マグナゲート短編集 - 短編
第九話:声に導かれて

命の声

『理想は縦糸。発展を目指し、希望へ向かい猛進する意欲の塊である。
 その反面、足回りのおろそかになりやすい危うさを秘めるものである。
 真実は横糸。現状を見据え、地道に積み重ねてゆく堅実さの手本である。その反面、道標を持たなければ、目的を見失い、迷走や失速をしかねない危うさを秘めている。
 ゆえに、縦糸と横糸。雨と太陽、その2つが合わさることで、世界は希望という名の虹を得る。透き通る透明な物体が光を屈折させることで生み出すそれを空に生み出すには、晴れの日が続いても、雨の日が続いても、不可能なことである。
 そして、布1枚では体を覆うには足りない。その虹を縫い合わせるは絆。布が合わさることで服が生まれ、服は身を守り、温める力となる。
 その絆が当たり前のものとなれば、服はほつれることの無い天衣無縫となり、この世には恒久の平穏。すなわちパラダイスが訪れるであろう』

 理想と真実が一つになり、そうして希望は生まれる。そしてその希望が服となり、重ね合わせた服に縫い目がなくなるほどその絆が当たり前になれば、そこには楽園が生まれる。要は、みんながいい人で、みんなが頑張り屋で、優れた指導者がいれば、楽園が生まれるという事。それをもったいぶった言い方をしているだけである。

 神はこうも言った。
「理想とは、不満から生まれるものだ。不満のない世界がとどのつまりの理想だ」
 例えば、麦の種子を粉にする際、石でガシガシと叩き付けて脱穀するのは非常に面倒くさい。それ故に臼と言うものが考案され、その臼もだんだんと改良されて、最終的には水の力だけで動くようになっていった。
「真実とは、不満を受け入れることだ。現状を見据え、手を付けられるところから改善するのがあるべき姿だ」
 例えば、犯罪者を問答無用で死刑にすれば犯罪者は極端に少なくなるかもしれない。けれど、真実を見据える者はそうしない。スラム街となった場所で割られた窓を黙って直し、捨てられたごみを黙って片づけて、そうしてスラムをなくした指導者もいる。なぜ、悪い事が起きるのかを冷静に見つめた結果である。

 そんな理想と真実を持つ者達は、どうすれば希望と言うものを実現できるか考えた。それは、人の意見をよく聞くことである。
 希望を織るためには指導者が必要だが、その指導者へ民衆の声が届くことは少ない。謁見など一般市民には許されたものではないし、だからと言って書状出そうにも文字の読み書きができない者達ばかりであるし、出したところで届くかどうかもわかったものではない。そもそも、指導者がそれら民衆の声に耳を傾けるかと言えば、そうでない場合も多いし、逆に指導者の声が民衆に届かず、政策が誤解されたり正しい効果を得ないこともある。
 ならば、心に直接語り掛けられる声が必要だ。その中には自分勝手な理想、自分勝手な真実もあるだろう。俺だけでも幸せになりたいとか、私はこの世界で一番の不幸者よとか、そんな客観性のかけらもない声はいらない。だから、それらの心の声をある程度選別できるように、常識や理性を持った何かに、その声を届けてもらわねばならない。
 2柱の神は考えた。どのようにしてその声を届けるかという事を。そして彼らは考えた結果、声に籠る『力』。極端な例でいえば、バークアウトや滅びの歌、古の歌や子守唄のように、声が持つ力を利用してはどうか。そういった技としての声だけでなく、普通の会話、なんてことのない歌声、赤子の鳴き声、どんな声でも僅かながら力は持っている。本当に微量な声の、さらに欠片のような小さな力。髪の毛一本動かせないようなその力をそこら中から集め、体を形成させることを選んだ。
 その力を封じ込める型となるのは、サザンドラの肉体。サザンドラから見て左首に理想の声を。右首に真実の声を集め、それらが織りなす希望を、真ん中の首から発する。それを2柱の神は『命の声』と呼び、また命の声もそれを自称した。


