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「いや、だって……私は筋肉もりもりのポケモンの方が好きなのよ。別にピカチュウが嫌いなわけじゃないけれど、筋肉の魅力とは別次元の魅力じゃない? 他には……ゼブライカとかも好みの筋肉かなぁ」
「そ、それは、筋肉が好きなら否定できないね、うん……意外な好みをお持ちのようで……」
なるほど、アンジェラはそういうポケモンが好みなのか。思えば以前も初心者向けのポケモンで話しをすれば一番好きなのがバシャーモだったり、エンブオーなどにも興味を示していたが、そういう事だったのか。
「デボラ、女の子がみんな可愛いものが好きだと思ったら大間違いだよ。育て屋をやってると分かるけれど、好みなんてのは本当に千差万別だから」
「そっか……まぁ、そうだよね」
ウィルに言われて、私は常識に凝り固まりすぎだったなぁと反省する。
「そういうわけでさ。カエンジシをゲットして躾とかに悩んだらちょっと相談させてもらうわ」
「よし来た。育て屋の勉強の成果を見せちゃうからね。あ、カエンジシの躾は雌の方が楽だって聞いたことがあるから、見た目全然違うけれどゲットするなら雌の方がいいよ」
ウィル君は誇らしげに網を浮かべる、全く、頼もしくなっちゃって。
「ところでランパート君、中学校はどう? 勉強付いていけてる?」
「あぁ、それならデボラに負けないように頑張って勉強してたから余裕余裕。でもカロス語の授業はあれだね……なんというかよくわからないよ。こればっかりは、先生の話をちゃんと聞いて覚えるしかなさそうだね」
「そうなんだー。その点デボラは頑張ってるよ。カロス語じゃないけれど結構外人とコミュニケーションとってるんだ」
「へぇ……きちんと会話出来てるの?」
「何度か聞き返されたりしているし、親切な人は文法の間違いとかを指摘したりとかしてくれてるよ。二歳児か三歳児くらいには喋れてるっぽいね。頑張ればすぐにマスター出来るでしょ」
アンジェラは私の代わりにウィル君へ報告していく。聞く方も語る方も自分の事のように話す二人の会話が効いていて耳に心地よい。
「それじゃ、デボラ。あとは貴方の番よ」
私はアンジェラがウィルと話している様子をずっと見ていたが、アンジェラは私がウィル君と話したくてうずうずしているのを肌で感じたらしい。適度な世間話をした後にアンジェラは私に席を譲り、今度こそ私はウィル君と話が出来る。
「後ろでずっと話を聞いていたけれど……」
「うん、何かな?」
「グレトシティ、あそこが駆け落ちの名所だっていうの、私も知ってるよ」
「へぇ、どうやって知ったの? テレビでやってたとか?」
「貴方と婚約を解消されたって事実を認めたくなかった時に、『駆け落ち』で検索した結果だよ」
「なんだ、俺と同じじゃん」
ウィル君はそう言ってくすくすと笑う。
「俺も君も、未練があるのは同じ。こんな旅で、認めてもらえるわけじゃないけれど、認めてもらうための準備くらいにはなる」
テレビ電話を終了して、微笑みながら私の肩に手を置いた。
「頑張ろう。ウィル君も頑張っている。貴方はジムを突破して、そして外国語も喋られるようになって。お父さんに認めてもらおう」
「うん……早く普通に会話できるようになろう」
今はまだ寂しくとも、こうして友達がいてくれて、お互い思い合っていることが分かればいい。それでも寂しい時は、エリンを抱いて気を紛らわせよう。寂しい気分を共有していれば、いくらかは気分もまぎれるはずだ。
「俺はまだ、ただの育て屋の息子でしかないけれど……強くなって、リーグに挑戦して、それでパルムなんかよりもよっぽど優れた男だって認めさせる。君は、お父さんの仕事を告げるだけの学力があるって証明する」
「ついでに、外国で仕事をしても危なくないってことも証明しなきゃいけないよ。まだまだ先は長いけれど、それでも君となら乗り越えていけると思うから。旅、頑張ってね」
「ウィル君も、勉強頑張ってね」
お互いテレビ電話越しで、触れることは叶わなかったけれど、それでも気持ちは伝わった。お互い見つめ合ってから通話を終えて、私はため息をつく。
「恋する女の子って、眺めていて飽きないねぇ。デボラ、貴方素敵よ」
「飽きていいよ。なんだか、鬱陶しそうだから」
アンジェラの空気を読まない発言に、私は苦笑しながら返すのであった。