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「また会ったな! ギャロップのトレーナー!」
一夜を過ごしたアパートから出て、さてグレトシティに帰ろうというところで、どこかで聞いた声。
「またアンタ? あのね、私にはちゃんとアンジェラ=スコットって言う名前があるのよ、ドワイト君?」
「そうか、お前はデボラって言うのか。前回は名乗りもせずに不躾な奴だと思ったが、キチンと名乗れるじゃないか?」
「名乗る前にアンタが逃げたんじゃない……あぁ、私はアンジェラ=スミスって言う名前よ。貴方、私達が覚えてあげているんだから、自分も私達の名前を覚えるのよ?」
私とデボラに畳みかけるように言われて、ドワイトは硬直する。
「ふ、ふん。良いぜ。曲がりなりにも俺に勝った女だからな、覚えておいてやるぜ」
どこまでも上から目線なその態度に、私とアンジェラはため息をつく。
「それで、今回は何の用かしら?」
私が尋ねると、ドワイトはアンジェラの方を指さす。
「お前、アンジェラとか言ったな」
「何かしら?」
「お前の、ドテッコツ! そいつを俺に貸すんだ! その代り、俺はストライクをお前に貸す!!! どうだ、悪い話じゃないだろう?」
一瞬、何を言っているのかよくわからなかった。私達二人は硬直しつつ、互いを見る。
「あぁ、あのさぁ……あなた、素直にストライクをハッサム進化させたいって言いなさいな……ってか、男のツンデレって需要ないけど?」
「素直じゃなくって可愛いのは小学生までよ、今のうちに楽しんでおきな、坊や」
私とアンジェラが二人そろって彼の態度を子ども扱いすると、ドワイトは明らかに不機嫌そうだ。
「わ、悪かったな。お前らが交換進化について理解しているかどうかを試しただけだ」
交換進化、というのは、コンピューターで手続きする際にポケモンに特殊な刺激が加わるらしく、その刺激がポケモンを進化させることを言う。なんでも、異世界の空気に触れることがその刺激に関係があるらしく、かつてコンピューターなど存在しなかった時代は、異世界の扉が開いた際。例えば、お祭りの最中なんかに進化することがあったそうだ。死後の世界とこちらの世界がつながるハロウィンだとか、聖人が復活するイースターだとか、そういうタイミングで進化する。
ドテッコツもそういうポケモンで、ドテッコツがローブシンに進化するには、今主流のポケモンセンターでの交換をするか、お祭りに参加してその空気に触れることで進化が可能だ。もちろん野生のドテッコツでもローブシンに進化しないわけではないが、その場合は大抵、成長に伴って自然に進化するようである。
私達も、ドワイトがいきなり交換を申し出てきたときは訳が分からなかったが、恐らくは交換進化をしたいだけとか、そういうことなのだろう。
「はいはい、それで、メタルコートは持っているの?」
また、交換すること以外にも条件があるポケモンがいて例えばハッサムがそのうちの一種。メタルコートを持たせて交換することでようやく進化する。
「当然だ、グレトシティではなぁ、鍛冶が盛んだからメタルコートが名産品の一つだ! 当然ぬかりなく、ストライクに持たせているさ」
「じゃあ、交換してあげるから、近くのポケモンセンターに行きましょうねー、ぼくぅ」
「俺の名前はドワイトだっつーの!!」
そうやって向きになるから子供扱いされるのだけれど、ドワイトはまだ気づけないのだろうか。
「それよりも、今日はお前! アンジェラと勝負するぞ!!!」
「え、私?」
「そうだ。今回は俺が勝つからな、お前は一番強いポケモンを出して来い!」
と、言われてアンジェラは何を思ったのか。迷わずドリュウズのラルが入っているボールを手にする。まぁ、あの態度じゃ、手加減してあげようっていう気も失せるのは分かるよ、うん。
「わかった、空き地に移動しましょう」
ため息交じりにそういったアンジェラは、どうやらドワイトを完膚なきまでに叩きのめすつもりのようであった。