 モノズやジヘッドを経ることなく、最初からサザンドラであった『命の声』は、饒舌であった。あまり最初から大きな獲物を狙ったりせず、どこにでもいる普通の家族の父親や母親へ、眠っている最中夢にささやくようなそんな控えめな活動から始めていった。
 例えばそれは、次男が生まれて構ってもらえなくなった長男からの『僕の事も見てほしい』という声だったり。夫婦喧嘩が絶えない家庭で、互いの言葉や子供の言葉を代弁してあげたり。夢の中で効果は薄いかもしれないが、それでもその活動が実を結ぶと信じて、『命の声』は地道な活動を続けていた。
 たまに世の中への不満を声を耳にすれば権力者の元に行き、それを夢枕でささやいて。行いを正そうとした。それで改善しない場合は、夢の中で何度も何度もその指導者の体を引き裂き食べてやったこともある。改善しないなら毎日夢で体を引き裂いてやる、悪夢を見せ続けてやると。そうして、政策を改善しようと奮闘した指導者もいるが、それだけで平和になるかと言えばそうでもなく、ただ金をばらまくだけで終わったりしたこともある。それでは一時しのぎにしかならず、結局失敗してしまった。
 それでも、繰り返してみれば、『命の声』も何をどうすればよくなるのか、少しずつ分かってきた。彼の活動は夢の中だけで、現実世界にて手出しすることはなかったが、命の声は現実世界に多大な影響を与えていた。


 事情が変わってきたのは、つい最近の事。理想の神と真実の神が、異変を感じてからである。2柱の神はとあるものが息づいているのを感じてしまった。それは、命の声とも似た、声を集める何か。人のやる気や熱気と言った『熱』とは対極にある絶望や悲しみといった感情。いうなれば人の心の『闇』を無尽蔵に集めるそれは、人々に出所のわからない不安や憂鬱な気分に苦しめられていた。
 2柱の神は、その『熱を奪うもの』を壊そうとしてが、壊せなかった。正確には、近づこうとしても熱意が奪われ、這って逃げる事しかできなくなってしまったという。それで、それを何とかするようにとキュレムに頼み込んだ。それに対するキュレムの答えはこうだ。
「『アレ』の種は、創造神アカギが撒いたものかもしれない。種を作ったのは湖の神かもしれない。どちらかは分からないがしかし、それに水を与え、育てたのは、この世界に生きるポケモンたちなのだ」
 だからこそ、水を与えたその始末は自分たちでつけなければならない。ポケモン達の責任に神が介入してはならない。それが、キュレムの言い分である。それに対し2柱の神は抗議したが、キュレムはそれを受け入れない。結論から言えば、強引に協力を迫った2柱の神に対し、氷の竜キュレムは自身の半身であるゼクロム(ウォープ)、レシラムをその身に取り込み、抗議すらできない状況に落とし込んだ。

 2柱の神は抵抗したが、抵抗むなしく自分たちはキュレムに取り込まれ、キュレムの胎内に取り込まれる。キュレムの胎内にて物言わぬ胎児のように蹲る2柱の神だが、意識だけは確かにあって、2人は闇の中に居ながらもテレパシーで通じ合い、残された力を用いて、『命の声』に力を与える。
 1つは、戦う力を。もう一つは、服という希望そのものを纏う者達。人間をこの世界に呼び込む力である。その2つを『命の声』に与えるために数年の時間を経た。

 レシラムやゼクロム(ウォープ)ですら手を出せなかったその『熱を奪うもの』――その頃になると『氷触体』と名付けられたその物体の影響を、別世界から連れてきた人間はほとんど受けないであろうという予測がなされていた。
 理由は、あれはこの世界の住人にのみ害をなす存在。それ故に異世界から訪れた人間ならば、もしかしたらあれを倒せるかもしれない。そう踏んだのだ。そうして、ティーダがそうであるように人間だった者が、ポケモンに姿を変えてこの世界に訪れるための、選別が行われることとなる。

