないが、今から育てるのは少し時間がかかりそうだ。ムーランドでも歩いていればゲットしたいのだが、ムーランドに進化してしまった子は、人間に頼りたい。飼われたいと考える子も稀である。人間の暮らしは楽だと知ってか知らずか、野生のまま最終形態まで成長したポケモンは、人間の前にわざわざ姿をあらわしたりしないのだ。
だからと言って道を外れた場所に行って、獰猛なポケモンに囲まれてしまえば笑えない。シャドウとラルがいれば大抵は何とかなるだろうが、それでも用心しておくに越したことはなく、ポケモンを置く服掻くまで探すことは自重するべきだろう。
なだらかな起伏の山と草原が続く国立公園の内部は相変わらず牧畜が盛んで、どこへ行ってもモココとゴーゴートの姿は絶えないし、石垣の柵も延々と続いている。それを外敵から守るためのポケモンはやっぱりムーランドで、その傍らには時折バンギラスのような狂暴なポケモンも見かける。砂嵐の下でのムーランドは素早さと強さを兼ね備えたポケモンとなる。特に、覚えさせた技を極限まで絞り、『吠える』と『とっておき』しか覚えていない極端なムーランドなんてのもこの土地にはいるらしい。ゴーストタイプ以外には対応が可能だし、そもそもゴーストタイプのポケモンが家畜を襲うことが。そして少ない。仮にゴーストタイプが現れたのであればバンギラスが前に出ればいい。大会ではあまり活躍できないかもしれないが、なるほど効率の良い番犬だと感心する。
その道のりの過程で、私はようやく新しいポケモンとしてリオルを譲ってもらった。なんでも、番犬として繁殖させたものなのだが、ムーランドと番わせた際には予想外に雄側の種族が産まれてしまったために、引き取り手を探していたらしい。
自然災害に対して力を発揮するアブソルもいいが、ルカリオは人の感情を察知することが出来るため、そっち方面での危険を回避するには最適だ。生まれたばかりということで今のところ一番弱いため、以降はこの子を優先的に鍛えることになるだろう。