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夕方になったところで私達はようやく海沿いにあるポケモンセンターへと向かい、ポケモンは治療器に入れ、私達は観光客から巻き上げた賞金で明日の旅路に備えての買い物を行い、部屋にてシャワーを浴びる。
「……まだまだ街同士があまり離れていない楽な場所とは言え、こうやって旅をするのって疲れるね。ってか、こんなに歩いたの初めて。明日も同じ調子で歩けるかなぁ?」
「そのうちなれるでしょ。っていうか、デボラってば、自分から対戦に向かったりして、自分から疲れに行ったくせに、疲れたーとか白々しいことよく言うよ。あーでも、観光客っていろんなところからきているからいろんな話が聞けるから楽しいよね。私達が住んでるところと全然違う生活しててさー……。言語が違うから喋れない人も多いけれど、こういうのが旅の良さなんだろうね」
「いやはは、それについては観光名所で暮らしているんだから、いろんな話を聞くのは前からやってたよ。そういう意味じゃ、私って結構恵まれたところに住んでたんだなぁ」
「そうだったね……デボラはすごいね。黒髪の人を見つけたら積極的に話してたよね……日本語で。島でもやってたんでしょ? 勉強のために。私にはとても真似できないよ」
「そりゃね、せっかく勉強しているから。下手でも何でも、話さないと覚えられないし」
「ははは……私にはまねできないなぁ……話しが通じなくって空気が重くなるのが怖くて話しかけられないよ……」
アンジェラにそんな事を言われると、私は意外と勇気があるのだろうかと不思議な気分になる。
「しかし、見たことがないようなポケモンを連れている人がいて、みんな可愛いね。その子を育てるうえで苦労したこととかを聞いていると、どんな地域から来てもどんなポケモンでもみんな躾に苦労しているんだね。どんな場所でもポケモンの躾を一瞬で終わらせるような楽な方法はないもんなんだね。日本でもアメリカでも変わらない事実みたい。
育て屋ってのはポケモンの躾も代行していたりするから、これならウィル君の育て屋ってのは当分仕事がなくならないわけだ」
「そうだね、頭に機械をセットして、ギュイーンと一発で躾が完了する世界になるまでは廃業しないよね。そこはうちの大工仕事も一緒だけれど、安定した仕事ってのは将来を決める上では結構なアピールポイントだし……もしもデボラが結局ウィル君とどうにもならないのなら……私がとっちゃおうかな?」
いたずらな目でアンジェラは言う。安い挑発だけれど、そんな挑発に乗るほど私は子供じゃない。
「そう、いいよ。でも、そうならないように私もウィルと添い遂げられるように頑張るよ」
そんな事あってはならないけれど、ウィル君には何であれ幸せになって欲しいし。もしも私が
「いいよって気軽に言える当たり、怖いわー。私が下手に手を出したら火傷させられそうで……絶対にウィル君と添い遂げるって意思がなきゃ言えないよね」
「当然。この旅だって、父親に旅をしても大丈夫だって証明するための旅なんだから。アンジェラには渡さないよ」
私は言葉にすることで自分に言い聞かせる。そうとも、この旅の目的はそういう目的なんだ。ついでに言語も覚えられれば言う事はない。日本人と話せるチャンスがあるのならば、積極的に話して少しでも経験を積まないと。
シャワーから上がって部屋でまったりとしていると、私達を呼ぶアラームが鳴ってポケモン達の治療が終わりを告げる。アンジェラの手持ちであるタフガイはともかく、私のポケモンはトワイライトが四二レベル、エリンが四〇レベルと結構高く、相手選びにも苦労してしまったものだ。相手もそれなりにベテランなので、攻防もそれなりに激しい。
たまに火の粉が髪を焦がすし、サイコキネシスで放った飛礫がこちらに飛んでくることもあり、誤射で傷でもついたら早速父親に何を言われるか分かったものではない。常に警戒していつでも避けられるようにしないと、いずれ大事故に遭ってしまうだろう。それでトレーナーの道をあきらめた者もいるというから、今のうちに慣れておかないとね。
さらに言えばウィル君から貰ったラルとシャドウはかなりレベルが高く、ライザ島に向かう途中のバッジコレクターだと名乗る男以外は相手になりそうもなかったため、非常に退屈させてしまっていた。こんなことはこれからも続きそうなので、対戦相手がいないときはお互いのポケモンを遊ばせるのが良さそうだ。
「お帰り、シャドウ、エリン、トワイライト。今日はお疲れ様。旅の初日だってのにちょっとはしゃぎすぎちゃったけれど、楽しかったかな? ここら辺道が狭くってあんまり外に出してあげられないから窮屈だったでしょ?」
この辺の道は、基本的に歩道がない。その上、道の左右は森であるため、カーブでは所々見通しが悪く、常にポケモンを出しておくことが出来なかった。部屋に全員を出してくつろぐことが出来るのは、やはり開放感があっていい。
ポケモンセンターの個室は全てポケモンをボールの外に出しても良いタイプの部屋である。ポケモン達はトイレの時はボールに戻り、ボールの中のトイレスペースで用を足すように躾をしておいたため、部屋を汚してしまう心配はないはずだ。
いくらポケモンセンターが大型のポケモンに対応しているとはいえとはいえ、シャワー室も流石にギャロップにシャワーを浴びさせるほどのスペースはない。なので、とりあえずはトワイライトの体を拭いて体を撫でる。だが、彼にばかり構っていると、私の事も構って欲しいとばかりにシャドウが私の腰に頬を擦りつけて来る。エリンに至っては肩に掴まってに乗ってきて構えと要求してくるので、鬱陶しいことこの上ない。
根負けして座りながらエリンの毛づくろいを始めれば、トワイライトは大人の振る舞いを見せて待っているが、シャドウは絶対にあきらめてなるものかと顔を舐めてまで毛づくろいを要求する
「なんというか、デボラのポケモン大変そうだね……」
アンジェラの方はと言えば、ドテッコツは一人鉄骨で筋トレをしており、ドリュウズの毛は地中に生きる生物ゆえか非常に短く、あまり体毛を整えるのに時間はかからない。そのため、手で撫でていればそれだけで満足してしまうようだ。
「大変だよ……育て屋の人って何匹も育てるみたいだけれど、六匹以上のポケモンなんて相手にすることできるのかなぁ、こんな状態で。一匹増えただけでもう大変」
シャドウのおねだりによって、デボラの顔はもうべとべとのドロドロだ。外では危険が迫っていないか警戒しているのもあるのだろうか、きりりとした端正な顔立ちのシャドウだけれど、安全な場所に入り込んでしまえばその辺のヨーテリーのように甘えて来る。勝気なエリンも、こうして身内だけならば強がる必要もないのか、表情からはあまりうかがい知れないが、毛づくろいの要求の仕方は一流である。
どちらも美しい真っ白な毛並み、綺麗に保たなければもったいないとはいえ、こんな調子で甘えられては先が思いやられる。次にゲットするなら毛が生えていないポケモンがいいだろうかと、私はふとそんなことを考えてしまった。でも、これはこれで幸せな気分だ。