人間の選別試験へ向けて

「……うーん。ゼクロム(ウォープ)さんやレシラムさんに、人間を呼び出して来いって言われたけれど……どうしましょうか」
 まず、それなりの強さがないと駄目だろうという事は予想できるけれど、ではどんな人間を連れてくればいいのか……うーん、まずはポケモンが好きそうで、強そうで、お人好しそうな人。それでいて、異世界に引き込みやすい……なんというか、体の存在が現世に定着していない、何だか不安定な人たちがいいですね。存在が不安定な人間ならば、一度に多くの人数を送ることも出来るでしょうし、数撃ちゃ当たりますよね!
 そしてそれをどうやって誘うかですけれど……そうだ、確か人間の世界にはARとかいう技術がありましたね。それを使ってみますかなぁ。『とびだせポケモンの森』とかいうゲームのシリーズをプレイしている人ならば、多分ポケモン好きですし、スローライフも好きでしょうし、ポケモン世界に来ても大丈夫ですよね。と、言うわけで……まずは3DSで世界と世界をつなげるべく、これまで無尽蔵に溜め込んだ声の力を解放します。
 別世界の住人をポケモン世界に呼び寄せすぎても、世界のバランスとかそういうのが色々やばいですから、誘い込む人数は多すぎないようにしなければなりません。そのため、まずはポケモンの世界と人間の世界のはざまにて、適応力や戦闘力の高い人間を選別するために、ダンジョンに行かせふるいを掛けなければなりません!
 空間をつなぐ穴は最小限に、あまり大きく開けすぎて人間の世界に影響を与えては、私が怒られてしまいます。なのでまずその扉を開くのには繊細な作業が必要で、何日もの時間を要してしまったが、その分我ながら良い出来です。さて、まずは早速――

最初の人間です

「あれ、なにこれ……」
 『とびだせ ポケモンのもり』をプレイ中の小学生の少年の3DSに、ダウンロード版の『ポケモンなりきりダンジョン、マグナゲート体験版』をそっと置いておきます。それを見て、こんなものをダウンロードした覚えがない少年はいぶかしげに首をかしげますが、そんなことは気にせずに説明書の説明に従って丸いもの――モンスターボールを撮影します。
 それによって、その子は急激に意識が遠のいたかと思えば――ドククラゲに姿を変えて、溶岩のダンジョンの溶岩にばしゃーん。

 ざんねん!! ぼくの ぼうけんは これで おわってしまった!!
 少年は光になって空に登ってゆきます……あぁ、無情。
 あちゃー。失敗しちゃいましたぁ! まぁでも、この世界で死んでも現実世界で死ぬわけじゃありませんし、大丈夫ですよね!

初めてですし、失敗もありますよね! よね!


 次のターゲットは定年を迎えた老人です。ポケモン世界では若々しい姿に戻れますし、体格も老人とは思えないほどいいので問題ないでしょう。
 おじいさんは特に怪しむこともなく、新手のゲームフリークのサービスだと考えて、丸いもの――お茶碗を撮影しました。

 おじいさんはそのまま眠り込みます。誰もいないので、私自身がソファに運んで、眠っている体勢をとらせてからダンジョンへと向かうと――

 いしのなかにいる((召喚された先が石の中でした))
 
 ざんねん!! わしの ぼうけんは これで おわってしまった!!
 あぁ……石の中にいるとか、まるで雲に乗って空を飛ぶゴウカザルの生まれた時の姿ですね! これはいけない。

三度目の正直! 次は失敗しないように!


