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アンジェラが行うジムリーダーとの再戦は勝利で終わる。レベルを上げたのはもちろんだが、野生上がりだったラーラもようやく人間の指示を受けて行動することに慣れたらしい。前回よりも指示を受けた時の動きがいい。あと、バトルの時とは関係ないが、トイレもきちんとボールの中に戻って出来るようになっていた。トイレの仕方を覚えたのならば、そろそろラーラを室内に放しても大丈夫だろう。
また、タフガイも経験を積んで強くなっており、ローブシンへと進化した身体にも慣れ、進化した時よりもより逞しくなっている。そうなってしまえば、バッジ三つ程度の敵など相手ではなく、以前とは立場が逆転する形で勝利を飾ったのだ。
「いやー、負けちゃったなぁ。お嬢ちゃんとお嬢ちゃんのポケモン、強くなったねぇ」
ジムリーダーのウドはアンジェラの成長を素直に喜び称賛する。そんな、バッジ三つ目程度でこれでは少し褒めすぎではないだろうか。
「まだまだ、成長期の子達ですし、当然ですよ。ウドさんなんて、全然本気を出していないわけだし……もっともっと強くならなくっちゃ」
アンジェラも、バッジ三つ程度で喜んではいられないと謙遜する。
「お、もしかしてチャンピオン志望かい? 未来のチャンピオン!?」
そのアンジェラの態度がウドさんは気に入ったらしい、いきなり興奮して食い付いている。
「いやいや、違いますよ。私はこう……結婚の許可を貰うための旅をしていて、私はその……」
「マジで!?」
未来のチャンピオンと言われて慌ててアンジェラが否定するとともに告げたことに、ウドさんはさらに勢い良く食い付いた。
「いや、そうか……なるほどなるほど。うちは同性愛者でも歓迎だから、結婚式なら任せてくれよな……バッジ付けてれば割引するからさ」
ここ、グレトシティでは教会の牧師やら神父やらではなく、鍛冶屋が結婚式に置いて重要な役割を持つ。ので、現役の鍛冶屋であるウドさんが興奮するのも分かるのだが、どうやらすさまじい勘違いをしている。
「あの、ウドさん。最後まで話を聞いてください。結婚の許可を貰う旅をしているのは、その……連れのデボラちゃんであって、私はただの旅の付き添いです」
「あの、アンジェラの言った事で何の誤解をされているのか大体予想はつきますけれど、私達レズじゃないですからね!?」
私達がレズと勘違いされてはたまらず、アンジェラと私で勢いよくウドさんにツッコミを入れる。
「え、そうなの? なあんだ、四天王のゲッカさん以来にそういうカップルが来たかと思ったのになぁ……ちぇっ」
すごいビッグネームがこのジムで結婚式を挙げているようだけれど、そんなこと私達に期待されても困る。
「ちぇ、じゃないですって! 私は……私は……」
ウィル君と結婚できない理由を思いだして、私はため息をつく。
「まぁまぁまぁ、デボラ。あのですね、ウドさん。私は、彼女の結婚に関しては協力はするけれど当事者ではなくってですね……同性愛の禁じられた恋っていうのも刺激的ではありますが、デボラの恋路もそれはそれで刺激的なんですよ。……だけれど、デボラ? 話す?」
「うーん、そうだね。別に話してもいいけれど、そろそろ夕方だし、先に明日の宿を決めたいけれど」
「じゃあ、ウチの家に来るんだ! 大丈夫、俺は妻が一人に娘が二人。おまけに息子も一人いるぞ! 君達に手出しなどしない! トレーナーを泊めて世間話するのは日常茶飯事だから気にするな!」
「あ、どうも……」
炎タイプかと思うほど暑苦しい声で告げるウドの好意に、何だか断れそうな雰囲気ではないため、私は思わず好意に甘える言葉を第一声で発してしまった。
「いやちょっとデボラ。そこはもう少し考えて言うべきじゃない?」
「いやだって、アンジェラ。今ちょっとお金節約しなきゃいけないし……」
「うーん、まあそれもそうか……では、お願いします、ウドさん」
そう、学習装置を買ってからの金欠はまだ続いているのだ。観光客に勝負を挑んでお金を巻き上げてはいるものの、それも微々たるもの。路銀で大体消えてしまう。食事や屋根を無償で提供してくれるであろうジムリーダーの家に泊まれるのであれば、それに甘えるべきだろうし、きっとジムリーダーなのだから今まで受け入れたトレーナーにも金に困っていた子供が一人や二人いたはずだ。
土産話くらいしかお返しできないが、こう言う時に甘えておくこともまた、旅を続けるには必要なことだと私は思う。