2:アンジェラとの二人旅
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 道中、比較的平坦な道を徒歩で行きされた観光客や現地民からお金を巻き上げつつ(ラルとシャドウを出すと大抵倒せるため)私達は徒歩で四日かけて東海岸沿いにあるサンダーランドへとたどり着く。ここでは電気タイプのポケモンが跳梁跋扈しているのだが、電気タイプのジムリーダーがいるかと言えばそうでもなく、いたって普通の工業都市である。工業都市とは言っても多くの自然が残っており、夏場は海岸で泳ぐことも可能で(恐ろしく寒いけれど)、街の中心部には野生のポケモンも顔を出す自然公園がある。パチリスやピカチュウなどの電気袋族も住んでおり、ここに住むそれらのポケモンは人間に慣れている為、餌を手渡すことさえ可能である。この街がかつて炭鉱出会った頃の名残も所々に見られ、かつての道具が市役所などで保管されているのを眺めるのも楽しく、町全体がゆったりと出来る憩いの空間だ。
 国が建てたガラスの工芸品の展示施設もあり、冒険に役立つビードロなどを購入できるほか、その他お土産にしたいような美しい工芸品も取り揃えられている。ギャロップとカエンジシのガラス細工は、家に飾っておきたくなるほど見事なクオリティである。その分値段は張るが……
 アンジェラはそこでいくつものガラス製品を見て回り、そこで強いポケモンと出会いやすくなる黒いビードロを手に取った。アンジェラはそれを用いてポケモンの育成に有効活用をするそうだ。
 そして肝心の学習装置なのだが。なんでも、最新のバージョンが登場したらしく、これがまた非常に高機能なのだ。これまでの学習装置が持たせたポケモンに、実際に戦いを行うことの半分ほどの経験しか与えられず、また実際に前に出て戦うポケモンも装置が脳波をスキャンする際の影響で記憶力が阻害されて、半分ほどしか経験を得られなかったのである。
 しかし、このたび劇的に改善されたバージョンが発売されたとのことで、戦うポケモンは本来の経験を得られ、控えのポケモンも五匹分、実際に戦ったポケモンの約半分ほどの経験を得られるという夢のような学習装置((前者が第5世代までの仕様であり、後者は6世代の仕様である))が店頭に並んでいたのだが……

「高いね……でも、科学の力ってスゲー」
「路銀、使い果たしちゃうね……でも、それだけの価値があるくらいに科学の力ってスゲーわ」
 ギリギリ買えないことはない値段だが、何かあった時にバスや飛行機などの移動手段で家に帰ることが出来ないし、病気出止めを喰らった際に治療費に困ることになるだろう。もちろん、その時は銀行から下ろせばいいのだが、母親からは支給されたお金とバトルで得たお金だけでなるべくやり取りするように言われている。それはアンジェラも同じようで、しばらくの間値段とにらめっこして出した結論は……
「よし、今日は野宿しよう! ポケモンセンターだって格安だけれどタダじゃないしね。しばらく節約して、観光客や地元民からチップを取って……」
 アンジェラの出した結論がこれである。確かに、学習装置を購入するならしばらくは節約した方が良さそうだ。
「要するに節約生活ってことね。どうしよう、それなら食事も自炊したほうがいいよね? 久しぶりに何か作る?」
 私は専業主婦になるつもりだったから(実際ウィルの母さんは専業主婦で何とかなっていた)料理は上手いと自負しているが、それでも水も調理器具も皿も限られた状況ゆえ、最近は料理なんてさっぱりだった。
「いいじゃん、二人で料理しようよ。フライパンと包丁しかないけれど、作れば安い! これ常識」
 アンジェラはあまり料理が出来る方ではなく、リンゴを剥く時の手つきなどは危なっかしい。だが、思い切りは私よりもずっと良く、為せば成るとでも言いたげだ。しかし、何を作るべきだろうか。調理器具も限られているから、あまり凝ったものは作れないだろうし。
「あはは……ねー、エリン、シャドウ、ラーラ。なんか食料でも狩ってきてくれない?」
 この際、何かの肉の丸焼きにでもしてみるのはどうかとも思ったが、どうだろう。
「えー、でもこの街のポケモンは狩猟は大丈夫なんだっけ?」
 アンジェラが言う。ポケモンの捕獲は禁じられていなくとも、狩猟が禁じられているような場所は少なくなく、観光地ではショッキングな光景を観光客に見せてはいけないという理由で狩猟が禁じられてる場所もある。そうでなくとも、ゲットしたポケモンにあんまり狩りをさせると、トレーナーとの対戦で相手のポケモンを殺してしまうこともあるらしいから、流石にそれは……という事情もある。
 ウィル君曰く、『完全にポケモンを御せるような有能なトレーナーなら、狂暴性をある程度持たせたポケモンの方が対戦でも強くなるからやってみてもいいんじゃないかな』、とのこと。ただ、ウィル自身は『自分もできるかどうかは分からない』と言っていたので、素人に毛が生えた程度である私達には、ポケモンに狩りをさせるのは止めたほうが良さそうだ。
 結局、私達は海岸沿いの街で魚の鮮度も十分ということで、島暮らしで慣れ親しんだ魚料理を食べることに。ただ、結局街にまで来て野宿という案は却下されて、私達は冒険者を泊めてもらえる親切な家を探してそこに泊まることにした。もちろん、いくら身を守ってくれるポケモンがいるとはいえ男性の家に泊まるのは不安なので、女性がいる家に泊まり、その人と一緒に料理をして、この旅の思い出話に花を咲かせた。

 近所のスーパーマーケットで購入した新鮮なお刺身と、白身魚のバター炒めにほうれん草を添え、白身魚のアラはスープにして出汁を取って飲む。
 料理は三人分だが、外食するよりもよっぽど安く済んだので問題はなかろう。
 私達がこうやって他人の家に押しかけるという案を出せたのは、時折冒険者を家に泊めているというウィルの家や、故郷の島にあるジムの影響だろう。彼の父親はライザ島にあるジム戦を前にしたポケモントレーナーをこうして泊めては様々な思い出話を聞くのが好きなのだという。ジムリーダーの家も似たようなもので、よく冒険者を泊めては土産話に花を咲かせるのだという。兄の婚約者であり、ジムリーダーの娘であるナノハさんは、自分は旅に行かない代わりにそう言った人達の写真や思い出話で楽しんでいたのだとか。
 私達もこの旅の途中で牧場の手伝いなどで家に泊まったことはあるが、それは街が遠くにあって他に泊まる場所もなかった時くらいのもの。ホテルもポケモンセンターも当然のようにあるこういった街で民家に泊まるというのは初めての経験だったが、意外なことにやってみれば案外出来るものだ。宿泊を頼んでも一七件ほど断られてしまったが、三〇件回ってダメなら諦めようと話していたので、一七件目で見つかった時は思わず二人でほっと胸をなでおろしたものだ。


Ring ( 2016/07/25(月) 23:42 )