 失敗しちゃったけれど、よくあることですよね! よし、次はあの社会人です!
「うん? なんだこれ……」
 ローカル線にて社会人も何やら疑わしい目で『ポケモンなりきりダンジョン、マグナゲート体験版』を見ていましたが、どうしても気になったのでしょう。それなりにすいている車内にて、宙吊り広告に記された円形の模様を撮影すると、そのまま強烈な眠気に襲われて床に倒れました。あ、周囲の人たちが呼びかけています。これは会社は欠勤コースですねぇ。
 お兄さんはダンジョンの世界でバスラオに姿を変え、ビチビチビチビチビチ。あ、いけませんねー!
 数の多いポケモンが一番いいですよねと思ったのですけれど、海に住んでいるから数が多いのは当たり前ですし、だからと言って陸にそんなポケモンを上げちゃいけないですよね。特に何も抵抗できないままに、社会人は嬲り殺されました。光になって登ってゆきます。ああ無情。

 ざんねん!! わたしの ぼうけんは これで おわってしまった!!
 あちゃー、またまた失敗しちゃいました。よく考えたら海のポケモンを陸に連れてきちゃだめですよね!
 どうでもいいですけれど、社会人のお兄さんは病院へ連れていかれちゃいましたぁ。あららぁ。体はいたって健康的なのに、申し訳ない。

二度あることは三度あります! 今度こそ失敗しないように

 次は失敗しないように、とりあえず姿を変えるポケモンを現実世界でも初心者向けと言われているポケモン、ミジュマル、ツタージャ、ポカブにしておきましょう。あと、可愛いからピカチュウ、美味しそうだからキバゴも。
 今度のターゲットは高校生の女性です。
 高校生の女性は、『ポケモンなりきりダンジョン、マグナゲート体験版』を見ると、そんなことはさておき『とびだせポケモンのもり』をプレイし始めました。
 そして、1時限目の英語の授業中に無音でこそこそと。2限目の体育の授業では電源を切り、3,4限目も切りっぱなし。そして昼食の時間に――
「ねーねー、みんな。ちょっと見てよこれー」
 見せちゃだめです! 絶対に!
 私は彼女の脳に直接大音量の声を送り、頭をパンクさせて気絶させます。ふぅ、一件落着ですね! そうだ、一応ゲームを起動する前に私の声でささやかないといけないですね。利用規約にも『そのゲームの存在は誰にも話してはならない』と書いておきましょう。

 ざんねん!! ぼうけんははじまらない!!

失敗は成功の母です! ここに私の努力という父が介入すれば問題はないのです!

 ともかく、これまで失敗しっぱなしですが、レシラムのウェフト様もゼクロム(ウォープ)のウォープ様もこう言っていたではありませんか! 『失敗は成功の母。同じ失敗を繰り返さないようにすればいいのだ』と。とりあえず、これまで同じ失敗は繰り返していないのでよしとしましょう!

 さて、今度はポケモンレンジャーです! 日夜訓練していることもあって非常に強そうです! なので早速ダンジョンへレッツゴーしてもらいましょう! さて、ミジュマルの姿になってダンジョンに送られると――
 チャーチャチャララ♪ チャーチャチャララ♪ チャーチャ♪ ドコドコドコドン♪ チャーチャチャララ♪ チャーチャチャララ♪ チャーチャーチャーチャーチャーチャ♪
_人人人人人人人人人人人人_
> モンスターハウスだ! <
 ̄Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y ̄

 あちゃー、囲まれた状態でアイテムもなくスタート。これはさすがにきついですねぇ! レンジャーのお兄さんも、慣れない体で何とか包囲網を突破しようと隙間ポケモン達の縫うようにして抜け、シェルブレードを閃かせながらすれ違いざまに切りつけつつ、股を抜け、時に飛び越えて外に出ようとするものの、あえなく転んでしまって、よりにもよってデンチュラのエレキネットを喰らってしまいました。
 死ぬ! 糸に巻かれて死ぬんだよ! 光になって空へ登って行きます!

