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「わ、分かったよ……」
「でもまぁ、あれよ。貴方強いんだから、変に尊大な態度をとったりせず、心を大きく構えていればいいのよ。実力に見合った風格で堂々としていれば、もっと好きになってくれる人もいると思うし」
頭を掻きながら苦い顔をしているドワイトに、アンジェラが優しく諭している。
「俺、学校で友達いねーんだよな……俺が強すぎるのかと思っていたけれど、もしかしたら、態度が原因なのかな」
「うーん、多分、そうだろうねぇ。『強すぎて、釣り合わないから友達になれない』、みたいに思っている子もいるだろうけれど、別にポケモンバトルが強くなきゃ友達が出来ないってわけじゃないし」
「そうね、私の元婚約者は、貴方に負けないくらいに強いけれど友達はきちんといるし、アンジェラとも仲良くしているし……」
自分に友達がいないことを告白してため息がちなドワイトを見て、アンジェラも私も改善の兆しが見えたと考え、自分の意見を告げる。
「わかった、俺は生まれ変わるよ」
「いやそこまで思い詰める必要はないけれどね?」
言う事が大袈裟だな、と私は苦笑する。
「でも俺、この態度で文句言われたことなんてなかったから……間違っていたなんて分からなかったよ」
「あらあら、上級生に良く目を付けられなかったものね」
「だって、上級生なんて弱いもん。俺は、一〇歳になる前からポケモン育てていてさ、その頃からタブンネは六〇レベル超えてたんだ。格闘タイプのポケモンで挑んでもタブンネ一匹に勝てないような奴が何言ったところで、ただの負け惜しみだろ」
ドワイトは、気持ちに嘘をつくような発言はしても、こういうことで嘘をつくような性格ではない気がする。彼の発言が真実ならば、こりゃ相当の逸材だ。
「多分、文句を言いたくっても文句を言えなかったんだろうね……あー、そうだよ。相手が弱いからと言って、馬鹿にするよりも、見下すよりも、まずは相手を尊重しないとダメなんじゃないかな? 例えば、勉強が出来る人に、『君、こんな問題も解けないの?』とか言われたらむかっと来るでしょ?」
「うん……」
私が具体的な例を挙げて説明すると、ドワイトも納得したらしい。
「そういう時に、貴方だったらどういう態度を取って欲しいのかを考えて、自分がして欲しいことを相手にも出来るようにすることが一番なんじゃないかな。もちろん、人によってはどういう態度をとってもらうと嬉しいのかは違うから、何にでも当てはまることばかりじゃないけれど……少なくとも、偉そうな態度をとるよりかはいいんじゃないかな?」
「……分かったよ。流石に、ポケモンの交換進化すらしてくれる知り合いがいないってのはまずいからな」
ストライクを進化させようとして知り合いを訪ねたりしても断られ続けてたのだろうか、ドワイトは言う。
「あんたどれだけ皆から避けられてるのよ……その態度は問題ね」
アンジェラは呆れている。当然、私も飽きれていた。
「どんなに、勝負に勝っても、俺の親父がすごい奴だから、その事もも強い奴なのは当然みたいな態度でいられたら、こういう態度にもなるさ」
「なるほど、親が優秀っていうのは辛いわけだ。確かにそんなこと言われたら、腹も立つわね」
ドワイトが漏らした本音を聞いて、アンジェラは彼を励ました。彼のことを否定ばかりするのもなんだし、アンジェラがああいってくれてよかった。
「こんな話していたら、そろそろパスタも茹で上がるね」
こんな話をしていると気が滅入ってしまいそう。まだもうちょっと時間はかかるけれど、そう言っておけば気も逸れるだろう。
「ソースの方もなんだかいい匂いがしてきたな……さっきまで腹減って無かったのに、なんか急に腹減ってきたぜ。こんなの久しぶりだな」
「そりゃありがたい。腕の振るい甲斐があるよ」
匂いを嗅いだら腹が減ってきた、なんていわれたら料理を作る立場としてこれほどうれしいことはない。いただきますの挨拶をすれば、ドワイトは早速がっついて食べ始める。
「どう、美味しい?」
「美味いじゃん。店で食べる時以外はパンとか、シリアルとか缶詰くらいしか食べていなかったから……こう、温かい料理がホテルやお店以外で食えるとは思っていなかったよ」
「やっぱ、料理したことがない人が旅に出るとそうなっちゃうんだ」
「オムレツだけでも作れるようになると違うと思うけれど、それだけでも包丁やらフライパンやら荷物増えるもんね。重さは大したことがなくても、かさばると結構負担になるし」
「それもあるけれど俺料理したことがなかったからさ」
そう言って料理を見る彼の表情は、どこか羨ましそうな顔をしている。
「俺も料理……いや、無理か」
「料理って作るだけでも根気が要るけれど、こんな旅の途中だとなおさらだからね」
アンジェラの言う通りだ。それに、私達だって常に料理をしているわけではなく、シリアルやらドライフルーツやらで済ませることは日常茶飯事だ。街に早めにたどり着いて、時間も心理的余裕もあるような時だけだ。
「うーん……やっぱり止めとくかぁ」
「お金あるんだったら外食で済ませるのも一つの手段だよ。強いんでしょ?」
「いや、それもそうかぁ。外で料理の練習なんてするもんじゃねえよなぁ……炎タイプいないし」
ドワイトは、迷っているのだろうか、少し釈然としない顔をしながらもパスタを食べ続けた。よほどおいしかったのかぺろりと平らげてもらえて、後片付けも楽しい気分だ。