 ざんねん!! 俺の ぼうけんは これで おわってしまった!!
 いやー、笑い事じゃないですねぇ。強い人だったのにもったいない。今度は気を付けましょう! 開幕モンスターハウスにならないように注意ですね!


大丈夫です、99%の努力が成功を生み出すのです。

 失敗なんて些細な問題です! それでは次は……大学生のお兄さんです。駅から出てすれ違い通信の数に満足していたところから尾行して、食事、勉強を終えて、やっとのことで3DSを起動しました。あ、もちろん電源は一度こっそり切っておきましたとも。ホーム画面に戻らないと勝手にダウンロードされている『ポケモンなりきりダンジョン、マグナゲート体験版』を確認できませんし。
 ともかく、彼は興味を持って丸いもの――蛍光灯を撮影しました。

 そうして、迷い込んだのは氷穴のダンジョン! 今度は『こおりのなかにいる』的なことはなく、ようやく戦う舞台に立たせることが出来ました。いやぁ、ここまで長かったですねぇ!
 お兄さんはツタージャ。氷のダンジョンでは少々辛そうですが、慣れない蔓の鞭を振るい、ビシバシと敵を倒しています。剣道部っぽかったので目は悪くないと思いましたが、その見立ては正しく相手の動きを見切り、癖を読んで的確に反撃を繰り出しております。ポケモン相手じゃ人間相手とは勝手が違うでしょうに、それでもセンスの良さだけでこうやって戦っているあたり、やっとのことであたりを引いたようです。それに本人も楽しんでおり、まんざらでもないようで、好き勝手に技を振るえることが楽しくって仕方がない様子ですね! 才能はありそうですし、何度かテストを行ってみて、戦力に問題がないようであれば、そのまま採用してしまいましょう!

 氷穴の最深部まで到達すれば、待ち構えるのは苦手なバオップ。対峙した瞬間に襲い掛かってきたそいつの爪を、お兄さんは軽くいなしてツルでつかんで背負い投げ。背中から落ちたところを、金的を叩き潰すように両のツルでひっぱたき悶絶させ、そのまま拾ったつららを相手の腹に突き立てる。いや、えげつないが、しかし強いです。
 ようやくあたりを引いたようですね!


大分強い人も絞られてきました!

 そして数日後。今度は別の人間と一緒に、ちょっとだけ難易度の高いダンジョンへと潜らせてみれば――

 今度の姿は、大学生のお兄さんがダイケンキ。そして、他人から借りたまま返していない3DSを使用して、めきめき実力を伸ばしていった幼女がジャローダ。
「うわぁ、ジャローダだぁ! 格好いい! 今回は仲間もいるんだ……よろしく、お兄……さん?」
 少女は無邪気に自分の姿を喜びます。うんうん、可愛いですねぇ。仲間である大学生のお兄さんを見て、お兄さんがちょっと興奮している様子に戸惑っていました。
「……ジャロ様!ジャロ様!ジャロ様!ジャロ様ぁぁあああわぁああああああああああああああああああああああん!!!
 あぁああああ…ああ…あっあっー!あぁああああああ!!!ジャロ様ジャロ様ジャロ様ぅううぁわぁああああ!!!
 あぁクンカクンカ! クンカクンカ! スーハースーハー! スーハースーハー! いい匂いだなぁ…くんくん
 んはぁっ! ジャローダたんの若草色の鱗をクンカクンカしたいお! クンカクンカ! あぁあ!!
 間違えた! ペロペロしたいお! ペロペロ! ペロペロ! 鱗鱗ペロペロ! カリカリペロペロ…きゅんきゅんきゅい!!
 ミュージカル女王様のジャロ様たんかわいかったよぅ!! あぁぁああ…あああ…あっあぁああああ!! ふぁぁあああんんっ!!
 コンテスト準優勝決まって良かったねジャロ様たん! あぁあああああ! かわいい! ジャロ様たん! かわいい! あっああぁああ!
 ポケプラスも発売されて嬉し…いやぁああああああ!!! にゃああああああああん!! ぎゃああああああああ!!
 ぐあああああああああああ!!!ポケプラスなんて現実じゃない!!!! でも、目の前のジャロ様は現実! 現実だぁぁぁぁ!」
「何この人……怖い、ってか来るなぁ!」
 いやぁ、威勢のいい声です。皆がこれくらい叫んでくれれば、私の声の力ももっと強くなるのですがねぇ。でも、お兄さんの威勢が良すぎて幼女は怯えていますねー。声の出し方は気を付けないといけませんね。
「もう我慢できない舐めさせ――」
「嫌!!」
 リーフストームがクリーンヒットしました! いやぁ、痛そうです、とっても痛そうです。ダイケンキのお兄さんは、幼女のリーフストームをまともにくらい、ジャローダをしかも押し倒すような体制だったがために、急所に当たっています。いやぁ、痛そうです。腹側を切り刻まれながら宙に舞い、そのまま地面に倒れ伏したお兄さんは光になって消えてゆきました。
「あぁ……どうしよう。初めての仲間だったのに、倒しちゃった……どうしよう、ここから一人……不安だなぁ」
 幼女は心細さを抱えたまま、腹這いになって密林のダンジョンを突き進んでゆきました。腹這い歩行がなかなかうまいとは、妙な才能を持っておりますねぇ。ともかく、この幼女は結局一人でクリアしちゃいましたし、なかなかの才能が有りそうです。
 あの子、暴力的で人のものをすぐに盗むことから近所の子供たちからは『あの子にものを貸しちゃダメ』とか言われておりますが、それも親が何も買ってくれないからで、その反動からでしょうか? ダンジョンを旅すれば何かと物を拾えるこの生活が気に入っているらしく、のめり込み具合も半端じゃないうようで……もしもこの子がホウオウやルギアと戦い勝利できるのであれば、体験版ではなく本番もやらせておくべきですかねー? あんまり幼い子を世界の存亡をかけた戦いに巻き込むのはいかがなものかと思いますが、まぁ、緊急事態なので仕方ないですしねー。
 不意打ちとはいえ、同じくベテランのお兄さんに何も抵抗させないあたり、才能はあるようですし、要検討ですね!

 しかし、一番有望、大本命なのは――健康食品の原料生産ルートの開拓にいそしむ男、ティーダさんですかねー。あの人は普段からものすごい修羅場をくぐっているだけあって、その力の強さは半端でなく――しかも、体が半分異世界にまたがっているので、こちらの世界に呼び込むのも省エネで済みます。
 ……呼び出してみましょうか。『こちらの世界は助けを必要としています』と。

最終関門です。

 何度か難易度の高いダンジョンに潜らせてみて、それであきらめドロップアウトしてしまった人は何人もいます。私もわざと、絶対に失敗するだろうなと思うようなダンジョンに潜らせたこともあります。弱いポケモンの体で強いポケモンがいるダンジョンに潜らせ、失敗させる。そんなことになってしまえば普通はくじけたくもなるでしょうね。
 しかし、今日ここまで来た者達は、そんなことなどものともせずに、何度も痛い目にあって、何度も失敗して、時に予想を裏切って生き残って、そうして乗り越えてきた猛者たちばかり。そういった人たちはほぼ全員が現実でいろいろな悩みを持っている人達ばっかりだけれど、やっぱり現実逃避のつもりなんですかね? 

「こいつがラスボスか……強そう」
 オノノクスのお兄さんが不敵な笑みを浮かべます。
 数か月経った頃には、もうあきらめずに挑戦してくるメンバーもほぼ固定で、ダンジョンに入り込む人間たちはほぼ固定メンバーとなっていました。顔なじみのメンバーではあるが、一応毎回種族は違っていて、今回オノノクスを務めるは、大学生のお兄さん。エンブオーを務めるは、放置子の幼女。ライチュウを務めるは、社会人のティーダ。ダイケンキを務めるは、受験勉強真っ最中の中学生である。あとひとり、人間の状態ではほとんど耳が聞こえない女性もここまで残っているのだが、今回はメンバーの人数の都合でお休み。
「相手に不足は無しってね」
 覚えたての言葉で、エンブオーは余裕をアピールする。
「こんな修羅場も久しぶりだな……どれ、いっちょもんでやるか」
 ティーダが自身の頬をぱちんとはたいた。
「受験戦争よりうも激しい戦争が望めそうだな……」
 ダイケンキは、ひゅぅと口笛を吹きました。
 彼らの目の前。正方形の闘技場の外にて待ち構えているのはホウオウです。真紅の美しい羽根をはためかせ、4人の前に立ちはだかるその姿はまさに荘厳の一言。圧倒的なプレッシャーの前では、ただホバリングしてその場に佇んでいるだけで、並の精神のものでは立つことさえできないでしょう。ですが、4人は引きません。
 鳳凰が巨体に見合わない甲高く戦慄く声をあげ、空気が唸りを上げて羽を打ち出し、空気の摩擦でそれが炎をおび、聖なる炎として打ち出されようと、誰ひとり弱音は吐かず、炎の矢をかいくぐり各々攻撃に向かいます。
「前に出る!」
「俺もだ!」
 炎タイプの攻撃に強いオノノクスとダイケンキが前衛に立ち、エンブオーの幼女とライチュウのティーダが後衛として援護します。
「行くぞ攻撃!」

 まずは速攻でティーダの10万ボルトがホウオウの顔を居抜き、ダメージを与えます。
 近づいた2人を神通力が吹き飛ばすも、攻撃の後隙を待ち構えていたエンブオーの幼女のストーンエッジがクリーンヒット。衝撃で吹き飛ばされ、体がギシギシと痛みながらも、オノノクスとダイケンキは受身を取ってすぐさま立ち上がります。オノノクスは勢いづいて突進し、それを援護するべくダイケンキのアシガタナが水タイプを帯びてホウオウの翼を狙います。
 鋼と化した翼でそれをはじき飛ばし、アシガタナは闘技場の外に落ちるも、そこへ迫るオノノクスの斧歯。爪でえぐるようにホウオウの首をつかみ取れば、大木ですら切り裂く斧を一撃、二撃、三撃。その間、誤射をしないように左を狙ったライチュウの電撃波と、エンブオーの右翼へのストーンエッジ、ダイケンキのハイドロポンプがホウオウを苛みました。
 狂乱じみた攻撃をしていたオノノクスは、ホウオウの体から離れるとグワングワンと脳が揺れて足元がふらついています。しかし、目はきちんと見開いていたので、力を溜め込んでいたホウオウが翼を広げ、体高よりもずっと長い翼長をフルに使ったゴッドバードに気付き、それを伏せて凌ぎます。
 ゴッドバードの体当たりをのものをくらっていればそのまま光になっていたであろうが、全員くらったのは余波のみ。ティーダだけは体重の関係で、風圧によって吹っ飛ばされるも、闘技場の下落ちることはありませんでした。ゴッドバードを終えて戻ってきたホウオウは先程とは逆側。ティーダが吹っ飛ばされた先。
 ホウオウは聖なる炎をやけくそかと思うレベルで乱れ打ち、その猛攻には炎タイプに耐性がある者たちですら下がるしかない勢いです。しかし、ただひとり、ライチュウであるティーダのみは、その体の小ささを活かして降りしきる火炎の雨をかいくぐり、ホウオウの足に飛びつきました。すぐさま振り払おうともがくホウオウに、必死でしがみつくティーダ。ティーダはそのままでは攻撃できませんでしたが、ティーダに気を取られているあいだに仲間の攻撃がホウオウを打ち抜きました。
 それを翼で受け止めてなんとか急所へと当たることを避けたのも束の間、ホウオウの足にしがみついていたティーダが渾身の力で雷を放ち、それはまともにホウオウの体内を駆け巡る。ホウオウは自重を支えて飛行するだけの力を失い、羽ばたいてもジリジリと高度が下がっていきます。ティーダは道連れになって落ちてしまわないように、しがみついていた足から闘技場に飛び移りました。

「やりぃ! みんなやるねぇ!」
 最後のとどめを加えたティーダが、皆の元に凱旋帰還しながら言います。さすがにやりますねぇ、ティーダさん。
「当然、ここまで何度も痛い目に合ってきたんだもの。このくらい、どうってことないわ」
 と、エンブオーの幼女が言います。
「あー……これが終わったらまた勉強か。気が重いなぁ」
 中学生がため息交じりに漏らします。受験勉強は大変ですねぇ。
「何、またこれる日が来るさ。その時は、援護頼むぜ」
 受験勉強を乗り越えた大学生は、先輩風を吹かしながらそう言います。ふむ、皆さん仲がいいですね。
 ですが、この人達になら任せても良いと思いますし、今度は……しばらく思いっきり焦らしてから、あちら側の世界に誘い込むことにしましょうか。


『ポケモンなりきりダンジョン 完全版』

このゲームを起動すれば、しばらく元の世界には戻れません。それでも起動しますか?
 そんな警告文を、前にしてなお、ここまで辿りついた者達は、全員『いいえ』を選ぶことはありませんでした。
 日食の日、世界と世界の境界があいまいになる日。その日に選ばれた5人の精鋭は異世界へと渡る日になります。日食という事もあって、存在が不安定な人は別世界が重なって見えたり、幻聴が聞こえたり、悪夢を見たりといろんな症状が出ていたが、その症状が出る前にさっさと私たちの世界に入ってしまったせっかちさんは、まだ一人では仕事すらできない、社会的に最も逃げ場のない幼女でした。
 他の者も、躊躇いながらも次々と向こうの世界への逃避を選び、最後に残ったティーダもまた自身のポケモンだるヨノワールと名残惜しそうに別れ、向こう側の世界。創造神、アカギ様が作った新しい世界へと飛び込んでいった。

 さあ、世界に飛び込んだのであれば……しばらくは夢を見ているような浮遊感に襲われるはず。その時は暇でしょうし、この世界に呼び込んだ理由を告げさせてもらいましょう。あー、でも……なんというか、人間へ声を伝えるのは難しいですねぇ。いや、この場合は人間とポケモンの中間の何かといったところでしょうか? 今まで声を伝えた事もない不安定な存在だからか、勝手が違ってとってもやりにくい気分です、はい。



あなた……
今 声を聞いている
あなた……

――誰だ?
――なに、この声?
もしかして あなたは……
人間でしょうか?
――そうだ
――そうだけれど?
――それが?

もし そうであればお願いです
私達を助けてほしい

――私達?
――私達ってなんだ?
ポケモンの世界を助けてほしいのです
――ポケモンの世界
 えぇ、ポケモンのせか……

助けてッ!!!


 あれ? 私が話をしている最中だというのに、不躾な誰かが私の介入を邪魔してきたようです。
 しかもこれは……私に似た外見ですが、表情が凶暴そうなサザンドラが、ムンナを食べようとしています。確かにあのムンナは肉がしまっていてとても美味しそうですけれど、私そんな怖いことしませんってば!
 うぅん、それにしてもいけませんねぇ……テレパシーが乗っ取られたこの状況では皆さんがここに来た目的を伝えられない。これはテレパシーを乗っ取られた原因を調査して、可及的速やかに解決しませんと……最悪、手遅れになります。では、さっそく行動開始――の前に、腹ごしらえと行きましょう!
 腹が減っては戦はできませんしね! まずはそうだなぁ……血の滴る肉を食べに、草原のダンジョンへと向かいましょう!


Ring ( 2015/06/19(金) 23:19 )